第414話 マオえもんさん、それなんですか?

 茂から電話を貰った日の午後、藍大とリル、ゲン、ブラドはマルオと共に川崎大師ダンジョンのポーラの部屋にいた。


「それじゃあ、俺がガミジンをと戦う可能性もあるってことですか?」


「そーいうこと。相性が良いなら”大災厄”と戦ってみたいだろ?」


「戦ってみたいです。最近じゃローラ達が本気で戦えるモンスターも少なくなってきましたし」


「Lv100に到達したらそうなるよな」


「ですね」


 マルオの従魔も普段モンスターと戦うことのないポーラ以外、全てLv100に到達した。


 Lv100になってしまうと、称号による強化やアビリティの上書き以外に強くなる手段がない。


 藍大の場合、伊邪那美がアチーブメント報酬で強化してくれることがない訳ではないけど一般的とは言えない。


「主様、私ダケLv100ジャナクテゴメンネ」


「いや、謝る必要はないんだ。ポーラは”ダンジョンマスター”としていつも働いてくれてるんだし」


「デモ、私ダケナンデショ?」


「そりゃまあそうだけど・・・」


 マルオがポーラに上手いフォローの言葉をかけられず、ポーラはしょんぼりしてしまった。


「マルオはしょうがない奴だなぁ」


 藍大はそう言って収納袋から紫色の粉が詰まったガラス瓶を取り出した。


「マオえもんさん、それなんですか?」


「EXPボトル~」


「ダミ声までやってくれてありがとうございます」


 藍大が自分のノリに乗っかってくれたからマルオはお礼を言った。


「偶にはこういうノリにも乗っとかないとな。それは良いとして、このEXPボトルをあげるからポーラに使ってみろ」


「どんな効果があるんですか?」


「いくつかの”ダンジョンマスター”の魔石を砕いた粉が使われてるらしい。これを服用した”ダンジョンマスター”はそれだけで強化できる。R国で”ダンジョンマスター”を都合良く育てる研究がされてて、その研究の過程でできた物だそうだ」


「逢魔さん、なんでそんな物持ってるんですか?」


 マルオが疑問を抱くのも当然だろう。


 いくら藍大でもなんでそんな都合の良い物を持っているのか気にならないはずがない。


「19日にラウムを倒したって話したろ?」


「はい」


「その時の戦利品だ。ラウムがR国の研究機関からくすねて来たらしい」


「使っちゃっても良いんですかね?」


「R国はラウムを日本に追いやった事実を認められないから、ラウムに盗まれた物に対する所有権も主張できない」


「なるほど。でも、ブラドさんに使わなくて良いんですか?」


「構わんのだ。吾輩は”アークダンジョンマスター”である。このEXPボトルは吾輩にも効果がないのでポーラに使うと良いぞ」


「茂とリルがブラドの意見を検証した結果、”アークダンジョンマスター”への効果が本当になかったから気にするな」


「逢魔さん、ブラドさん、ありがとうございます!」


 マルオはEXPボトルをブラドに使うべきだと思って訊ねたが、ブラドが使えと言ってくれたおかげで躊躇う気持ちを吹っ切ることができた。


「アリガトウゴザイマス。私、モット強クナリマス」


「その意気だぞポーラ。強くなって逢魔さん達に恩返しするんだ。はい、EXPボトル」


「アリガトウ。イタダキマス」


 マルオからEXPボトルを受け取ると、左手を腰に当てて右手で瓶を掴んで一気にその中身を飲み干した。


「見てて気持ち良い飲みっぷりだ」


「それよりも骸骨なのにボトルの中の粉が零れてない方が驚きである」


 藍大とブラドがそんなことを喋っていると、ポーラの体が光に包み込まれた。


「えっ、ちょっ、何が起きてるんすか!?」


「落ち着けマルオ」


 ポーラに何が起きたのかわからずにマルオが慌てるが、藍大がマルオを落ち着かせる。


 光の中でポーラの骸骨のシルエットが女性のそれへと変わる。


 光が収まると黒いドレスに日傘を差した銀髪の女性の姿があった。


「ポーラなのか?」


「主様、酷い。私の顔を忘れちゃったの?」


「ビフォーアフターにも程があるだろ! ほら、自分の姿を見て見ろ!」


 マルオはスマホのカメラアプリを起動し、設定をインカメにしてからポーラに自分の姿を見せてあげた。


「これが私・・・。アンビリバボー」


 (EXPボトル効き過ぎじゃね? 強化どころか進化してね?)


