第318話 ステーキが僕を待ってるんだ!

 ベリアルの死体を回収し、先に取り出した魔石はゼルに与えられた。


『ゼルのアビリティ:<氷雨アイスレイン>とアビリティ:<吹雪ブリザード>がアビリティ:<創氷武器アイスウエポン>に統合されました』


『ゼルがアビリティ:<武器精通ウエポンマスタリー>を会得しました』


「ゼルはドライザーやミオみたいなことまでできるようになったのか」


『((`・∀・´))ドヤヤヤャャャャ』


「愛い奴め」


 藍大はゼルのドヤ顔が愛くるしかったのでその頭を優しく撫でた。


 ゼルのパワーアップが終わってすぐに探索を再開し、藍大達は通路で遭遇したネメアズライオンとペンドラ、ガルムを倒してボス部屋までやって来た。


 前回はルシファーがいたボス部屋だが、今回は別のモンスターが待機している。


 ブラド曰く美味しいモンスターらしいけれど、どんなモンスターなのかまではネタバレになると言って藍大達に教えなかった。


 (こればっかりは入ってみてのお楽しみって訳だ)


 リルが<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けると、今までの内装とは異なって金色しかない部屋だった。


 奥には果実の生った巨大な樹が見えたが、その手前にはパッと見ただけで数え切れない程の頭を持つ大きな赤竜が待ち受けていた。


「「「・・・「「死ね」」・・・」」」


 バリトンボイスがいくつも重なって聞こえた直後、全ての頭から<火炎吐息フレイムブレス>が放たれた。


「ゴルゴン!」


「任せるのよっ」


 <火炎支配フレイムイズマイン>を会得するゴルゴンにとって、混ざり物がない炎なんて恐るるに足らない。


 ゴルゴンは炎の壁を創り出し、フロアボスの全ての<火炎吐息フレイムブレス>がその壁に触れた瞬間から自分の物として操って壁の材料にしてみせた。


「防ぐだけで終わりじゃないんだからねっ」


 <火炎吐息フレイムブレス>を受け切って出来上がった巨大な炎の壁を圧縮し、ゴルゴンはそれを砲弾へと作り変える。


 ゴルゴンが何をやりたいのか理解すると、藍大は戦艦の艦長になった気分で指示を出した。


「ゴルゴン、撃てぇぇぇっ!」


発射ファイアーなのよっ」


 藍大の指示に従ってゴルゴンが炎の砲弾を発射したのを見て、フロアボスはそれを防ごうと<魔力半球マジックドーム>を何重にも重ね掛けする。


 しかし、元々は自分の全ての頭から放った<火炎吐息フレイムブレス>にゴルゴンの炎が合わさった砲弾に触れた途端、フロアボスを守るドームはあっさりと貫通した。


 加えて言えば、炎の砲弾がフロアボスの目の前で圧縮された状態から解放されたことにより、巨大な炎がフロアボスの身を包んだ。


「「「・・・「「グァァァァァァァァァァッ!」」・・・」」」


 炎に身を包まれたフロアボスが絶叫する中、藍大は今のうちにとモンスター図鑑でフロアボスの正体を調べていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ラードーン

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,000/3,000

MP:3,000/4,000

STR:2,500

VIT:3,000

DEX:2,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:地下10階フロアボス

   到達者

アビリティ:<多重思考マルチタスク><火炎吐息フレイムブレス><隕石雨メテオレイン

      <落拳雷フィストライトニング><体圧潰ボディプレス><魔力半球マジックドーム

      <不眠不休スリープレス><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:火傷

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 (ラードーンってことは、奥の樹は黄金のリンゴが生るのか?)


 藍大はブラドが伝承通りにボス部屋を設定したのだろうと判断し、ラードーンの奥にある樹について興味を抱いた。


 だが、そんなものはラードーンを倒してからいくらでも調べられると考えて首を横に振るって思考を切り替えた。


 ラードーンは空高く飛んで炎から脱出すると、ダメージを負わせられたことに激昂して反撃に出た。


「「「・・・「「埋もれてしまえぇぇぇぇぇっ!」」・・・」」」


 ラードーンが次に選んで発動したのは<隕石雨メテオレイン>だった。


 藍大達を隕石の雨で埋めてやろうという狙いらしい。


「メロとドライザー、ゼルで迎撃! 俺達にぶつかりそうな物は舞に任せる!」


「「『了解!』」」


『∩`・◇・)ハイッ!!』


 藍大の指示に従ってメロとドライザー、ゼルが各々のアビリティを駆使して隕石の雨を粉砕していく。


 メロは<元気砲エナジーキャノン>でドライザーが<魔攻城砲マジックキャノン>、ゼルが<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒のレーザーを放つといった感じである。


