第412話 ゴルゴンさんの推理力高くね?

 12月24日の金曜日、クリスマスイブなのにDMUの本部長室では志保も茂も眉間に皺を寄せていた。


「吉田さん、事実ですか?」


「残念ながら事実です。今朝早く板垣総理から連絡がありました。こんなクリスマスプレゼントなんて欲しくなかったんですけどね」


「勘弁して下さいよ。今日は早く上がるって約束してたんです・・・」


「千春さんには申し訳ないですが、下手をすれば日本の危機なので我慢して下さい」


 茂は大きく溜息をついた。


 志保の話のせいで茂の残業が確定したからだ。


 19日に藍大達がR国から追いやられたラウムを倒して1週間も経たない内に問題が発生した。


 R国の政府やDMU、冒険者達に限定して不幸が訪れて怪我やら病気やらでバタバタしているがそれは今回の問題とは別である。


 ちなみに、問題は1つではなく2つ発生している。


 1つ目はC国が自国で出現した”大災厄”を旧NK国に追いやったと板垣総理に連絡したことだ。


 C国はそれを自国の冒険者達の勝利だと言って得意気に言ったが、日本からすれば旧NK国から旧SK国を経由して”大災厄”が日本にやって来る危険性が生じた悪い話と言える。


 C国がわざわざそれを板垣総理に伝えたのは、以前助けてほしいと言ったのに助けてくれなかったから嫌がらせの意味が込められている。


 2つ目はA国が自国で出現した”大災厄”をCN国に押し付けたことだ。


 こちらは成功を印象付けるようなニュースは報道されておらず、CN国から日本に救援要請が出て明らかになった。


 日本のDMUはこの2つの問題を放置することはできないので、茂がどちらも余計なことをしてくれやがってと悪態をつくぐらい許されるだろう。


「R国が日本にラウムを追いやり、それを逢魔さんが討伐したことでC国とA国が他国に押し付ければ良いと人道的にアウトな作戦に踏み切りました」


「表向きにはR国は”大災厄”が消えたと公表したのを見て、C国もA国もその手があったとやらかした訳ですか。クリスマスイブになんてことしてくれるんですか」


「怒る気持ちはわかりますが、愚痴を言っても状況は良くなりませんので気持ちを切り替えて下さい。私だって家族と一緒に過ごせるか怪しくなって困ってるんです。とりあえず、旧NK国に追いやられた”大災厄”対策から始めましょう。CN国のことは後回しです」


「失礼しました。そうですね。日本の防衛を疎かにしてまでCN国のために動く理由はありませんから」


 茂も気持ちを切り替えて旧NK国から襲来する恐れがある”大災厄”に備えることにした。


「C国の発表で”大災厄”についてわかってる情報ですが、敵はガミジンという種族で死体を操ったりアンデッド型モンスターを使役するそうです。C国が苦戦したのは大きな墓を暴かれて死体を利用されたからだと発表してます」


「”迷宮の狩り人”のチャラ弟子に似たことができると考えた方が良さそうですね」


「確かにそうですね。ただし、C国が出した情報だけが全てだとも思えませんので注意が必要です」


 茂は志保と話している内に嫌なことを思いついてしまった。


「あっ」


「どうしました?」


「もしもガミジンが旧SK国に進出したら、あっちで死んだ日本のアウトロー連中の死体を利用されませんかね? シトリーの胃袋に入ってた死体が全てだとは限りません」


「・・・ヤバいですね。芹江さん、現地に何人二次覚醒者がいたかわかりますか?」


「二次覚醒者の行方不明リストによれば10人です。幸いと言って良いか判断に困りますが、二次覚醒者は全員シトリーに捕食されておりましたのでガミジンに利用されることはないでしょう」


「では、現地に一次覚醒した茨木組の死体が白骨化したまま残ってた場合、ガミジンに利用される可能性ってありますよね?」


「あると思います。何かしらの事情で骨も残っていなければ話は別ですが」


「はぁ。全く余計なことをしてくれたものです。芹江さん、どうすれば良いでしょうか?」


 志保は死者を悪く言いたい訳でもないが、死んでなお厄介事を残されれば文句だって言いたくなるのは当然だろう。


 自身が冒険者ではなく、このような危機の対応は自分よりも茂の方が慣れているから志保は茂の意見を訊ねた。


「まずは襲撃を受けそうな地域を統括するクランに連絡を取った方が良いでしょう。日本海側の地域に海を越えてくる場合、”グリーンバレー”と”ブルースカイ”には注意が必要です。それと、有事の際に力を借りる可能性が高いので”楽園の守り人”にも連絡しなければなりません」


