第408話 お肉とチーズのハーモニーがワンダフル!

 藍大と美海、ゲテキングの料理が完成すると、メロはゲテキングから順番にどんな料理を作ったのか訊ねることにした。


「ゲテキング、何を作ったか教えて下さいです」


「わかりました。私が作ったのはチャージビーフのホルモン入り野菜炒めです」


「この料理のポイントはどこですか?」


「食べるとヒャッハーしたくなるところです」


「どーいうことです!?」


 ゲテキングが何を言ってるのかわからなかったため、メロはツッコみたい衝動を我慢せずに解放した。


 流石のゲテキングも今日が初対面のメロにその説明だけでは伝わらないと反省して補足する。


「つまり、食べた人が暴れ回りたくなるぐらいに元気が出るバフ料理ってことです」


「舞に食べさせたらアウトな料理です!」


 (メロ、ここに舞がいなくて良かったな)


 もしも舞がこの場にいれば、それはどういう意味だとメロに迫って最終的にメロが舞にハグされる展開になっただろう。


 その様子が容易に想像できたからこそ、藍大はメロに優しい眼差しを向けていた。


 メロがゲテキングへのインタビューを終わらせたのを見て、今度はゴルゴンが自分の番だと主張した。


「次はアタシのターンなんだからねっ。美海、何を作ったのか教えてほしいわっ」


「おう! アタシが作ったのはソーピランのスープだぜ!」


「さっきメロにソーピランはピラニアに近い味って言ってたわねっ。この料理のポイントは何か教えてほしいのよっ」


「ソーピランのあらから良い出汁が取れるんだ。しかも、ソーピランの身は煮込まれることで食べ始めはプルプルで噛んだらすぐ溶ける。是非ともソーピランを味わってほしい」


「美海がソーピラン推しなのはわかったわっ」


 ゴルゴンは料理に詳しくないので美海がソーピランという食材のすごさを伝えたいことだけ理解した。


 作った美海からすれば、知ったかぶりしたコメントをするよりもゴルゴンみたいに素直にコメントしてくれた方がずっと良い。


 今はわからなくても食べればわかってもらえるという自信があるからだ。


 ゴルゴンが美海のインタビューを終えると、ゼルがにっこりと笑って首から提げているホワイトボードに書き込んでから藍大にそれを見せた。


 そこには藍大が何を作ったか教えてほしいと書いてあった。


『オシエテ(o‘∀‘)σ)Д`;)』


「逢魔家みんな大好きハンバーグだ」


『ハンバーグさんだ!』


 藍大が胸を張って答えると、その後にリルもドヤ顔で続いた。


 リルはラードーンとクエレブレの合挽肉を用意していた時点で藍大がハンバーグを作る気だと察しており、ハンバーグを見てブンブン尻尾を振っている。


 ゼルはその間にハンバーグのポイントは何かとホワイトボードに書き、藍大にこれが次の質問だと提示した。


「今日はチーズinハンバーグにしてみた」


『チーズinハンバーグさんなの!? 最高だね!』


 リルはラードーンとクエレブレの合挽肉ではまだ試したことのないチーズinハンバーグを食べられると知ってテンションが高まる一方だ。


 最近の食いしん坊ズは美味しい料理にさん付けする風潮があり、今日のハンバーグも当然のようにリルはさん付けしている。


 リルが浮かれている横でゼルがもう1つ質問をホワイトボードに書いた。


 書かれた内容は舞が自分のいない所でチーズinハンバーグを作ったと知れば拗ねるのではというものだった。


「・・・帰ったら舞を含めて希望者にも作ってあげよう」


 舞以外にも希望者がポンポン浮かび上がるものだから、藍大はしまったと苦笑しながらここにいない者達にも作ると言った。


 それはさておき、藍大と美海、ゲテキングの料理が冷めない内に実食タイムに移った。


 今日は別に料理番組の収録でもなんでもないので、撮れ高なんて気にせずに食べたって良いから気が楽である。


 最初はゲテキングのチャージビーフのホルモン入り野菜炒めだ。


 取り皿に分けてすぐに藍大達は一口食べた。


「ヒャッハァァァァァッ!」


 食べた瞬間にゲテキングが叫んだ。


 ゲテキングは自分の料理でバフがかかったらしい。


 その一方で逢魔家のメンバーと美海は美味しいと思ってもヒャッハーと叫び出すことはなかった。


 美海は調理士でゲテキングが作った以上のバフ料理が作れるため、調理士ではないゲテキングのバフ料理を食べても本能的に叫び出さなかった。


 藍大達の場合はシャングリラ産の食材と藍大の持つ各種ミスリルとユグドラシルの調理器具で作られた料理で舌が肥え、ゲテキングのバフ料理ではヒャッハーするぐらい満足できなかったらしい。


