第321話 三次覚醒、良いよね

 三次覚醒を終えた司と未亜のパーティーは、一旦101号室を出てから合同でシャングリラダンジョン地下8階にやって来た。


 早速、獣人幼女スタイルのリュカがトリオレイヴンを警戒して口を開く。


「墜ちろ!」


 リュカが叫んだ瞬間、何もいないように見えた空間の所々でブレが生じた。


「ウチの出番や!」


 未亜はタラスクシューターから魔力矢を放ち、三次覚醒で会得した矢分身を使う。


 そのいくつかが体に命中したらしく、5体のトリオレイヴンが透明な状態から色彩が元通りになって墜落した。


 リュカの放ったアビリティは<言霊パワーオブワーズ>というもので、<鳴音砲ハウルキャノン>と<絶望叫ディスペアークライ>が統合して得られたものだ。


 INT依存ではあるが、INTが<言霊パワーオブワーズ>の対象となった者のVITを上回っていると口にした動作が現実になる。


 リュカのINTと対象のVITに差があればあるほど効果は出やすい。


 今の場合、天井近くを飛んでいた5体のトリオレイヴンの高度が半分まで下がったぐらいだった。


 地面に墜落したトリオレイヴン達だが、まだ辛うじてHPは残っているのかピクピクとしている。


「とどめは任せて。僕も実験する」


 司はヴォルカニックスピアを投擲して手前のトリオレイヴンに刺さったのを確認すると、三次覚醒で会得した力を行使して手元に槍を呼び戻す。


 そして、残り4体についても同じように投擲と回収を繰り返した。


「うん、これは便利。三次覚醒ってすごいね」


「さっきは適当になんちゃってオーディンって言ったけど、これなら本当に二つ名が変わるかもね」


「そうかな!?」


 麗奈の感想が聞こえたらしく、司は期待に満ちた目で麗奈に詰め寄った。


「お、落ち着いてよ司。私が判断するんじゃないもの」


「・・・ごめん」


 麗奈と司のやり取りを見て、健太はそんなこともあるのかと驚いた。


「司が暴走するなんて珍しいなぁ」


「それだけ今の二つ名を変えたいっちゅうことやろ」


「先に変わっちゃってごめんな?」


「どついたろか?」


「ダンジョン内で喧嘩しない」


「「はい、すみません」」


 二つ名が呼ばれて恥ずかしくなくなった健太が煽り、それを未亜が拳を握ったのを察したので保護者のパンドラがすぐに2人に対して注意する。


 やはりパンドラは派遣されしお目付け役の二つ名に相応しかった。


 司達は落ち着きを取り戻すと、トリオレイヴンを相手に苦戦せずに済んだことに感動した。


 折角地下7階を突破したにもかかわらず、見えないトリオレイヴンの群れをここまで簡単に倒せたことなんて今日まで一度もなかったからだ。


 それでも、油断することなくアスタとマージを警戒に当たらせて死体の解体と回収を済ませた。


 その作業が終わって先に進んで行く内に、今度は通路の奥から隊列を組んだアスパラディン達がやって来た。


「マッスルイズビューティフォォォ!」


 アスタは<挑発体位タウントポーズ>を発動してボディビルのアピールタイムが始めた。


 フロントリラックスポーズからモストマスキュラーへと移行しつつ、筋肉が美しいのだと叫ぶ。


 これによってアスパラディン達が激昂し、アスタに向かってアスパラの槍を次々に投げつける。


「やれやれ。いただきます」


 パンドラは<保管庫ストレージ>で投げられた槍を直接回収してみせた。


 それならばいただきますと言ったのも頷ける。


 槍を失ったアスパラディン達に対し、アスタが駄目押しの挑発としてバックダブルバイセップスを見せる。


「ヘイヘイヘ~イ! Come on!」


「最後だけ無駄に発音良くてムカつくわね」


「確かに。アスパラディンじゃなくたってイラつくよ」


 ポージングだけでなく口でも煽るアスタを見れば、麗奈と司がアスパラディン達に同情してしまうのも無理もない。


「射撃訓練に付き合ってくれよな!」


 いくつもの薄く鋭い岩の刃を創り出し、健太はそれを使ってアスパラディン達に撃ち込んでいく。


 貫通力に特化させることで鎧に細長い風穴が空き、アスパラディン達は次々に倒れていった。


「ほぉ、健太もやるやんけ」


「コッファーなしでもこの威力。堪りませんな」


 健太が三次覚醒で会得した自身の新しい力にぼーっとしているので未亜が声をかける。


 声をかけられたことにより、健太も我に返って得意気に振舞った。


 司達はアスパラディンの死体の回収を済ませ、今度は通路の奥から転がって来るヒヒイロヘッジホッグの群れを視界に捉えた。


「今度は私の番ね。そいや!」


 麗奈が構えた拳に気を溜め込み、それを突き出すことで気の弾丸が前方に射出される。


