第312話 スーパー虐殺タイムの間違いだニャ

 ”レッドスター”と”迷宮の狩り人”が合同でエルダーリッチをテイムしたのと同日の朝、藍大達は舞とリル、ゲン、ドライザー、ミオ、フィアを連れてシャングリラダンジョン地下9階にやって来た。


 今日も今日とてLv100未到達組のレベル上げである。


 煉獄闘技場と呼ぶのが相応しい地下9階では、早速トリニティワイバーンの群れが各種ブレスで熱烈に歓迎した。


「おいおい、随分と派手な歓迎じゃねえか」


 スイッチの入った舞が光のドームでそれらのブレスを防ぐ。


 声を荒げてはいないものの、舞の目はギラギラしていて反撃の時を待っていた。


 ブレスが終わってドームを解除すると、ミオが反撃の舞台を整える。


「誘導するニャ!」


 <霧満邪路ミストダンジョン>で立体的な迷路を作り、トリニティワイバーン達が1体ずつ高度を下げて進むように仕向けた。


 突然敵の姿が見えなくなり、目の前の迷路の向こうに敵がいるとわかっているから血の気が多いトリニティワイバーン達は迷路に向かって順番に侵入していった。


 あとは通路を操作し、出口付近でいつでも攻撃できる藍大達の前にトリニティワイバーン達を誘導するだけだ。


 先頭のトリニティワイバーンの頭が見えた瞬間、舞は雷光を纏わせたミョルニル=レプリカで近くにあった頭をぶん殴った。


「リベンジタイムの始まりたぜぇぇぇぇぇ!」


「スーパー虐殺タイムの間違いだニャ」


「ああ゛ん!?」


「なんでもないニャ!」


 ミオがボソッと呟いたのを聞き取っていたらしく、舞が即座に反応したのでミオは慌てて誤魔化した。


「ミオ、余計なことを言っちゃいけない。良いね?」


「はいニャ」


「良い子だ。後で舞の抱っこ人形になるかもしれないけど頑張れ」


「そこは助けてほしいニャ」


「許せミオ。自業自得だ」


「そんニャア・・・」


 ミオの両耳がペタッと垂れた直後、舞がトリニティワイバーン達を倒し終えた。


『ドライザーがLv95になりました』


『ミオがLv97になりました』


『フィアがLv76になりました』


『フィアがLv77になりました』


「舞、お疲れ様」


「ありがと~。悪い子のミオちゃんでも抱っこして癒されるね~」


「ニャア・・・」


 舞が鎧を着ているとは思えない素早さでミオを捕獲するものだから、ミオは逃げられるとも思わずされるがままになった。


 戦闘に関与しなかったメンバーでトリニティワイバーンの群れを回収している間、ミオは舞の抱っこ人形になっていた。


 抱っこ人形タイムが終わって藍大達が通路を進んでいると、地下9階で初めて見る雑魚モブモンスターと遭遇した。


 そのモンスターは真っ直ぐ伸びた角1本とねじれた角2本の角を持った馬であり、体の模様はシマウマのようだった。


「トライコーンLv85。火と雷と闇の3つの属性を扱える。それと食用」


「よっしゃあ! 肉を寄越せ!」


『新しいお肉!』


「ヒヒィン!?」


 舞とリルに近寄られまいとトライコーンが炎の壁を創り出すが、リルの<転移無封クロノスムーブ>の前には通用しなかった。


 リルがトライコーンの背後に回って<翠嵐砲テンペストキャノン>で吹き飛ばせば炎の壁が消え、舞が飛ばされて来たトライコーンを殴りつけてあっさりと仕留めた。


『ボス、やることない』


「ミーももっと出番を増やしてほしいニャ」


『パパ、フィアも戦ってみたい!』


「そうだな。次はドライザー達だけで倒してもらおうか」


 舞とリルは一旦休みとして、回収作業を終えてから次に遭遇したトライコーンはドライザー達に任せてみた。


 ミオとフィアが協力してトライコーンを誘導し、ドライザーが仕留めるパターンが上手いこと決まってトライコーン狩りはスムーズに行われた。


 トライコーンを倒して得られる経験値は多かったようで、ドライザーがLv96、ミオがLv98、フィアがLv80になった。


 通路を抜けたその先には一際大きな闘技場があり、その中には蘇芳色の三つ首のドラゴンことアジ・ダハーカが待ち構えていた。


 アジ・ダハーカは自分達よりも小さな藍大達を侮った笑みを浮かべた。


 ところが、その笑みはすぐに凍り付くことになる。


「あれがアジ・ダハーカなんだ~。ステーキになってからしか見たことがなかったから見れて良かった~」


「おい、なんかヤバい奴等が来たぞ」


「ステーキになってからしか見たことないって言ってたぞ?」


「ま、まさか、俺達の同胞を喰らったとでも言うのか?」


 自分達こそ捕食者だと思っていたけれど、実は自分達が捕食される側かもしれないと悟ってアジ・ダハーカは焦りを隠せなかった。


『パパ~、あの蛇って美味しいの?』


「誰が蛇だ!」


「俺達はドラゴンだ!」


「蛇風情と一緒にするんじゃない!」


