第330話 悪い鬼はいねえがぁぁぁっ!

 藍大は準備を終えてから富士山五合目にある富士山ダンジョンにやって来た。


 同行するメンバーは舞とリル、ゲン、元幼女トリオ、フィアだ。


 知られている広さから考え、今日1日だけでは踏破できないと考えてブラドはサクラや優月、ドライザー、ミオと一緒に留守番している。


 富士山ダンジョンの中に入ると、藍大達の視界には樹海が広がった。


「富士の樹海が富士山五合目にできるってファンタジーしてるよなぁ」


「藍大、それを言ったらシャングリラなんて1階から地下4階まで日替わりだよ?」


「それもそっか。そう考えればこれぐらいは大したことないな」


「うん」


 舞の言う通り、シャングリラは日替わりの階層と曜日を問わない階層が両方入っている。


 だとすれば、富士山五合目に樹海があることぐらい些細な変化と思えるだろう。


『パパ、上から様子見て来て良い?』


「頼んだ」


『は~い』


 フィアは上空から1階の様子を確かめるべく、空高く飛び上がった。


 360度ぐるっと回って周囲の光景を確認してから、藍大の肩へと戻って来た。


「フィア、どうだった?」


『えっとね、端が見えなかったの』


「どんだけ広いんだよ」


『それは違うよ』


 自分とフィアのやり取りにリルが口を挟んだので、藍大は期待を込めてリルに訊ねた。


「何かわかったのかリル?」


『このフロア全体が強力な幻影で覆われてる。間違った方向に進むと、自然と元の場所に気づかぬ内に戻る仕組みなんだよ。僕には正しい道がわかるから安心してね』


「それってループマップダンジョンってこと?」


「ループマップ? 字面からして延々と同じ所を彷徨う感じ?」


「うん。海外ではそういった事例が見られるダンジョンもあるんだって」


「マジか。舞が物知りで助かった」


「フフン。産休中は復帰してから藍大の役に立てるように色々勉強したの」


「ありがとう」


 藍大は舞に感謝の気持ちをハグで表現してみせた。


 舞がパーティーから一時的に離脱している間も自分達のために勉強してくれていたことは知っていたが、その勉強した成果が初見のギミックにも通用したとわかって嬉しかったのである。


『僕も撫でてね』


『フィアも』


「よしよし」


 ギミックを看破したのは舞とリル、フィアのおかげなので、藍大は当然リルとフィアのことも労った。


 それからリルに先導してもらって藍大達は正しい道を進み始めた。


 すると、進行方向の両脇にある木からウッドサーペントが一斉に襲いかかった。


「ここは私のフィールドです」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>で周辺の木から垂れ下がった蔓を操ってウッドサーペント達を木に縛り付けた。


「よくやった。ゼル、とどめを刺して回れ」


『了━d(*´ェ`*)━解☆』


 ゼルは<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒の散弾を放ち、身動きの取れなくなったウッドサーペント達をあっさりと仕留めていった。


『フィアがLv92になりました』


 システムメッセージ、いや、伊邪那美の声がフィアのレベルアップを告げた。


「メロとゼル、お疲れ様。それにしても、最初からウッドサーペントLv60ってまあまあ殺意高いよな」


「それだけ正しい道を行かせたくないんじゃないかな?」


「なるほど。強めのモンスターで正しい道を塞いで冒険者を迷わせるのか。なんて嫌らしいやり口なんだ」


 富士山ダンジョンの”ダンジョンマスター”がやり手であると理解し、藍大は周囲の警戒をリルとフィアに任せてウッドサーペントの死体を回収した。


 狩り終えた後の油断を狙うことを想定するのは当然の対処と言える。


 回収作業を終えて再び進み出すと、藍大達の進む道の奥から今度はボクサーベアの群れが待ち構えていた。


 どの個体もその場でシャドーボクシングをしており、いつでも戦える様子である。


「ゴルゴン、吹っ飛ばせ」


「ドーンなのよっ」


 ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>を発動すれば、距離を詰めることもできずにボクサーベア達は吹っ飛んだ。


