第355話 予定変更! 今夜は赤飯だ!
午後4時を過ぎた頃、リュカが司のパーティーとの探索を終えて102号室にやって来た。
何故来たかと言えば、バレンタインデーのチョコを渡すためである。
「リル、受け取って! チョコ作って来たの!」
『ありがとう。今開けて食べても良い?』
「も、勿論! 感想聞かせてほしいわ!」
後で食べると言われたらリルとの話が終わってしまうため、リュカはリルの申し出に対して首を縦に振った。
リルは<
箱の中に入っていたのはハート型のチョコレートであり、細いミルクチョコレートでリル大好きとデコレーションされていた。
(今日のリュカは気合入ってるじゃん)
リュカとリルのやりとりはリビングで行われていたため、見守っていた藍大はリュカが攻めに出たと思った。
ちなみに、見守っているのは藍大だけでなく、舞達藍大の嫁5人もである。
リュカの恋愛相談にも乗っているので、舞達は藍大よりもこのイベントに注目していると言えよう。
藍大達が見守る中、リルはリュカのチョコレートを食べた。
『リュカのチョコ美味しかった。あと、僕もリュカのことが好きだよ』
(違う、そうじゃないんだ。リル、好きってのはLikeかLoveのどっちなんだ?)
藍大は心の中でツッコミを入れる。
声を出して割り込みたい気持ちが大きくなったが、リュカの頑張りをその行為で台無しにしたくなかったからグッと堪えているのだ。
それは舞達も同じ気持ちである。
「美味しいって喜んでもらえて良かったわ。でも、好きってどっち? お肉が好きと一緒? それとも私と家族になりたい方?」
『ん? 僕とリュカは家族じゃないの?』
(リュカ、リルにわかるようにもっとストレートに言わなきゃ駄目だろ)
リュカの言っていることがいまいちピンと来ていないらしく、リルが首を傾げているので藍大はもどかしく思った。
『ヤレヤレ ┐(´(エ)`)┌クマッタネ』
ゼルは声を出せないため、リルに気づかれないように顔文字で藍大達の気持ちを代弁した。
リルは探索面で感覚の鋭い従魔だが、恋愛面ではその鋭さが機能していない。
リュカはリルに自分の気持ちをぶつけてはいるものの、どうしても最後の一歩を踏み込めずリルに自分の恋心が伝わらない。
困ったと表現する以外にどうしようもないだろう。
それでもリュカはめげたりしない。
「家族だよ。でも、リルの言ってるのは兄妹みたいなものでしょ?」
『う~ん、それが最近よくわからないんだ』
「どういうこと?」
『僕達ってバーベキューでご主人と舞、ご主人とサクラみたいに食べさせ合ったりしてるでしょ? どうも兄妹って感じじゃない気がするんだ』
(この流れ、もしかしてワンチャンある?)
いつもと流れが違うことを察し、藍大はひょっとしたらひょっとするんじゃないかと思い始めた。
それはリュカも同じだった。
「そうね。ご主人と舞、サクラは兄妹じゃないわ。夫婦よ」
『それに優月や蘭が生まれて子供って良いなって思うようになったの』
「うんうん。2人共可愛いもんね。私もそう思う」
『僕は優月の名付け親だけど、僕の子供も欲しいなって思った』
ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
いつもはこの辺りでチキるリュカだが、今日という今日は勝負に出た。
「だったら私がリルの子を産む! 他の雌には渡さないわ!」
(言ったぁぁぁぁぁ! リュカ言ったぁぁぁぁぁ!)
