第394話 人間は悩み続ける生き物なのだよ

 藍大が茂や志保と電話をしていた頃、司と未亜の合同パーティーはシャングリラダンジョン地下10階に来ていた。


 三次覚醒した力を使いこなし、地下9階のフロアボスであるデュラハンも倒した彼等は地下10階を合同パーティーで進んでいる。


「ネメアズライオンは硬いね」


「ペンドラやガルムも馬鹿にできないわ」


「新しい武器と三次覚醒した力を全部駆使せなあかんてエグい階層やで」


「それな」


 司達は地下10階に挑戦するにあたって武器や防具を更新している。


 司はヴォルカニックスピアをメイン武器とし、ケルブスピアを状況に応じて収納袋から取り出して使う。


 防具もダハーカレザーに変えており、硬さと柔軟性を供えた革鎧に満足している。


 麗奈はデュラハンガントレットWをメイン武器にしている。


 ちなみに、デュラハンガントレットWとはデュラハン”希少種”を素材としており、これは偶然司達が挑んだボスがデュラハン”希少種”だったからだ。


 防具は司と同じくダハーカレザーである。


 未亜は武器も防具もアジ・ダハーカに統一しており、武器はダハーカシューターで防具はダハーカレザーにしている。


 ダハーカシューターは今まで使っていたタラスクシューターに比べて魔力矢の準備から発射までがスムーズらしい。


 健太はタラスクコッファーからケルブコッファーに更新している。


 デュラハン”希少種”の素材を使うことも考えたが、ケルブのメカメカしい方がコッファーらしいと考えてDMUの職人班にケルブを使ってほしいと依頼したのだ。


 防具は他3人と同様にダハーカレザーだ。


 司達の誰も盾役タンクではないから、示し合わせた訳でもないが防具はお揃いでアジ・ダハーカの革鎧になったのである。


「もうこれ何回目って感じだけど、やっぱり藍大達ってすごいんだね」


「そりゃそうでしょ。私達がここで1体の雑魚モブを倒す間に群れを倒せるんだから」


「さすまおやで」


「それでも俺達にはパンドラ達がいるから大丈夫だ。な、パンドラ?」


「・・・しょうがないから隙だらけな健太も未亜も僕がフォローしてあげる」


 パンドラも頼られて嬉しくないはずがないけれど、手のかかる2人の面倒を見ている苦労から素直に喜んだりしなかった。


 そんなパンドラの微妙な表情の変化を読み取り、司はパンドラの頭を撫でる。


「いつもフォローありがとね。本当に助かってるよ」


「うん」


「嘘やろ。ウチらのパンドラが司には素直やで」


「司にパンドラを取られた・・・」


「忘れてない? そもそもパンドラの主は藍大だからね?」


「「そうだった」」


「「やれやれ」」


 未亜と健太がハッとした表情になると、司とパンドラが仕方のない人達だと首を横に振った。


 その様子があまりにも似ていたため、ミオが思わず感想を口にした。


「ニャア・・・。司とパンドラがそっくりなのニャ」


「人間は悩み続ける生き物なのだよ」


「ハッハッハ。悩みなんて筋肉を鍛えれば吹き飛ぶさ」


「脳筋め」


「褒めるなよ」


「マージは褒めてないと思うニャ」


 マージは知的なキャラであり、アスタは言わずと知れた脳筋である。


 この2体は喧嘩こそしないが思考パターンが正反対なので意見が一致することはあまりない。


 ミオは迷惑をかけることはなくとも自由なケット・シーだから、レンタル従魔も統括するパンドラの負担は大きい。


 最近のパンドラは以前よりも素直に藍大に甘えるようになり、膝の上に乗って愚痴ることで溜め込んだもの全てを吐き出すようにしている。


 それはさておき、司達は倒した雑魚モブモンスターの回収を済ませてから先に進んだ。


 そして、司達は地下10階の探索で初めて”掃除屋”に遭遇した。


「これがギルタブリルなんだ」


「見るからに合成獣ね」


「下半身が蠍っちゅうのが危険な臭いプンプンするで」


「上半身が色っぽいのが惜しい」


「後で遥に報告しよう」


「冗談です! それだけは堪忍してつかぁさいパンドラさん!」


 遥から健太が他所の女に鼻の下を伸ばしたら報告するように言われているため、パンドラはその役割を果たすつもりである。


 なお、その報酬はブラッシングだったりする。


 遥のブラッシングは藍大の次に上手なので、パンドラも藍大が忙しくて甘えられない時は遥に甘えているのだ。


 遥は冒険者ではないから、健太が未亜みたいに自分以外の女性に調子の良いことを言わないようパンドラに見張りをお願いする代わりにブラッシングする決まりである。


 健太が有罪ギルティなのは変わらないから放置するとして、ギルタブリルに話を戻そう。


 ブラドがサクラのクレームに応じて”掃除屋”をアポピスからギルタブリルに変更した。


