第343話 ハハッ、バレテーラ
午後5時になると、隣の立石孤児院の子供達が院長の裕太に連れられてやって来た。
「うわぁ、屋台だ!」
「良い匂いがする~!」
「美味しそ~」
「ミオちゃんいる~」
「ハンバーグ?」
(やはりハンバーグは必須だったか。用意しといて良かった)
藍大は孤児達の中に無類のハンバーグ好きがいるのを知っていたので、自分が担当する屋台ではハンバーグも焼けるように準備していた。
その準備が正解だったと知ってホッとしている。
組み立て式の屋台はシャングリラの中庭には3つある。
2つは藍大の父親の物で、もう1つは健太の私物である。
屋台に加えてバーベキューセットを借りて千春も腕を振るうから、4つのコーナーがシャングリラの中庭にできていることになる。
藍大が担当するのはハンバーグとクレープだ。
当然鉄板は別々に用意している。
最初はクレープだけ作ろうと思ったのだが、孤児達が来ると知ってハンバーグは絶対にいると舞から言われて急遽追加した。
今日のハンバーグはベヒモス100%仕様となっている。
未亜が担当するのはタコ焼き、正確にはオクパン焼きである。
オクパンは水曜日のシャングリラダンジョン地下4階に現れる南瓜と蛸のハイブリッドの
健太が担当するのは焼きそばで、妻の遥も「Let's eat モンスター!」に携わる過程で鍛えた舌でそのクオリティを上げるのに大いに貢献している。
千春の担当はジズの焼き鳥とバロンポテトのじゃがバター、焼きトウモロコシだ。
トウモロコシはシャングリラの中庭で千春が選別した物を使い、それ以外はシャングリラ産のレア食材を使う。
千春も普通のダンジョン食材ではなく、シャングリラ産の食材を使えるので大変満足といった様子である。
「逢魔さん、今日はこんな素敵な企画をありがとうございます」
「いえいえ。未亜と健太が屋台やりたいって言った結果がこれですので、お礼を言うならば2人に言ってやって下さい」
「わかりました。この後余裕がありそうな時にお礼を言うことにします。こらこら、引っ張るんじゃないぞ」
裕太はチラッと未亜と健太を見て、今は忙しそうだったから後でお礼を言いに行くと言った。
裕太は孤児達に引っ張られて藍大の前から連れて行かれる。
それから少し時間が経つと、今度は”迷宮の狩り人”がシャングリラにやって来た。
「「「「「「こんばんは!」」」」」」
「いらっしゃい。新年早々呼び出して悪いな」
「いえいえ。こういったイベントに呼んでもらえてとても嬉しいです」
「そっすよ逢魔さん! お祭りに誘ってもらえて感激です! 今日はお祭り男モードで楽しみます!」
「いつも頭の中がお祭りだと思うけど」
「言えてる。あっ、千春さんだ! 後で話を聞きに行かなきゃ!」
「・・・姉が賑やかなお祭りにいるなんて意外です」
「子供達が私の作った服を着てくれてます! 感想を聞きに行かなきゃ!」
”迷宮の狩り人”のメンバーもなかなかに自由だった。
おとなしめな成美も用意された屋台料理が気になっているし、晃もマルオにツッコんでいるものの
研は
マルオは特に何も考えずに祭りを楽しむ気であり、綾香と詩織は自分の
向いている方向がバラバラだと言えよう。
”迷宮の狩り人”のメンバーがバラけて自分の興味がある場所に移動すると、孤児達を連れてミオとフィアがやって来た。
「さあ、着いたニャ。皆の者、食べたい物を注文するニャ!」
『パパが焼いてくれるよ!』
「お兄ちゃん、ハンバーグ下さい!」
「ハンバーグ!」
「ハンバァァァァァグ!」
「私はクレープが良いの!」
「私にピッタリなクレープを作って!」
ミオとフィアに連れられた孤児達は、藍大の料理を食べて訓練された舌を持つ者達だった。
藍大の料理を食べてしまったが故に、他の料理も美味しいのだけれど何か物足りないと思ってしまうぐらいには藍大の料理が好きなメンバーである。
「はいよ。ちょっと待ってな」
藍大は注文を受けて順番にハンバーグとクレープを焼き始めた。
(あれ、リルはどこいった?)
