第365話 このお利口さんめ

 家族サービスの時間が終わり、ブラドがプリンシパリティドールの解体を済ませたらその魔石はユノに与えられた。


 ユノの体が大型犬並みに大きくなっただけでなく、<操気刃リモートエッジ>が<光円刃サークルエッジ>へと上書きされた。


 その変化を知った際に藍大はもう一つ重要なことに気が付いた。


「ユノ、また進化できるようになったんだな」


「キュイ!」


 前回の進化はユノの自己申告だったが、今回は藍大がモンスター図鑑で確認してLv30の表示と進化可能の文字に気づいた。


 藍大の指摘にユノはそうだと力強く頷いた。


「ゆの」


「キュイ」


「よしよし」


「キュ~♪」


 優月がユノと見つめ合ってからその頭を撫でた直後、ユノの体が光に包まれた。


「優月ってば普通に進化させるもんなぁ」


「あい」


「このお利口さんめ」


「あい!」


 まだ1歳にも満たないのにLv30の従魔がいるなんて優月は末恐ろしい。


 光の中でユノのシルエットが大きくなり、大型犬サイズから軽トラックサイズへと成長した。


 さらに言えば、デフォルメされたドラゴンだった前の姿に対して今回はスリムで美しい緑の目をした白竜になっていた。


「キュル!」


 鈴を転がすような声で鳴くユノに対し、藍大はモンスター図鑑で進化前との違いを調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:ユノ 種族:ホワイトドラゴン

性別:雌 Lv:30

-----------------------------------------

HP:400/400

MP:600/600

STR:400

VIT:400

DEX:400

AGI:400

INT:400

LUK:400

-----------------------------------------

称号:優月の騎竜

   希少種

   掃除屋殺し

アビリティ:<光円刃サークルエッジ><中級回復ミドルヒール

      <魔力盾マジックシールド><収縮シュリンク

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 (待って。ちょっと待って。お願いだから待って)


 ユノのステータスを確認して藍大は心の中で待ったをかけた。


 進化前のユノのステータスと比べ、進化したことによって称号とアビリティ欄に変化があった。


 まずは称号だが、進化前は”乙女脳”があったのに進化後にはそれが”優月の従魔”と統合されて”優月の騎竜”に変化した。


 騎竜とは竜騎士が自身の従魔の中で最も信頼するドラゴン型の従魔であり、主が騎乗して一緒に戦うと全能力値が1.5倍になる。


 そんな効果がポンポン発動することはなく、竜騎士に騎竜は1体だけしか認められない。


 その他はただの従魔で率いるだけだ。


 つまり、ユノは優月の従魔の中でこの先ずっと一番ということになる。


 藍大が驚いたのはそこだけではない。


 過去にリルが会得したようにユノも<収縮シュリンク>を会得している。


 これは体が大きいと優月の傍にいられないと思い、優月の傍にいたいユノの願いがアビリティとして現れたに違いない。


 藍大も従魔誑しならば優月もまた従魔誑しなのだろう。


「ユノはずっと優月の傍にいたい訳だ」


「キュルン♪」


 藍大の言葉にその通りと頷き、ユノの体が小型犬サイズのデフォルメされた見た目に変化した。


『僕と同じだね』


「キュルッ」


「ういやつめ」


「キュル~ン♪」


 ユノはリルの言葉に短く頷く時はキリッとしていたが、優月に撫でられて嬉しそうに鳴いた。


 ユノの進化が終わると、藍大達はまだ時間に余裕があったので2階に進むことにした。


 2階に移動した藍大達を待ち構えていたのは十字架の大剣を装備した天使の人形だった。


 そのマネキンは1階で現れたマネキンとは違い、メタルカラーの人形だった。


「パワーマトンLv40。今のユノじゃちょっと厳しそうだな」


「キュル・・・」


「ユノよ、そう落ち込むでないぞ」


「キュル?」


「吾輩達の戦いを見て学ぶのも成長に繋がるはずだ。あらゆる物事を自分の糧にできるのが一流のドラゴンである。ユノもそうなりたいであろう?」


「キュル!」


 ブラドに説得されてユノはここからの戦闘では見学することにした。


「私がやる!」


「OK。リュカに任せる」


「うん!」


 獣人幼女形態のリュカが立候補したため、パワーマトンの相手はリュカが務めることになった。


 パワーマトンは前に出て来たリュカに向かって<怪力斬撃パワースラッシュ>を放った。


「甘い!」


 リュカはその斬撃を<剛脚月牙グレートクレセント>で撃ち破ってそのままパワーマトンを真っ二つにした。


 Lv100のリュカのSTRがパワーマトンLv40のSTRに負けるはずがなく、リュカが蹴りから発生させた巨大な斬撃が<怪力斬撃パワースラッシュ>ごとパワーマトンを切断したのだ。