 先頭のヒヒイロヘッジホッグに気の弾丸が触れた途端、それが膨張してヒヒイロヘッジホッグの群れの動きが完全に止まった。


 しかも、衝撃波の影響で無理矢理止められたせいでヒヒイロヘッジホッグ達は完全に怯んでいた。


「やっぱり波〇拳やないか!」


「クソッ、かめ〇め波じゃないのか!」


「言ってる場合じゃないでしょ。マージ、追撃よろしく」


「任せたまえ」


 麗奈の攻撃に未亜と健太が騒いでいると、司がやんわりとツッコんでマージに追撃の指示を出す。


 マージは<吹雪ブリザード>で怯んでいるヒヒイロヘッジホッグ達をまとめて凍りつかせ、そのままHPを削り切った。


 ヒヒイロヘッジホッグを倒したことにより、司達は昨日まで苦戦していた地下8階の雑魚モブモンスター全種類を倒した訳だ。


 これには司達も自分達のパワーアップぶりに感動しないはずがない。


「三次覚醒、良いよね」


「「「良い」」」


 多くは語らずとも通じ合っている感じがする1コマだった。


 ヒヒイロヘッジホッグの死体を回収した後、司達はまだまだ余力があったので”掃除屋”のスレイプニルがいるであろう広間へと向かった。


 途中でトリオレイヴン等の雑魚モブモンスターが何度か現れたものの、司達は大して苦労することなく壁画のある場所に到達した。


「ヒヒィィィィィン!」


 スレイプニルは司達を見つけて早々に<鳴音砲ハウルキャノン>を発動した。


「アスタ、筋肉の力見せてみ!」


「マッスル!」


 返事がマッスルなのはさておき、アスタは<剛力斬撃メガトンスラッシュ>の斬撃でスレイプニルの<鳴音砲ハウルキャノン>を撃ち破った。


「ヒヒィン!?」


 牽制目的だったとはいえ、まさかそんな力技で自分の<鳴音砲ハウルキャノン>が破られるとは思っていなかったようだ。


 アスタの斬撃の射線から離れていたが、脳筋一直線な斬撃に目を奪われていたせいでスレイプニルはリュカの接近に気づくのが遅れた。


「ていっ!」


 深淵を一点集中した拳で顎をしたから殴られ、スレイプニルがたたらを踏んだ。


 リュカのアッパーがただの<暗黒拳ダークネスフィスト>であれば、スレイプニルは<全耐性レジストオール>でよろめかずに済んだ。


 しかし、先程のリュカの攻撃は<深淵拳アビスフィスト>である。


 威力は<暗黒拳ダークネスフィスト>とは比べ物にならず、油断したところにそれがクリーンヒットすればよろめかない訳がなかった。


 そこに遠距離攻撃が得意な面々の追撃が加わる。


 未亜の矢分身によって増えた矢にタラスクコッファーから撃ち込まれる魔弾、マージの<紫雷光線サンダーレーザー>である。


 さらに言えば、司も駄目押しのつもりでヴォルカニックスピアを投擲している。


 投擲されたヴォルカニックスピアがスレイプニルの脚の1本を貫通し、その痛みでスレイプニルが叫ぶ。


「ヒヒィィィィィン!」


 痛みによって冷静さを失っており、狙いを定めた様子もなく<紫雷波サンダーウェーブ>を撒き散らした。


「危ない!」


 パンドラが<魔力半球マジックドーム>で司達を覆い、どうにかスレイプニルの攻撃を凌いだ。


 ところが、パンドラが<紫雷波サンダーウェーブ>を防いだ頃にはスレイプニルが<帯雷隕石サンダーメテオ>を発動していた。


 雷を帯びた隕石の雨はパンドラの<魔力半球マジックドーム>でも防ぎ切れず、ドームを撃ち破っていくつかの隕石が司達を襲った。


「迎撃すんで!」


「俺達に任せろ!」


 未亜の矢分身と健太が岩の刃が隕石を小さく砕いていき、どうにかスレイプニルの攻撃は司達にダメージを与えることなく終わった。


 それでもスレイプニルは<無音移動サイレントムーブ>と<空間跳躍エリアジャンプ>、<剛力踏潰メガトンスタンプ>を組み合わせて司達を頭上から踏み潰そうとした。


「上!」


「わかった!」


「それっ!」


 リュカが臭いでスレイプニルの位置を感じ取って伝達すると、司の投擲と麗奈の気の弾丸がスレイプニルの腹部に命中する。


 その結果、スレイプニルは体を大きく仰け反って背中から地面に倒れた。


「ん゛ん゛んんん!」


 倒れたスレイプニルの首目掛けてアスタがタラスクアックスを振り下ろし、スレイプニルの首が宙を舞った。


 ぼとりと音を立ててそれが地面に落ちたことで、司達はスレイプニルに勝ったことを実感できた。


「「ナイスバルク!」」


 とどめを刺したアスタに対し、喜ぶ声よりも先に筋肉を褒める未亜と健太がいたのはどうしようもないことだった。

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