第356話 任せろ。漢解除の時間だな

 2月15日の月曜日、”迷宮の狩り人”の3人は大分県の中津ダンジョンに来ていた。


 中津ダンジョンの探索は去年の10月から行っていたが、最上階の5階で探索が難航して一時的に川崎大師ダンジョンをポーラに改変させて中津ダンジョン攻略の特訓を行った。


 ポーラは”ダンジョンマスター”で川崎大師ダンジョンの主だから、川崎大師ダンジョンを改変して中津ダンジョンの練習用に変えることも容易くやってのける。


 これは川崎大師ダンジョンで探索する冒険者のいない9階を改変して練習フロアを用意したのだ。


 年明けには大地震が起きて中津ダンジョンに行けなかったので、ようやく2月も中旬に入った今日成美達は戻って来れた。


「さあ、気張って行くわよ」


「りょ!」


「わかった」


 成美が声をかけたらマルオと晃が応じる。


 既に召喚されているローラとフェルミラは静かに頷いた。


 テトラは既に<着脱自在デタッチャブル>を発動してマルオに着られており、成美達はいつでも行ける状態で最上階に移動した。


「相変わらず霧が濃くて気味悪いわね」


「アキえも~ん、周りが霧ばかりで何も見えないんだよ~」


「しょうがないなぁ、マルオ君は。そんな時はこれ。キリスィトール」


「アンタ達何遊んでんのよ。晃もわざわざダミ声まで使って」


「ええじゃないか。不気味な雰囲気を払拭するのにボケったってええじゃないか」


「ごめん、このボケに乗らないと話が進まない気がしたから。でも、キリスィトールの効果が出て来たよ」


「まったくもう・・・」


 成美はやれやれと首を横に振った。


 キリスィトールとは”迷宮の狩り人”の薬士である研が作成した固形の薬品だ。


 箱の中に入った黒い円柱がキリスィトールであり、その半径200mの霧を吸い込んで使用者周辺の視界をクリアにできる。


 中津ダンジョンの5階の霧は10m先が見えない程濃いけれど、キリスィトールの効果が続く1時間は探索の邪魔になる霧がかなりマシになる。


 研も”迷宮の狩り人”の一員として成美達の役に立っていると言えよう。


 ところが、キリスィトールさえあればこの階をスイスイと探索できるかと訊かれればNOと言わざるを得ない。


 最上階だけあって簡単には先に進ませてくれないのだ。


 そうでなければ、成美達がわざわざポーラの力を借りて川崎大師ダンジョンの9階で練習する必要はないだろう。


 霧のギミックの問題が無視できるぐらいになると、テトラを着込んだマルオにフェルミラが<暗黒付与ダークネスエンチャント>を発動する。


 それに加えてテトラが<闘気鎧オーラアーマー>を発動したことでマルオの耐久力はばっちりだ。


 暗黒の靄をオーラを放つマルオが不敵な笑みを浮かべた。


「フッフッフ。暗黒騎士モードだぜ。これで俺の中二力は53万を突破した」


「はいはい。わかったから暗黒騎士様は漢解除よろしく」


「マルオ、頼んだよ」


「任せろ。漢解除の時間だな」


 マルオは成美と晃に頼まれてパーティーの先頭を歩き始める。


 その瞬間、マルオが踏んだ地面が次々に小さく爆発していく。


 霧に続くギミックとして地雷が5階には仕掛けられているのだ。


 <暗黒付与ダークネスエンチャント>と<闘気鎧オーラアーマー>のおかげでマルオは無傷であり、マルオが地雷を漢解除した道をなぞるように成美と晃が歩く。


 ローラとフェルミラは翼があるから空を飛んで移動している。


 成美達がこうして進んでいるのは5階がある程度進むまで辺り一帯地雷原だからである。


 霧で視界を封じて地雷で侵入者を痛めつけるギミックだと考えれば、中津ダンジョンの”ダンジョンマスター”の殺意が強いことは明らかだと言えよう。


 地雷原を抜けたところで待っていたのはドレスゾンビとアフロゾンビの割合が半々の大群だった。


 成美達を視界に捉えると、ゾンビの大群が<魅了踊チャームダンス>を発動した。


「晃!」


「任せて!」


 成美の指示されて晃は爆弾を取り出して放物線を描くように大群の中心にそれを投げ込んだ。


 爆弾が落下の衝撃で爆発してゾンビ達の数を大きく減らす。


「ローラ、狩りの時間だ!」


「キャハハハハハッ!」


 マルオが追撃の指示を出したことにより、ローラが両手に持ったレッドエクスキューショナーから<剛力斬撃メガトンスラッシュ>を連続で放った。


 このゾンビ達は15秒以内に倒さないと<魅了踊チャームダンス>で自分達が魅了状態に陥ってしまう。


 アンデッド型モンスターであるローラ達とテトラを着込んだマルオは魅了が効きにくいが、生身の成美と晃は特に耐性がないので危険だ。


 ローラが2連続で<剛力斬撃メガトンスラッシュ>を放ったことにより、残党も力尽きて立ち上がれるゾンビは1体もいなかった。