 フィアの質問がアジ・ダハーカの耳に入ると、彼等は激怒した。


 自分達を蛇だと言われた怒りが舞に対する怯えを凌駕したのである。


『パパ、蛇じゃないって怒られちゃった』


「そうだな。アジ・ダハーカは蛇じゃない。賢くなれて良かったな」


『うん!』


 藍大はしょんぼりしたフィアを慰め、フィアは藍大に頭を撫でられて元気になった。


 そんな藍大達を見て、アジ・ダハーカは額に血管が浮かぶぐらいキレていた。


「俺の!」


「俺のっ!」


「俺の話を聞けぇぇぇぇぇっ!」


 ブチ切れたアジ・ダハーカはそれぞれの頭から<猛毒吐息ヴェノムブレス>と<火炎吐息フレイムブレス>、<暗黒吐息ダークネスブレス>を放つ。


「やらせねえ!」


 舞が三重に光のドームを展開してアジ・ダハーカのブレスを防いだ。


 1つ目のドームがすぐに壊れ、2つ目のドームはしばらく耐えたが壊れてしまった。


 3つ目のドームは罅が入らなかったものの、中にいた藍大達はアジ・ダハーカの強さを改めて知ることとなった。


「ドライザーとミオはアジ・ダハーカの注意を引け。フィアは防御に専念。舞はリルと連携してダメージを与えるんだ」


 藍大の指示にパーティーメンバー全員が頷き、早速行動に移った。


 ドライザーは左側でミオは右側に展開し、それぞれ<創岩武器ロックウエポン>と<創水武器アクアウエポン>で用意した武器をアジ・ダハーカに射出する。


 それによってアジ・ダハーカの左右の頭はドライザーとミオに意識を割かねばならず、真ん中の頭だけで舞とリルに対応することになった。


 リルを目で追おうとしても、そのAGIの高さによって全く目が追いつかない。


 リルだけ警戒していれば舞が懐に入り込んでミョルニル=レプリカを叩き込み、舞に反撃しようとすればリルの攻撃で邪魔をされる。


 アジ・ダハーカは完全に藍大達のペースに流されてしまい、ダメージの蓄積が限界に到達して力尽きた。


『ドライザーがLv97になりました』


『ミオがLv99になりました』


『フィアがLv81になりました』


『フィアがLv82になりました』


『フィアが称号”掃除屋殺し”を会得しました』


「お疲れ様。みんな良い働きだったぞ」


 藍大は戦いを終えた舞達に対して声をかける。


 甘えたい盛りのフィアが甘えれば、舞達もその後ろに並ぶのでアジ・ダハーカの死体を解体するまで少し時間がかかったのはご愛敬である。 


 アジ・ダハーカの魔石は最近貰っていないであろうドライザーに与えられた。


 魔石を飲み込んだドライザーは強者としてのオーラが増した。


『ドライザーのアビリティ:<創岩武器ロックウエポン>がアビリティ:<創岩武装ロックアームズ>に上書きされました』


「やったなドライザー。武器だけじゃなくて防具も作れるようになったってよ」


『ボス、感謝する』


「羨ましいニャ。次はミーの番ニャ」


「勿論だとも。次はミオの番だからもう少し我慢しててくれ」


「わかったニャ」


 ミオはホッとしたようで頬が緩んでいた。


 それからボス部屋まで移動すると、前回は自分のヘルムをサッカーボールよろしく蹴り飛ばしたデュラハンが藍大達を待ち構えていた。


 今回の個体は神々しい鎧ではなく黒一色の鎧であり、ヘルムを蹴り飛ばさずに<創魔武器マジックウエポン>でいくつもの剣を創り出して藍大達に射出した。


 前回戦った希少種は戦い方まで希少だったようだ。


『ボス、防御は任せてほしい』


「わかった。ドライザーに一任する」


『少し燃えて来た』


 ドライザーは先程会得した<創岩武装ロックアームズ>で盾を創り出し、デュラハンの攻撃全てを防いでみせた。


「ミオ、デュラハンの顔の付近に<霧満邪路ミストダンジョン>を発動できるか?」


「近づけばいけるニャ」


『フィアが運ぶ!』


「わかった。舞とリルで気を引くんだ。その隙にフィアがミオをデュラハンの近くまで運べ」


 藍大の指示に従い、舞とリルがデュラハンに接近する。


 デュラハンは自分の攻撃が通用しておらず、舞とリルが攻めて来たので<震撃クエイク>で接近を阻止しようとした。


 しかし、その時には既にフィアがミオの両肩を掴んでデュラハンに上空から接近しており、ミオの<霧満邪路ミストダンジョン>で視界を塞がれて狙いを定められずに戸惑ってしまった。


 そんな隙を逃す訳もなく、舞が渾身の一撃をデュラハンの胴体に決める。


 デュラハンが吹き飛ばされた先にはリルが回り込んでいて、<蒼雷罰パニッシュメント>を放ってデュラハンを構成する全身の鎧が力なく床に落ちた。


 その直後、藍大の耳に次から次へとシステムメッセージが届き始めた。

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