「わかりました。では、私が”グリーンバレー”と”ブルースカイ”に注意を促す連絡をします。芹江さんにはすみませんが逢魔さんと”レッドスター”に連絡してもらいます。逢魔さんには私が連絡するより芹江さんの方が適任ですし、”レッドスター”も我々からお伝えした方が面子を潰さないでしょう」


「承知しました。では、失礼します」


 本部長室から藍大に電話する訳にもいかないので、茂は本部長室を出て自室へと戻った。


 茂が自室に戻ると、今日片付けておくべき資料の山が目に入った。


 しかし、優先度はC国からやって来そうなガミジンの方が高いからそれらを無視して藍大に電話をかけた。


『もしもし茂? 今日はどんな厄介事?』


「おかしい。最近俺と藍大の立場が入れ替わってる気がする」


『そんなことないでしょ。俺、胃痛に悩まされてないし』


「そうだったな畜生!」


 以前は藍大がとんでもない発見を報告して茂が振り回されるだけだったけれど、今では茂から藍大に厄介事の連絡をする頻度も増えている。


 そういった意味で茂は藍大と立場が入れ替わっていると表現したが、藍大に自分は胃痛に悩まないと言われてイラっとした。


『まあそれは置いといて用件はなんだ? まさかDMUでクリスマスパーティーを開くなんて話じゃないだろ?』


「そんな話だったら俺も苦労しないんだけどな。藍大の想像通り厄介事だ」


『やっぱりか。もしかしてだけど、日本に新たな”大災厄”が来るかもって話?』


「・・・伊邪那美様が教えてくれたのか?」


『いや、隣でゴルゴンがきっとそうだって得意気に推理してるだけ』


「ゴルゴンさんの推理力高くね? シトリーの時もそうだったけどさ」


 茂はシトリーが日本に襲来した時の茨木組と冒険者崩れの動きをゴルゴンが推理したことを思い出してそう言った。


『ゴルゴンがC国から”大災厄”が来るかもって言ってるけど合ってる?』


「合ってる。C国が旧NK国にガミジンって”大災厄”を追いやったらしい。下手をすれば旧SK国経由で日本にやって来るかもしれん」


『C国って碌なことしねえな。ダンタリオンの時からそうだけど』


「マジでそう思う。とりあえず、DMUとしては襲来した時に最初に戦う可能性が高い”グリーンバレー”と”ブルースカイ”に注意を促す。シトリーの時も”グリーンバレー”が戦ってたしな」


『こっちにもヘルプの連絡来そうだな。茂、ガミジンについてわかってる情報はある?』


 藍大は茂がガミジンの名前を知っていたことから、その他にも何か情報を持っているだろうと推測して訊ねた。


 情報があるのとないのでは準備すべきことが大きく変わるので、藍大が訊ねるのは当然だろう。


 もっとも、それが正しい情報でなければ準備が無駄になる可能性もあるのだが。


「C国からの情報だから話半分に聞いてほしいんだが、ガミジンは死体を操ったりアンデッド型モンスターを使役するらしい」


『へぇ。そーいうタイプの”大災厄”か。だったらマルオに経験積ませるのもありかも。ガミジンの戦力を奪えるかもしれないし』


「なるほど。その手があったか。俺から彼に説明も兼ねて頼む?」


『いや、俺から話すよ。丁度話したいこともあったし』


「そうか。それなら頼む」


『おう。それじゃまたな』


 藍大との連絡が終わってすぐに”レッドスター”にも状況連絡を済ませたら正午を回っており、そのタイミングで部屋のドアをノックする音がした。


「茂、私だよ。入るね」


「どうぞ」


 部屋にやって来たのは千春だった。


「どうしたんだ千春?」


「本部長室から元気のない茂が出て来たって聞いたから一緒にご飯食べるついでに慰めに来た。はい、お弁当食べよ」


「ありがとう」


 疲れを感じていた茂だったが、千春と一緒にお弁当を食べたことでリフレッシュして午後も仕事を頑張れたとだけ言っておこう。

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