第405話 マルオからはマイルドな健太臭がする

 翌日の午後、藍大とサクラを訪ねてマルオがシャングリラの102号室にやって来た。


「逢魔さ~ん、サクラさ~ん、聞いて下さいよ~!」


「どうした?」


「マルオから彼女ができない男の波動を強く感じる」


「そんなのあるの?」


「サクラさん、その波動をすぐに打ち消す方法が知りたいです! そのためならなんでもします!」


「落ち着けマルオ。ちゃんと話聞いてやるから」


 サクラにとんでもないことを言われて慌てるマルオに対し、藍大は話を聞くから落ち着けと伝えた。


 マルオはそもそも藍大とサクラに話を聞いてほしくてここに来たので、当初の目的を思い出して落ち着きを取り戻した。


「逢魔さん、サクラさん、”迷宮の狩り人”は緊急事態なんです」


「と言うと?」


「実は・・・」


「実は?」


「俺以外全員パートナーがいるんです!」


「「え?」」


 マルオが一度溜めてから口にした言葉を聞いて藍大とサクラは口をポカンと開けた。


 2人からすれば全然緊急事態ではなかったからである。


 藍大とサクラのリアクションが薄いのはピンと来ていないからだと判断し、マルオは詳細を話し始めた。


「晃は麗奈さんとくっつきました。これは前から知ってたんで置いとくとして、昨日成美と薬研は付き合ってることが発覚したんです」


「へぇ。あの2人付き合ってたんだ」


「私は相談乗ってたから知ってる」


「そうだったの?」


「うん。鈍感な研を落とす方法を相談されたから、呼び出して胸倉掴んで唇を奪っちゃえってアドバイスした。それで成美の好意が伝わらないなんてあり得ないでしょ? 実際にやってみて成功したって報告を受けたよ」


「サクラさんが恋のキューピッドだったんですか・・・」


「私はアスモデウスだよ。キューピッドじゃない」


「そーいう意味じゃないっす」


「わかってて言った」


 マルオは成美と研が付き合うきっかけがサクラだったと知って肩を落とした。


 自分を苦しめる原因に相談していることで複雑な気持ちになったのである。


「笛吹さんと研が付き合ってることはわかった。進藤さんと梶さんは?」


「この2人についても昨日成美と研が付き合ってる宣言をした時に知りました。進藤さんは幼馴染と高校時代から付き合ってて、梶さんはDMUの職人班に所属する男と付き合ってるっす。つまり、俺だけ売れ残ってしまったんです!」


 マルオは拳を握って机をドンドンと叩いた。


 自分以外にパートナーがいるという事実を知ってかなりショックだったらしい。


「まあ、その、なんだ。マルオにはローラ達がいるだろ?」


「ローラ達とは彼氏彼女じゃなくて主従の関係です。血を吸わせてあげることはあっても一線は越えてないです」


「そうだったの?」


「そうなんです。人型のアンデッド型モンスターは子供を産めないのでそーいうことは一切してません。俺は一線超えるからにはちゃんと子供が欲しいんです」


「思ってたよりマルオがしっかりしてた件について」


「誤解してもしょうがないよ主。だってマルオだもん」


 藍大が意外な事実に目を丸くしていると、サクラがその肩をポンポンと叩いた。


 マルオはその様子を見て抗議する。


「ちょっとちょっと! 俺ってばそんなチャラチャラしてるように見えるんすか!?」


「見える」


「見えないと思った?」


「迷うことなく即答じゃないですか畜生!」


 藍大とサクラの答えを聞いてマルオのテンションがおかしくなった。


 マルオが頭を抱えて唸っているところに今日は非番で102号室にいたパンドラが通りかかり、藍大の膝の上に軽やかに飛び乗ってから口を開く。


「マルオからはマイルドな健太臭がする」


「流石はパンドラ。的確なコメントだな」


「確かに。マルオは健太程じゃないけど遊んでる臭いがする。ローラ達を侍らせてるし」


「健太さんみたいに奥さん2人貰えるなら似てるって言われても嬉しいです。でも、ただチャラいとだけ思われてるならショックです」


 パンドラのコメントに藍大がなるほどと頷き、サクラも納得した上でそう思った理由を補足した。


 マルオは三者の意見を聞き、健太みたいに奥さんが見つかるなら良いけどチャラいだけと思われたくないという複雑な気持ちを口にした。


 (マルオの自由恋愛って実際のところどうなんだ?)


