第329話 問題ない。金ならある
藍大が目を覚ました時、舞達に顔を覗き込まれていた。
「あっ、起きた。おはよう、藍大」
「主、おはよう」
「アタシより遅く起きるなんてお寝坊さんねっ」
「マスター、おはようです。ゴルゴン、マスターだって偶にはゆっくり寝たいですよ」
『|。+.玄関。+.|ミ☆ヘ(`・ω・)ノ┌┛オハヨウ!!』
「・・・おはよう。みんな揃ってどうしたんだ?」
「リル君が藍大を独占してて羨ましいねって話してたの」
「独占? ・・・ホントだ」
藍大は横を見てみると、リルが藍大にしがみ付くように寝ていた。
舞達としては微笑ましく思うのと同時に羨ましいと思うのも当然だろう。
藍大達の会話で意識が覚醒したらしく、リルも目を覚ました。
『ワフ~ン。ご主人、みんなもおはよ~』
「おはよう、リル」
「リル君、ぐっすり眠れた?」
『うん! 夢の世界でご主人と一緒に伊邪那美様に会った!』
「「「「えっ?」」」」
『( ゜Д゜;)!?』
リルの発言が聞き取れなかった訳ではないが、舞達はリルの口にした言葉が頭に入って来なかったようだ。
そこに上体を起こした藍大が補足を入れる。
「リルの言ったことは事実だ。俺とリルは夢の中で伊邪那美様に会った」
藍大はそれから舞達に自分の寝ている間に起きたことを説明した。
「お義母様って巫女さんだったんだね~」
「神様って本当にいたんだね」
「一緒に写真撮ってみたかったのよっ」
「リルが羨ましいです。次は私もマスターと同じ夢を見たいです」
『Σ(=д=;)=д=;)=д=;)(・д・ノ;)ノジェットストリームビックリ!!』
全てを聞き終えた後、舞達はそれぞれ違う反応を示した。
舞は藍大の母親について知ることができて嬉しかったらしい。
サクラは神話を過去の人々の想像だと思っていたらしく、伊邪那美が実在していることに驚いたようだ。
ゴルゴンはミーハーっぽく一緒に写真を撮りたがった。
メロは藍大と一緒の夢を見るというシチュエーションに興味津々だった。
ゼルは聞いた話全てに驚いてノリがとんでもないことになっていた。
「まんま」
「優月はお腹が空いてたか。ごめんな。今から作る」
「あい」
舞の腕の中にいた優月はお腹が空いたとアピールしたので、話を切り上げて藍大達は朝食の準備に取り掛かった。
朝食後に寝室に来なかった従魔達にも説明をし、藍大は茂に依頼をするべく電話をかけた。
「おはよう。今時間あるか?」
『おはよう。時間はあるけど待ってくれ。胃薬を飲んでない』
「胃薬は胃が痛くなる話の前に飲めば効くって訳じゃないぞ?」
『飲まなきゃやってられねえんだよ』
「ここだけ録音してたらアル中みたいだな」
『誰のせいだ』
「誰のせいだろうな。ところで、今は茂の周囲に人がいるか?」
惚けてわからない振りをしつつ、藍大は茂に人払いが必要なことを暗に伝えた。
『いねえけどやっぱりトンデモ情報をぶち込んで来る気満々じゃねえか』
「日本全国でスタンピードが起きなくなる方法を知った。知りたいだろ?」
『何それ知りたい。わざわざ連絡して来たってことは、今順調に進んでる三原色と白黒クランを巻き込んだダンジョン探索の統括とは別口だろ?』
「察しが速くて助かる。話をする前に俺の称号を鑑定してもらいたいんだ。ビデオ通話に切り替えて良いか?」
『OK』
藍大は茂の許可を得てから通話をビデオ通話に切り替えた。
「んじゃ早速鑑定してくれ」
『わかった。・・・は? おいおいおいおい、お前どゆこと? えっ、ちょ待てよ』
「キ〇タク乙」
茂は藍大の称号欄に”伊邪那美の神子”の文字を見つけてどう反応して良いかわからなくなった。
茂の立場になって考えてみてほしい。
よく知る幼馴染が突然”伊邪那美の神子”なんて称号を手に入れたと言って来たとしたら、その事実を受け止められるだろうか。
頭がキャパオーバーになって呆然としてしまう者だっているに違いない。
茂は深呼吸して落ち着きを取り戻してから会話に復帰した。
『何があったか言ってみ。俺、これ以上驚くことはないだろうから』
「そっか。じゃあ安心だな。実は、リルの力を借りた伊邪那美様が俺とリルに同じ夢を見させてそこに現れてな」
『前言撤回だ。ごめん、謝る。俺が甘かった。最初からついていけない。伊邪那美様ってそんなことできんの?』
