第420話 逢魔さん、人間辞めたんですか!?

 藍大がマルオ達を労い終わった所で瀬奈と大輝のパーティーがやって来た。


「逢魔さん、丸山さん、今回はご助力いただきありがとうございました」


「助かりましたよマルオ君。逢魔さんも飲猿殺しやらガミジンの強化阻止で力を貸してくれてありがとうございます」


についてはマルオが頑張ったので、私は少し手助けしただけですよ。マルオ、良かったな」


「はい! これで俺の二つ名もチャラ弟子からカッコ良いものに変われば万々歳です!」


 マルオは二つ名がチャラ弟子であることを変えたかった。


 最初は二つ名が付けば有名になれると思ってチャラ弟子でも良しとしていたが、ポーラをテイムしてAランク冒険者になってからはカッコ良い二つ名が欲しいと常々思っていた。


 ”大災厄”という国難を単独で倒した訳ではないが、それでもガミジンを倒すのにマルオの貢献は大きいのだからSランクに昇格できたら良いなと彼が思うのも当然だろう。


 Sランクになれば、チャラ弟子なんて大して強そうでもない二つ名とおさらばできると考えるのもまた当然と言えよう。


 大輝はマルオにカッコ良い二つ名が付くと良いねと笑顔で話していたが、瀬奈は藍大の発言に引っかかっていた。


「逢魔さん、先程この戦いって言いましたよね?」


「言いました」


「ガミジン以外にも”大災厄”が日本に来てるんですか?」


「その通りです。私が知る限りではその”大災厄”がガミジンを追ってここに向かってます」


 寝耳に水な展開で瀬奈は目を丸くした。


「一体どこの”大災厄”でしょうか? 吉田本部長からは何も聞いてませんが」


「私も断定はできませんが旧NK国です。ガミジンがC国から旧NK国に追いやられた際、旧NK国にいた”大災厄”が日本に移動するのを知ってついて来たと思われます」


 藍大はこのように言っているが、本当は伊邪那美から”大災厄”が旧NK国からガミジンを追跡して日本に来ていることを教えてもらっている。


「強者は強者に興味を持つのでしょうね」


 (強者? あぁ、他から見たらガミジンも強いのか)


 瀬奈の発言に藍大はガミジンを強者と考えていなかったので一瞬理解するのが遅れた。


 シャングリラダンジョンで置き換えるなら、ガミジンの実力は地下8階ボス~地下9階の雑魚モブ程度の強さだ。


 現在地下11階まであるシャングリラダンジョンのことを思えば、藍大がガミジンを大して強いと思わないのも無理もない。


『ご主人、”大災厄”が来たみたいだよ』


「来たか。リルとエルは戦闘準備」


 リルが海を見ながら接近する”大災厄”を察知して藍大に伝えると、藍大はリルとエルに迎撃態勢に入るよう指示した。


 それから10秒程経過し、海面にバシャンと音を立てて”大災厄”と思しき存在が姿を現した。


 その姿を見てマルオが叫んだ。


「人魚来た! 人魚来た! 人魚来たぁぁぁぁぁ!」


「マスター、煩い」


「あっ、はい」


 叫んだマルオはローラにジト目で注意されてすぐに静かになった。


 藍大達の前に姿を現したのは一見無害な貝殻ビキニの青髪人魚だった。


 藍大は見た目で警戒を解かずに素早くモンスター図鑑を視界に展開した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ウェパル

性別:雌 Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:2,500/2,500

STR:800

VIT:1,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:2,500

LUK:1,200

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称号:大災厄

   傾国の悪女

アビリティ:<体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン><大波タイダルウェーブ

      <螺旋水線スパイラルジェット><渦潮ウィールプール>

      <魚人切替フィッシュマンチェンジ><全耐性レジストオール

装備:チャームシェルビキニ

備考:興味

-----------------------------------------



 (貝殻ビキニに碌な奴はいねえな)


 藍大がそう思ったのはシャングリラダンジョン地下4階の”掃除屋”だったカリュブディスを思い出したからだ。


 カリュブディスもウェパルと同じく貝殻ビキニを着用しており、癖のあるアビリティ構成だった。


 ウェパルが”大災厄”や”傾国の悪女”を得た経緯はチャームシェルビキニと<体力吸収エナジードレイン>、<魔力吸収マナドレイン>のコンボである。


 チャームシェルビキニで誘惑に弱い者達を射程圏内におびき寄せ、<体力吸収エナジードレイン>と<魔力吸収マナドレイン>を使って男女問わずHPとMPを吸い尽くしたのだ。


