第332話 どーも、冒険者さん。テングです

 2階に上がった藍大達が目にしたのは五合目より上の富士山だった。


「1階が樹海で2階は山頂への道のりか。富士山ダンジョンは内装が地域性特化なんだろうか?」


「”ダンジョンマスター”が富士山好きなんじゃない?」


「富士山に愛着のある”ダンジョンマスター”ってなんだ?」


「なんだろね~」


 藍大も舞もピンと来るものがなかったから2人の思考はそこで止まった。


『ご主人ご主人、ちょっと良い?』


「どうしたんだリル?」


『あそこの岩の上が吠えるのに良い感じなの。吠えて来ても良い?』


「存分に吠えておいで」


『ありがと~』


 リルは岩をぴょんぴょんと跳ねて高い場所まで移動すると、吠えたい衝動をそのまま実行に移した。


「アォォォォォン!」


「よしよし。良い感じに撮れてるな」


「藍大、後でその動画私にも送って」


「OK」


 リルが気持ち良さそうに<聖咆哮ホーリーロア>を発動している様子を藍大がばっちりスマホで撮影していた。


 舞はミョルニル=レプリカとアダマントシールドで手が塞がっているので、藍大の撮った動画が欲しいと頼んだ。


 藍大も最初から舞に共有するつもりだったから、舞のお願いに首を縦に振った。


『ウラヤマ━o(*・ω・*)o━スィ~』


「ゼルも遠吠えしたいのねっ」


「ゴルゴン、ちょっと違うですよ。ゼルは遠吠えがしたいんじゃなくて見晴らしの良いところで大声を出してみたいんです。ゼル、合ってるですか?」


『(゚ー゚)(。_。)(゚-゚)(。_。)ウンウン』


「ぐぬぬ。ゼル検定になかなか合格できないわねっ」


「ゴルゴンは空気を読めないところがあるですから、そんな調子じゃゼル検定に合格するのはまだ先です」


 (ゼル検定ってそんなのあんの?)


 元幼女トリオの会話を黙って聞いていたが、ゼル検定なる初めて耳にする単語が飛び出したから藍大は心の中でツッコんだ。


 リルが藍大達のいる場所に戻ってきた後、一行はしばらくの間モンスターに邪魔されることなく先へと進めた。


 2階に来て初めて遭遇したモンスターはメタリックカラーのゴリラの群れだった。


「「「「「ウホッホォォォォォ!」」」」」


 ゴリラ達は自分達を鼓舞するように叫んだ直後、足元に落ちていた大き目の石を藍大達に思いきり投げつけ始めた。


 メタリックカラーのゴリラはメタルゴリラという見たまんまのネーミングのモンスターであり、レベルが高くとも臆病なせいで群れる特徴があった。


 実際、藍大達に攻撃するメタルゴリラ達はLv70にもなるのに群れで行動している。


「私に任せな!」


 舞がカバーリングで藍大の前に素早く移動して光のドームを展開した。


 メタルゴリラ達が<怪力投擲パワースロー>で石を投げまくるが、舞の光のドームはびくともしない。


 藍大達に微塵もダメージを与えることができず、メタルゴリラ達が地団太を踏んで悔しがった。


 そんな隙だらけの瞬間に何もしないはずがなく、舞が光のドームを解除するのと同時にゴルゴンが攻撃を仕掛ける。


「ドーンなのよっ」


「「「・・・「「ウホァァァァァッ!」」・・・」」」


 散開せず密集しているメタルゴリラ達は的として申し分なく、ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>で一気にHPを削り切った。


 藍大がピクリとも動かなくなったメタルゴリラの死体を回収していると、周囲を警戒していたリルが敵の接近に気づく。


『ご主人、大きい敵が来たよ!』


「トロールだね~」


「アタシ、知ってるわ。トロールって馬鹿なのよっ」


『ヽ(o♡o)/エッソーダッタノ』


『そうなんだ~。フィアの方が賢い?』


「その可能性は大いにあるわねっ」


「・・・個体差があると思うですよ」


 ゴルゴンが得意気に言うと、ゼルとフィアが全く疑うことなく信じてしまう。


 メロがやんわりとツッコむあたり、メロもトロールは基本的に馬鹿だと思っているようだ。


 実際のところ、トロールはDEXやAGI、INTが低いけれど、HPとSTR、VITが高くて再生系のアビリティを保持していて倒すのに手間がかかる。


 無論、それは一般的な冒険者にとってという注釈が付くが。


 のっしのっしと自分達に向かって来るトロールに対し、射程圏内にいるのに近づかれるのを待つ理由はないから藍大は指示を出す。


「フィア、<火炎吐息フレイムブレス>だ」


『うん!』


 フィアは出番だと張り切って<火炎吐息フレイムブレス>を放つ。


 再生速度を上回る勢いでブレスを受け続けた結果、トロールはMP切れになって動けなくなってそのままHPも尽きて倒れた。


『フィアがLv95になりました』


『パパ、やったの! フィアだけで倒したの!』


「おう、ちゃんとフィアの雄姿を見てたぞ。レベルも上がったし良かったじゃないか」


『エヘヘ~』


 フィアは藍大に褒められて喜んだ。


 その後、トロール数体と遭遇してから”掃除屋”のトロールエリートが現れた。


 トロールにしてはシュッとした見た目だったため、すぐに普通のトロールではないと判断できた。


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 ゼルの<創氷武器アイスウエポン>が無数の氷の剣を創り出し、それをガンガン射出することでトロールエリートに再生させる間もなくHPを全損させた。


