第331話 私の大好きを悪く言うから大嫌い

 藍大はハイオーガの死体を回収して魔石を取り出し、その魔石をゴルゴンに与えた。


『ゴルゴンのアビリティ:<陽炎ヒートヘイズ>がアビリティ:<幻影火炎ファントムフレイム>に上書きされました』


 (与えるダメージはないけど敵を恐慌状態にできるのは良いじゃん)


 <幻影火炎ファントムフレイム>の効果を速やかに確認し、藍大は良いアビリティだと判断した。


 このアビリティで創り出す火炎は触れてもダメージが生じない偽物だ。


 しかし、これが本物だったらやられていたと強制的に思考を誘導させて恐怖を抱かせる。


 相手に隙を作りたい時に有用なアビリティだと言えよう。


 ゴルゴンの場合、<火炎支配フレイムイズマイン>もあるから本物と偽物を織り交ぜて使えばフェイントとしても役に立つ。


 何か丁度良い実験台はないものかと辺りを見渡すと、藍大は通路の向こうからドスコイビートルが向かって来るのを見つけた。


「ゴルゴン、良い感じの実験台がこっちに来たぞ!」


「早速試すのよっ」


ゴルゴンが<幻影火炎ファントムフレイム>を発動したことにより、ドスコイビートルが幻の炎に包み込まれて恐慌状態になった。


 自分が火の中に突っ込んだと思っていたにもかかわらず、火の熱を感じなかったドスコイビートルは何がなんだかわからずに首を傾げた。


 時間差で恐慌状態に襲われ、ドスコイビートルはパニックになって藍大達に向かって突撃を再開する。


「アタシは拒絶するのよっ」


 今度は<拒絶リジェクト>で吹き飛ばした結果、ドスコイビートルはピクリとも動かなくなった。


「ゴルゴン、実際に使ってみてどうだった?」


「応用が利く良いアビリティだったわねっ」


「そりゃ良かった。死体の回収を済ませたら先に進もう」


「はいなっ」


 ゴルゴンが新たなアビリティの使い心地に満足したのを確認すると、藍大達は道の先へと進んだ。


 リルは少し進んだ所で道の真ん中に箱らしき何かがあるのを見つけてピクッと反応した。


『ご主人、あそこに何か箱っぽいものがあるよ』


「宝箱とは違うのか?」


『違うと思う。宝箱を見つけた時と何かが違うの』


「そっか」


 (宝箱じゃないならミミック派生種って可能性があるな)


 藍大はそのように判断してモンスター図鑑でヒットしないか調べてみた。


 その結果、前方にある箱はチェンジミミックというモンスターだった。


 ミミックとある通り宝箱に擬態しているのは通常種と変わらないが、チェンジミミックは<等価交換エクスチェンジ>と<通路妨害インピード>を会得していることが特徴である。


 チェンジミミックは何かを交換するまで先へ通させないという我儘なミミックという訳だ。


 何か交換すればスムーズに通してもらえるだけでなく、交換した後に隙が生じるからそのタイミングを突いて倒すのがモンスター図鑑のオススメらしい。


 (何を交換しようか。シャングリラ産の物を交換して望まない物が出るのは嫌だな)


 藍大は考えた結果、ハイオーガが武器として使っていたテラーフェイスメイスを交換に出すことを思いついた。


「みんな、これをチェンジミミックに与えて別の物と交換してもらっても良いか?」


「良いよ。ハイオーガの武器なんていらないもん」


『僕も賛成』


『要らない』


「不気味だし不要だわっ」


「ポイするの賛成です」


『╰( ^o^)╮-=ニ=一=三』


『パパが良いならフィアも良いよ~』


 ゲンも含めて全会一致でテラーフェイスメイスを交換に出すことが決まったので、リルの<仙術ウィザードリィ>で2本のテラーフェイスメイスをチェンジミミックの前に置いてみた。


 2本のメイスが目の前に置かれた途端、チェンジミミックの蓋兼口が開いてその中から触手が飛び出した。


 触手が交換対象となった2本のメイスをまとめて口の中に運ぶと、チェンジミミックの体が光ってから紫色の液体の入った丸底フラスコがチェンジミミックの正面に現れた。


「リル、あのアイテムを回収。それを確認したらフィアが攻撃」


『うん!』


『は~い!』


 藍大の指示通りにリルが<仙術ウィザードリィ>でアイテムを回収した直後に<緋炎嵐クリムゾンストーム>でチェンジミミックを燃やした。


 アイテムを交換して油断していたところを突かれ、チェンジミミックはあっさりと黒焦げにされた。


「倒したな。リルとフィアはお疲れ様」


「クゥ~ン♪」


『わ~い♪』


 リルとフィアは頭を撫でられてご機嫌になった。


 チェンジミミックの死体を回収した後、藍大は見覚えのある紫色の液体の入った丸底フラスコをメロに持ってもらって鑑定した。


 (やっぱり3級ポーションだったか。でも、奈美さんが作ったのと比べて質が悪い)


