第364話 なんで逃げようとするの~? 女神のハグだよ~?

 楠葉と花梨を地下神域に案内した後、藍大は舞とリル、ゲン、リュカ、ブラド、優月、ユノを連れて楠葉達の集落にあるダンジョンにやって来た。


 サクラは蘭が一緒にいたいのか無言で抱き着いて離さなかったので留守番である。


 優月とユノを連れて来たのはユノのレベルアップのためであり、ブラドはユノの通訳と優月の護衛、ダンジョンを支配する時があった時に備えて同行している。


 リュカはリルと一緒に行動したそうにしていたから、藍大が連れて来た。


 リルと一緒にいられてリュカはとてもご機嫌な様子だ。


 藍大達はダンジョン化した神社の中へと足を踏み入れた。


「内装は神社の中のままなんだな」


「外見は神社で中身が教会だったらびっくりするよ?」


「それもそうだな。でも、現れたのがバリバリ西洋かぶれなんだが」


 藍大がそう言って指差した先にいたのは天使の姿をしたマネキンだった。


 半身になって弓矢で攻撃しようとしているようだ。


「エンジェルドールLv20。ユノが戦える程度の敵だ」


「キュ!」


「主君よ、ユノがここは任せろと言っておるぞ」


 藍大の戦力分析を聞いてユノは戦う気になったらしい。


「わかった。ユノ、頼むぞ」


「キュイ!」


 ユノは力強く鳴いて応じた後、<操気刃リモートエッジ>でエンジェルドールの放った矢を切り落としてからエンジェルドールを真っ二つにした。


「キュッキュッキュ」


 エンジェルドールを倒したユノはドヤ顔を披露して笑っていた。


「ゆの!」


「キュイ!」


「ういやつめ」


「キュ~♪」


 優月に褒められてユノはとても嬉しそうにしていた。


 その後、エンジェルドールの死体を回収してから先に進んでみれば通路の向こうからエンジェルドールの集団がやって来た。


 どうやら先程のエンジェルドールは斥候だったらしく、それが戻って来ないのでまとまった数で敵を倒しに来たらしい。


「ゆの!」


「キュイ~」


 エンジェルドール程度ならば数が増えてもどうってことなかったため、ユノがあっさりと<操気刃リモートエッジ>で殲滅した。


「すごいよ優月! ユノも偉い!」


「ふふん!」


「キュキュイ!」


 舞が藍大に抱っこされる優月と近くをパタパタと飛んでいるユノの頭を撫でた。


 我が子とそのパートナーが着々と強くなっていることを喜んでいるのだ。


 (信じられるか? 優月ってまだ生後11ヶ月なんだぜ?)


