第419話 レディーに重いとか失礼

 テトラを纏ったマルオの姿を見て麗華が真っ先に反応した。


「丸山君!? どうしてここに!?」


「逢魔さんに送ってもらいました!」


 マルオがそう言って視線を向けた先には藍大とリル、エルの姿があった。


 これはあくまで麗華達から見てそう見えるだけであり、実際のところゲンは<超級鎧化エクストラアーマーアウト>でラドンローブに憑依している。


 ガミジンは突然現れた藍大達を見て不敵に笑う。


「ほう。少しは強そうな者達がいるではないか。それに、俺様の配下に相応しい雌共もいる」


 ガミジンの視線がローラ達に向けられるとマルオが抗議する。


「おいコラァ! ローラ達は俺の従魔だ! お前は馬らしく人参でもしゃぶってな!」


「貴様等は人参人参煩いな!」


 瀬奈にも人参で馬鹿にされていたため、マルオが人参という言葉を発したことでガミジンはキレた。


「マスターよく言った。安心して。私はずっとマスターの傍にいる」


「私は主とローラについていく」


「主様から他の男に乗り換える訳ない」


「(コクコク)」


「やーい、フラれてやんのー。そりゃそうだよなー。だって馬だから!」


「消し炭にしてやる!」


 ローラ達が自分を慕ってくれているとわかって気が大きくなり、マルオはガミジンをさらに挑発した。


 そのせいでガミジンのイライラはMAXになって<深淵槍アビスランス>をマルオに向かって連射した。


「甘いわね」


「(コクッ)」


 ポーラとドーラが<紫雷波サンダーウェーブ>を重ねたことにより、ガミジンの<深淵槍アビスランス>は全て撃ち落とされた。


 その隙にマルオはアンデッド図鑑でガミジンを調べていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ガミジン

性別:雄 Lv:90

-----------------------------------------

HP:1,600/2,400

MP:1,050/3,800

STR:1,200(+1,200)

VIT:1,500(+1,200)

DEX:1,500(+1,200)

AGI:1,000(+1,200)

INT:2,000(+1,200)

LUK:1,500(+1,200)

-----------------------------------------

称号:大災厄

   外道

アビリティ:<死体操作コープスコントロール><死体吸収コープスドレイン><死体引寄コープスアポーツ

      <生贄サクリファイス><深淵槍アビスランス

      <深淵踏アビススタンプ><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:強化(残り5分)