 しかも、なんの偶然なのか吹き飛ばされたボクサーベア達は全てヤムチャしやがってのポーズだった。


 もっとも、冷静に考えると藍大達の前に立ちはだかることは雑魚モブモンスターにとって無茶であるのは事実なのだが。


『ヽ(≧▽≦)ノ"ワーイ』


「ゼル、リアルで見れて良かったな」


『*。ヾ(。>v<。)ノ゙*。』


 藍大はゼルが喜んでいる理由を察してゼルの頭を撫でた。


「ちょっと待つのよっ。戦ったのはアタシなのよっ」


「ごめんごめん。ゴルゴンもよくやってくれた」


 ゴルゴンが自分は頭を撫でてもらってないと抗議したので、藍大はゴルゴンのことも機嫌が直るまで撫でた。


 ボクサーベアの群れの死体の回収を素早く済ませ、そのまま先へと進む藍大達の前に10tトラックサイズの甲虫が現れた。


「ドスコイビートルLv60! 名前の通り突撃が来るぞ!」


 藍大がそう言った直後、ドスコイビートルは全力で藍大達に突撃した。


「しゃらくせえ!」


 舞が光を纏わせたミョルニル=レプリカで打ち上げるようにスイングすると、ドスコイビートルは5m程飛ばされて背中から落ちた。


 舞に力勝負するなんて自殺願望があるのではないかと疑ってしまう。


 ちなみに、雷まで纏わせなかったのは舞が手加減したからである。


 もしも舞が雷光を纏わせてフルスイングしてしまえば、虫汁ブシャーな悲惨な状況になると自分でもわかっていた。


 それゆえ、そんなことにはならないように舞が倒せるのを前提とした手加減をした。


 実力的には平気だとわかっていても、ドスコイビートルの大きさは10tトラック並みだ。


 藍大は戦力差を考えて無事だと頭ではわかっていても、舞を心配せずにはいられなかった。


「舞、大丈夫か?」


「全然へっちゃらだよ~」


「体を張ってくれてありがとな」


「えへへ、どういたしまして」


 虫に触るのはちょっとと女性陣が嫌がったため、藍大がササッとドスコイビートルの死体を回収した。


 ドスコイビートルがやって来た方向は正しい道であり、藍大達はリルの先導で更に先へと進んで行く。


 次に姿を現したのは恐怖に歪んだ顔によく似た打撃部のメイスを両手に持った鬼だった。


「オーガにしてはスラッとしてるかな。派生種かも」


「調べてみよう」


 舞がオーガ派生種ではないかと予想した鬼に対し、藍大はモンスター図鑑でその正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ハイオーガ

性別:なし Lv:65

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,000/1,000

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:1,000

AGI:1,500

INT:0

LUK:1,000

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   ノーガード

アビリティ:<怪力打撃パワーストライク><残忍強撃ブルータルスマイト><震撃クエイク

      <二刀流ツーウェイプレイヤー><強化叫エンハンスクライ><全半減ディバインオール

装備:テラーフェイスメイス×2

備考:歓喜

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 (完全に物理特化じゃないか。しかも殺る気満々だし)


「ハイオーガLv65。物理特化で守りに入らず攻めまくる戦闘スタイルだ」


「カッカッカ。守ラレテルオ荷物ノクセニ俺ノコトヲヨクワカッテルジャネエカ」


「あ゛?」


 ハイオーガが藍大を馬鹿にした途端、舞のスイッチが入った。


 いや、これは入ってしまったと言うべきだろうか。


「ナンダ雌ノヘブッ!?」


 ハイオーガが何か言っている途中ではあるが、舞が光を付与したアダマントシールドをハイオーガの顔面に投げつけて強制終了させた。


 怯んだハイオーガとの距離を詰め、舞は雷光を纏わせたミョルニル=レプリカをその胴体に向かってフルスイングした。


「悪い鬼はいねえがぁぁぁっ!」


 舞の攻撃によってハイオーガは木に激突するまで吹き飛ばされ、ハイオーガは衝突ダメージを負った時には既にHPが尽きていた。


 どう考えてもオーバーキルとしか言いようがない。


『フィアがLv93になりました』


「もう大丈夫! 藍大を悪く言う奴は懲らしめたからね!」


 舞はハイオーガを倒したとわかってすぐに藍大に駆け寄って抱き締めた。


 藍大はそんな舞を抱き締め返してお礼を言った。


「ありがとな。舞が代わりに怒ってくれてスッとした」


「そう? それなら良かった」


 藍大が落ち込んでいるんじゃないかと思って心配していたが、そうではなかったと知って舞はホッとした。


『舞、グッジョブ!』


『感謝』


「よくやってくれたわっ」


「マスターを侮辱する奴は殺って良しです!」


『(・∀・)イイネ!!』


『舞ママすごい!』


 リル達従魔も主人藍大を馬鹿にされてムカついていたらしく、舞が速攻でハイオーガに力の差を思い知らせたことを称賛した。


 藍大に直接的な戦闘力はないが、命が惜しいのなら家族に愛されている魔王様を馬鹿にしてはいけないということは間違いない。

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