第360話 舞が神に並んだことが証明されたか

 解体したクエレブレをしまった後、その魔石はリルに与えられた。


 リルから感じられる力が強まった直後に伊邪那美の声が藍大の耳に届いた。


『リルのアビリティ:<翠嵐砲テンペストキャノン>がアビリティ:<風精霊砲シルフキャノン>に上書きされました』


「リルってばまた強くなったなぁ」


『ワッフン♪』


 リルの<風精霊砲シルフキャノン>は<翠嵐砲テンペストキャノン>と違って無色透明かつ威力が上がった。


 攻撃が見えないと言うだけでも厄介なのに、<翠嵐砲テンペストキャノン>よりも威力が上なのは戦う相手からすれば厄介でしかない。


 目で見て躱せるかもしれない攻撃が目で見てわからぬ攻撃になったのだから当然だろう。


「リル君良かったね」


『うん! ・・・あれ?』


「どうしたの?」


『ご主人、あっちの壁の向こうに何かあるよ』


 舞と話をしていたリルは自分達の視界の先の壁の向こうに何かがあることに気づいた。


「隠し部屋か。舞、出番だ」


「は~い。ぶっ壊す! Yeah!」


 一瞬で舞が普段のゆるふわモードから戦闘モードに切り替わり、雷光を纏わせたミョルニル=レプリカをフルスイングした。


 その結果、壊した壁の奥に隠し通路があったことがわかった。


「くっ、最近隠し部屋を用意してないから気づかぬと思ったのに・・・」


『ワフン、甘いよブラド。この程度じゃ僕の目と鼻を欺けないよ』


「ぐぬぬ」


 リルはドヤ顔になってブラドは悔しがった。


「壊したよ~」


「サンキュー舞。リルもありがとな」


「どういたしまして。お礼は美味しい料理でよろしくね」


『僕もそれでよろしく!』


「よろしい、ならばクエレブレ料理で満足させてやろう」


「『わ~い』」


「そうだ、隠し部屋を見抜かれたって吾輩には主君の料理がある。元気を出すのだ」


「そうだな。美味いもん食べて元気出そうぜ」


「うむ」


 ブラドも昼食がクエレブレ料理と聞いて元気を取り戻したので、藍大達は舞とリルが見つけた隠し通路を進んだ。


 その先に会ったのは以前見たことのある祠だった。


『ご主人、武の祠だよ』


「やっぱりか。どっかで見たことあると思ったんだ」


 リルが<大賢者マーリン>で鑑定したことにより、その祠が武の祠だと明らかになった。


 この祠の中に武器を奉納すると、奉納した武器が経験した戦闘と持ち主の適性を考慮した武器と交換される効果がある。


 冒険者垂涎のアイテムなのは間違いないが、持ち運びができない上に一度使ったら消滅するという制限があるので極めてレアな物だと言えよう。


「舞、ミョルニル=レプリカを入れてみないか? きっと今の舞なら本物かそれに並ぶ武器が手に入ると思うんだ」


「本当? 藍大がそう言うなら入れてみる~」


 舞は藍大の言葉を聞いてその気になり、武の祠にミョルニル=レプリカを奉納した。


 武の祠が神聖な力を感じる光に包み込まれ、光が収まると見た目はレプリカと同じで黒銀のボディに紫色の樹形図のような分岐線が入ったヘッドに黒いグリップの戦槌ウォーハンマーだけが残った。


