第359話 あんまり意地悪するとハグしちゃうよ?

 翌日の水曜日、藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、ブラドを連れてシャングリラダンジョンの地下11階にやって来た。


 昨日は覚醒の丸薬の販売の後、パンドラとリュカを連れてシャングリラダンジョンを探索したが、今日はブラドが新しく用意した地下11階に挑むために今戦える最強メンバーだけ同行させている。


 さらに言えば、DMU職人班がラードーン素材を用いて作成したラドンシリーズが今朝藍大達の手元に届いたため、それを早速使っている。


 ラドンシリーズは藍大のラドンローブと舞のラドンスケイルの2つであり、共通してそれらは紅い。


 元々のラードーンの鱗は赤かったのだが、防具製作の過程で赤から紅へと変わってしまったらしい。


 ラドンシリーズは常時発動する効果として、着用者へのあらゆる攻撃の半減と着用者の疲労減少が特徴となる。


 ちなみに、ゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使うとラドンローブは藍色に染まるから、藍大に関して言えば防具を更新しても舞と比べて防具を変えたと一目で気づいてもらえない可能性もないとは言えない。


「地下11階は屋内か。これは洋館で良いのか?」


「違うぞ主君。城なのだ」


「城? へぇ、これが城の内部なのか。入ったことないからわからんかった」


「私も~。装飾が派手だなって思ったぐらいだよ~」


「驚かし甲斐がなくて残念だ」


「ゴルゴンやメロ、ゼルだったらテレビ好きだから見たことあるかも。ふ〇ぎ発見も欠かさず見てるし」


「なるほど。では主君よ、内装の写真を撮って後で見せるのだぞ。吾輩、驚いてもらいたくて頑張ったから感動するリアクション不足で不完全燃焼である」


「わかった」


 ダンジョンに階を増やす際に”アークダンジョンマスター”の称号に恥じない内装を用意したが、それに対する藍大と舞のリアクションが薄くてブラドはしょんぼりしていた。


 それゆえ、藍大も悪いことをしたと思って写真をいつもよりも気持ち多めに撮るようにしようと心に決めた。


 藍大達が通路を進んで行くと、黒い靄が猛スピードでジグザグしながら向かって来た。


「キャスパリーグLv95。珍味らしい」


「おとなしくしやがれ!」


 舞はアダマントシールドに光を付与して投擲した。


 キャスパリーグはジグザグに進んでいたが、舞が切り返すタイミングに命中するように投げた盾がぶつかり、全身黒い体で怪しい緑色の目をした大型猫は壁に吹っ飛んだ。


『珍味!』


 リルが<蒼雷罰パニッシュメント>でとどめを刺し、キャスパリーグは力尽きて動かなくなった。


「吾輩も働くぞ」


 ブラドは<解体デモリッション>でキャスパリーグの体を手早く解体バラし、藍大が解体されたそれらを収納リュックにしまった。


 舞とリル、ブラドを労った後、藍大は苦笑いしながら気づいたことを口にした。


雑魚モブがLv95って普通に考えたらヤバいな」


「大丈夫。私達がいるから主は大船に乗ったつもりでいて」


「それもそっか。頼りにしてるぞ」


「うん」


『次の敵が来たよ。キャスパリーグじゃないみたい』


 藍大とサクラが話していると、リルが次の雑魚モブモンスターの接近に気づいた。


 そのモンスターは首が落ちていないデュラハンと表現できる外見だった。


 ただし、それぞれの手で大剣を持っているので別種なのは間違いない。


「今度はリビングパラディンLv95。暗黒機動甲冑みたいな感じだ」


「次は私のターン」


 それだけ言ってサクラが<透明多腕クリアアームズ>を発動する。


 自分の手と手をパンと音を立てて合わせた直後、リビングパラディンが両サイドから無数の透明な腕に押し込まれて縦長のスクラップになってしまった。


「ドヤァ」


「よしよし。サクラは流石だな」


「エヘヘ♪」


 サクラは基本的に<深淵支配アビスイズマイン>を使って敵を攻撃する。


 しかし、敵がリビングパラディン1体ならば全然余裕があるので、敢えて<透明多腕クリアアームズ>で倒してみせたのだ。


 これにはブラドが頬を膨らませた。


「むぅ、やりおる」


「ブラド、Lv95でも雑魚モブ雑魚モブだよ」


「ぐぬぬ・・・。だが、”掃除屋”はそう簡単にはいかぬぞ」


 サクラが取るに足らないと言わんばかりの態度を示せばブラドはとても悔しがった。


 その後、キャスパリーグとリビングパラディンが単体ではなく集団で現れたり、リビングパラディンがキャスパリーグに騎乗して現れたりしたが、舞達があっさりと倒してしまった。


