第361話 イリュージョンなのじゃ!

 地下室のことは気になったが、いつの間にかゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除して自分をじっと見つめていたので藍大は我に返った。


「わかってる。魔石が欲しいんだろ? ちょっと待っててくれ」


「感謝」


 ゲンが魔石を貰うために<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除していたのはわかっていたため、藍大はブラドに<解体デモリッション>を頼んでアザゼルの死体から魔石を取り出した。


 ゲンにそれを与えると、ゲンが満たされたような表情になった。


『ゲンのアビリティ:<重力眼グラビティアイ>がアビリティ:<強制眼フォースアイ>に上書きされました』


「へぇ、使い勝手が良くなったじゃん」


「良き哉」


 藍大が強制眼フォースアイの効果を調べて感心したように言えば、ゲンもそれを独特の表現で喜んだ。


 <重力眼グラビティアイ>の時は上から下に押し付けることしかできなかったが、<強制眼フォースアイ>は使用者が指定した直線方向に力が働く。


 つまり、上から下だけでなくその逆もできるし、前後左右に動かすことができる。


 ただし、自由自在に動かせるわけではないので<仙術ウィザードリィ>レベルでの柔軟な使用は難しい。


 それでもゲンは1つのアビリティでできることが増えて楽ができると思い、良き哉と喜んだ訳だ。


 ゲンが楽することを誰よりも重視するのは”怠惰の王”を会得してることからも明らかだ。


 解体した残りのアザゼルの素材を収納リュックにしまい込み、藍大達はダンジョンの地下11階から脱出した。


 外に出た藍大達は増設された地下室がどうなっているか気になっていたため、すぐに102号室に戻った。


「やっと帰って来たわねっ」


「大変なのです! 突然地下への階段が現れたです!」


『∑(゚◇゚///)ドキュ→ン』


「そうなの!」


 仲良しトリオとリュカが102号室に突然地下室ができたから、藍大達の帰宅に待ってましたと駆け寄った。


 藍大は荷物を置き、舞とサクラはそれぞれ優月と蘭を抱っこしてから4人に連れられて地下室に続く階段に案内された。


 その階段はリビングの端にできており、内装に違和感のないデザインで地下に繋がっていた。


 藍大達がリビングに来たことで神鏡から伊邪那美が姿を現した。


『待っておったぞ』


「伊邪那美様、地下室ができたんだよな?」


『その通りじゃ。藍大達が力を付けた報酬にシャングリラをちっと改造したのじゃ』


「・・・家主に一言もなく改造しちゃうってどうなんだ?」


『そ、そんな目で見るでない! 地上で手を加えたのはリビングの端っこの階段だけじゃ! 元々地下空間を無駄にしていたのじゃから有効利用したって良いではないか!』


 伊邪那美は藍大にジト目を向けられてちょっと待ってほしいと物申した。


 実際のところ、伊邪那美の言ったことは事実である。


 シャングリラ周辺は特に地下空間に何も存在しないため、そのスペースをただ放置しているのは勿体ない。


 特に、どんどん家族が増えていく藍大達にとって自分達の土地が増えることは喜びこそすれど怒るものではなかった。


「地下空間を活用することを駄目だって言ってないだろ? 俺が言ってるのは家主に断りなくやっちゃうのってどうなのってことだ。まさか伊邪那美様が報連相もできないとは思わなかったなー」