 藍大はEXPボトルの効果に戦慄しつつ、モンスター図鑑を視界に映し出してポーラについて調べてみた。



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名前:ポーラ 種族:ビフロンス

性別:雌 Lv:100

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HP:2,500/2,500

MP:2,500(+500)/2,500(+500)

STR:1,500

VIT:2,000

DEX:2,500

AGI:2,000

INT:2,500

LUK:1,500

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称号:武臣の従魔

   ダンジョンマスター(川崎大師)

   歩く魔法書

   到達者

アビリティ:<大波タイダルウェーブ><隕石メテオ><紫雷波サンダーウェーブ

      <火炎雨フレイムレイン><深淵網アビスウェブ><骨壁ボーンウォール

      <分裂学習スプリッドラーニング><全耐性レジストオール

装備:深層令嬢のドレス

   ドームアンブレラ

備考:感動/MP自動回復(微)

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 (<分裂学習スプリッドラーニング>があれば外に出られそうだ)


 進化したポーラのステータスを確認し、藍大は1つのアビリティに目を留めた。


 それは<分裂学習スプレッドラーニング>である。


 このアビリティは使用者の分体を創り出し、分体の体験を本体にフィードバックする効果がある。


 つまり、本体であるポーラは川崎大師ダンジョンを離れられないが、ポーラは分体をマルオの傍に置くことでマルオと行動を共にできる。


 ブラドはアビリティによって分体を創り出している訳ではないが、ポーラはブラドと同様に自分の主と行動できる手段を手に入れた。


「ポーラ、これで一緒に外に出かけられるな」


「主様、これで私を都合の良い女扱いできないから覚悟してね?」


「そんなことしてないからね!? 逢魔さんの前で嘘言うの止めてね!?」


 マルオはポーラのとんでもない発言を全力で否定した。


『ご主人、マルオってポーラのことをそんな風に扱ってるの?』


「違うと思うぞ。マルオにはリルみたいに一瞬でどこでも移動できるすごい従魔がいないからポーラと会う機会がどうしても少なくなるんだ」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められながら頭を撫でられ、リルは嬉しそうに鳴いた。


「ポーラ、リルさんが誤解するようなことを言うのは止めてくれよ」


「私だって寂しかったの。少しくらい意地悪したって良いと思う」


「悪かったって。これからはポーラも一緒に行動できるんだから機嫌直してくれよ」


「わかった。主様、機嫌直すからローラに挨拶させて」


「ん? わかった。【召喚サモン:ローラ】」


 ポーラに言われてマルオがローラを召喚した。


 ローラは召喚されてすぐにマルオに横から抱き着いた。


「マスター、この女誰? 新入り?」


「新入りじゃなくてポーラだよ。進化したんだ」


「へぇ・・・。確かによく見たらポーラっぽい骨格してる」


「わかるの!?」


「冗談。マスターは最近花梨のこと気にしてばっかりでつまんないから冗談言ってみた」


「主様、花梨って誰?」


 ポーラは自分の知らない女性の名前が出て来たことでピクッと反応した。


 マルオは自分が生きている内に経験するとは思っていなかった今の状態に驚いた。


「この状況はまさか修羅場!? 逢魔さん助けて下さい!」


「すまんマルオ。管轄外だ」


「管轄外ってそれなら誰が担当ですか!?」


「サクラかな?」


「少なくとも仲良しトリオなら今の状態をポップコーンでも食べながら見物すると思うぞ」


「なるほど、昼ドラっぽいですもんねって違いますからね!」


 マルオが珍しくノリツッコミをするも、リルはブラドの発言で小腹が空いたようだ。


『ご主人、ポップコーン食べたくなってきた』


「よしよし。帰ったら作るか」


『やったね!』


「吾輩も楽しみであるぞ」


「お願いですからもうちょっと興味持って下さい!」


 マルオが本気で困っているため、藍大もおふざけは終わりにしてマルオを助けてあげることにした。


「ポーラ、花梨は俺の従姉だ。マルオと友達以上恋人未満の関係にある相手だな」


「妬ましい」


「まあまあ。花梨はローラ達ともそこそこ仲良いぞ」


「そうなの?」


「花梨は良い人だよ。私がマスターの血を飲むことに理解もあるし、姿を見て怯えられたことは一度もない。時々剣も教えるぐらいには仲が良いよ」


「・・・わかった。私も花梨に会う。主様に相応しいか確かめる」


 ポーラはローラの話を聞いてひとまず嫉妬する気持ちを抑え込んだ。


 この後、シャングリラに戻ってポーラも花梨と話をするが、花梨がポーラの事情を聞いて今まで1人で大変だったねと抱き締めてくれたことで花梨を良い人認定した。


 少なくとも、マルオが花梨と付き合うのを手助けしようと思うぐらいには心を許した。

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