第35章 大家さん、弟子に経験を積ませる

第411話 RPGの原則通り、拾った物は俺達の物で良いよな?

 日本のトップクランが再編成期を迎えた11月が過ぎて12月になった。


 12月18日の土曜日、”楽園の守り人”内部では奈美が元気な女の子を無事に出産した。


 女の子は香奈と名付けられ、楠葉の鑑定によってその職業技能ジョブスキルが調理士だとわかった。


 司も奈美も娘が可愛いから戦闘系の職業技能ジョブスキルではないと知ってホッとしていた。


 めでたいことは続くもので、同じ日についでに楠葉が遥を鑑定したら妊娠5週目であることが発覚した。


 健太も遥も早く子供が欲しいと言っていたので、このニュースで大騒ぎである。


 2人が盛り上がるのは当然のこととして、第二夫人の未亜も次は自分の番だと主張した。


 麗奈も晃にもっと頑張ってもらわなければと呟いており、子供のいない2人はやる気満々である。


 その翌日である19日の日曜日、藍大は舞とサクラ、リル、ゲンを連れて北海道の宗谷岬にやって来た。


「はぁ。なんで12月の北海道に来なきゃいけないんだか」


「主、余計なことをしたR国に仕返ししても良い?」


「”大災厄”を日本に追いやった奴等に限定して許可する」


「わかった」


 サクラは<運命支配フェイトイズマイン>を発動してR国の政府やDMU、冒険者達に限定して不幸が訪れるようにした。


 藍大達が宗谷岬に来た理由だが、R国が国内東部に出現した”大災厄”を全力で日本に向けて追いやった結果、”大災厄”がR国に戻らず日本に向かって来てしまったからだ。


 その接近と経緯を藍大に伝えたのは伊邪那美であり、藍大は事情を茂に連絡してすぐに宗谷岬まで移動したのだ。


 藍大達が現地に到着した時は雪が降っており、リルが<風精霊砲シルフキャノン>で雪雲を吹き飛ばして天気を無理やり晴れにした。


「リル君が雪雲を吹き飛ばしてくれて助かったね~」


『ワフン。僕にお任せだよ』


「よしよし、愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 北海道の冬は当然のことながら関東首都圏の冬よりも寒い。


 それだけでも嫌なのに、雪まで降ったら藍大達は視界の悪さまで考慮して戦わなければならない。


 天気だけでもどうにかしたいと思っていたため、リルがその問題を解決してくれたから藍大はリルを撫でている訳だ。


 気持ち良さそうに撫でられているリルだが、接近する敵の反応をキャッチして真剣な表情になった。


『ご主人、敵が来たよ』


「あれがそうか。カラスっぽいな」


「う~ん、あの位置だとまだミョルニル投げても届かないや」


「先に敵のステータスを調べるから射程圏内に入っても待っててくれ」


「は~い」


 藍大は舞に待機を指示してからモンスター図鑑で敵の情報を調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ラウム

性別:雄 Lv:85

-----------------------------------------

HP:1,000/1,000

MP:2,500/2,500

STR:1,000

VIT:1,000

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:大災厄

   大泥棒

アビリティ:<強奪降下スナッチダイブ><拘束突風バインドガスト><紫雷波サンダーウェーブ

      <無音移動サイレントムーブ><分析アナライズ

      <道具箱アイテムボックス><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:油断

-----------------------------------------



 (人的被害よりも金銭的被害の方が面倒そうな敵だな)


 藍大はラウムのステータスを見てすばしっこくて器用であり、敵を動けなくしてから確実に金目な物だけ奪って逃げる悪質な敵だと判断した。


「敵はラウムLv85。”大災厄”と”大泥棒”の称号持ち。舞がミョルニルを投げて躱したところをリルが仕留めるんだ」


「了解!」


『わかった!』


「主、私は?」


「サクラの仕事は多分戦闘が終わってからだな」


「主がそう言うなら待機してるね」


「おう。じゃあ、舞から始めようか」


「任せな! とっくに射程圏だぜオラァァァァァ!」


 藍大が手短に作戦を伝達した後、舞が雷光を纏わせたミョルニルを投擲し始めた。


「何ぃっ!?」


 ラウムは舞の攻撃が自分に届くと思っていなかったため、回避するのが少しだけ遅れた。


『凍っちゃえ!』


 そのタイミングでリルが<天墜碧風ダウンバースト>を発動したことにより、ラウムは舞の攻撃を避けて安心したところをカチコチに凍らされた。


 ラウムのHPが力尽きた瞬間、<道具箱アイテムボックス>の効果が切れてラウムが亜空間に保管していた金品がラウムの周囲にぶちまけられる。


「サクラ!」


「任せて!」


 サクラは凍ったラウムの死体と金品全てを<透明千手サウザンドアームズ>で回収してみせた。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”大災厄”と化したモンスターを3体倒しました』