-----------------------------------------



「なんだお前、あと5分しか強化した姿でいられねーじゃん」


「貴様、何故そのことを!?」


「俺ってば死霊術士だからアンデッドの秘密を暴けるのさ」


「貴様には勿体ない才能だ! 殺してでも奪ってやる!」


 ガミジンはマルオを死体にして活用すれば自らの戦力を大幅に増強できると知り、是が非でもマルオを殺してやると<深淵踏アビススタンプ>でマルオを攻撃した。


「やらせない」


「ぐっ、重い・・・」


 ローラが放った<剛力斬撃メガトンスラッシュ>を弾くが、ガミジンはローラの攻撃に力負けして斬撃の方向を逸らすので精一杯だった。


「レディーに重いとか失礼」


「来い!」


 ムッとした表情のローラがガミジンに一気にダメージを与えるべく<血薔薇舞ブラッディーローズ>を放った。


 ところが、ガミジンは<死体引寄コープスアポーツ>で海中から沈んだゴーストシップを引き寄せて壁にした。


 秀のMPレーザーで船体に大穴が開いていたとしても、ローラの<血薔薇舞ブラッディーローズ>を1回凌ぐ壁にはなる。


 壁にされたゴーストシップはローラの攻撃で完全にバラバラにされ、ガミジンはゴーストシップが崩れ落ちる瞬間に現れた魔石を回収しようと動いた。


『渡さないよ』


「何ぃ!? 俺様の狙いを読んだのか!?」


 リルが素早く魔石だけ回収して藍大の隣に戻った。


 自分の目の前で魔石を掻っ攫われたことでガミジンは驚いた。


 藍大はリルの頭を撫でて魔石を回収しながらマルオに声をかけた。


「マルオ、強化されると面倒だったから魔石はリルに回収してもらった。後はやれるな?」


「勿論です!」


 マルオは藍大とリルにガミジンの強化を封じてもらったのだから、ここから先は自分達だけでやってやると気合を入れた。


「魔石が駄目でもまだ残ってることを忘れたか!」


 ガミジンはゴーストシップの残骸に<死体吸収コープスドレイン>を発動した。


 魔石を吸収するよりは強化の度合いが下がるけれど、やらないよりはやった方が良いに決まっているからだ。


 しかし、ゴーストシップの残骸を吸収した直後にガミジンは膝から崩れ落ちた。


 そこに大輝の声が響く。


「ナイス麗華! 良い肩してる!」


「何とか間に合ったわね」


「おのれ! 何をした!?」


 ガミジンは吐き気と全身に広がる怠さを必死に堪えながら質問を叫んだ。


 そんなガミジンに大輝がにっこりと笑って応じる。


「リル君にお清めしてもらった飲猿殺しだよ。まだ残ってたから麗華にゴーストシップの残骸に降りかかるように投げてもらったんだ。お味はどうだい? 最高だったろ?」


「クソが・・・」


 ガミジンは大輝に悪態をつくが、その声は明らかに弱っているとしか言えない。


 チラッと自分の体を蝕む力の主であるリルの方を見れば、ワフンとドヤ顔を披露して藍大に頭を撫でられていた。


 戦場で何じゃれ合っているんだと文句を言いたかったけれど、ガミジンはその文句を口にできる程の余裕がなかった。


 それでも、ここで痛みに堪えているだけでは袋叩きにされるとわかっていたから四方八方に<深淵槍アビスランス>を発射した。


「自棄になったのか? ポーラとドーラで打ち消せ」


「任せて」


「(コクッ)」


 マルオの指示に従い、ポーラとドーラは再び<紫雷波サンダーウェーブ>で<深淵槍アビスランス>を相殺した。


 ガミジンは自分の攻撃を相殺されても気にしていなかった。


 何故なら、ガミジンの狙いは<死体引寄コープスアポーツ>を発動する時間を作ることだったからだ。


「クックック。広大な海には死体が多いな」


 そう言ってガミジンが引き寄せたのは魚や海星等の海の生物の死体だった。


 そして、集めた死体を<生贄サクリファイス>で捧げて自身のHPを回復させた。


 だが、回復に成功して油断したガミジンの側頭部にパラライズナイフ10本が刺さる。


「ぐあああああっ!?」


「命中」


 パラライズナイフを投げたのはメジェラだ。


 ガミジンが油断した瞬間を狙って視界の外から持っていたナイフ全てを<剛力投擲メガトンスロー>で放ったのである。


 勿論、パラライズナイフには<毒付与ポイズンエンチャント>も使っていたからガミジンの体は毒と麻痺で体の動きが鈍った。


「ローラ、畳みかけろ!」


「はーい」


「ぬっ!?」


 ローラはマルオの指示を受けて<恐怖眼テラーアイ>でガミジンに恐慌状態を重ね、まともな判断力を奪ってから<貫通乱撃ピアースガトリング>でどんどんガミジンのHPを削った。


 ローラの攻撃が終わって後ろに退くのと入れ替わりでメジェラの<剛脚月牙グレートクレセント>とドーラの<火炎乱射フレイムガトリング>が決まり、その直後にポーラの<隕石メテオ>がガミジンの体を押し潰す。


 マルオが指揮する従魔達の怒涛の攻撃をまともに喰らえばガミジンのHPが残るはずない。


 マルオはアンデッド図鑑でガミジンのHPが尽きていることを確認すると、その場にいる者達を安心させるべく勝利を宣言する。


「ガミジン、討ち取ったり!」


 マルオがそう宣言した直後、藍大の耳には伊邪那美の声でシステムメッセージが届いていた。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”大災厄”と化したモンスターを倒すのに貢献しました』


『特典としてミスリル計量スプーンが逢魔藍大の収納リュックに贈られました』


 (あれ、ほとんど何もやってないけど貢献したことになるの?)


 藍大は伊邪那美の声に首を傾げたが、冷静に考えてみれば藍大はちゃんとガミジン討伐に貢献している。


 まず、ガミジンを倒したマルオ達を神奈川のクランハウスから舞鶴港まで連れて来た。


 次に、ガミジンのパワーアップを阻止するべくゴーストシップの魔石をリルに奪取させた。


 そして、ガミジンを苦しめた飲猿殺しを晃経由で大輝に与えた。


 確かに藍大達は攻撃に参加していないものの、ガミジンを倒すためにしっかり貢献しているのだ。


『ご主人、どうしたの?』


「いや、ガミジンを倒すのに貢献したからミスリル計量スプーンを手に入れたんだ」


『おめでとう!』


「ありがとな」


「クゥ~ン♪」


 リルに祝われて藍大は微笑みながらその頭を撫でた。


 そこにマルオ達がやって来る。


「逢魔さん、見てました!? 俺達、”大災厄”倒しましたよ!」


「見てた見てた。被弾も油断もせずにちゃんと倒せてたな。成長したよ」


「ドヤァ」


 マルオは成長を褒められてドヤ顔になった。


 師匠である藍大の前で良い結果を出せたことが誇らしかったからだろう。


 こうして、ガミジンとの戦いは藍大が直接手を出すことなく終わるのだった。

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