第350話 大変だ! 食材が少ないと舞達が悲しむ!

 藍大が戻って来たのを確認して舞とサクラが報告を始めた。


「未亜ちゃん達から連絡あったよ。近所の被害は最大でも家が半壊してるとかだけど、その家は2年前から家主不在で手入れされてなかったところだね~」


「最寄りの小学校に避難してる人はそこそこいるんだって。家の中の物が結構落ちたらしいよ」


「それでも2年前の大地震よりはマシなのか?」


 藍大が首を傾げたところで遥が会話に加わる。


「そうでもないみたいです」


「と言うと?」


「今日出勤してる同僚にも連絡してみましたが、東京では2年前並みの被害だそうです。道路が罅割れたり建物の中がひっくり返ったようになってるとのことでした」


「・・・もしかして、シャングリラがあるおかげで近所の地震の被害が軽減されてる?」


「その可能性はあると思います」


 遥とのやり取りで仮説が浮上した。


 そこに電話を終えた奈美が話に加わる。


「遅れてすみません。”迷宮の狩り人”のメンバーはそれぞれ自宅にいたそうですが無事でした」


「私の方も会社の報告を先にしてしまいましたが、立石孤児院の人達は外に出てなかったため無事だそうです」


「了解。”迷宮の狩り人”のメンバーは自宅が酷いことになってるならクランハウスで寝泊まりしてもらうことにしよう。手狭かもしれないけど、こっちの方が安全でみんながいればインフラに困ることもないし」


「そうですね。私の弟と両親は東京なので揺れも結構酷かったらしいですから、シャングリラの隣に来てくれた方が安心です。この話をしてあげても構いませんか?」


「勿論だ」


 藍大の許可を得た奈美はすぐにに電話をかけ始めた。


「周辺の確認は終わったで」


「戻って来たぞー」


 未亜のパーティーが近所の調査から戻って来たのを見つけて藍大は声をかけた。


「お疲れ様。この辺の被害は比較的マシらしいな」


「せやな。大地震が起きたにしちゃ被害は軽微だったと思うで」


「それな。2年前の大地震と比べたら大したことねーよ」


「まだ仮説の段階だが、地震無効のシャングリラがあったおかげで近所の地震の勢いが軽減されたかもしれん」


「なるほどなぁ。シャングリラが揺れないでその周辺だけ揺れるんじゃなく、近所の揺れの勢いを削いだんか。ほんまチートやで」


 藍大の話を聞いて未亜は納得がいったようだ。


 その一方、健太は自分の疑問を藍大にぶつけた。


「この周辺はマシって言い方からして、やっぱりマシじゃねえ場所もあるんだな?」


「東京は2年前レベルらしい。というか、茂の話じゃ日本全国そうだって言ってた。シャングリラ周辺が異常なだけでその外はヤバいんだろう」


「うへぇ。藍大が聖獣をコンプしてなかったらここもヤバかったのか」


『ワフン。すごいでしょ?』


『ボスのおかげ』


「敬っても良いニャよ」


『えっへん』


「リル様ドライザー様ミオ様フィア様のおかげです。ありがたや~」


 チラッとリル達の方を見ると彼等が得意気に胸を張ったので、健太はありがたそうに拝んだ。


 そんなことをしている内に司のパーティーも外から戻って来た。


「ただいま」


「帰って来たわよー」


「お疲れ様。電話で連絡してくれたこと以外で何か共有事項はあるか?」


「小学校は緊急事態用に物資を十分に蓄えてたからすぐに支援が必要ってことはなさそう」


「月見商店街の人達も商店街で見かけたわね。みんな無事だったけど棚から物が落ちるとかはあったから念のために避難したって言ってた」


「おっちゃん達は無事だったか。良かった」


 月見商店街の人達との付き合いもそこそこ長いので、藍大は彼等が無事だと聞いてホッとした。


 次にどう動いたものかと考えていると、再び藍大のスマホに茂から電話がかかって来た。


「もしもし」


『助けてくれ』


「どうした?」


『千春が大変なんだ』


「怪我か? どの程度の傷だ? 今すぐ行けば間に合うのか?」


 茂が千春を大事にしているのは重々承知しているから、藍大は茂に状況を訊きながらリルにすぐに出かけられるようにとジェスチャーで指示を出す。


『いや、怪我はない。食材が足らないんだ』


「・・・なんて言った?」


『食材が足らない。DMUで炊き出しをすることになったんだが、流石にDMU本部付近から避難して来た人の分まで食材を備蓄してないんだ。このままじゃ腹を空かせた避難民の暴動で千春が危ない』


 藍大は茂の言葉を聞いてその状態を自分達に置き換えて考えてみた。


(大変だ! 食材が少ないと舞達が悲しむ!)


