第305話 自分から倒されに来るとは殊勝な肉だ!

 ハルキジャミアーの死体を回収して探索を再開したところ、藍大達はホワイトバジリスクの群れに遭遇した。


「ピィ!」


「どうしたんだフィア?」


「ピィ! ピィ!」


 フィアが藍大に訴える目には食いしん坊ズが時折見せる輝きと同じものがあった。


「ホワイトバジリスクが美味しそうに見えたんだな?」


「ピッ!」


 その通りと言わんばかりにフィアは頷いた。


「うんうん。ホワイトバジリスクって美味しいよね」


『フィアも違いが判る子なんだね』


 舞とリルはフィアに食べ物に関するセンスがあると判断して嬉しそうにしている。


「ミオ、頼めるか?」


「任せるニャン!」


 ミオは<創水武器ウォーターウエポン>でいくつもの水のレイピアを創り出し、<怒涛乱突ガトリングスラスト>でホワイトバジリスク達を仕留めた。


『フィアがLv57になりました』


『フィアがLv58になりました』


『フィアがLv59になりました』


「お疲れ様。ミオも随分戦力として安定して来たな」


「そう言ってもらえて嬉しいニャ!」


 ミオも”水聖獣”になるまではパワーレベリングで育ったため、以前は見ているだけのことが多かった。


 しかし、サクラが産休に入ってゴルゴン達も母親になる修行中となれば自分で戦う機会も増えるから、経験を積んで藍大パーティーの戦力になれていた。


 動かなくなったホワイトバジリスクの死体を見ると、フィアは今にもそれを食べようと翼を広げた。


 その様子に気づいた藍大がフィアに声をかける。


「待つんだフィア。後でそのままホワイトバジリスクを食べるよりも美味しい物を作ってやるから」


「フィアちゃん、ここは我慢時だよ。今お腹いっぱいにしたら損するから」


『そうだよ。フィアは体が小さいんだから、美味しい物を食べてお腹いっぱいにしなよ』


「フィア、先輩としてミーも今は我慢すべきだと言うニャ」


「ピィ・・・」


 フィアは舞達がそこまで言うなら我慢すると言わんばかりに翼を下ろした。


「よしよし、良い子だ」


「ピッ!」


 藍大に頭を撫でられてフィアは嬉しそうにされるがままとなった。


 ホワイトバジリスク達を回収してから先に進み、藍大達はデメムートが待ち受ける場所までやって来た。


 今日のデメムートは気性が荒い個体らしく、藍大達を見つけた瞬間に<隕石メテオ>を放った。


「ギャァァァァァァァァァァッ!」


「私に任せな!」


 戦闘モードのスイッチが入った舞がそう言うと、光を付与したアダマントシールドを投擲して隕石を粉砕した。


 (隕石を個人でどうにかできるんだから、Sランクになっても良いんじゃね?)


 舞は産休で冒険者稼業を休業したので、産休に入るまでの功績でギリギリSランクに届かずAランクとなった。


 だが、”掃除屋”のデメムートの攻撃を一撃で粉砕できる冒険者が日本にどれだけいるだろうか。


 はっきり言って従魔の力を借りた藍大以外に舞と同じことができる者はいない。


 藍大は舞がいかに強い冒険者なのか優月に伝えるべく、今日から舞の戦闘シーンを録画するようにしている。


 これをDMUにも提供したらSランクと判定されるのではなかろうかなどと考えた。


「リル、凍らせろぉぉぉ!」


『うん!』


 隕石を砕いた舞はリルに指示を飛ばす。


 リルも言われなくてもわかっていたらしく、<天墜碧風ダウンバースト>であっさりとデメムートを冷凍保存状態にしながら倒してみせた。


『ドライザーがLv90になりました』


『ドライザーのアビリティ:<魔砲弾マジックシェル>がアビリティ:<魔攻城砲マジックキャノン>に上書きされました』


『ミオがLv92になりました』


『フィアがLv60になりました』


『フィアのアビリティ:<口笛ホイッスル>がアビリティ:<回復歌ヒールソング>に上書きされました』


『フィアがLv61になりました』


『フィアがLv62になりました』


『フィアがLv63になりました』


『フィアがLv64になりました』


 (ドライザーは純粋な強化だな。フィアは回復効果のある歌声を披露するのか。ちょっと聞いてみたいかも)


 ドライザーとフィアの新しいアビリティについてそんな感想を抱きつつ、藍大は舞とリルを労った。


「舞もリルもお疲れ様。鮮やかな手際だったな」


「でしょ~」


『ご主人の次に舞の考えることはわかるようになったよ』


 (そっか。俺の次はリュカじゃなくて舞だったか)