 しかし、そこから感じられる力はレプリカだった頃とは比べ物にならなかった。


『僕が鑑定してあげるね』


 リルがそう言って戦槌ウォーハンマーを鑑定した結果、嬉しそうに尻尾を振り始めた。


『すごい! ご主人の言う通りミョルニルだったよ!』


「舞が神に並んだことが証明されたか」


「えっへん! 控えろ~!」


「『はは~』」


「主君もリルも何をやってるのだ?」


「舞がノリノリだからそれに乗ってあげてるんじゃない?」


「なるほど」


 ご機嫌な舞のノリに合わせる藍大とリルを見て、ブラドが首を傾げたがサクラの説明で納得した。


 それはさておき、ミョルニルの効果は5つある。


 1つ目はミョルニルに雷を付与できること。


 2つ目は伸縮自在に大きさを変えられること。


 3つ目は投げても手元に戻って来ること。


 4つ目は破壊不能であること。


 5つ目は使用者が死ぬまで変わらず、今は舞専用であること。


 流石は神器という逸品だった。


「騎士の奥方に持たせてはいけない武器ではないか。人類どころかモンスターも泣いて逃げ出すぞ」


「ブラド~、ハグしちゃうよ?」


「なんでもないのだ! これこそ騎士の奥方に相応しい武器だな! 騎士の奥方のためにあると言って良いぞ!」


「ありがと~。お礼にハグしてあげるね~」


「なん・・・だと・・・」


 舞が満足するまでハグされるのは嫌だったらしく、ブラドは先程の発言を撤回して舞に胡麻を擂った。


 プライドはどうしたとツッコみたくなるぐらい言っていることが正反対である。


 もっとも、結局ブラドは舞にハグされてしまったのだが。


 ブラドをハグした後、舞はミョルニルを試したくなって隠し通路を出てからその近くの壁を殴ってみた。


「オラァ!」


「マジか・・・」


「雷も光も付与してない・・・」


『舞すご~い』


『・・・ヤバい』


「吾輩、武の祠を設置したのは過ちだったかもしれん」


 舞は素のSTRだけでダンジョンの壁を壊してしまった。


 ミョルニルの破壊不能という効果のおかげなのは間違いないが、雷光でコーティングせずともダンジョンの壁を壊す舞に藍大達が驚くのは無理もない。


 普段は沈黙を守るゲンですら今の舞には黙っていられないようだ。


「舞、ミョルニルでなんでもかんでも殴っちゃ駄目だぞ?」


「うん。私も驚いてるから大丈夫。これを持って暴れたりしないよ」


「よしよし」


「エヘヘ♪」


 藍大は舞の頭を撫でながら自分がしっかりと舞の手綱を握ろうと改めて決意した。


 舞もミョルニルのすごさを理解したため、暴走しない限りは自重するつもりである。


 それから藍大達はボス部屋まで一直線に進み、その扉をリルに開けてもらって中に入った。


 部屋の中で藍大達を待ち構えていたのは7つの蛇の頭に14の顔、6対の翼を持った異形の存在だった。


「「「・・・「「サイコロカットしてやる!」」・・・」」」


 異形の存在はサクラに憎悪の視線を向け、<千風刃サウザンド>を重ね掛けしてサクラを集中攻撃した。


「無駄」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で同じ数だけ深淵の刃を用意し、敵の攻撃をあっさりと相殺してみせた。


 その攻防の間に藍大は敵の正体を調べ終えていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アザゼル

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:3,500/4,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,500

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:地下11階フロアボス

   大罪を奪われし者

   到達者

   歩く魔導書

アビリティ:<多重思考マルチタスク><千風刃サウザンドエッジ><暗黒隕石ダークネスメテオ

      <爆轟牢デトネジェイル><大波タイダルウェーブ><落拳雷フィストライトニング

      <魅了変身チャームメタモル><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:憎悪

-----------------------------------------



 (元色欲の王だったりしちゃうかな?)


 藍大がそのように思ったのは<魅了変身チャームメタモル>と”大罪を奪われし者”の称号がアザゼルのステータスにあったからだ。


 それに加え、サクラに対して剥き出しの憎悪の表情も、その推測を補うには十分なものだった。


「アザゼルLv100。元”色欲の王”で敵を魅了する姿に変身できる。5属性の魔法系アビリティを使うから注意してくれ」


 藍大が簡潔にアザゼルの強さをまとめると、アザゼルはニヤリと悪意に満ちた笑みを浮かべてから<魅了変身チャームメタモル>を発動した。


 アザゼルは7つの蛇の頭に14の顔、6対の翼を持った異形の見た目から藍大そっくりに化けた。


 だが、それは悪手だった。


 愛する藍大に化けられた不快感により、サクラがマジギレしたからである。


「主に化けたこと、万死に値する!」


 サクラが藍大に許可を取ることなく<運命支配フェイトイズマイン>を発動して高密度のエネルギーをレーザーのように射出してその胴体に風穴を開けた。


 ちなみに、藍大に化けたアザゼルをサクラ以外のメンバーも不快に思っており、サクラの攻撃があと少しでも遅ければそれぞれが全力の攻撃をぶちかましていただろう。


「「「・・・「「ば、馬鹿な・・・」」・・・」」」


 HPが一気に削り取られたことにより、アザゼルは力尽きて強制的に元の姿に戻された。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが一世代前も含めて七つの大罪を全て倒しました』


『特典としてシャングリラ102号室に地下室が増設されます』


 (地下室増設ってどゆこと?)


 予想外のプレゼントに藍大が首を傾げたのは当然のことだった。

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