 藍大はマルオがパートナーを見つけるにはどうすれば良いか考えるべく、マルオの現状を分析してみた。


 三次覚醒した冒険者であり、藍大と同様に1人だけでも従魔を召喚すれば高レベルの雑魚モブモンスターが大群で現れても十分に戦える実力を持つ。


 大家族の長男で家族思いな一面があり、ダンジョンで手に入れたモンスター食材は家計の負担を減らすために持ち帰っている。


 言葉に所々チャラい感じが出てしまうものの意外としっかりしていて戦闘中の判断も悪くない。


 所属する”迷宮の狩り人”は”楽園の守り人”におんぶに抱っこという訳ではなく、従魔の”ダンジョンマスター”経由でダンジョンの管理をしているから日本への貢献度も高い。


 ここまでならかなり優良物件だと言えよう。


 マルオは従魔にチヤホヤしてもらえるように雌の従魔だけしかテイムしないという点で女性から白い目を向けられるが、そのマイナスがあっても十分優良物件だろう。


 ちなみに、マルオは全くモテいない訳ではない。


 ミーハーな女性からの人気はそこそこあるし、”迷宮の狩り人”経由で”楽園の守り人”とお近づきになりたい女性冒険者や金持ちのご令嬢がマルオのパートナーの座を狙っている。


 そんな野心を持つ女性達は成美や晃が排除しているので、マルオと付き合いたいと考える女性と出会うチャンスがないのだ。


 (マルオのことを成り上がる道具として見ない女性ねぇ・・・)


 藍大がそんな人なんているだろうかと考えている時、地下神域から繋がる階段から花梨が上がって来た。


「藍大ー、そろそろおやつの時間だよね。今日は何かな?」


「「「あ」」」


「ん? どした?」


 藍大とサクラ、パンドラは花梨がここに来たことでしまったという表情になった。


 花梨の存在を表に出していないからである。


 冒険者登録は済んでいて”楽園の守り人”に加入しているが、公式には発表されていない花梨の存在は”楽園の守り人”と茂以外には秘密にされている。


 それがマルオにバレればしまったと思うのは当然だろう。


 花梨は自分がタイミングの悪い時に来てしまったことに気づいておらず、何かあったのかと呑気に首を傾げている。


 その一方、マルオはと言えば巫女服の花梨を見てテンションが上がっていた。


「巫女さん来た! 逢魔さん、巫女さんの従魔をテイムしたんですか!?」


「むぅ、失礼な! 私は従魔じゃなくて人間だよ!」


「え? じゃあ逢魔さんのお妾さんですか?」


「私の名は国生花梨! 藍大の従姉だよ!」


 (花梨の馬鹿。従魔だって誤魔化せたのに・・・)


 マルオに名乗る花梨を見て藍大は額に手をやった。


 サクラやパンドラも同じ仕草をしている。


 ここで花梨の機転が利けば従魔だと誤魔化すこともできたのだが、花梨が馬鹿正直に藍大との関係性を口にしてしまったせいで誤魔化せなくなってしまった。


「えっ、逢魔さん狡いっす! 美人な奥さんが5人もいるのに美人な従姉の巫女さんまでいるなんてあんまりです!」


「えへへ、聞いた? 私ってば美人だって」


 マルオに美人と言われて花梨は照れていた。


 それを見たサクラはピンと来て藍大の耳元で囁いた。


「主、花梨とマルオをくっつけるのはどう?」


「・・・ありかもな」


「だよね」


「だな。もっとも、当人同士の意思が肝心だけど」


 藍大はサクラの提案を聞いて頭を素早く回転させた。


 花梨は山梨県の秘境育ちであり、男の知り合いが極端に限られている。


 しかも、出自が特殊で藍大の従姉だから藍大と関係を持ちたい者は花梨の存在を知ればすぐにアプローチし始めるだろう。


 自分と関係を構築するための道具として花梨と結婚したがるような奴に彼女を任せられない。


 藍大はそう考えていたため、自分が花梨との結婚はしないと言ってから花梨の相手に困っていた。


 そんな花梨と同じくパートナー探しに苦戦しているマルオなら悪い組み合わせではない。


 お互いが気に入れば結婚も視野に入れて付き合ってみるのもありである。


「俺の名前は丸山武臣と言います! 花梨さん、もしよければ俺とお付き合いしていただけませんか!?」


「んー、まずはお友達からだね。美人って言ってくれたのは嬉しいけど、私はまだ君の名前しか知らないし」


「ですよね! お友達からお願いします!」


「・・・藍大、この子面白い」


 マルオが花梨の周りにはいないタイプだったため、花梨はマルオのキャラを面白く感じたようだ。


 脈なしではないとわかったので、藍大も露骨にならない程度にマルオをプッシュする。


「俺の弟子だ。悪い奴じゃないぞ」


「ふーん。よろしくね、武臣君」


「はい!」


 マルオは花梨と知り合えたことにより、”迷宮の狩り人”において自分だけがパートナーのいないという悩みをすっかり忘れていた。


 藍大とサクラ、パンドラはマルオと花梨が出会ったことは結果オーライだと判断するのだった。

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