 リルは恋愛感情よりも圧倒的に食欲の方が強いらしく、あれだけ好きだとアピールしているリュカよりも一緒にご飯を食べまくる仲の舞の思考の方が読めると言ってのけた。


 これには藍大も心の中でリュカに合掌せずにはいられなかった。


 デメムートから魔石を回収すると、藍大は物欲しそうに見ているフィアの前で魔石を動かしてみた。


 藍大が魔石を動かすにつれて、フィアは全身で魔石のある方向を向く。


「何これ可愛い」


「ピィ?」


 くれないのかと言わんばかりにフィアが首を傾げるので、藍大は魔石をフィアに与えた。


 フィアの体が大きくなり、雀から若鳥と呼べるまで大きくなった。


『フィアのアビリティ:<火炎突撃フレイムブリッツ>とアビリティ:<火炎鎧フレイムアーマー>がアビリティ:<緋炎鳥クリムゾンバード>に統合されました』


『フィアがアビリティ:<祈祷プレア>を会得しました』


「フィア、良かったじゃないか。大きくなれたぞ」


「ピィ!」


 フィアは嬉しそうに鳴いて藍大の肩に飛び乗って頬擦りした。


 モンスター図鑑によると、<緋炎鳥クリムゾンバード>は緋色の炎を纏って触れた者を火傷状態にするだけでなく、自身のSTRとVIT、AGIを強化する効果があった。


 バフと同時に罠を張れるという点で優秀だと言える。


 <祈祷プレア>は目を閉じてじっとすることでMPを回復させるアビリティだ。


 <瞑想メディテーション>も動作自体は同じだが、こちらはINTの数値を上昇させるので似て非なるアビリティである。


 フィアもまだ先の話ではあるものの、着実に”火聖獣”になれる可能性を秘めたアビリティを会得しているのは喜ばしい。


 デメムートの死体を回収した後、藍大達はボス部屋までノンストップで移動した。


 藍大達がボス部屋に入ってすぐに違和感を覚えた。


「あれ、ベヒーモスが前に戦った時より一回りデカくね?」


『ご主人、食べ応えがありそう!』


「この個体ってもしかして”希少種”なんじゃない?」


 舞の指摘になるほどと頷き、藍大はベヒーモスをモンスター図鑑で調べた。


 その結果、舞の言う通り目の前にいるベヒーモスは”希少種”の称号を保持していた。


「舞、正解。こいつは”希少種”だ」


「おっしゃ一狩り行くぜゴラァ!」


『僕も行く!』


 通常のベヒーモスだって十分美味しいのだから、”希少種”ならばもっと美味しいに違いないと舞もリルも期待して駆け出した。


「ベヒィィィィィィィィィィッ!」


 ベヒーモスも少しでも気を抜けば喰われると悟り、全身を鼓舞するように吠えてから<剛力突撃メガトンブリッツ>を発動した。


「自分から倒されに来るとは殊勝な肉だ!」


 舞は光を付与したアダマントシールドを投げてベヒーモスの突撃の威力を削り、その後すぐに雷光を纏わせたミョルニル=レプリカでフルスイングした。


「ベヒィッ!?」


 ベヒーモスは驚愕した。


 自分よりもちっぽけな人間風情のどこにそんな力があるのだと驚かずにはいられなかった。


 そんな驚いているベヒーモスの体は大きく後ろに傾いており、バランスを崩してそのまま後ろにひっくり返った。


『お肉!』


 リルはベヒーモスに反撃の隙を与えることなく<蒼雷罰パニッシュメント>でとどめを刺した。


 リルの掛け声がお肉だったことは誰もツッコまなかった。


 食欲を抑え切れずに口に出してしまったのだとその場の誰もが理解していたからだ。


『ドライザーがLv91になりました』


『ミオがLv93になりました』


『フィアがLv65になりました』


『フィアがLv66になりました』


『フィアがLv67になりました』


『フィアがLv68になりました』


「ニャア・・・。出番がなかったのニャ」


『残念』


「まあまあ。この階トータルで考えればどっちもちゃんと活躍してたぞ」


 ミオもドライザーも出番がなくてがっかりしていたので、藍大は彼女達の頭を撫でて励ました。


 その後ろで待機していた舞とリルのことも労った後、藍大はベヒーモスの死体から魔石を取り出して回収してからフィアにそれを与えた。


 フィアが魔石を飲み込んだ直後、全身の羽が美しい輝きを放つようになった。


『フィアがアビリティ:<火炎吐息フレイムブレス>を会得しました』


「ピッ!」


「愛い奴め」


「ピィ♪」


 ドヤッと効果音が聞こえてきそうなぐらいフィアは得意気に翼を広げるから、藍大はフィアの頭を撫でる。


 藍大に構ってもらえてフィアは嬉しそうに鳴いた。


 フィアが満足すると、地下7階でやるべきことは終えたので藍大達はダンジョンから脱出した。

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