 藍大はハイオーガの武器が質の悪い3級ポーションと等価だと知って微妙な気分になった。


 質が悪いとはいえ4級ポーションよりも回復量は多いけれど、藍大達が今必要かどうかと訊かれれば首を傾げざるを得ないものだった。


「3級ポーションだった。しかも奈美さんが作ったのより粗悪なやつ」


「だってハイオーガの武器だもん。仕方ないよ」


「舞はマジでハイオーガが嫌いなんだな」


「私の大好きを悪く言うから大嫌い」


「・・・昼は何が食べたい?」


「リクエストして良いの? それならトライコーンのメンチカツ!」


『メンチカツ!』


 舞に言われたことが嬉しくて、藍大は舞に昼食のリクエストを訊いた。


 舞のチョイスにリルもグッドアイディアだと言わんばかりに尻尾を振った。


「OK。トライコーンのメンチカツだな。帰ったら作ろう」


「こうしちゃいられない。バリバリ探索してお腹を空かせないとね~」


『大丈夫! 僕達はご主人のご飯が目の前に出て来ただけでお腹が空くから!』


「それもそっか~」


 料理が出てきたらお腹が空く。


 食いしん坊ズ的には至言なのだろう。


 昼食が楽しみになったところで、リルが瞬時に警戒態勢を取った。


 それが意味するところは敵の接近である。


 茂みから飛び出したのはミノタウロスの上半身に蜘蛛の下半身を持つ化け物だった。


「ここまでやって来る者がいるとは驚いたぞ」


「お前は流暢に喋れるんだな」


「ハイオーガと一緒にしないでくれたまえ」


「まあ見た目からして別物だろ」


「そういう意味ではない。格の問題だ」


 このやり取りをしている間、藍大は茂みから現れたモンスターの正体を調べていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ギュウキ

性別:雄 Lv:70

-----------------------------------------

HP:1,700/1,700

MP:1,200/1,200

STR:1,600

VIT:1,600

DEX:1,200

AGI:1,500

INT:1,000

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:1階フロアボス

アビリティ:<剛力斬撃メガトンスラッシュ><剛力投擲メガトンスロー><体圧潰ボディプレス

      <糸刃スレッドエッジ><麻痺糸パラライズスレッド

      <猛毒網ヴェノムウェブ><全半減ディバインオール

装備:ヴェノムアックス

備考:不快

-----------------------------------------



 (上半身は食用なの!?)


 藍大はステータスそっちのけでギュウキが食用か否かの結果に目を奪われていた。


 ギュウキは見た目通り上半身がミノタウロスなので、モンスター図鑑によると上半身は食べられるとわかった。


「ギュウキ、お前って上半身は食べられるらしいぞ」


「・・・は?」


「藍大、下半身が蜘蛛だから食欲出ないよ」


『そうだよご主人。見た目だって大事なんだよ?』


「おい、貴様等。俺を倒せると思ってるのか!?」


「逆に倒せないと思った? ゴルゴンとメロに任せる」


「まっかせなさい!」


 ゴルゴンが<幻影火炎ファントムフレイム>で素早く先制し、ギュウキは動くのに遅れてそのまま炎に包まれる。


「効かぬわ!」


 威勢よく大声を出すも、ギュウキはその直後に恐慌状態に陥って体をガクガクと振るわせる。


「虫は殺すに限るです!」


 そう言ってメロが<魔刃弩マジックバリスタ>の蜘蛛の部分に大きな風穴を開けると、ドサリと音を立ててギュウキは倒れた。


『フィアがLv94になりました』


 伊邪那美の声が戦闘終了を告げたので、藍大はゴルゴンとメロを労った。


 ギュウキの死体はさっさと回収し、その魔石はメロに与えられた。


『メロのアビリティ:<怠雲羊波シープウェーブ>とアビリティ:<停止綿陣ストップフィールド>がアビリティ:<停怠円陣スタグサークル>に統合されました』


『メロがアビリティ:<魔力接続マナコネクト>を会得しました』


 (停止とデバフが同時にできんの? MPの振り分けも便利じゃん)


 メロの新たなアビリティはどちらも支援系のアビリティである。


 <停怠円陣スタグサークル>は円陣の上にいる敵の動きを止めるだけでなく、全能力値を1割減らせる効果がある。


 足止めと範囲デバフを同時に使えるのは嬉しい変化だろう。


 もう一つの<魔力接続マナコネクト>については、対象と自分のMPを足して2で割るアビリティだ。


 MPを消耗してしまった時に自分や相手のMPを融通できるのも便利と言えよう。


「メロは支援が得意なお姉さんになったな」


「はいです! 私がみんなを支えるですよ!」


「よしよし」


 メロは藍大に褒められてニカッと笑う。


 藍大達は1階でやるべきことを終えたが、まだ昼まで時間がかなりあるので2階へと進むことにした。

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