「できるんだ。聖獣の称号を持つリルと俺が一緒に寝てたから、伊邪那美様が精神世界に俺とリルを引っ張って来れたらしい。ドライザーやミオ、フィアでも同じことができるっぽい」
『聖獣にそんな秘密があったとはなぁ。いや、聖獣だから伊邪那美様に通じたって考えるべきか』
茂はついていけないと言う割にはしっかりと藍大の話について来ていた。
なんだかんだ言って茂がイレギュラーな事態に慣れたのだろう。
「そゆこと。端的に言うと、伊邪那美様の力を回復させれば日本全国のダンジョンのスタンピードを防げるから、そのために頼まれ事2つクリアせにゃならん」
『神様からクエスト受けるとか他の冒険者との違いが酷いな』
「そんなこと俺に言われても困る。クエストの中身言って良い? というか、1つは職人班の力が必要なんだわ」
『そこで頼られるウチの職人班すげえ。何を作ってほしいんだ?』
スケールの大きな話に戦力としてカウントされるDMUの職人班に対し、茂は感動せずにはいられなかった。
実際のところ、今でも三原色クランのバックにあるメーカーに引けを取らないDMUの職人班は大したものだ。
これは”楽園の守り人”が提供したレアモンスターの素材により、職人班の熟練度が大幅に伸びたおかげである。
間接的に藍大達が熟練度上げに貢献してきたため、その力で今度は藍大達を助けることになる訳だ。
「神棚と神鏡。神棚はバトルトレント製で神鏡はヒヒイロカネ製でよろしく。それらを102号室に飾ってほしいんだと」
『わかった。最高級の神棚と神鏡を依頼しとく。値が張っても構わないか? 勿論、素材は藍大が用意してくれるからその分安いけど』
「問題ない。金ならある」
『マジかっけぇ』
伊邪那美の頼み事をクリアすれば、スタンピードの発生で藍大達が招集されることはなくなる。
家族の時間を確保するためならば、値が張っても一向に構わないというのが藍大の正直な気持ちだ。
「これが子持ちのパパの
『子供なぁ。俺も欲しいところだが貯金が足りねえ。行き当たりばったりな家族計画は計画にあらずだ』
「千春さん子供欲しそうじゃん。ウチに来るといつも優月を羨ましそうに見てるけど、そこんとこどうなの?」
『千春さんには早く子供欲しいってめっちゃせがまれてる』
「俺知ってる。そのパターンって茂が折れるんだ」
『そんなことはない。とは言えねえんだよなぁ・・・』
結婚式も茂の頭の中では貯金に余裕ができてからのはずだったが、千春がジューンブライドに憧れて茂にお願いしまくったことで茂が折れた。
この前例がある以上、茂の計画通りに事が進むとは言い切れないだろう。
「まあ頑張れ。脱線しちゃったけど伊邪那美様の2つ目の頼み事に話を移すぞ。2つ目は富士山ダンジョンを潰すことだ」
『富士山ダンジョンかぁ。日本の全てのダンジョンでスタンピードが起きなくするようにするんなら、ある意味納得の難易度だわ』
「という訳で、この電話が終わったら早速行ってみる」
『マジか。あそこは探索に行ったまんま行方不明になる冒険者もいるから気をつけろよ』
「リルがいるから大丈夫」
『そうだった』
リルがいれば迷うことはないし、探し物があれば必ず見つかる。
富士山ダンジョンでは発見報告のない宝箱もリルならば見つけられるだろう。
そう思って茂は杞憂だったなと笑った。
「最後に茂に言っておくが、俺の称号についてはお前の胸に留めてくれ。小父さんにも報告はするな」
『確かにこれは政治に利用されたくない極秘案件だな。わかった。黙っとく』
「頼んだぞ。もしもDMU内でバレてたら茂にはもう料理作ってやんないから」
『それだけは勘弁してくれ! お前、”伊邪那美の神子”になって料理の腕前も上がってるだろ! 絶対口外しないからまたランチミーティングに招待してくれ!』
「千春さんの作ってくれる料理があるだろうが」
『それはそれ! これはこれだ!』
「さよか。とりあえず、神棚と神鏡の件は頼んだぞ」
『わかった。任せとけ。上手いこと職人班には言っとくから』
藍大は茂との電話を終えて富士山ダンジョンに向かう準備に移った。
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