 メロ達のおかげで舞の出番は自分達に向かって落下してくる最後の隕石だけだった。


「リル、あれを私の前で止めろ!」


『わかった!』


 リルは舞の指示通りに<仙術ウィザードリィ>を使って舞の正面で最後の隕石をぴったりと止める。


「よくやったリル! 喰らえやオラァ!」


 舞は隕石に光を付与するだけでなく、雷光を纏わせたミョルニル=レプリカで隕石をフルスイングする。


 光でコーティングした隕石は割れることなく飛んで行き、上空で待機していたラードーンの腹部に命中する。


「「「・・・「「グェッ!?」」・・・」」」


 まさか自分のいる場所まで隕石が打ち返されるとは思ってもみなかったのだろう。


 油断していたラードーンは体勢を崩して地面へと落下していく。


 それでもLv100のフロアボスなので、ただ無様に墜落するような真似はしない。


 どうせ落ちるのならば藍大達も巻き込んでやると意地を発揮し、<体圧潰ボディプレス>で落下のエネルギーを攻撃に転じてみせた。


「ゴルゴン、<拒絶リジェクト>でラードーンの落下の勢いを殺すんだ」


「はいなっ」


 ゴルゴンは藍大に言われてすぐに<拒絶リジェクト>を使い、落下するラードーンの体が後ろに大きく仰け反った。


「「「・・・「「何ぃ!?」」・・・」」」


 今のゴルゴンの攻撃で落下コースが藍大からずれたので、ラードーンは驚きを隠せなかった。


 当然、藍大はそんな隙だらけのラードーンに追い打ちをかける。


「リル、冷凍保存しちゃおうか。ドラゴンステーキ食べ放題だぞ」


『ステーキが僕を待ってるんだ!』


 食べ放題という言葉で気合が入り、リルの放った<天墜碧風ダウンバースト>はラードーンのHPを完全に刈り取ると同時に全身を凍らせた。


 その場にいる従魔全てがLv100に到達していたため、レベルアップのシステムメッセージは聞こえてこなかったがラードーンはピクリとも動かなくなった。


「グッジョブ! みんなお疲れ様!」


「ドラゴンステーキ!」


『食べ放題!』


 舞とリルはドラゴンステーキ食べ放題というワードが忘れられないらしく、合言葉のように唱えて喜びを分かち合った。


 ゴルゴン達は流石に疲れたようで藍大に甘えるように抱きついた。


 ドライザーはLv100の強敵を相手に自分も出番があったことを静かに喜んだ。


 一頻り喜んだ後、藍大達はラードーンの死体を回収して魔石だけ抜き取った。


 その魔石はリルに与えられた。


「次はリルの番だぞ。お食べ」


『いただきま~す』


 リルが藍大に魔石を与えられて飲み込んだ直後、リルから神聖なオーラが溢れ出した。


『リルのアビリティ:<聖狼爪ホーリーネイル>がアビリティ:<神裂狼爪ラグナロク>に上書きされました』


「・・・リル、このアビリティは使いどころに気をつけないと駄目だ」


『うん! 僕はご主人の言うこと聞くよ!』


「よしよし。リルは本当に良い子だ」


「クゥ~ン♪」


 どんなに強大な力を持ってもリルはリルだった。


 <神裂狼爪ラグナロク>は<聖狼爪ホーリーネイル>の上位互換であり、VITやあらゆる耐性を無視した神聖な斬撃を放つアビリティである。


 このアビリティはサクラが以前習得していた<幸運光線ラッキーレーザー>並みに扱いに気をつけなければならない。


 VIT貫通で耐性も無視するということは斬れぬものなしということに他ならない。


 正にリルは神すら切り裂ける狼の爪を得たという訳だ。


 神が実在するのかはさておき、藍大が慎重になるのも当然と言えよう。


 満足するまでリルを甘やかしてから、藍大達は黄金の果実がなる巨大な樹を調べて1つだけ食べられる果実を見つけた。


 それ以外の果実はフェイクであり、リルが<仙術ウィザードリィ>でもぎ取った物だけが本物だった。


 この果実はメロの見立てとモンスター図鑑によると、世界一美味しい林檎であることが分かった。


 1つだけとはいえ、その林檎のサイズはサッカーボール程の大きさはある。


「藍大、美味しい林檎はデザートだよね!」


『デザートは別腹だよ!』


「まだステーキも食べてないのけどな。わかった。この林檎は昼食のデザートにしよう」


「わ~い!」


『やった~!』


 その後、舞とリルに急かされて藍大達はダンジョンから脱出した。

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