「あれじゃな、お浸しにすると美味しい奴じゃな」


「伊邪那美様、舞の発想と同じだな」


「なん・・・じゃと・・・!? 妾の渾身のボケが既に使われてたじゃと!?」


「私、伊邪那美様と同じぐらいの賢さだって~」


「舞、今のは褒めてないと思うよ」


「え?」


 以前、舞が報連相をほうれん草と勘違いしたことがあったことを思い出し、藍大が伊邪那美に向ける視線に憐れみがちょっぴり加わった。


 伊邪那美はボケのつもりで言ったらしく、既にこのボケが舞に使われていたと知って衝撃を受けていた。


 その一方、舞は自分の頭が伊邪那美と同じぐらいと聞いて賢くなったように感じていたが、そんな舞にサクラが冷静にツッコミを入れた。


 とりあえず、舞と伊邪那美が落ち着いてから藍大達は地下室に繋がる階段を下りた。


 階段を下りた場所には扉があり、それを開いてみると明るい草原と神社があった。


 そして、藍大達の傍で半透明だった伊邪那美の姿が消えて神社の中から実体のある伊邪那美が現れた。


「イリュージョンなのじゃ!」


「すごいのよっ。マジシャンなのよっ」


「どんな種があったですか!?」


『ォオ~!!(゚Д゚ノ)ノ』


 テレビ好きの仲良しトリオが伊邪那美の瞬間移動に声を上げた。


「フッフッフ。そのリアクションが気持ちいいのじゃ」


「伊邪那美様、説明してくれ。ここはなんだ?」


「妾の作成した神の領域、つまりは神域じゃな。ここにいる間は妾も実体化できるのじゃ」


『ご主人!』


「どうしたんだリル?」


『ちょっと走って来て良い!?』


 そう訊いたリルの尻尾はブンブン揺れている。


 広い草原を見て走りたくて仕方ないらしい。


 そんなリルを見て藍大がNOと言えるはずがない。


「行っておいで。リュカも一緒に走ったらどうだ?」


「ありがとう! 行こう、リル!」


『うん! 行ってきま~す!』


 リュカが<獣人切替ビーストマンチェンジ>で狼に変身し、リルと一緒に駆け出して行った。


 家の外を思いっきり散歩できないリルにとってこの神域は散歩に丁度良いみたいだ。


 リュカにスピードは合わせているものの、とても嬉しそうに走り回っている。


 (ボールでも持って来れば良かったな)


 藍大は藍大で楽しそうなリルとリュカを見て、ここでボール遊びをするのも楽しそうだと考えていた。


「ふむふむ、ここで何か育ててみるのも面白そうです」


 先程までイリュージョンと騒いでいたメロだったが、自分達の立っている地面に触れて畑を作ってはどうかと農家の顔になっていた。


「ラードーンが守ってた黄金の林檎の種とかどうだ?」


「それは妾も賛成じゃ。あの樹がこの神域にあれば妾の力がもっと安定するぞよ。神社の隣に植えるのじゃ」


「黄金の林檎食べ放題?」


「悪くない。吾輩も力を貸すぞ」


 伊邪那美だけでなく、舞とブラドまで林檎の話に乗り出した。


 その後、具体的にどうやって林檎を育てていくかの話をしてから藍大が話題を戻した。


「脱線しちゃったけど伊邪那美様の神域ってどれぐらい広いんだ?」


「見た目程広くないのじゃ。今はシャングリラの敷地ぐらいじゃな」


「なるほど。確かに見た目と比べるとかなり狭いな」


「そう言うてくれるな。妾も久し振りに神域を形成できるようになったからこれが精一杯なのじゃよ」


「別に責めてないさ。伊邪那美様の力が戻ることは良いことじゃん。良かったな」


「うむ! ここまで妾に力を貸してくれたことに感謝するのじゃ! 今後とも頼むぞよ!」


 伊邪那美は藍大達にお礼を言った。


 日を追うごとに力を失いつつあった伊邪那美は、由緒正しき巫女の血族である藍大とその家族の力を借りて神域を作成できるまで回復した。


 これが嬉しくないはずはないだろう。


 藍大は伊邪那美の感謝の言葉を受け止めた後、手に入れた時は思いついていなかったミョルニルに対する懸念ついて話すことにした。


「そう言えば伊邪那美様、舞が遂にミョルニルを手に入れたんだ」


「じゃ~ん」


 帰宅してからはミョルニルを小さくしてポケットに入れていたが、舞は抱っこしていた優月を藍大に預けてミョルニルを取り出して大きくした。


「・・・やはりそうだったんじゃな。舞から神器の気配がしとったんじゃよ」


「そういうのわかるんだ?」


「当たり前なのじゃ。妾は神じゃぞ? 同じ神の気配を感じ取れぬはずなかろう」


「そういうもんか。ところで、トール様って今どうなってるかわかる? 本物のミョルニルを舞が手に入れて何か俺達に良からぬこととか起きたりしないよな?」


「大丈夫であろ。世界各国で妾のような神が弱っておるか復活できない状態にあるのじゃ。舞がミョルニルを所有してるのじゃから、トールは残念ながら生きておらぬ。安心して使うが良いのじゃ」


「ふぅ、良かった」


「伊邪那美様がそう言うなら安心だね~」


 懸念が払拭されて藍大も舞もホッとした。


 ホッとしたことで舞のお腹が鳴ったため、藍大達は地上に戻って昼食を取ることにした。


「リルとリュカ、戻って来~い。昼食作るぞー」


『ご飯!? 戻る!』


「私も!」


 リルがご飯と聞いて戻ってこないはずがなく、リルが戻ればリュカもそれについて来る。


 地上に戻った藍大は舞のミョルニルゲットや伊邪那美の神域形成を祝うべく、クエレブレを中心とした食材で豪華な料理を作った。


 食いしん坊ズを筆頭にみんなが大満足だったのは言うまでもない。

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