第349話 世界がヤバい。なんでそうなった?

 舞が満足するまでユノと触れ合った後、ユノはブラドの方を向いた。


「キュイキュイ」


「なるほど。一理あるな」


「ブラド、ユノはなんだって?」


「自分の実力を優月や主君達に見せたいと言っておる。1階の雑魚モブモンスターなら大したことないし、ユノの実力を見せてもらってはどうだ?」


「俺は良いと思うぞ。実際に<操気弾リモートバレット>がどんな感じか見てみたいし、いざとなれば俺達がフォローできるから問題ない」


「私も良いと思うよ」


「キュイ~」


「ありがとうと言っておる」


「無理はしなくて良いからな。気楽に行こう」


「キュイ!」


 ユノが実力を披露する機会が設けられることになった。


 ブラドは”アークダンジョンマスター”の力で1階にいるドランクマッシュを自分達のいる場所に呼び寄せた。


「キノォ」


 酔っぱらったおっさんの顔がくっついたドランクマッシュが千鳥足になりながら藍大達に近づいて来た。


「キュッ」


 ユノが短く鳴いた直後、ユノの正面からエネルギーの弾丸が発射された。


 それだけならば特に取り立てる必要のないアビリティだが、<操気弾リモートバレット>はドランクマッシュがフラフラ歩くのをしっかりと捉えて命中した。


「キノォ!?」


 自分の射程圏外からあっさりと攻撃を喰らい、ドランクマッシュが後ろにひっくり返った。


「キュイ~」


 敵が倒れて追撃のチャンスができたならば、ユノがそのチャンスを無駄にするはずなかった。


 ドランクマッシュがピクリとも動かなくなるまで<操気弾リモートバレット>を放ち続けた。


「ふむ。念入りに攻撃する姿勢は悪くないのだ。油断するぐらいならオーバーキルの方がよっぽど良いのである」


「キュッ」


 ブラドに褒められてユノは胸を張った。


 そして、チラチラと優月の方を見る。


 ユノは優月に褒めてほしいらしい。


「ゆの!」


「キュ~」


 ユノは優月に呼ばれて嬉しそうに近寄る。


「あい」


「キュイ♪」


 よくやったと優月に褒められたことでユノはとてもご機嫌である。


 それからもう3体程ドランクマッシュを倒し、ユノはLv5までレベルアップした。


 <操気弾リモートバレット>の熟練度はまだまだ低いけれど、それでも対して素早くないドランクマッシュが相手なら命中率100%なのは言うまでもない。


 実力のお披露目もこれぐらいで良いだろうと切り上げ、藍大達はシャングリラダンジョンから脱出した。


 その直後、藍大のスマホに着信があった。


 電話をかけて来たのは茂だった。


「もしもし、どうした茂?」


『どうしたじゃねえよ藍大! 大変だ! 2年前の大地震と同規模の地震が日本全土で起きたんだぞ!?』


「いつ?」


『ついさっきだ! 5分前ぐらいに収まって電話したのに出ないってダンジョンに入ってたのか!?』


「正解。というか、大地震がシャングリラに影響を与えないから誰も呼びに来なかったぞ。話を聞くから落ち着け」


『・・・すまん。そんな弊害があったのか。全災害無効だから外部の異変に気付くのが遅れるってのは予想外だったぞ』


 落ち着きを取り戻した茂は楽園と化したシャングリラに思わぬ落とし穴があると知って困った声になっていた。


「これは俺も想定外だ。近所の状況を確認する。余震は今のところない?」


『ああ。今の内に近所の生存者を確認してくれ』


「そうする。落ち着いたら電話する」


『おう。またな』


 茂との電話が切れると、舞達が”楽園の守り人”メンバーと遥を集めて待機していた。


「藍大、全員集めといたよ」


「助かる。流石はサブマスターだ。司パーティーと未亜パーティーは従魔を連れて手分けして周辺の被害状況の確認と生存者を探せ。舞とサクラがクラン内の連絡役。外部との連絡役は奈美さんと遥さんだ。良いな?」