 真っ先に浮かんだのは食いしん坊ズがお腹空いたと訴える姿だった。


 これは由々しき事態だと藍大も理解した。


「それは大変だな。どれぐらい足りないんだ?」


『すまん、どんどんDMU本部に人が避難してくるからパッと試算できない。どうやら最寄りの避難先よりもDMU本部の方が安全だからって集まって来てるんだ』


「まあ収容可能人数や設備、安全面を考えたら学校よりDMU本部に行くわな」


『そういうことだ。悪いけど食材を持って来てくれないか? 出勤してる人達の大半が誘導やらトラブルの仲裁をしてて、近隣の学校から備蓄米を集める人員も満足にいないんだ』


「わかった。備蓄米とか食べられそうな物を回収しながらそっちに向かう」


『なる早で頼む』


「了解。それじゃ」


 藍大は電話を切った。


 その場にいた全員が茂との電話の内容について気になっていたため、藍大は電話の内容を簡単に説明した。


 それを聞いた途端、食いしん坊ズが一大事だと騒ぎ始めた。


「大変だよ! たくさんの避難民がお腹を空かせちゃうよ!」


『ご主人、すぐ行こう! 助けてあげなくちゃかわいそう!』


「主君よ、ここでぼーっとしててはいかん! すぐに行くのだ!」


「食事だけが楽しみな人達が暴れ出すニャ!」


『パパ、お腹空くのは悲しいよ!』


 (うん、この反応は予想できた)


 舞達の反応は茂との電話中に予想していた通りのものだった。


 予想通りだったからすぐに行動に移った。


 藍大と一緒に行動するのはリルとゲン、ブラドであり、八王子近辺で人が避難していない学校から備蓄米や水、毛布等をできるだけ回収してからDMU本部に向かった。


 その他のメンバーは何かあった時のためにシャングリラに待機となった。


 藍大達がDMU本部に到着すると、未だに中に入り切らない人達がDMUの職員に列を整理されている状態だった。


 (まさかここまでとはね)


 八王子の被害を見れば、外観を見て被害がないDMU本部に避難したいと思う気持ちがよくわかる。


 それゆえ、藍大は避難民の多さに納得できたし茂の言っていることが全くオーバーではないと理解した。


 とてもではないが正面玄関から中に入ることはできそうにないので、藍大達は茂に連絡して職員用通用口からDMU本部に入った。


 そのまま調理場に移動して収納袋からかき集めて来た備蓄米や缶詰をあるだけ放出した。


「逢魔さん、ありがとうございます! これで希望が見えてきました!」


「どういたしまして」


 千春は藍大が持って来た食糧を見て助かったと喜び、藍大の手を握ってブンブンと振った。


『良かったね~』


「はい! リル君もありがとう!」


『どういたしまして。お腹を空かせた人が出ないように頑張ってね』


「勿論です! 食材さえあれば私のターンです! 頑張りますよ~!」


 リルにエールを送られ、千春は両手を体の前でグッと握った。


 その後、千春以外の調理士達も集まって藍大に礼を言って調理を始める。


 藍大達は今後の話をするために戦場になった調理場を離れて茂の部屋に移動した。


 部屋に茂しかいないことを確認してから藍大は口を開いた。


「伊邪那美様曰く、外国はこの地震に加えてスタンピードも起きてるってさ」


「伊邪那美様にはいくら感謝してもしきれないな。今でも十分大変なのにこれ以上の面倒事なんてごめんだ」


「それな。ちなみに、シャングリラの災害無効化のおかげでシャングリラ周辺の地震の震度は日本最小だと思うぞ。近所はここまで酷くなかった」


「マジか。聖獣ってやっぱすげえんだな」


『ドヤァ』


 リルは茂に撫でられてドヤった。


 今日という日が藍大の従える4体の聖獣の価値を引き上げているのは間違いない。


「伊邪那美様に注意されたことも伝えとくぞ。国内のダンジョンにも強いモンスターの反応があるってさ。スタンピードはなくてもダンタリオンみたいなやり方か人を操って被害を出すモンスターがいるかもしれないから十分気をつけるようにだと」


「全く胃の休まる時がねえよ。まずは避難民をどうにかしてからだが、藍大達にもダンジョンの調査を頼むかもしれん」


「子持ちのパパに無茶な探索させんなよ?」


「その点は十分理解してる。でも、約束はできん。日本最強に頼らざるを得ない時はあるだろうからな」


「へいへい。その連絡が来ないことを祈るよ」


 藍大と茂の話は終わり、藍大達はダンタリオンみたいなモンスターは現れてくれるなと思いながらシャングリラへと帰還した。

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