「ユノよ、今の戦いで学ぶべきはなんだと思う?」


「キュル?」


「間違っちゃいないが言いたいことは別にあるぞ。吾輩が学ぶべきだと思ったのはMPの節約だ」


「キュッキュル?」


「そうだ。リュカは他にもっと威力の高いアビリティを使えるが、パワーマトン程度の雑魚モブにそんなアビリティを使うのはMPの無駄である。消費MPを節約することでより長く戦える。つまり、ユノがこれを学べば優月の傍で少しでも長く戦えるのだ。わかるか?」


「キュルッ」


 ブラドによる指導はユノにとって参考になる内容のようだ。


 ユノは優月の傍で少しでも長く戦えると聞き、今後戦う時はMPの消費も考慮して戦おうと学びを活かす姿勢を見せた。


 その後、パワーマトンの死体を回収して先に進むもしばらくはパワーマトンばかり現れた。


 リュカがその都度一撃で片付け、1対多数でもあっさりと倒すから探索はサクサクと進んだ。


 藍大達がパワーマトンに飽きて来た頃、全身から発光するメタリックカラーの天使人形が現れた。


「ヴァーチャーマトンLv50。”掃除屋”で攻撃は肉弾戦メインだ」


「ワンパンで倒す!」


 リュカはヴァーチャーマトンとの距離を詰め、ヴァーチャーマトンが掴みかかろうとするのをスッと避けて<深淵拳アビスフィスト>をクリティカルヒットさせた。


 ヴァーチャーマトンは吹き飛ばされたまま動かなくなり、あっけなく決着がついた。


「キュル!」


「時には格の違いを見せつけるために思いきり攻撃するのもありである」


 ユノはさっきまでと全然違うじゃないかと訴えたが、ブラドはそれに対して冷静に説明した。


「キュルン?」


「舐められたままだと敵が来て鬱陶しいであろう? そういう時の抑止力になるのだ」


「キュル」


 そういうものなのかと首を傾げたものの、ブラドの説明を聞いてユノは納得したようだ。


 倒れたヴァーチャーマトンは光を失っており、解体して取り出した魔石はユノに与えられた。


 ヴァーチャーマトンを倒したのはリュカだけれど、その魔石ではリュカには物足りなかったからユノにあげることになったのである。


 ユノは魔石を食べたことによって会得していた<中級回復ミドルヒール>が<上級回復ハイヒール>に上書きされた。


 それから先、藍大達はパワーマトンに遭遇することなくボス部屋に到着した。


 ボス部屋には辞典のように分厚い本を持つメタリックカラーの天使人形が待ち構えていた。


「ドミニオンマトンLv60。魔法系アビリティが得意らしい」


「ふむ。そろそろ吾輩も運動したくなってきた。主君、吾輩が戦っても良いか?」


「良いぞ。あの本は杖の代わりになる魔導書っぽいから壊さないでくれ」


「任せるが良い。本だけ無事に回収してみせよう」


 ブラドはリュカやユノが戦っていたのを見て自分も戦いたくなったため、藍大に許可を貰ってドミニオンマトンと戦うことにした。


 藍大はドミニオンマトンの装備する本が珍しい武器だったので、それだけは壊さないでほしいと注文してブラドはノータイムで了承した。


 ドミニオンマトンが<竜巻刃トルネードエッジ>を発動したが、ブラドは焦ることなくニヤリと笑って対処した。


「無駄である」


 後出しした<緋炎刃スカーレットエッジ>で<竜巻刃トルネードエッジ>を霧のように散らし、依然として勢いをキープした<緋炎刃スカーレットエッジ>がドミニオンマトンの右翼を切断した。


 右翼だけ切断されたことで体のバランスがおかしくなり、ドミニオンマトンが地面に落下する。


 その隙を逃すブラドではないから、素早く接近してドミニオンマトンの脳天に<剛力尾鞭メガトンテイル>を放った。


 ブラドの追撃でドミニオンマトンの体はひしゃげてピクリとも動かなくなった。


「ふむ。脆いな。主君、任務完了だ」


 ブラドはドミニオンマトンの魔導書を持ち帰り、藍大にそれを差し出した。


「流石はブラド。良い手際だな」


「そうであろう、そうであろう」


 藍大に褒められてブラドは得意気に胸を張った。


 ドミニオンマトンを解体した後、その魔石は再びユノに与えられた。


 今度は<魔力壁マジックウォール>が<魔力半球マジックドーム>に上書きされる結果となった。


「キュル!」


「良いのだ。ユノが強くなればその分優月が安全になる。その投資だと思え」


「キュルン!」


 ユノはブラドにお礼を言い、ブラドは言外にもっと強くなれるよう励めと伝えた。


 2階を踏破した頃には正午が近づいてきたため、今日の探索はここまでとして藍大達はシャングリラへと帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る