第382話 どっちが主人かわからん!

 マルオはライカンキョンシーとスパルトイロイヤルガードをテイムした。


 ライカンキョンシーはジーマ、スパルトイロイヤルガードはハーマと名付けられた。


「逢魔さん、聞いて下さい! ジーマもハーマも雌でした!」


「そりゃ俺も調べたから知ってるけど、マルオはまだ雌の従魔縛りしてんの?」


「ここまで来たら貫き通します。中津ダンジョンはダンマスが雄なんで潰しました」


「いや、キリッとした表情でそんなこと言われても反応に困るわ」


 マルオが今もなお従魔は雌に限定していると知り、藍大は苦笑いしかできなかった。


「それじゃ、ジーマの方から融合します。【召喚サモン:パメラ】【召喚サモン:ジーマ】」


 2体の従魔が藍大達の前に召喚された。


「パメラとジーマ、融合させるぞ」


「わかった」


「(コクリ)」


「OK。【融合フュージョン:パメラ/ジーマ】」


 マルオがパメラとジーマの了承を得てから呪文を唱えると、2体が光に包み込まれた。


 光の中でパメラとジーマのシルエットが重なり、頭の上に生えた犬耳からジーマがベースだとわかる。


 額から札は取れたが体をマントで包んでおりその中身がどうなったかわからない。


 光が収まると、黒いマントに身を包んだ病的に青白い肌の犬耳獣人の女性の姿があった。


「キタコレ!」


「マルオ、ステイステイ」


 藍大ははしゃぐマルオをおとなしくさせた。


 声のかけ方が犬に対するそれと変わらないがツッコミ不在なので誰も気にしない。


 落ち着きを取り戻したマルオは融合して現れたモンスターにメジェラと名付けた。


 藍大はメジェラと名付けられた融合モンスターをモンスター図鑑で調べた。



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名前:メジェラ 種族:モルモー

性別:雌 Lv:80

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HP:2,000/2,000

MP:2,000/2,000

STR:2,200

VIT:2,000

DEX:1,500

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:1,500

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称号:武臣の従魔

   ベルセルクソウル

   墓荒らし

   融合モンスター

アビリティ:<無音刃サイレントエッジ><剛力投擲メガトンスロー><剛脚月牙グレートクレセント

      <毒付与ポイズンエンチャント><血力変換ブラッドイズパワー

      <血鉤爪ブラッディークロー><獣人切替ビーストマンチェンジ

装備:パラライズナイフ×10

   ブラックマルチマント

備考:興味

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 (獣人要素とヴァンパイア要素が混じってるじゃん)


 メジェラのアビリティ欄を見てみれば、リュカが会得しているアビリティとローラが会得しているアビリティの両方存在していた。


 獣人タイプのヴァンパイアだからこうなっているのだろう。


 ちなみに、称号関係では”同族殺し”と”ダンジョンの天敵”が統合されて”墓荒らし”になっている。


 どのみち物騒な称号なのは変化前後で共通している。


「そうだ、ヴァンパイア同士対面させなきゃ! 【召喚サモン:ローラ】」


 マルオの筆頭従魔であるローラがこの場に召喚された。


 ローラはメジェラに近づくとにっこり笑った。


「跪きなさい」


「ハッ」


「上下関係あるの!?」


「マスター、当然でしょ? 不敬にも私のマスターの血を飲みたそうにしてるけど、格の違いは理解できるみたい。私のものは私のもの。マスターの血も私のもの」


「いや、俺の血は俺のものだからね!?」


 ローラが後輩メジェラを跪かせてからジャイアニズムを主張したので、マルオが困惑するのも無理もない。


「マスター、今日もお風呂で背中流してね」


「はい喜んで!」


 (どっちが主人かわからん!)


