第371話 僕は男だ
翌日の土曜日の朝、司のパーティーと未亜パーティーは覚醒の丸薬Ⅱ型の素材を収集する組とシャングリラダンジョン地下9階に挑む組をじゃんけんで決めた。
今更覚醒の丸薬Ⅱ型の素材を集めるのに2パーティー合同である必要はなく、今後も板垣総理や潤が藍大に許可を取らずに勝手に話を進めないとも限らない。
それならば、収納袋に入れるかパンドラに保管してもらえば時間経過はないので今日だけで素材となるモンスターを狩れるだけ狩ってしまおうということだ。
地下9階に挑む組も三次覚醒してから2パーティー合同でしかダンジョンを探索しておらず、1パーティーだけでどれだけやれるのかを確かめる必要がある。
こうした理由からじゃんけんで勝った方が地下9階に行き、負けた方が覚醒の丸薬Ⅱ型の素材を手に入れるという役割分担が決まった。
じゃんけんの結果、司のパーティーが地下9階に挑戦して未亜のパーティーが覚醒の丸薬Ⅱ型の素材を集めることになった。
司は今、麗奈とマージ、ミオと共に地下9階に来ている。
地下9階の
今はトリニティワイバーンが良く出現する場所にいるが、司達は嵌め殺しに成功していた。
「ニャハハ、ミーにかかれば余裕なのニャ!」
ミオは<
後は司がヴォルカニックスピアを投げるか麗奈が気功弾を放つだけの簡単なお仕事だ。
マージはトライコーンと戦う時にアビリティを十全に使えるよう待機している。
「嵌め殺しって効率良いよね」
「そうね。トリニティワイバーンをこうも一方的に倒せるなんてすごいわ」
「ニャア。このパーティーはミーの出番が多くて働き甲斐があるのニャ」
「藍大のパーティーだと違った?」
「みんなガンガン倒すからミーの出番がないニャ」
「なるほど。それは否めない」
「みんな一騎当千だもんね」
「良いことなのはわかってるニャ。でも、ミーも”水聖獣”なんだし出番が欲しいと思うニャ」
ミオの悩みは贅沢なものだった。
一般的な冒険者には従魔がいないから、従魔が多くいてクランメンバーに貸し出しているなんて状況は恐らく”楽園の守り人”だけではなかろうか。
それはさておき、仕留めたトリニティワイバーンを回収して司達は先へと進む。
次に現れたのはトライコーンである。
司達を見つけたトライコーンの反応は大きく分けて2つだ。
1つ目は近づくとヤバいと察して遠距離から攻撃を仕掛ける。
2つ目は玉砕覚悟で突撃し始める。
基本的には1つ目の反応を示すが、稀に勝負を仕掛ける個体もいなくはない。
今回は後者だったらしい。
「ヒヒィィィン!」
「凍えたまえ」
マージは突撃するトライコーンに<
司がそれを収納袋にしまい込んでいると、後続のトライコーンが司達の姿を捕捉してから遠距離から攻撃し始めた。
「それっ」
「はっ!」
またしても司がヴォルカニックスピアを投げ、麗奈も気功弾を放ってトライコーンの攻撃を押し返してみせる。
司と麗奈だけで手が足りなければ、マージが<
「僕達だけでも
「そうね。問題はこの後でしょうけど」
「確かに」
「私達だけでアジ・ダハーカに勝てるかしら?」
司と麗奈はこのフロアの”掃除屋”であるアジ・ダハーカとの戦闘を心配していた。
地下9階に来てアジ・ダハーカと戦ったのは1回だけで、前回は様子を見るだけで終わってしまった。
今日は未亜のパーティーがいないので司と麗奈が心配するのも無理もない。
そんな2人にミオが声をかける。
「大丈夫ニャ。ミーが頑張ってサポートするニャ」
「後輩だけに任せてられないな」
マージもミオばかりに美味しいところを持っていかれたりはしないと話に加わり、司と麗奈を奮い立たせる。
「そうだね。僕と麗奈だけなら厳しくてもミオもマージもいるもんね」
「やれるだけやりましょ。駄目だったらその時に考えれば良いわ」
司達は気合を入れ直してアジ・ダハーカのいる場所に向かった。