「ふぅ。ここまでは練習通り来れたな」


「そうだね。問題はこの先か。ここからは未到達エリアなんだから」


「油断せずに行くわよ」


「「了解」」


 成美達はゾンビの大群から魔石だけ回収して慎重に先へと進んだ。


 マルオが先頭で地雷があっても平気なようにしたが、その意味もなく成美達は墓場の開けた場所まで辿り着いた。


 そこには黒いマントに身を包んだ病的なまでに青白い女型のモンスターがおり、手に持ったナイフで周囲に転がっているグール派生種達を倒したばかりのように見えた。


「何あれめっちゃ美人」


「馬鹿言ってないで鑑定しちゃいなさい」


「へーい」


 成美に注意されたマルオはすぐにアンデッド図鑑で目の前の敵を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:リッパー

性別:雌 Lv:80

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,300/1,300

STR:1,600

VIT:1,300

DEX:1,600

AGI:1,500

INT:0

LUK:1,300

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   ベルセルクソウル

   同族殺し

アビリティ:<飛乱刃ヘクティックエッジ><怪力投擲パワースロー><影投擲シャドウスロー

      <毒付与ポイズンエンチャント><視線誘導ミスディレクション

      <流水歩行ストリームステップ><等価交換エクスチェンジ

装備:アイアンナイフ×50

   ポケットマント

備考:愉悦

-----------------------------------------



「あっ、これヤバいやーつ」


「どんな感じにヤバいのよ?」


「ローラの頭のネジを10本ぐらい抜いて殺しに愉悦を感じちゃう的な?」


「それはヤバい」


「来るわよ!」


 リッパーが邪悪な笑みを浮かべてマントを大袈裟に広げると、その内側にはたくさんのナイフが収納されていた。


「キシシ」


 リッパーはアイアンナイフをマルオに向かって投擲し始めた。


 テトラがマルオの体を動かして盾で防ぎ、その隙に成美は味方のバフ効果のある曲を奏でる。


「フェルミラは遠距離攻撃! ローラはチクチクと合間を縫って攻撃だ!」


「わかった」


 フェルミラがリッパーに好きにさせまいと<火炎乱射フレイムガトリング>でプレッシャーをかけると、リッパーはそれを避けることに専念した。


 しかし、ただ避けるのではなくフェルミラと距離を詰めながら接近している。


「それっ!」


 晃はリッパーがフェルミラに近づけないようにするべく爆弾を投げて後退させた。


 そこに空からローラが<貫通乱撃ピアースガトリング>で奇襲を仕掛ける。


「蜂の巣にしてあげる」


「キシッ」


 ローラが攻撃するのを待っていたと言わんばかりにリッパーは笑い、<怪力投擲パワースロー>と<影投擲シャドウスロー>を織り交ぜて使用する。


 そこに<視線誘導ミスディレクション>でフェイントまで入れるものだから、ローラは無理に攻撃を弾き返そうとせずに避けていく。


「フェルミラ!」


「キシシ」


 再びフェルミラが<火炎乱射フレイムガトリング>で攻撃に参加することで、リッパーはローラへの攻撃を中断してターゲットをフェルミラに変更する。


 フェルミラに投げられたナイフはマルオがテトラの力を借りて防いだ。


 晃が地面に散らばったリッパーのアイアンナイフを回収してリッパーの攻撃手段を減らしたため、気づけばリッパーは右手に握るナイフ以外全てを失っていた。


 武器が1本のナイフだけならば、リッパーは遅るるに足らないとローラとフェルミラがガンガンと攻め立てる。


 ナイフを消費し過ぎたリッパーは手持ちの1本のナイフだけでローラの攻撃を捌くが、背後から回っていたマルオに気づくのが遅れて頭にアンデッド図鑑を被せられてしまった。


 リッパーはアンデッド図鑑に吸い込まれ、成美達の戦闘が終わった。


「テイム完了!」


「テイムしたのね」


「倒すのに時間かかりそうだし、隙があったからテイムした。異論は認めない」


「別に反対しないけどそれだけが理由?」


「美人だからテイムしたかった」


「あら、私とのスキンシップだけじゃ不満?」


「そんなことないぞ! 両手に花は男の夢なんだ!」


「はぁ。これだからマルオは・・・」


 マルオとローラのやり取りを見て成美がジト目を向けたのは仕方のないことである。

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