 藍大は舞と同じく優月とユノの成長を喜んでいるが、舞のようにあるがままを受け入れるのではなく優月が生後11ヶ月であることに戦慄していた。


 生後11ヶ月で戦闘ランクがDランクの優月を末恐ろしく思うのは当然のことだろう。


 それからもエンジェルドールが現れてはユノが倒し、エンジェルドールを倒し過ぎた結果として”掃除屋”らしきマネキンのモンスターが現れた。


 それはエンジェルドールよりも翼が大きく、武器も弓矢ではなく片手剣と盾だった。


「アークエンジェルドールLv25。”掃除屋”だ。まだユノがなんとかできる範囲だがどうする?」


「キュキュッ」


「主君よ、翻訳の必要はないな?」


「そうだな。ユノ、気楽にやってみろ。何かあったら助けてあげるから」


「キュイ」


 ユノは藍大達にペコリと頭を下げてからアークエンジェルドールと戦い始めた。


 アークエンジェルドールは<斬撃スラッシュ>と<突撃刺突ブリッツスタブ>、<盾突撃シールドブリッツ>でユノを攻撃する。


 しかし、ユノは<操気刃リモートエッジ>と<魔力盾マジックシールド>を駆使してそれらをきっちり捌いてみせた。


「ユノちゃん、そこ!」


『翼を攻撃して機動力を潰して!』


「遠距離から急に懐に潜り込んで怯ませちゃえ!」


 舞とリル、リュカのアドバイスを受けてユノは覚悟を決めてアークエンジェルドールに急接近する。


「キュ!」


 間合いが急に変わって戸惑ったアークエンジェルドールに対し、ユノ<操気刃リモートエッジ>でその両翼を斬り落とした。


 翼がなければアークエンジェルドールなんて歩兵と大差ない。


 ユノは<魔力盾マジックシールド>を自分の正面に発動し、そのままアークエンジェルドールに突撃してシールドバッシュ擬きを喰らわせた。


 それがとどめになったらしく、アークエンジェルドールはピクリとも動かなくなった。


「すごいよユノちゃん! ナイスシールドバッシュ!」


「盾を攻撃に使うあたり、ユノは舞の戦い方もきっちり学んでるな」


「フフン、自慢の娘だよ」


「キュイ~♪」


 舞に自慢の娘と言われてユノはご機嫌だった。


 舞に娘認定されるということは優月の嫁認定されたのと同義だからだ。


 わざわざ口にせずともユノは優月の許嫁みたいなものだが、改めて口にしてもらえた方がユノとしてはテンションが上がるみたいだ。


 ブラドが<解体デモリッション>でアークエンジェルドールを解体すると、藍大はユノにその魔石を与えた。


 ユノの体が少しだけ大きくなり、ユノの<魔力盾マジックシールド>が<魔力壁マジックウォール>に上書きされた。


「キュ~」


「よしよし」


 ユノが甘えれば優月は藍大の真似をしてユノを甘やかす。


 これもかなり見慣れた光景になっている。


 その間に舞とリルがバラバラになったアークエンジェルドールを回収し、藍大達はフロアボスのいるボス部屋を目指して探索を再開した。


 アークエンジェルドールを倒した今、エンジェルドールがいくら現れてもユノの敵ではない。


 サクサクと倒して藍大達はボス部屋に到着した。


『開けるよ~』


「頼んだ」


 リルの<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けてその中に入ると、背中から翼の生えた自由の女神が藍大達を待ち構えていた。


 自由の女神と違うのは持っているのが松明ではなく戦槌ウォーハンマーであることだろうか。


 それともう1つ気になることがあるとすれば・・・。


「なんというかあれだな。あのモンスターは騎士の奥方に似てるな」


「ブラド~、それはどういう意味かな? かな?」


「め、女神のように美しいということである!」


「本当かな~?」


「本当である!」


「それならお礼しないとね~」


「助けてほしいのだ主君!」


「なんで逃げようとするの~? 女神のハグだよ~?」


 ブラドが言った通り、フロアボスはどことなく舞に似ている雰囲気があった。


 うっかり思ったことを口にして舞に抱き着かれるブラドはいつも通りというか学習していないと言わざるを得ない。


 その一方、藍大はフロアボスの鑑定を含めてじっくりとチェックしてから口を開いた。


「ブラド、違うだろ。プリンシパリティドールよりも舞の方が美人だ」


「エヘヘ。藍大大好き~♪」


「た、助かったのだ・・・」


 舞はブラドを解放して藍大を抱き締めた。


 フロアボスを前にしてそんなことしていても良いのかと思うかもしれないが、敵の正体がプリンシパリティドールLv30とリュカがワンパンで倒せる強さだからこそこうしていられる。


 プリンシパリティドールは自分の守護する部屋への侵入者がマイペースに振舞うから困惑していた。


 侵入した者達の大半が自分よりも遥かに強ければ困惑するのは無理もないことだ。


 それでも自分よりも弱そうな優月を見つけ、プリンシパリティドールは戦槌ウォーハンマーを振りかぶって突撃した。


「キュイ」


 プリンシパリティドールが優月を狙って一直線に突っ込んで来たと知り、ユノはムッとした表情で<魔力壁マジックウォール>をプリンシパリティドールの正面に発動する。


 その結果、プリンシパリティドールは顔面から<魔力壁マジックウォール>に激突してダメージを負った。


「キュキュッ」


 全力で壁にぶつかったことで俯せに倒れたプリンシパリティドールに対し、ユノは容赦なく<操気刃リモートエッジ>でその翼を切断した。


 さらに、起き上がろうとしたプリンシパリティドールの頭上に<魔力壁マジックウォール>を地面に対して水平に展開して再び頭をぶつけさせる。


 思い切り頭をぶつけて地面に倒れたプリンシパリティドールを見て、ユノは無言で<操気刃リモートエッジ>を操りめった刺しにした。


 優月を狙う敵は許すまじという気迫をひしひしと感じる瞬間だった。


 (ユノ、嵌め殺しを覚えるだなんて恐ろしい子・・・)


「ふむ、良い判断だったぞ。レベルだけならば負けている相手に見事完封したのだからな」


「キュイ!」


 藍大が戦慄している間にブラドはユノによくやったと労いの言葉をかけた。


「ゆの!」


「キュキュ♪」


 ブラドに褒められるのも嬉しいが、やはり主の優月に褒められる方がもっと嬉しいのは当たり前だ。


 ユノは優月に頬擦りして甘え、優月は小さいその手でユノを撫でて労った。


 その様子を見て羨ましくなったのかリルが藍大の前に座った。


「よしよし。愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


「私も~」


「私も撫でてほしい」


「吾輩を忘れては困るぞ」


 気が付けば舞とリュカ、ブラドまでその後ろに並ぶものだから藍大はプリンシパリティドールの解体の前に家族サービスの時間を取った。

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