『特典としてミスリル炊飯器が逢魔藍大の収納リュックに贈られました』


 (米をミスリルで炊く時代が来たか)


 藍大がプレゼントのミスリル炊飯器について考えていると、舞が藍大を心配して声をかけた。


「藍大、ぼ~っとしてるけど大丈夫?」


「ああ、ごめん。ラウムを倒した特典を聞いて驚いてただけだ。みんなナイスファイト! 作戦通り上手くいって良かった!」


「頑張って全部回収した。褒めて」


『僕も』


「私だって」


「勿論順番に褒めるさ」


 最初はラウムの盗品と死体を回収したサクラから始まり、とどめを刺したリル、とどめを刺す隙を作った舞の順番で藍大は褒めた。


 家族サービスの時間が終われば、藍大達は戦利品全てを回収してシャングリラに撤収した。


 寒い所に用もなく突っ立っているのは避けたいと思ったからだ。


 帰宅して仲良しトリオが淹れてくれたお茶を飲んでから、舞は思い出したように藍大に訊ねた。


「藍大、ラウムを手に入れた特典ってなんだったの?」


「炊飯器だ。当然ミスリルのな」


 そう言って藍大は収納リュックからミスリル炊飯器を取り出した。


「炊飯器! 今日はおにぎり祭りだね!」


『僕もおにぎり作る!』


「私も主に作る」


「アタシも成長したところを見せるのよっ」


「美味しいおにぎり作るです!」


『o(ˊ▽ˋ*)oワクワク』


「吾輩、食べるの専門である」


「同じく」


「妾も食べるの専門なのじゃ!」


 ミスリル炊飯器を見て舞達はおにぎり祭り開催だと盛り上がり始めた。


 ちゃっかり伊邪那美も混じっているあたり、すっかり藍大に胃袋を掴まれていると言えよう。


「伊邪那美様もいたのか。よし、今日はおにぎり祭りだ。俺はこれから茂にラウムの討伐報告をするから具材の準備を始めといてくれ」


「「は~い」」


 舞とサクラが中心になっておにぎりの具材の準備が始まる。


 その間に藍大は茂にメールでラウムの情報を送ってから電話をかけた。


『藍大か! R国から来た”大災厄”はどうなった!?』


「落ち着け。舞とリルのコンビネーションであっさり倒したから」


『・・・良かった。戦闘中に俺から連絡する訳にもいかねえから心配してたんだぞ』


「ごめん。宗谷岬が寒かったから、死体その他諸々を回収した後外から電話するのが嫌で帰って来てから電話したんだ」


『そりゃ寒さを我慢して報告しろなんて言えねえわ。こっちこそすまん。それで、今回の”大災厄”はどんな奴だった? R国は”大災厄”について何も情報を寄越さねえから困ってたんだ』


「ラウムLv85だ。詳細と写真はメールしたのを確認してくれ。一言で表現するなら泥棒ガラスってところかな」


『泥棒ガラス? 盗みを働く”大災厄”とは今までと毛色が違うじゃん』


 体を乗っ取ったり相手を窒息させるようなモンスターと比べれば、確かにラウムは毛色が違うだろう。


「それな。ちなみに、ラウムを倒したらゲームみたいに<道具箱アイテムボックス>の効果が切れて亜空間から金品がぶちまけられたぞ」


『何それ面白い。そんなことリアルでもあるんだな』


「RPGの原則通り、拾った物は俺達の物で良いよな?」


『良いんじゃないか? だって、R国は”大災厄”について知らぬ存ぜぬを通すんだから。当然盗られた物についても返せと言えないさ。言えばR国が日本に”大災厄”を押し付けたと認めることになるし』


「よし。じゃあ俺達の物にするわ。ラウムは<分析アナライズ>って鑑定によく似たアビリティを会得してたからダンジョンでゲットしたっぽいアイテム類も中にはあったんだよね」


『ヘイヘイヘイ。それはすごく興味ある。俺にも鑑定させて』


「しょうがねえな。千春さん呼んで夕飯来いよ。ミスリル炊飯器で炊いた米でおにぎりパーティーするから」


『絶対行く!』


 この後、茂が残業しなければ終わらない量の仕事を全力で片付けて千春とシャングリラにやって来た。


 その話を聞いて藍大は好奇心と食欲が人を動かす原動力なのだと改めて思った。

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