 藍大達も”掃除屋”が交代になってから地下10階でギルタブリルと戦った。


 そのステータスや実力、種族特性から今回はクレームなしで済んだ。


 司達の前にいる個体は藍大達から貰った情報と見た限りでは違う点がない。


 頭と腰から上は女性で両腕と下半身が青銅色の蠍であり、脚に生えた爪は鳥のものに酷似している。


 その見た目から”希少種”ではないだろうと判断し、司は藍大達が戦った個体のステータスを思い出した。



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名前:なし 種族:ギルタブリル

性別:雌 Lv:95

-----------------------------------------

HP:2,900/2,900

MP:3,000/3,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,500

AGI:2,000

INT:3,000

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   ベルセルクソウル

アビリティ:<剛力鋏メガトンシザーズ><剛力振撃メガトンスイング><猛毒尾刺ヴェノムスティング

      <震撃クエイク><石化針ペトリファイドニードル><猛毒鎧ヴェノムアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:なし

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「キャシャァァァァァ!」


 ギルタブリルは奇声を上げてすぐに<震撃クエイク>で地面を大きく揺らす。


「上空に逃げる! パンドラ!」


「了解!」


 激しく揺れる地上にいてはギルタブリルの戦術に嵌まってしまうから、司はパンドラに自分達を上空に連れ出すように指示した。


 パンドラは<形状変化シェイプシフト>でジズに化けて司達をその背に乗せて上空に逃げた。


 ギルタブリルは基本的に近接戦闘である。


 <石化針ペトリファイドニードル>で遠距離からの攻撃もできるが、このアビリティしかないから空を飛べばほとんどギルタブリルの攻撃手段はなくなる。


 これも司が藍大から聞いた話を受けて考えたギルタブリル対策だ。


「キャシャァァァァァ!」


 ギルタブリルは激昂した。


 敵の肉を挟みで千切るか殴る快感を味わえなくなったからだ。


「司、俺はマージに抱えてもらって別動隊として攻撃する」


「そうだね。挟み撃ちにしよう。マージ、頼める?」


「お安い御用だ」


 パンドラの背中から健太とマージが離れ、ギルタブリルはどっちを狙うべきか悩んだ。


「おい、こっち見ろやサソタウロス!」


「キシャァァァ!?」


 自分の種族名を間違われてギルタブリルは健太を優先して攻撃することに決めた。


 健太の挑発に乗ったのである。


 ギルタブリルは<石化針ペトリファイドニードル>で健太を集中的に狙う。


 しかし、マージがそれを余裕を持って躱すからギルタブリルの攻撃は当たらない。


「今の内に攻撃しよう」


「「賛成!」」


「わかったニャ!」


 司達は健太とマージが囮になっている内に攻撃した。


 司はヴォルカニックスピアを投げまくり、麗奈は体内の気を弾丸に圧縮してそれぞれ脚の破壊を狙った。


 未亜は蠍の下半身を貫くため、強度の高い矢を選んでギルタブリルの甲殻を削る。


 ミオは<起爆泡罠バブルトラップ>でギルタブリルの周辺に罠を仕掛け、司達の攻撃を受けて体勢を崩せばすぐに起爆するようにしてアシストした。


 アスタは接近しないと<剛力投擲メガトンスロー>しか攻撃手段がないので、何もできないよりマシだとポージングを決めている。


 <自動再生オートリジェネ>や<全耐性レジストオール>があったとしても、集中砲火を防ぐ手段がなければ少しずつ回復速度が追い付かなくなる。


 大きく跳躍しようとも、パンドラが絶妙な待機位置をコントロールしているのでギルタブリルの射程圏には入らない。


 健太やアスタの攻撃も加わってじわじわとダメージを蓄積し、司達はギルタブリルの嵌め殺しに成功した。


 もっとも、ギルタブリルのVITの高さと<自動再生オートリジェネ>、<全耐性レジストオール>のせいで戦闘が終わるまで1時間近くかかり、司達もクタクタなのだが。


「今日はギルタブリルを回収したら撤収で良いよね?」


「「「・・・「「異議なし」」・・・」」」


 疲れたメンバー全員から賛同され、司達は今日の探索を終了した。


 無理は禁物というのが探索の鉄則であり、それは一般的な冒険者より強い司達も例外ではない。

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