 自分の特徴を生かした単純な作戦で”大災厄”や”傾国の悪女”を手に入れたことを考えれば、旧NK国の人々がいかに騙されやすいかが推測できるだろう。


「あら、そこのローブのお兄さん素敵ね。お姉さんと良いことしない?」


「お前より素敵な奥さんが5人いるからいらない。エル、<超級鎧化エクストラアーマーアウト>だ!」


『承知しました』


 エルが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動したことにより、元々ゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使っていたことで藍大の体が光に包み込まれた。


「な、なんですかこれは!?」


 普段はクールな瀬奈も目の前の光景に驚きを隠せなかった。


 光の中で藍大のシルエットがメカメカしい全身甲冑に身を包まれ、光が収まった時には藍色をベースに銀色の分岐線が浮かび上がった見た目の全身甲冑を身に着けた藍大の姿があった。


 藍大がその姿のまま飛翔したのを見て大輝が目を輝かせた。


「逢魔さん、人間辞めたんですか!?」


「大輝さん、勝手に人外扱いしないで下さい。人間は辞めてません」


「是非とも研究させて下さい!」


「その話は後にして下さい」


 藍大の言い分は至極当然である。


 これからウェパルと戦闘しようという藍大に対して研究するしないの話ができるはずないからだ。


「逢魔さんマジかっけえ!」


「人間大モ〇ルスーツとかすごいですね!」


「良い」


「や、やるじゃないですか」


「やっぱあれぐらいやらねえとモテないんすかねぇ」


 マルオと理人、剛士は純粋にゲンとエルの<超級鎧化エクストラアーマーアウト>の重ね掛けに感動していた。


 秀は自分もここまでやらなければ藍大に勝てないのかと顔を引き攣らせており、楽もモテるにはこれぐらい平然とやってのけないと駄目かと顔が引き攣った。


 その一方、藍大に振られたウェパルは激怒した。


「この私を振るなんて万死に値する!」


 ウェパルはそう言って<螺旋水線スパイラルジェット>を乱射した。


 だがちょっと待ってほしい。


 藍大がゲンのアビリティを自由に使える状況にある今、ウェパルの水を扱うアビリティが通用するだろうか。


 いや、通用しない。


「無駄」


 <水支配ウォーターイズマイン>を使える以上、藍大にウェパルの<大波タイダルウェーブ>と<螺旋水線スパイラルジェット>、<渦潮ウィールプール>は通じない。


 螺旋するウォータージェットが藍大を逸れてUターンし、そのままウェパルへと向かっていく。


 ウェパルは冗談じゃないと海中に潜って躱すが、藍大はウェパルを逃がさない。


「リル!」


『任せてご主人!』


 リルが<仙術ウィザードリィ>でウェパルを捉えて海上に引きずり出した。


「ほーら、高い高いだ」


 藍大は<強制眼フォースアイ>でウェパルを自分の前まで強制的に移動させると、ウェパルは身動きどころか自分の口すら動かせないことに恐怖した。


「凍れ」


 そんなウェパルの気持ちなんて気に留めず、藍大は<氷河時代アイスエイジ>でウェパルを氷漬けにした。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”大災厄”と化したモンスターを4体倒しました』


『特典としてミスリルトースターが逢魔藍大の収納リュックに贈られました』


 (貢献と倒すじゃ特典がかなり違うな)


 伊邪那美の声が告げた特典の内容を聞き、藍大は倒すのに貢献したガミジンの時は計量スプーンでも倒したウェパルの時はトースターだったと特典の内容を比較した。


 リルは藍大が氷漬けにしたウェパルを<仙術ウィザードリィ>で地上に降ろし、藍大が地上に降りてエルの<超級鎧化エクストラアーマーアウト>が解除されるのを待った。


 エルがアビリティを解除した後、リルは藍大に頬擦りする。


「よしよし。リルはナイスフォローだったぞ」


『ご主人もカッコ良かったよ!』


「愛い奴め。嬉しいことを言ってくれる」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルの顎の下を撫でながらエルのことも労った。


「ゲンとエルもお疲れ様」


『後で・・・撫でて・・・』


『とんでもないです。ボスこそお疲れ様でした』


 藍大達がお互いを労い合っていると、マルオ達男衆が興奮を隠さず藍大に駆け寄ったのはそれからすぐのことだった。

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