 すっかりローラに篭絡されているマルオを見て藍大は心の中でシャウトした。


 ローラは”色欲の女王”のサクラから頻繁にアドバイスを貰っており、マルオのことをしっかりコントロールしている。


 これには藍大がそう思うのも当然と言えよう。


 とりあえず、メジェラはローラには敵わないと早々に恭順の意を示したことで争いは始まる前から決着した。


 次はハーマをフェルミラと融合させる番である。


「それじゃ、ハーマの方も融合します。【召喚サモン:フェルミラ】【召喚サモン:ハーマ】」


 藍大達の前にフェルミラとハーマが現れた。


「フェルミラとハーマ、融合させるぞ」


「「(コクコク)」」


 どちらも声帯がないので声を出せないから、フェルミラもハーマも頷いて了承の意思を示した。


「よろしい。【融合フュージョン:フェルミラ/ハーマ】」


 マルオが呪文を唱えたことで2体が光に包み込まれた。


 光の中でフェルミラとハーマのシルエットが重なり、3つの頭が1つの頭に統合されてドラゴンの頭だけが残る。


 堕天使をモチーフにした翼がドラゴンのそれへと変わり、骨同士の間に膜のような物体が張られる。


 フェルミラが着ていた法衣から骨の尻尾が見えていることから、完全に体のベースはハーマなのだろう。


 ハーマが装備していた剣と盾はフェルミラの杖に吸収され、錫杖へとその姿を変えた。


 光が収まると、灰色の法衣に身を包んだドラゴニュートの骸骨の姿があった。


「来た来た来た来た来たぁぁぁぁぁ!」


「マルオ、気持ちはわかるけど落ち着け」


 藍大ははしゃぐマルオに対し、ゲンの<強制眼フォースアイ>でほんの少しだけマルオにかかる下向きの力を強めておとなしくさせた。


「か、体が重くなった?」


「落ち着いたか」


「あっ、はい。あれ? 軽くなった。これも逢魔さんがやったんですか?」


「そんなところだ。落ち着いたのなら名前を付けてやれよ」


「そうでした。お前はドーラだ」


 (安直だな。いや、俺も他人のことを言えるセンスとは言わんけど)


 マルオのネーミングセンスにツッコみかけたが、藍大も自身がセンス抜群だと思っていないので何も言わずにモンスター図鑑でドーラについて調べ始めた。


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名前:ドーラ 種族:フォールンスパル

性別:雌 Lv:85

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HP:2,000/2,000

MP:2,600/2,600

STR:2,100

VIT:1,800

DEX:1,700

AGI:2,500

INT:2,500

LUK:1,600

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称号:武臣の従魔

   融合モンスター

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<紫雷波サンダーウェーブ><吹雪ブリザード><火炎乱射フレイムガトリング

      <竜巻刃トルネードエッジ><武器精通ウエポンマスタリー><降下刺突ダイブスタブ

      <集中コンセントレイト><全耐性レジストオール

装備:バリアブルスタッフ

備考:高揚

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 (バリアブルスタッフが地味にすごいな)


 藍大が注目したのはドーラが持つバリアブルスタッフだった。


 ドライザーやミオ、エルは武器を自由自在に創り出せるアビリティを会得しているが、ドーラのバリアブルスタッフはアビリティがそのまま形になったような物だった。


 そうは言っても限度があり、変形できるのは錫杖と剣、盾の3種類だけだ。


 なんでもかんでも好きな武器に変えることはできない。


 それでも戦う敵からすれば十分すぎる程厄介だろう。


「ドーラ、強くなったなぁ」


「(コクリ)」


 融合して自信に満ち溢れたドーラは力強く頷いた。


 しかし、それを見てローラが待ったをかけた。


「マスター、私とドーラで模擬戦したい。ドーラも戦ってみたくない?」


「(コクリ)」


「マジ? やっちゃう模擬戦?」


「融合に頼らなくても強い者は強いと教えてあげる」


「(フルフルニィィィ)」


 ローラは元々好戦的であり、ドーラも自分の力でどこまでやれるのか知りたくなって模擬戦を行うことになった。


「始め!」


「先手は譲ってあげる」


「(コクリ)」


 ドーラは先手を譲られたため、最初から<火炎乱射フレイムガトリング>でローラをガンガン攻めた。


「甘い」


 ローラは<血薔薇舞ブラッディーローズ>でそれら全てを切り捨てながらドーラと距離を詰める。


 ドーラはこの攻防だけで接近戦では敵わないと判断し、距離を取るべく上空に逃げた。


 逃げながら<吹雪ブリザード>を放つことで、ローラに近づけさせまいとする。


 ところが、AGIの高さではローラに軍配が上がるので<吹雪ブリザード>はローラがあっさりと躱してしまう。


「逃げるだけなの? それならがっかり」


 ローラの口撃にカチンと来たらしく、ドーラはぐるんと体の向きを回転させて<降下刺突ダイブスタブ>で攻めに出た。


 だが、それはローラの挑発にまんまと嵌まったことを意味する。


 ローラはするりとドーラの攻撃を避けて背後を取り、両手にそれぞれ持った剣の腹でドーラを殴りつけた。


 ドーラは地面に叩きつけられ、ローラは倒れているドーラに剣先を向けて止まった。


「そこまで。やっぱローラが一番強いな」


「ドヤァ」


 ローラがドヤってマルオがそれを褒めた。


 ドーラが悔しそうにしていたため、マルオはドーラのこともよく頑張ったと健闘を称えた。


「ローラもドーラも大したもんだ。これならよっぽどのことがなきゃ苦戦しないだろ」


「ありがとうございます!」


 藍大が模擬戦を見て評価すると、マルオは嬉しそうにお礼を言った。


 マルオの戦力アップは無事に終わったと言って問題ないだろう。

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