注文をテキパキとこなしつつ、藍大はリルを探した。
リルも孤児達にはモフモフゆえに大人気なので、今日のようなお祭りだったら孤児達に囲まれていてもおかしくない。
というよりも、リルもこのメンバーの中にいてもおかしくないのにいなかったから藍大は疑問に思った訳だ。
周囲を見回してみれば、リルは幼女獣人形態のリュカからアプローチされていた。
「リル、千春から焼き鳥貰って来たわ。一緒に食べましょ!」
『良いよ。ありがとね』
(リュカ、リルを食べ物で釣るとは策士じゃないか)
リルは食いしん坊なので、リュカが手に持った焼き鳥に興味津々である。
焼き鳥を食べている間は一緒にいられると考えて予め準備していたリュカは十分に策士と言えるだろう。
「リル、私が食べさせてあげるわ。あ~ん」
『あ~ん』
食べさせてもらえるのならば遠慮なくということで、リルはリュカが差し出した焼き鳥を食べた。
あ~んしてあげられる焼き鳥をチョイスしたのもリュカの計算である。
「美味しい?」
『うん、美味しい! お礼に僕も食べさせてあげるよ!』
ジズの焼き鳥にご機嫌なリルは、<
「良いの!?」
『勿論だよ。焼き鳥美味しいよ。あ~ん』
「あ~ん。んん~♪ 美味しい~!」
その美味しいはジズの焼き鳥だから美味しい訳ではない。
<
(リュカ、その調子で上手くやるんだぞ)
藍大はリュカに心の中でエールを送り、ハンバーグとクレープを焼き上げる作業に集中した。
できあがったそれらを孤児達に渡すと、孤児達は嬉々として食べ始める。
「美~味~い~ぞ~」
「このハンバーグには神様が宿ってるよ!」
「ハンバーグゥゥゥゥゥ!」
「クレープ美味しいの!」
「お兄ちゃんのクレープ大好き! 私、お兄ちゃんのお嫁さんになって毎日食べる!」
(そんなこと言うんじゃありません)
仲良しトリオだって幼女を卒業して藍大と結婚した。
しかし、人間とモンスターでは成長速度も成長するための過程も違う。
孤児幼女に手を出そうものなら、
そのつもりもなければそうなってしまうことも避けたいため、藍大は笑って聞こえていなかった振りをした。
そこにいつの間にか舞達5人の嫁が藍大の周りにやって来ていた。
「それは駄目だよ~。藍大は私達のだからね~」
「その通り。結婚しなくても主なら時々クレープを作ってくれる」
「マスターは渡さないわっ」
「マスターを変態さんにする訳にはいかないのです!」
『☆⌒(σゝω・)σゴメンネ』
「そっかぁ。でも、お兄ちゃんがクレープ作ってくれるなら良いや」
リアル幼女はいけないと舞達は鉄壁の防御でブロックした。
結婚する発言の幼女も藍大にクレープを作ってもらえると聞いて引き下がった。
その幼女はまだ胃袋を掴まれても戻れる位置にいたらしい。
ミオとフィアが察して孤児達を連れて別の屋台へと移動していった。
「危ないところだったね」
「主、女は小さくても女なんだよ」
「きっぱり断らなきゃ駄目なんだからねっ」
「聞こえなかった振りは黙認と思われる可能性があるです」
『٩(๑òωó๑)۶ オコダヨ!』
(ハハッ、バレテーラ)
メロに自分の意図を読まれており、しかもそれが悪手だったと指摘されれば藍大も苦笑いするしかない。
「面目ねえ」
「気をつけてね。でも、私達の誰かが念のため一緒にいるからね」
「賛成。主を誑かす女は幼女でもブロックする」
「それが良いわっ」
「マスターは私達が守るです」
『┗(`・ω・´)┛フンヌッ!』
藍大の脇が甘いと判断し、舞達の誰かが常に傍にいることが決まった瞬間だった。
その後、藍大祭りが終わるまではずっと舞達に入れ替わりで護衛されていたのは言うまでもない。
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