第367話 始まるよ! 春の藍大のパン祭り!

 翌日の金曜日、藍大達は朝から山梨県の神社ダンジョンにやって来た。


 昨日とメンバーは異なり、サクラが加わってリュカと優月、ユノが家で留守番している。


 優月とユノが3階に挑むのは危険だから留守番し、リュカは仲良しトリオと一緒に優月の面倒を見るために留守番する。


「主、倒したよ。はい、魔導書」


「サクラにかかれば瞬殺だな。ありがとう」


「フフン、もっと褒めて」


「愛い奴め」


 藍大達は2階のフロアボスであるドミニオンマトンの部屋から探索を再開し、昨日は留守番していたサクラがドミニオンマトンの実力を知るために戦った。


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を創り、あっさりと一刀両断したのだ。


 Lv60のドミニオンマトン程度ではサクラを相手に抵抗することもままならない。


 サクラがドミニオンマトンの魔導書を手渡して藍大に褒めてほしいと甘えれば、藍大はそのリクエストに応じた。


 今ここにいるメンバーはドミニオンマトンの魔石を必要としていなかったので、これはお土産にして3階へと進んだ。


 3階も1,2階と同じく神社の回廊の内装であり、先へと進む内に藍大達の前にこの階に来て初めての雑魚モブモンスターが現れた。


「急に人型じゃなくなったな」


「たくさん翼が生えた炎上車輪メカ?」


「何か細かい模様があるね」


『模様じゃないよ。あれ全部目だよ』


「「「目なの!?」」」


 リルが敵の模様を目だと断定したことにより、藍大と舞、サクラにもそれが目に見えて来た。


『痺れろ』


「無駄」


 そのモンスターの機械的な声が短く喋って全ての目が光った直後、サクラが藍大達よりも前に出る。


 サクラには一切の状態異常が通じないから、彼女は藍大達を守るために自分が盾になったのだ。


「サンキュー、サクラ。敵はオファニムフレームLv70。魔眼系アビリティを3つ持ってる。さっきのは<麻痺眼パラライズアイ>だ」


「近寄れねえなら投げるまでだ!」


 藍大の説明を聞いてすぐ、舞は光を付与したアダマントシールドをオファニムフレームに向かって全力で投げつけた。


 それによってオファニムフレームがバランスを崩す。


『吹っ飛べ!』


 リルは舞が作ってくれたチャンスを逃さず<風精霊砲シルフキャノン>でオファニムフレームを吹き飛ばした。


 舞とリルからそれぞれ強烈な一撃を受けてしまえば、オファニムフレームも再び宙に浮くことなく地面に倒れたままとなった。


「舞もリルもお疲れ。魔眼系アビリティが豊富なオファニムフレームの素材を使ったら、そのアビリティを引き継いだ装備が作れたりして」


「目がいっぱいの装備は気持ち悪いから嫌~」


『舞の盾はどう?』


「面白いけど舞はすぐ投げるから駄目でしょ?」


「敵に向けて構えるからありではないか? 無論、頑丈に作ることが前提だろうがな」


 舞はできるだろう装備のデザインがオファニムフレームの影響を受けると思い、目がたくさんついた装備を嫌がった。


 リルの意見にサクラが舞の戦闘スタイルから実現は難しいのではと意見し、ブラドは耐久性のある盾ならばなんとかなるのではとリルの意見を補足した。


「これもDMUの職人班に頑張ってもらうしかないか。どうせオファニムフレームは雑魚モブモンスターだからたくさん出て来るだろうし素材は潤沢になるさ」


 藍大は皆の意見を聞いた上でDMUの職人班に丸投げすることにした。


 当然、リルとブラドの意見を茂経由で伝えるつもりではあるが、ここであれこれ考えても実際に装備を作成するのは職人班なのだから藍大の割り切った考え方は妥当だと言える。


 オファニムフレームを回収した後、リルは進行方向の右側の壁に何かあるのを感じた。


『ご主人、あっちの壁の向こうに何かある。多分隠し通路じゃないかな』


「舞、出番だぞ」


「は~い。ぶっ壊してやるぜオラァ!」


 返事をする時まではゆるふわだったにもかかわらず、それ以降は戦闘モードになってミョルニルを振るって壁を壊した。


 雷光を纏わせずともダンジョンの壁を壊す舞の姿は初見じゃなくても衝撃的だ。


 仮にそのシーンを動画で撮影して公開すれば、再生回数はあっというまに人気ユー〇ューバーの動画のそれを超えてしまうだろう。


 そして、ありとあらゆる掲示板でその動画がネタとして使われ、舞の二つ名がとんでもないことになるのは容易に想像できる。


 もっとも、藍大は絶対にそんなことはしないのでそんな未来は来ないのだが。


 それはさておき、隠し通路を暴力的に発見した藍大達を待ち受けるようにオファニムフレームの姿があった。


「先手必勝である」


 ブラドが<憤怒ラース>でオファニムフレームに何もさせずに倒した。


 隠し通路を探し当てた冒険者を待ち侘びていたこの個体のことを思うと残念でならないが、現実は非情である。


