第409話 魔王軍とは言い得て妙ですね

 翌日土曜日の午後13時、藍大はリルを膝の上に乗せてノートパソコンの前に座っていた。


 今日はこれからテイマー系冒険者のWeb会議がある。


 今回は藍大が招集をかけたのではなく、泰造がテイマー系冒険者に声をかけた。


『皆さん、急にお呼び立てしてしまい申し訳ございませんでした。今日は皆さんに報告することがあって招集させていただきました』


「持木さん、それは良いけど今日は昨日のニュースの件に関連してます?」


 藍大が口にした昨日のニュースの件とは泰造とそのパーティーが”リア充を目指し隊”を脱退したことだ。


 この出来事は昨日の夕方のニュースで報道され、掲示板でもかなり取り上げられていた。


『おっしゃる通りです。僕達の脱退に関わる件です。あれには続きがありまして、僕達のパーティーは”魔王様の助っ人”に加入させていただくことになりました』


『マジっすか!? 持木さんも魔王軍の一員になったんすか!?』


『魔王軍とは言い得て妙ですね』


 マルオがオーバーに驚く一方で、ゲテキングは静かに驚きつつマルオのコメントに上手いと言えるだけの余裕があった。


「持木さん、今までトップクランでサブマスターを務めてたのに1人のクランメンバーになって大丈夫ですか?」


『大丈夫です。”リア充を目指し隊”でサブマスターになったのは2代目ジェラーリの次に実力とリア充への妬みが強かったってことが理由ですから。特に人の上に立ちたいとかありません』


 (実力は頷けるけどリア充への恨みの強さも基準かよ)


 藍大は表情に出さなかったものの、泰造の発言に心の中で苦笑せずにはいられなかった。


 そこに睦美が補足する。


『魔王様、この件については私と持木さんの間でしっかりと話し合いましたのでご安心下さい。持木さん達は私が直々に審査して魔王様への信仰度も一定基準を超えたと確認済みです』


「すみません、信仰度ってなんですか?」


『”魔王様の助っ人”は魔王様を支援するクランです。魔王様のために働くことを苦しいと思う者を入れれば争いになってお互いに不幸です。それゆえ、魔王様への信仰度を測るのは当然です』


 藍大の質問はもっともだが、睦美のようなガチ勢の元魔王様信者からすれば採用基準として信仰度は外せないようだ。


『自分達が無事に加入できてホッとしてます。でも、元Bo'zのメンバーの一部も”楽園の守り人”に合流してたのには驚きました』


「神田さん、元Bo'zのメンバーも”魔王様の助っ人”に加入したんですか?」


『はい。加入したのは2人ですが、どちらとも神仏に救いを求めるよりも魔王様に救いを求めた方がより多くの人を救えると悟りを得ておりましたのでスカウトしました』


 (あれ、Bo'z崩壊って俺も要因? それと伊邪那美様にも申し訳ないな)


 Bo'zの内部分裂に自分が影響してしまったのではないかと思ったり、神と聞いて伊邪那美のことを思い浮かべたりと藍大の心中は穏やかではなかった。


 そんな気持ちを抑えるべく、藍大がリルの頭を撫でるとリルが気持ち良さそうに鳴いた。


「クゥ~ン♪」


『逢魔さん、リル君を膝の上に乗せてるでしょう!? そしてリル君をモフってるんですね、わかります!』


「真奈さん、ハウス」


『それは私がシャングリラにお呼ばれしたと判断してよろしいですね?』


「よろしくないですね。都合良く私の言葉を解釈しないで下さい」


 今までおとなしくしていたけれど、モフラーはやはりブレなかった。


 モフラーは今日も今日とてモフラーであり、リルに関して人一倍感覚が鋭敏になっていた。


 藍大はマイクを一時的にオフにしてリルに話しかける。


「リル、ごめんな。撫で過ぎちゃったか?」


『そんなことないよご主人。天敵の感覚がどんどん研ぎ澄まされてるだけ。やっぱり恐ろしいね』


「よしよし。画面の向こうに真奈さんがいるだけだから怖くないぞ」


『うん、落ち着いた。もう大丈夫だよご主人』


 藍大はリルの震えが止まるのを確認してからマイクを再びONにした。


「失礼しました。あれ、真奈さんはどうしました?」


『逢魔さん、真奈さんならモフモフ成分が足りないからガルフを少しだけモフって来るって言って離席しました』


 (すまんなガルフ。飛び火しちゃったわ)