「「「・・・「「了解!」」・・・」」」


 藍大の指示を聞いて全員がすぐに動き始めた。


 司達はダンジョンに連れて行くレンタル従魔を連れてシャングリラ周辺の被害状況の確認と生存者の確認に出た。


 優月と蘭を連れて救助活動をする訳にはいかないから、舞とサクラは連絡役という名目で留守番だ。


 それでも、クラン内での連絡がブッキングして情報連携が遅れるのは困るからこの采配は理に適っていると言えよう。


 藍大は緊急対策本部のブレーンとして状況に応じて指示を出していく。


 奈美と遥を外部との窓口になり、舞とサクラが司達から受け取った情報を基に藍大が指示した外部の誰かに連絡をするか、外部からの連絡を受ける。


 なお、シャングリラの敷地内に”迷宮の狩り人”のクランハウスと立石孤児院があるため、建物には被害がないだろうが念のためそれぞれ奈美と遥が連絡を入れる。


 藍大は気になることがあって102号室に戻り、そのまま神棚の前まで移動した。


「伊邪那美様、出て来てくれ」


『さっきの地震について知りたいんじゃな?』


「ああ。伊邪那美様なら何かわかると思ってな。偶然巨大地震が発生したのか、それとも2年前みたいにこれから何か起きるのか」


『後者じゃ。世界規模で大地震が発生し、おそらくこれから世界各地でスタンピードの報告が上がって来るじゃろう。それでも、日本は妾の力でスタンピードを未然に防いだがの』


 藍大は外で起きた地震がただ揺れただけなのか、そうでないのかを伊邪那美に訊ねるために102号室に戻って来たのだ。


 もっとも、伊邪那美に質問する前から後者ではないかと予想しており、それが伊邪那美に肯定されてもやっぱりという表情にしかならなかったが。


「そうか。伊邪那美様のお願いを早めに叶えといて正解だったな」


『本当にその通りじゃな。毎日のお供えもあって妾の力が回復しつつあったから、妾に反抗する力に苦戦することなく打ち勝てたのじゃ』


 伊邪那美のお願いを叶えた後も、藍大は毎日三食お供えを続けていたので伊邪那美は自身の力を着々と回復できていた。


 そのおかげで日本の被害が軽減されたのだから、藍大は人知れず間接的に日本の救世主と呼んでも過言ではないだろう。


「伊邪那美様に反抗する力って何? 今回の地震は何者かの仕業なのか?」


『妾が感知できたのは世界各地で強いモンスターの反応が同時に出現したことじゃ。藍大の知ってるところで言えば、ダンタリオン並みのモンスターが現れたと言えば良いじゃろうな』


「世界がヤバい。なんでそうなった?」


『一番の原因は南北戦争じゃ。あれのせいでダンジョン探索そっちのけで人間同士が戦ってたじゃろう? それらの国には放置されてた間に力を蓄えた”大災厄”が現れておる』


「その口振りからして他の国にも”大災厄”がいるってことだよな。そっちはどうしてそうなった?」


 伊邪那美の口振りから藍大は全てが南北戦争のせいではないとわかり、それ以外の理由について訊ねた。


『単に探索漏れじゃな。未発見のダンジョンがある可能性を十分に検討せずに既存のダンジョンにばかり意識を向けたせいじゃよ。冒険者が誰も来なかったから”災厄”が力を蓄えて一気に”大災厄”に成長したというところだの』


「探索の精度が雑にも程があるだろ。まだ見つかってないダンジョンがあったのかよ?」


『日本が順調過ぎるだけなのじゃ。他国はどこも既存のダンジョンの間引きといかに効率良く強くなるかという2点に気を取られておる』


「そんなもんか。ところで、他所の国にも伊邪那美様みたいな神様がいるんじゃないの? その神様達はどうしたんだ?」


『さてのう・・・。妾も他国の神事情までは知らんのじゃが、多分妾達と同じく神が力を失っておるんじゃろうな。妾には藍大がいたからなんとかなったが、他国の神にはそういう者がおらんかったのではないかのう』


 流石に伊邪那美も他国の神の事情まではわからず、自分達と似たような状況に陥って藍大みたいな助っ人がいないのではないかと推測することしかできなかった。


 フルパワーの伊邪那美ならば他国の状況を正確に調べることもできるだろうが、今の伊邪那美では厳しい。


 ないものねだりをしても仕方がないので、とりあえず藍大は伊邪那美に情報のお礼を言った。


「わからないものは仕方ない。伊邪那美様、色々と助かった。ありがとう」


『どういたしましてじゃ。藍大よ、気をつけるのじゃぞ。スタンピードは起きておらぬが、日本国内のダンジョンにも強いモンスターの反応があるのじゃ。それに有事の際には人の醜い部分も表に出やすい。油断大敵ぞよ』


「気をつける。優月も蘭も生まれたばかりなんだ。危険な目に絶対に合わせてなるものか」


『わかっておるなら良い。また何かあったら呼ぶのじゃぞ』


「わかった」


 藍大は伊邪那美からの情報収集を終えて舞達と再び合流した。

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