リュカが曲解しようのない発言をしたものだから、藍大のテンションが上がった。
舞達も同じでじたばたしたい気持ちを抑え込むのに必死だった。
『(゚∀゚)キタコレ!!』
訂正しよう。
ゼルだけは顔文字でがっつりはしゃいでいた。
静かにはしゃげるという点で声が出せない特徴が有効に働いている。
それはさておき、覚悟を決めたリュカの言葉に対するリルの反応はと言えば・・・。
『本当? じゃあ僕と
「うん! 私、リルのお嫁さんになる!」
「予定変更! 今夜は赤飯だ!」
「「「「異議なし(です)!」」」」
『キタ━━━━━━ヽ(*゚▽゚*)ノ━━━━━━ !!!!!』
もう我慢しなくても良いよねと藍大が声を大にして言うと、舞達も同じく気持ちが昂って大きな声で返事をした。
「リュカちゃん、おめでと~」
「長かったわね。よく頑張ったわ」
「ナイスファイトッ」
「よくやったです!」
『オメデトウ(^▽^)ゴザイマース』
「ありがとう! 私、遂にリルの番になれたわ!」
舞達に駆け寄られ、リュカは嬉し涙を浮かべた。
その一方、藍大はリルの頭を撫でていた。
「リル、やっとリュカの気持ちに応えてやれたな」
『僕って鈍かった?』
「・・・いや、リルはリルだ。色々あったけどこれで良かったと思うぞ」
恋愛感情にも敏感なリルを想像し、それはリルじゃないように思えたので藍大は今のリルが良いと判断した。
『そっかぁ。ご主人、赤飯って美味しいの?』
「飛び切り美味いの作ってやるから楽しみにしとけ」
『うん!』
「愛い奴め」
「クゥ~ン♪」
(ご飯を楽しみにするこの表情。やっぱりリルはこうじゃないと)
藍大はリルを撫でながらリルはやっぱりリルだったと安心した。
リルを撫で終えた後、藍大は102号室の外で待機していた司と麗奈を中に招いた。
どうやら2人はリュカのアプローチが空振りになった時に慰めようと待っていたらしい。
藍大からリュカの告白が成功したと聞くと、司も麗奈も大喜びだった。
「リュカ、おめでとう!」
「やっとリルを落としたのね! よくやったわ!」
「ありがとう!」
リュカは司と麗奈に順番に抱き着いて嬉しい気持ちを表現した。
司と麗奈にもいくつかアドバイスを貰っていたため、リュカは告白を成功させたと報告できて喜んでいる。
リュカ達が落ち着いてから、藍大がミオを連れて来て実務的な話を始めた。
「司と麗奈に相談なんだけど、2人のパーティーからリュカを外して良いか? その代わりにミオを派遣するから」
「良いよ。新婚さんのパーティーが別々じゃかわいそうだし」
「私も賛成。ミオなら一緒にダンジョンに潜ったこともあるから少し練習すれば連携もできるし問題ないわ」
「よろしく頼むニャ」
ミオはペコリと頭を下げた。
最近のミオは優月や蘭、隣の孤児院の孤児達と遊んでばかりでダンジョンに行きたいと思っていた。
だからこそ、リュカに代わって司達とダンジョンに行けるのは渡りに船だったのである。
引継ぎを含めた打ち合わせが終わり、司達が自分達の部屋に戻ると藍大は夕食作りを急ピッチで始めた。
そんな藍大に代わり、舞がクランの掲示板にリュカのプロポーズが成功したこととリュカとミオのメンバーチェンジを報告した。
健太は素直に祝福し、未亜は遂にリュカにも先を越されたと嘆きながらも祝福した。
その途中、パンドラが未亜のアカウントでリュカのメンバーチェンジに羨ましいとコメントしたため、後でその話を聞いた藍大が未亜達を説教したと追記しておこう。
夕食はサラダにコーンスープ、赤飯にラードーンステーキ、アップルパイというフルコースまではいかなくともかなり豪華なものになった。
リュカは今日から102号室で寝泊まりすることになり、藍大の料理に涙を流した。
「うぅ、美味しい。これじゃ私に勝ち目はないわ・・・」
リュカが涙を流したのは美味しい料理への感動半分とリルを満足させる料理を自分が作れるだろうかという不安半分である。
「リュカ、空いてる時に料理を教えてやるから元気出せ」
「ありがとう! 私、頑張る!」
「その意気だ」
リルと番になったからには美味しい料理を作ってあげたいと思い、リュカは藍大の申し出に感謝した。
藍大に教われば自分の料理の腕が上がってリルに喜んでもらえると思ったからだ。
喜ばせてあげたいと思われているリルはラードーンステーキをモリモリ食べていた。
『ラードーンステーキ美味しいね!』
「めでたいから何枚でも食べられるね!」
「吾輩も無限に食べられる気がするぞ!」
『リル達に負けないもん!』
(多めに焼いといて良かった。めでたいから何枚でも食べられるってどゆこと?)
食いしん坊ズの食欲は相変わらず底が知れなかった。
夕食と食休みの後、空き部屋だった一室がリルとリュカに割り当てられた。
夫婦の営みを他の従魔と同じ部屋でさせる訳にはいかないから当然だろう。
リルとリュカはバレンタインデーというカップルのために存在する日に大人の階段を上った。
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