第348話 優月、恐ろしい子・・・

 優月が藍大を真似するのを見て一同はほっこりした。


 それから話はどのドラゴンを召喚するかに戻った。


「ブラド、優月にオススメなドラゴンを具体的に言ってくれないか?」


「よかろう。吾輩のオススメは2種類だ」


「2種類? もしかして、既に候補を絞ってくれてた?」


「当然であろう。吾輩、優月のために真剣に考えた上で主君達に提案しておる」


 ブラドがドヤ顔を披露するのを見て藍大は優月に笑いかけた。


「良かったな、優月。ブラドが優月のことをちゃんと考えてくれたってよ」


「ぶあど、よしよし」


「これも藍大の真似だね~」


「ふむ。感謝の気持ちとして受け取っておくのだ」


 舞は優月が再び藍大の真似をしたと気づき、ブラドは仕方ないなと照れ臭そうに撫でられた。


 優月が藍大の真似に満足した後、藍大は話を先に進めるべくブラドに話しかける。


「ブラド、召喚するドラゴンは何と何で悩んでるんだ?」


「エッグドラとベビードラゴンだ」


「思い込みで判断したくないからそれぞれ特徴の説明を頼む」


「うむ」


 藍大にそう言われてブラドもその通りだと頷いてから説明を始めた。


 エッグドラとは卵に目と足用の4つ穴を開けてそれ以外全てが殻の中にあるドラゴンの幼体だ。


 基本は二足歩行だけれど、急いで移動する時や敵に攻撃する時は<回転スピン>で移動や攻撃を行う。


 卵の殻を被っているがゆえにVITは高めだが、その重量の分AGIは下がっている。


 その一方、ベビードラゴンは自身を守る卵の殻が存在しない。


 ベビードラゴンである時は取り立てる程の特徴はないが、環境に応じてあらゆる進化先が発生するので可能性の塊と言える。


 ちなみに、エッグドラもベビードラゴンも小型犬サイズなのは共通している。


「ブラドの説明を要約すると、最初から守りにアドバンテージのあるエッグドラか未来の可能性に期待のベビードラゴンを選ぶかってことか」


「その通りである。主君よ、どちらが優月に相応しいと思うのだ?」


「う~ん、ベビードラゴンかな。シャングリラで育つ以上、ベビードラゴンの方が将来的に優月の力になってくれそう」


「私も賛成~」


「同じく」


『僕も』


「あい」


「よろしい。ベビードラゴンに決定だな。早速ダンジョンに行くのである」


 舞とサクラ、リルだけでなく優月も頷いていることから、優月の初めてのドラゴンはベビードラゴンに決定した。


 ブラドは召喚する従魔が決まったのならば、すぐに召喚しようとダンジョンに行こうと藍大達に呼び掛けた。


 藍大達もそれに異論はなかったので、そのまま101号室のシャングリラダンジョンへと移動した。


 シャングリラダンジョンの1階の入口にはドランクマッシュが1体もいなかった。


 どうやらブラドがドランクマッシュを入口に来させないように調整したらしい。


「では、召喚するぞ」


 ブラドがそう言ってDPを消費してベビードラゴンを召喚した。


 現れたベビードラゴンは小型犬サイズでクリーム色の体表に緑色の目をしており、ドラゴンと呼ぶにはデフォルメされた見た目だった。


「か~わ~い~い~♡」


「むっ、これは・・・」


「どうかしたのかブラド?」


「このベビードラゴンは”希少種”の可能性が高い。通常種ならば体の色が茶色のはずである」


「ちょっと調べてみるか。・・・ベビードラゴンLv1。雌で”希少種”持ち。見た感じ触り心地良さそうだし、家で話してた要素全部入ってんな」


 藍大がモンスター図鑑で調べたところ、ブラドが言った通り”希少種”持ちのベビードラゴンだった。


「キュイ!」


 ベビードラゴンは優月を視界に捉えると嬉しそうに鳴き、翼をパタパタと羽ばたかせてゆっくりと優月に近づいた。


 もしも優月に何かしでかそうものなら、舞とサクラ、リル、ブラドが容赦しない。


 しかし、その心配は杞憂に終わった。


 ベビードラゴンはとても人懐っこい笑みを浮かべ、優月に自らの頭を差し出したのだ。


 これが優月の持つ”ドラゴンの友達”の効果なのだろう。


「あい」


 優月の手がベビードラゴンの頭に触れた直後、ベビードラゴンの体が光に包み込まれた。


「他のテイムができる職業技能ジョブスキル持ちとは違うんだな」


「ほんとだね。竜騎士だからかな?」


「多分そうだろ。俺の従魔士も特殊だと思うけど、竜騎士はもっと特殊なんだろう」


 藍大が舞とそんな話をしている間に光が収まり、ベビードラゴンが優月に甘え始めた。