 雑魚モブモンスター並みのちょい役扱いで倒されたトロールエリートLv75に同情を禁じ得ない。


『フィアがLv96になりました』


 伊邪那美の声も普段と変わらないのだが、藍大にはそれがいつもよりも虚しく聞こえた。


 トロールエリートの死体から魔石を取り出すと、藍大はゼルを労ってからそれを与えた。


『ゼルがアビリティ:<敵意押付ヘイトフォース>を会得しました』


「ゼルはちゃっかりしてるなぁ」


『(ノ≧ڡ≦)てへぺろ』


 ゼルがミオ同様他の者に自分が稼いだヘイトを押し付けられるようになったので、藍大はしょうがない奴めと笑う。


 ゼルの顔文字はどことなく憎めないものであり、それがゼルの魅力でもある。


 トロールエリートを倒した藍大達は、メタルゴリラやトロールを倒しながら進んだ。


 雑魚モブモンスターが全く出て来なくなったところで、藍大達は開けた場所に到着した。


 そこには烏の翼を背中から生やして翁の仮面をつけた人型モンスターが待ち構えていた。


 仮面の主は山伏のような服装をしており、それが1階のフロアボス同様日本に馴染みのあるモンスターのようだった。


 藍大は目の前のモンスターの正体に心当たりがあったが、答え合わせのつもりでモンスター図鑑を視界に表示させた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:テング

性別:雄 Lv:80

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,500/1,500

STR:1,500

VIT:1,200

DEX:1,800

AGI:1,800

INT:1,800

LUK:1,200

-----------------------------------------

称号:2階フロアボス

アビリティ:<火炎吐息フレイムブレス><竜巻トルネード><吹雪ブリザード

      <螺旋降下スパイラルダイブ><硬化翼ハードウイング

      <霧分身ミストクローン><全耐性レジストオール

装備:グランパマスク

   山伏シリーズ

備考:なし

-----------------------------------------



 (長鼻じゃないけどやっぱり天狗テングか)


「どーも、冒険者さん。テングです」


「名乗った!?」


「相手が名乗ったら名乗り返す。当然のこともできないのですか? お仕置きが必要です」


 それだけ言うと、名乗ったことに驚く藍大達に対してテングはグランパマスクの口から<火炎吐息フレイムブレス>で攻撃した。


 だがちょっと待ってほしい。


 ゴルゴンがいるのに<火炎吐息フレイムブレス>が通じるだろうか。


 いや、通じない。


「甘いのよっ」


 <火炎支配フレイムイズマイン>でテングが吐き出した炎のコントロールを奪い、ゴルゴンはその炎でテングの形を真似てテングに向かって飛ばす。


 テングは咄嗟に<霧分身ミストクローン>を発動して自身の前に霧で作った分身を置き、テングを模った炎にぶつけて相殺した。


「挨拶もできないくせにやるじゃ・・・」


「そこがお前の墓場です!」


 テングがゴルゴンの反撃を除けて移動した場所は、メロが<停怠円陣スタグサークル>が仕掛けられていた。


 それにより、テングは喋っている途中で円陣の中に入ってしまって動きが止まった。


『お腹が空いたから終わらせるよ!』


 リルが<蒼雷罰パニッシュメント>を発動すれば、動けないテングが避けられるはずもなくその場で力尽きた。


『フィアがLv97になりました』


 (食いしん坊が食欲を優先するのは当然だよな)


 テングが戦闘を楽しく思い始めたであろう時には、あっさりと連携が決まって戦闘が終わった。


 戦闘よりも食事を楽しみたい食いしん坊ズがいるので、藍大はリルとゴルゴン、メロを労ってから急いでテングの死体を回収した。


 そこで得られた魔石はフィアに与えられ、フィアの羽の美しさが増した。


『フィアのアビリティ:<火炎吐息フレイムブレス>がアビリティ:<緋炎吐息クリムゾンブレス>に上書きされました』


「フィア、羽が綺麗になったな」


『わ~い! パパに褒められたの~!』


「愛い奴め」


 藍大は無邪気に喜ぶフィアを満足するまで撫でてやった。


 そして、リルが言った通り食いしん坊ズがお腹を空かせていたので今日の富士山ダンジョンの探索はここまでとした。

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