「あれ、扉? もうボスなのか?」


「主君、これは”掃除屋”の部屋なのだ。この階は”掃除屋”にも部屋を与えてるのでな」


「ブラド~、質問」


「なんであるか、騎士の奥方?」


「このフロアの”掃除屋”は食べられる?」


「倒し方に気を付けられれば食べられるぞ」


「・・・普通に倒しちゃ駄目なの?」


「そこはネタバレになるから言えないのだ」


「あんまり意地悪するとハグしちゃうよ?」


「主君が調べてくれるからそれは止めてくれ!」


 ブラドは舞にジト目を向けられてブルリと震え、後は任せたと藍大に丸投げした。


 やれやれと思いつつ、藍大は自分の後ろに隠れるブラドの頭を撫でてやった。


 部屋の中に入ると、藍大達を待ち受けていたのは翼の生えた巨大な紫色のカメレオンだった。


 藍大はすぐにモンスター図鑑を視界に展開して敵の正体を調ベ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:クエレブレ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,500/3,500

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   到達者

アビリティ:<隕石雨メテオレイン><猛毒吐息ヴェノムブレス><鳴音砲ハウルキャノン

      <剛力舌鞭メガトンタン><剛力尾鞭メガトンテイル><猛毒霧ヴェノムミスト

      <無音移動サイレントムーブ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:興味

-----------------------------------------



 クエレブレはスペインの伝承にあるドラゴンだ。


 見た目がカメレオンに似ているのは伝承と違うが、毒を使うわ隠密系アビリティもあるわで全く油断できないモンスターである。


 (俺の方を凝視してるのはなんでだ? 備考欄にも興味ってあるし)


 クエレブレは藍大の何かに興味を示しているようだった。


 そこでピンと来たのがドラゴンは光り物が好きという言い伝えだ。


 もしやと思って藍大がアダマントウォッチを着けた腕を振ってみると、クエレブレはそれを目で追っていた。


「クエレブレLv100。猛毒と隠密系アビリティ、舌と尻尾を使う。光り物が好きで俺の時計を狙ってる。HPが2割を下回ると、奴の体内にある毒袋の毒が体中に広がるからダメージを与えるなら一気にやるしかない」


「ゲェエェェェ!」


 藍大がクエレブレについて伝えた直後、クエレブレが藍大を狙って<剛力舌鞭メガトンタン>を放つ。


「やらせねえ!」


 舞がカバーリングで藍大の前に割り込み、光のドームを五重に展開した。


 3つのドームが一瞬で壊され、4つ目のドームは全体にピキピキと罅が生じてから壊された。


 5つ目のドームに届く前に<剛力舌鞭メガトンタン>は止まったが、藍大達はドームが全部割れるのではないかとヒヤヒヤしていた。


 なお、クエレブレは藍大のアダマントウォッチに魅せられて攻撃が大降りになっており、力はいつも以上に発揮できていたがその分隙も大きかった。


「リル、凍らせて動きを止めてくれ」


『うん!』


 舞が光のドームを解除するのと入れ替わりにリルが<天墜碧風ダウンバースト>でクエレブレの体全体を凍らせる。


 それでもクエレブレは<全半減ディバインオール>を有しているから、凍結していても復帰までの時間は大してかからない。


 ここでチマチマ攻撃していれば、クエレブレの肉が食材と駄目になってしまうため、藍大はサクラに声をかけた。


「サクラ、<運命支配フェイトイズマイン>使って良いぞ」


「は~い」


 緩い返事とは裏腹にサクラが<運命支配フェイトイズマイン>で凝縮したエネルギーがクエレブレの首を貫き、一瞬にして残っていたHPを刈り取った。


 クエレブレの死体に毒が回っていないことを確認し、藍大は戦闘に参加したメンバーを労った。


「OK! みんなグッジョブ! 肉は無事だぞ!」


「『やった~!』」


「良かった」


「あっさり倒されたのは悔しいが、肉を無駄にしなくてホッとしたぞ」


 ブラドだけは複雑な表情を浮かべていたが、藍大に頼まれたら嬉々としてクエレブレに<解体デモリッション>を使っていたので食欲>”アークダンジョンマスター”のプライドなのだろう。

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