「最近のゲテキングは虫食に凝ってたから、虫料理以外だとこんなもんか」


「柳さんは虫料理を食べたことあるんですか?」


「あるぜ。食わず嫌いは良くないからな。まあ、アタシも虫は得意じゃねえからビジュアルがこれぞ虫食ってやつは食ってねえけどな。食ったのはガイアワームで作ったミミズバーガーみたいな虫の原形留めてないやつぐらいだ。魔王様は?」


「ないわよっ」


「あり得ないです!」


『ダメッ・:*三( ε:)`д゚)・;"』


 仲良しトリオが藍大よりも先に答えた。


 その後にリルが続く。


『ご主人は舞達が嫌いな虫を使って料理することはないよ。ご主人の料理は僕達を笑顔にするけど、虫を料理にしたら舞達がしょんぼりしちゃうもん』


「お、おう。なんかごめんな。アタシも”雑食道”に入ったせいでそこら辺の感覚が麻痺しちまってるらしい」


「美海、それは女子力を失ってるのよっ」


「少なくとも嬉々として虫食をすることで女子力は上がらないです」


『<(`⌒´)>エヘン』


 戦う料理人と呼ばれるようになってから、おしとやかな女子とは間違っても表現されなくなった美海にとって仲良しトリオの言い分にはグサリと刺さるものがあった。


 とりあえず、ゲテキングのホルモン入り野菜炒めの試食は終えて美海のスープの番である。


 スープが取り分けられた頃にはゲテキングも落ち着きを取り戻していた。


「いやぁ、すみません。うっかりヒャッハーしてました」


 (うっかりヒャッハーするってどゆこと?)


 ゲテキングのコメントに藍大は訊き返したくなったけれど、そうすれば美海のスープも自分のハンバーグも冷めてしまうので黙っていた。


 ソーピランのスープを一口飲むと、ゲテキングは悟った顔になった。


「シェフ、腕を上げたね」


「誰がシェフだってアタシじゃねえか」


 普段は美海と呼ばれていたせいでシェフ呼ばわりされて一瞬その呼び方を否定してしまった。


 もっとも、自分の職業技能ジョブスキルが調理士だとすぐに思い出してシェフは自分だとすぐに訂正したのだが。


 ゲテキングと美海がそんなやり取りをしている間、藍大達は美海のスープを堪能していた。


「美味しいです。外のダンジョンにもまだまだ美味しいモンスター食材があるんですね」


『お肉の方が好きだけどこのスープは美味しいね』


「やるわねっ」


「ソーピランが口の中で溶けたです」


『ヾ(@⌒▽⌒@)ノ』


 藍大は美海のスープを飲んでシャングリラ以外のモンスター食材もまだ開拓し切れていないと感じた。


 帰ったらブラドに相談するぐらいには美海のスープが藍大に影響を与えたようだ。


 そして、いよいよ藍大のチーズinハンバーグの順番が来た。


 リルと仲良しトリオはもう我慢できないと早速食べ始めた。


『お肉とチーズのハーモニーがワンダフル!』


「普通のも良いけどこれも美味しいわねっ」


「チーズinは正義です!」


『それな( ´-ω-)σ』


 リル達のリアクションを見て美海とゲテキングはゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて藍大のチーズinハンバーグを食べた。


 よく味わって食べた後、2人は静かに土下座した。


「「参りました」」


「あの、何もそこまでしなくても・・・」


「それだけの価値があります! 私は雑食が大好きですが、やっぱり王道のハンバーグも良いなって思いました!」


「このハンバーグを食った瞬間に負けたってわかった。これでアタシが勝ったなんて言ったらアタシは調理士失格だぜ」


『ワッフ~ン。これがご主人の実力だよ~』


「「はは~」」


 リルは藍大のハンバーグのすごさをわかってもらえてとてもご機嫌である。


 藍大も自分のハンバーグを冷めない内に食べ、帰ったら留守番組に作ってあげることになると思った。


 今回のリベンジマッチは藍大がチャンピオンの座を防衛することに成功し、リル達がご機嫌なまま解散となった。


 帰宅した藍大達を舞が出迎え、ゴルゴンがチーズinハンバーグを食べたと自慢したら舞はゴルゴンを抱き締めながら藍大に自分もそれが食べたいと訴えたのは予定調和である。

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