 藍大達はそれから隠し通路でオファニムフレームに待ち伏せされず、そのまま宝箱のある場所まで辿り着いた。


「サクラ先生、出番です」


「主は何をお望み?」


「調理器具だよね!」


『調理器具が良いと思う!』


「調理器具一択である!」


 藍大が答えるよりも先に食いしん坊ズがサクラの質問に反応した。


 伝説の武器とか幻の秘薬とかそう言ったものは一切出て来ないあたり、食いしん坊ズは本当に食欲に忠実だ。


「新しい調理器具を頼む」


 藍大は食いしん坊ズ達の期待を裏切らず、優しく微笑んで調理器具を頼むと頷いた。


「任されました」


 サクラが宝箱を開けてみると、その中から出て来たのは木製の麺棒だった。


 リルはすぐにそれを鑑定してその結果を藍大達に告げた。


『ユグドラシルの麺棒だよ!』


「パンと麺、焼き菓子の生地作りに使えるじゃん。流石はサクラ!」


「ドヤァ」


「始まるよ! 春の藍大のパン祭り!」


『ご主人の手打ちうどんも捨てがたいよ!』


「ちょっと待つが良い。クッキー等の甘味もあるであろう」


 サクラが藍大に褒められている間、食いしん坊ズはこれから何を作ってもらおうかと既に考えていた。


 食いしん坊ズを正気に戻した後、藍大達はユグドラシルの麺棒と宝箱を回収して探索を再開した。


 元の通路を進むとオファニムフレーム達が不規則に現れて藍大達の探索を阻もうとするが、舞とサクラとリルが相手では時間稼ぎにもならなかった。


 オファニムフレーム達を倒して開けた場所までやって来ると、オファニムフレームとは違うメカメカしいモンスターが藍大達を待ち構えていた。


 そのモンスターは人とライオン、牛、鷲の4つの顔を持ち、広げられた一対と体を覆う一対の4枚の翼、四方に向いた4つの車輪を有しており、その体表には無数の眼が広がっている。


 藍大はそれを”掃除屋”だと判断してすぐにモンスター図鑑で鑑定した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ケルブフレーム

性別:なし Lv:80

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:2,100/2,100

STR:1,000

VIT:2,000

DEX:2,000

AGI:1,500

INT:2,500

LUK:1,800

-----------------------------------------

称号:”掃除屋”

アビリティ:<多重思考マルチタスク><猛毒眼ヴェノムアイ><重力眼グラビティアイ

      <爆轟眼デトネアイ><気絶眼スタンアイ

      <衝撃咆哮インパクトロア><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:警戒

-----------------------------------------



 (ケルブフレームは単純にオファニムフレームの上位互換だな)


 ケルブフレームのステータスを確認した結果、藍大はそのように判断した。


「ケルブフレームLv80。猛毒と重力、爆発、気絶の魔眼を重ね掛けできる”掃除屋”だ」


「主、制限なしで良いよね?」


「OK!」


「ありがと」


 サクラは藍大から許可を取り、すぐに<運命支配フェイトイズマイン>でエネルギーを圧縮してレーザーを放った。


 ケルブフレームが魔眼系アビリティを重ね掛けできると知り、手段を選んで戦っていては藍大が危険な目に遭ってしまうかもしれない。


 そう判断したサクラが<運命支配フェイトイズマイン>を使えば勝負は一瞬で決まった。


 ケルブフレームの4つの頭部がごっそり消えてしまい、残された部分が大きな音を立てて墜落した。


「助かったよサクラ。ありがとう」


「どういたしまして」


 サクラの危機管理能力が高く、トラブルなくケルブフレームを倒せたので藍大はサクラにお礼を言った。


 その後、ケルブフレームの解体を済ませてその魔石はサクラに与えられた。


 サクラが魔石を飲み込んだことでその肌が潤った。


『サクラのアビリティ:<透明多腕クリアアームズ>がアビリティ:<透明千手サウザンドアームズ>に上書きされました』


「遂に千本出せるようになったか」


「利便性が上がったね。本格的に攻撃にも使えるようになったみたいだし」


「そうだな。サクラが強くなって良かった」


「ありがとう、主」


 <透明多腕クリアアームズ>に比べて<透明千手サウザンドアームズ>は出せる腕の数が多く、その腕による攻撃にも威力が見込めるようになった。


 純粋なアビリティの強化と考えて良いだろう。


 藍大達はその事実を知ってご機嫌なままボス部屋を目指して進み始めた。

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