第304話 造作もない
6月は藍大と元幼女トリオの結婚式、健太と遥の結婚式に加えて茂と千春の結婚式も行われた。
茂と千春については元幼女トリオと遥がジューンブライドを狙って結婚式を挙げると知った途端、千春が茂におねだりして結婚式を早めたのだ。
自分達ならばきっとすぐに稼げるから大丈夫だと言い、2人の実家も早く結婚しろと資金援助をしたから結婚にかかるお金の問題も解決して結婚式を挙げた。
遥をシャングリラに受け入れるにあたっての準備に加え、自分達の結婚式の準備もすればドタバタするから、藍大はゴルゴン達と結婚することになってからあまり冒険者らしいことはできていなかった。
藍大達が冒険者としての活動を再開できたのは、7月に入ってからのことだった。
優月の成長は著しく、藍大達の食事に興味を持ったことで離乳食デビューしている。
世話のかからない賢い子であり、藍大達がダンジョンに潜る時はサクラとブラドが面倒を見ている。
ゴルゴン達元幼女トリオもいずれ母親になることを想定し、育児を手伝うことで母親になるための経験を積んでいる。
待機組全員がLv100になるべくドライザーもダンジョンに挑むことになり、警備の仕事はゴルゴン達が交代で行うことになった。
今日は7月5日の日曜日であり、藍大は舞とリル、ゲン、ドライザー、ミオを連れて1階で特定のエッグランナーをテイムしたところだった。
「藍大、エッグランナーが”火聖獣”になるの?」
「モンスター図鑑で調べた結果、エッグランナーの”希少種”だったらそうなる可能性が高いってわかった」
「普通のエッグランナーじゃ駄目なんだね。エッグランナー自体レアなのに」
「それな。まあ、よろしく頼むよフィア」
「ピー♪」
フィアと名付けられた”希少種”のエッグランナーはLv13の雌だった。
卵の殻の中にいる雛が鳴いて藍大に返事をした。
フィアのテイムが済むと、藍大達は地下7階にやって来た。
ドライザーとミオ、フィアのレベル上げもしつつ、舞がベヒーモスと一度も戦っていないから戦ってみたいという希望を叶えるためである。
「フィア、俺から離れるなよ? ここのモンスターはフィアにとって滅茶苦茶強いから」
「ピッ!」
藍大が注意するとフィアが震えるように鳴く。
本能的に自分が地下7階に来るのは場違いだとわかっているようだ。
そんな藍大達の前にダイヤカルキノスの群れが現れる。
「美味しい蟹なのニャ!」
「お肉も良いけど蟹の手巻き寿司も良いよね」
『お寿司!』
ミオが海産物の出現に喜ぶと、舞とリルは海の幸も良いなと感想を述べる。
ダイヤカルキノス達は自分達を獲物として見られていると気づき、ブルリと体を震わせて逃げようとした。
「逃がさないニャ」
ミオは<
このアビリティは幻惑効果のある霧で閉じ込めた者をその外部からシャットアウトする。
霧ならば通り抜けることもできそうだと考えるかもしれないが、この霧は特殊で密集すると強度が上がって中にいる者を逃がさないことに特化している。
これでダイヤカルキノス達は退路を断たれてしまい、やぶれかぶれになって藍大達に特攻を仕掛けた。
「蟹身蟹味噌待ってろオラァ!」
『お寿司~!』
「蟹ニャ!」
「ピェッ!?」
舞達から感じられる迫力の強さに怯え、フィアが藍大に身を寄せた。
「よしよし、怖くないぞ。大丈夫だからな」
藍大は苦笑しながらフィアの殻を撫でる。
哀れなダイヤカルキノス達はあっさりと仕留められてしまい、すぐに動かぬ食料となった。
『ドライザーがLv88になりました』
『フィアがLv14になりました』
『フィアがLv15になりました』
『フィアが進化条件を満たしました』
『フィアがLv16になりました』
・
・
・
『フィアがLv50になりました』
『フィアが特殊進化条件を満たしました』
(待って。特殊進化条件って何?)