 ガルフに心の中で詫びを入れると、藍大は脱線した話題を元に戻すことにした。


「神田さん、持木さんのパーティーと元Bo'zの2人が加わってクランは合計何人になりました?」


『25人です。ただし、”魔王様の助っ人”に加入したいと熱烈にアピールする冒険者の面接がまだ途中なので、もっと増えるかもしれません』


「クランハウスが狭く感じないですか?」


『クランメンバーが増えることを想定して大きめに改築しましたから問題ありません』


 睦美は藍大が思っているよりもずっと用意周到だった。


『これは”雑食道”も魔王軍に入るしかありませんね』


「いや、魔王軍とか組織してないですからね? ”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”が”楽園の守り人”の傘下に入ったのは事実ですけど、一大勢力を築き上げてやるとか考えてませんからね?」


『私も昨日の料理対決で王道の料理も大変すばらしいと感銘を受けました。ほら、戦った相手が仲間になるのはドラ〇ンボールだと定番じゃないですか』


「現実とドラ〇ンボールを一緒にしちゃ駄目です。願い事を叶える7つの球なんて見つかってませんからね」


 実際、藍大がサクラに願えば7つの球なんて集めなくても<運命支配フェイトイズマイン>の効果で叶うだろう。


 藍大もその可能性が脳裏をかすめたが、それについてはバレれば間違いなく厄介事が生じるので黙っていた。


『7つの属性ゴーレムを融合してレインボーゴーレムになる可能性があるかもしれません。さすまおです』


『7つの属性スライムを融合してレインボースライムになるとかあるかもしれませんね。さすまおです』


『神田さんと持木さんってば仲良いっすね』


『何がですか? 私はただ従魔の強化を考えてただけですが』


『自分もそうですね。でも、それはそれで・・・』


 マルオの指摘に睦美は首を傾げたが、泰造はまんざらでもない様子だった。


 ”リア充を目指し隊”という男性しかいないクランに所属していたため、泰造は女性がいるクランに入れて気分が良いに違いない。


 それと同時に古巣のメンバーの口から呪詛が唱えられているだろうが、泰造もそのパーティーメンバーの耳には届かないだろう。


 正確には非リアの恨み言なんて聞こえないというポーズを取るのかもしれない。


 そんなことを藍大が考えていると、いつの間にか真奈が席に戻っていた。


『失礼しました。今はどんな状況ですか?』


『乗るしかねえっしょこのビッグウェーブにということで、”雑食道”も”楽園の守り人”の傘下に入った方が良いのか相談してました』


「違います。ゲテキングが勝手に言ってるだけです」


『なるほど。それならば、”雑食道”も”レッドスター”みたいに親楽派しんらくはの立場を対外的にアピールするのはどうでしょう?』


「真奈さん、親楽派ってなんですか? 聞いたことないんですが」


『今作りました。傘下の”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”のような縦の関係はないですけど、”楽園の守り人”に親しいクランや冒険者をまとめて親楽派です。悪くないでしょう?』


『良いですね。では、”雑食道”も新楽派ということでお願いします』


 (いつの間にか派閥ができあがってるぞこれ)


 ”楽園の守り人”と”レッドスター”は仲が良いとアピールするあたり、真奈も伊達に大手クランでサブマスターを務めていない。


 とりあえず、今日はこれ以上話すべき議題がないので会議はお開きとなった。


 会議が終わるとリルが藍大を見上げる。


『ご主人、お疲れ様。今日の会議は大変だったね』


「リルもお疲れ。魔王軍だとか親楽派とか新出単語が飛び出てたし」


 リルと藍大がお互いに労い合っていると、舞とサクラがその会話に加わる。


「それだけ私達が活躍してるんだよ~」


「主の偉大さに世間がようやく追いついて来た」


『ご主人が評価されることは良いことだね』


「評価と言えば、クランの格付け第二弾が発表されて掲示板が賑わってるよ」


「当然だけど、”楽園の守り人”は1位。これも主のおかげ」


「ありがとう。じゃあ、みんなで掲示板を覗いてみるか」


「「『賛成!』」」


 藍大達は舞が持って来てくれたリンゴジュースを飲みながら掲示板を覗き始めた。

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