アジ・ダハーカは司達を見てニヤリと笑った。
「おいおい見ろよ兄弟」
「ん? 女2人に猫1匹、鳥頭が1体か」
「美味そうな奴等だな」
「僕は男だ」
「は?」
「はぁ?」
「はぁぁぁぁぁ!?」
司の反論にアジ・ダハーカが驚きを隠せなかった。
その隙を狙ってミオが<
「ニャハッハァァァ!」
「「「あ゛あん?」」」
アジ・ダハーカは体を貫かれて苛立ち、ミオに反撃しようとして<
ダメージを受けたがそれは<
「ミーが守るニャ!」
ミオは<
ミオがここまでやってくれたのに司達が動かないなんてあり得ない。
アジ・ダハーカの攻撃が終わった途端、司と麗奈が左右に走り出してマージは空を飛んだ。
それにより、アジ・ダハーカのそれぞれの頭が司と麗奈、ミオをターゲットとする。
「私を無視するとはいけないな」
マージは自分が軽視されたことを不快に思い、空から<
「猫よりも鳥頭が鬱陶しい」
アジ・ダハーカの中央の頭の注意がミオからマージに移った。
その瞬間、ミオは再び<
「「あ゛!?」」
「兄弟!?」
左右の頭は突然中央の頭に腹が立ち、それぞれが<
「プークスクスニャ。馬鹿蜥蜴が自滅してるニャ~」
「今がチャンス!」
「ふんっ!」
「貫け」
ミオがアジ・ダハーカを煽っている間に司と麗奈、マージがダメージを稼ぐ。
「おのれぇ!」
「赦さん! 赦さんぞ!」
「俺達は蜥蜴なんかじゃねえ!」
アジ・ダハーカの全ての首が攻撃を与えた司達ではなくミオだけを見て<
「守るニャ!」
ミオは<
自分が時間を稼げば稼ぐ程、司達がアジ・ダハーカにダメージを与えてくれると信じてのことだ。
そこから先はずっと司達のペースだった。
司達がヘイトを稼げば、ミオが自分のヘイトをアジ・ダハーカのいずれかの首に押し付けて仲間割れさせる。
仲間割れすればミオがアジ・ダハーカを嘲笑う。
ミオがアジ・ダハーカから攻撃を防げば司達が一斉に攻撃を仕掛ける。
この繰り返しでアジ・ダハーカのHPもMPも減り続け、誰の目から見てもアジ・ダハーカを倒すまであと数回攻撃するだけというところまで来た。
「ミーも本格的に攻撃するニャ!」
今までアジ・ダハーカをおちょくることがメインだったミオだが、<
「凍えたまえ」
水に濡れたアジ・ダハーカを見て、マージは<
「どりゃぁぁぁぁぁ!」
麗奈は接近して凍えたアジ・ダハーカにラッシュを決める。
「とどめだよ」
そんな麗奈が後ろに飛ぶのを確認して、それと入れ替わりに司がヴォルカニックスピアを投擲する。
ヴォルカニックスピアが麗奈の攻撃で生じた罅の中心を的確に貫き、パリンと大きな音を立てて氷が割れてアジ・ダハーカの体も貫通した。
アジ・ダハーカのHPが0になってそのまま大きな音を立てて倒れた。
「やった! 勝ったぁ!」
「やったわ! チームワークの勝利よ!」
「ふむ。ナイスバトル」
「ニャア! ミーも活躍できたニャ!」
司達はアジ・ダハーカを1パーティーだけで倒せたことに喜んだ。
普段はおとなしい司もかなりテンションが上がっており、ミオの体を滅茶苦茶モフモフした。
「ニャ、ニャア・・・。司にいろんなところをモフラれてしまったのニャ」
「ごめん。ちょっと舞い上がっちゃって」
「司は可愛い顔して実は
「そこまで言う?」
「舞よりも激しかったのニャ」
「司、やり過ぎでしょ」
「ホントにごめん」
舞が可愛い物好きであることは司も麗奈も知っており、そんな舞が可愛い物を見てテンションが上がった時よりも激しかったと言われては司も反省しない訳にはいかない。
最後はちょっと締まらなかったが、自分達の実力を出し切ってアジ・ダハーカを倒した司達はこれ以上先に進まずその死体を回収してダンジョンを脱出した。
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