システムメッセージが鳴り止んだところで藍大はすぐさまモンスター図鑑で知らない単語の意味を調べ始めた。
特殊進化とは通常の進化とは異なる進化のことだった。
通常の進化ができるのに進化をせず、仮に進化した時に更なる進化に必要なレベルに到達することは特殊進化条件に該当する。
また、サクラがリリスからサキュバスに進化したのも特殊進化と呼べるらしい。
あの時はサクラが<
これも通常の進化とは異なるから特殊進化扱いである。
サクラのことはさておき、藍大の視界にはフィアのページに進化と特殊進化の2つの文字が表示されている。
藍大は舞達を労ってからフィアに声をかけた。
「フィア、進化が良いなら1回、特殊進化が良いなら2回鳴いてくれ」
「ピ! ピ!」
「2回か。わかった。特殊進化させよう」
藍大はフィアの意思を確認してから特殊進化させた。
その直後にフィアの体が光に包まれ、光の中でフィアのシルエットに変化が生じた。
元々は小型犬サイズだったが、光の中で卵の殻が消えると雀と表現できるシルエットになった。
殻が消えたせいで小さくなったように見えているものの、フィア自体の存在感は明らかに増していた。
光が収まると、鮮やかなオレンジ色の雀となったフィアが現れた。
『フィアがエッグランナーからレッサーフェニックスに進化しました』
『フィアがアビリティ:<
『フィアのアビリティ:<
『フィアのアビリティ:<
『フィアのデータが更新されました』
藍大は早速進化したフィアのステータスを確かめた。
-----------------------------------------
名前:フィア 種族:レッサーフェニックス
性別:雌 Lv:50
-----------------------------------------
HP:700/700
MP:1,200/1,200
STR:500
VIT:500
DEX:1,000
AGI:1,000
INT:1,000
LUK:700
-----------------------------------------
称号:藍大の従魔
希少種
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:ご機嫌
-----------------------------------------
(レッサーフェニックスか。フェニックスに一気に近づいたじゃん)
伝承では不死鳥として知られるフェニックスならば、”火聖獣”になる可能性は極めて高い。
フィアが藍大の想像を超えて一気にフェニックスに近づいたことは、藍大にとって願ったり叶ったりだった。
「フィア、フェニックスになれそうで良かったぞ」
「ピィ~♪」
フィアは藍大の肩まで飛んで嬉しそうに藍大に頬擦りした。
「良いな~。フィアちゃんこっちにもおいでよ~」
「ピッ」
今はゆるふわな感じの舞だが、フィアは本能的に近付いたら危険だと悟って首を横に振った。
「舞奥様に抱き着かれたらぐったりするニャ。フィアは賢いニャ」
「酷~い。そんなこと言うならミオに抱き着いちゃうよ~」
「しまったニャァァァァァ!」
余計なことを言ってミオは舞に抱き着かれてぐったりした。
「ピピピッ」
それを見てフィアは笑っている。
先輩従魔がうっかりミスをしたことを見て面白がっているらしい。
その後、ダイヤカルキノスの死体を回収してから藍大達は先へと進む。
今度はハルキジャミアーの群れが現れた。
「「「・・・「「ハルキャ!」」・・・」」」
「これがサクラ達が嫌がってたハルキジャミアーなんだね。うん、私も無理かも」
「ニャア。これはキツいのニャ」
「ピィ!」
初めてハルキジャミアーを見る女性陣が顔を引き攣らせているので、藍大はドライザーに指示を出した。
「ドライザー、掃討せよ」
『OKボス。3分以内に片づける』
ドライザーは短く応じてすぐに<
継戦能力の高いハルキジャミアーだったが、ドライザーは3分もかからずに現れた敵集団を殲滅してみせた。
『ドライザーがLv89になりました』
『ミオがLv91になりました』
『フィアがLv51になりました』
『フィアがLv52になりました』
『フィアがLv53になりました』
『フィアがLv54になりました』
『フィアがLv55になりました』
『フィアがLv56になりました』
「素晴らしい。見事な働きだぞドライザー」
『Thank you』
「うんうん。ドライザーは良い仕事してるよ~」
「そうニャ。頼れる先輩ニャ」
「ピィ!」
『造作もない』
(ドライザーが照れてる。先輩扱いされて嬉しいみたいだ)
舞から褒められても頭を掻くような仕草を見せないが、ミオとフィアに頼りにされて初めてそんな仕草を見せた。
無機物で構成されるドライザーにも人らしさが見えた瞬間だった。
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