「キュキュッ」


「ゆの!」


「キュイ~♪」


「あい!」


 優月も初めての従魔に嬉しそうに笑い、ベビードラゴンも優月に撫でられて喜んでいる。


「主、今のでテイムできたの?」


「調べてみる」


 サクラの質問に多分そうだろうと思ったが、モンスター図鑑で調べるまでは憶測に過ぎないので早速調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:ユノ 種族:ベビードラゴン

性別:雌 Lv:1

-----------------------------------------

HP:30/30

MP:200/200

STR:30

VIT:30

DEX:30

AGI:30

INT:30

LUK:30

-----------------------------------------

称号:優月の従魔

   希少種

アビリティ:<操気弾リモートバレット

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 (ユノって名前かよ!?)


 MPがずば抜けてるけどそれ以外の能力値はバランス良いだとか、アビリティが<操気弾リモートバレット>なんて初めて見るものだとか色々感想はあった。


 それでも、藍大が真っ先に気になったのはベビードラゴンの名前だった。


 ゆのと優月が言った意味を最初はなんだろうかと思ったが、テイムされたベビードラゴンのステータスを確認してその意味を理解したのである。


 藍大が何かに驚いていることは気づいたため、舞がそれを突き止めようと訊ねた。


「藍大、何に驚いてるの?」


「ん? いや、このベビードラゴンがユノって名前になっちゃったんだ。優月がゆのって言ったタイミングからして、それが名前になるのはわかるけどユノって言葉にどんな意味があるのかなって思ってな」


「そんなの簡単だよ」


「マジで?」


「うん。ゆのって優月のものって意味だよ。ね~、優月?」


「あい!」


 舞に訊かれてその通りだと優月は力強く返事をした。


 に自分の言いたいことを理解してもらえて喜んでいるようだ。


 そこにブラドが加わる。


「主君よ、吾輩にはユノの鳴き声の意味がわかるのだが奇跡的に会話が成立したぞ」


「どんな風に?」


「最初のキュキュッがよろしくだ。次のキュイ~がずっと一緒という意味になる」


 ブラドの通訳の通りならば、先程の優月とユノのやり取りは以下のようになる。


 優月にテイムされたユノがよろしくと言い、優月は君は僕のものだと言った。


 それに対してユノはずっと一緒と優月の言葉を受け入れ、優月も勿論だと頷いた。


 つまり、優月のプロポーズにユノがOKを出したことになる。


「優月、恐ろしい子・・・」


「この積極性は誰に似たのかな?」


「戦闘時の騎士の奥方ではないか? オラオラしてるのだ」


「酷いこと言うブラドは抱き締めちゃうよ~?」


「なんでもないのである!」


 藍大が予想の斜め上の事態に思わずボケてしまい、舞は優月の積極性が誰に似たんだろうかと首を傾げた。


 ブラドが余計なことを言ってしまったため、後で抱き締められるのは決定事項としてやはり舞に似たのだろう。


 戦闘モードの時も積極的ではあるものの、普段の舞も自分の好きなものに対して積極的である。


 藍大への愛情表現や可愛い物へのアプローチ、食事に対する姿勢のどれも積極的だ。


「キュイ、キュイキュイ」


 ユノは藍大と舞に対して鳴いてから頭を下げた。


「ブラド、通訳を頼む」


「うむ。お義父様とお義母様、優月を守れるように強くなるのでこれからよろしくと言ってるぞ」


「そっか。ユノ、優月を守ってやってくれ。こっちこそよろしくな」


「よろしくね~」


「キュ!」


「うん、可愛い。ハグしても良いかな?」


「キュイ♪」


 元気に返事をするユノが可愛かったので、舞はユノに抱き着きたくなったらしい。


 それに対してユノは舞が優月を抱っこしているため、舞の顔に頬擦りしてその代わりとした。


「Lv1なのになんて強い娘なんだ。吾輩も先輩として恥ずかしくないようにせねば」


 舞に抱き着いても良いかと訊かれて喜んでと近寄るユノを見て、ブラドはユノを戦力的な意味ではなく精神的に強いドラゴンだと評価した。


 何はともあれ、優月に新しい家族ができたのはめでたいことである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る