第301話 吾輩がいれば面倒な解体作業もあっという間である

 デモニックブレードを回収して魔石を取り上げた後、藍大は期待に目を輝かせるメロに魔石を与えた。


「メロ、魔石だぞ」


「ありがとです!」


 メロは魔石を貰ってすぐに口の中に放り込む。


 メロの体は魔石を飲み込んですぐにグラビアモデルと呼べる見た目へと変わった。


『メロのアビリティ:<魔法半減ディバインマジック>がアビリティ:<全半減ディバインオール>に上書きされました』


「やったですよマスター! 私も完全な大人です!」


「お、おう」


 メロが抱き着くと藍大は困った。


 今までは子供みたいに思っていたにもかかわらず、多摩センターダンジョンの4階の魔石だけで大人の姿まで成長したからだ。


 ロリ巨乳ならば子供だと思えたけれど、顔に幼さが残る巨乳の女性に抱き着かれれば同一人物に抱き着かれたとしても反応が変わるのは当然だろう。


 その一方でゴルゴン自分の胸を触って絶望していた。


「なんでメロはバインバインでアタシはスレンダーなのよっ。世の中不公平なのよっ」


『(*`゚Д゚´)bドンマィ!!!』


「ゼルまで追い打ちかけるなんてあんまりだわっ」


 藍大パーティーの女性陣の胸のサイズを示すと、サクラ>舞=メロ>ゼル>ゴルゴンとなる。


 ゴルゴンは後輩の従魔に胸のサイズで差を付けられて悔しがったのだ。


 余談だが、ゴルゴンの胸のサイズは未亜よりも上であると追記しておく。


「ゴルゴンちゃんもモデルさんみたいで素敵な女性だよ~」


「持つ物に持たざる者の気持ちはわからないんだからねっ」


 ゴルゴンにこう言われてしまえば舞も苦笑するしかない。


 それでも、舞はプリプリと怒るゴルゴンを宥められる魔法の言葉を知っていたから耳元で囁いた。


「見た目が大人なら藍大に告白は断られないよ」


「・・・そっちの方が大事なのよっ。取り乱して悪かったわねっ」


「うん。切り替えられて良かった」


 胸のサイズよりも藍大と結婚できるかどうかの方が問題なので、ゴルゴンはすぐに頭を切り替えられた。


 メロとゴルゴンが落ち着いたところでリルが藍大に声をかける。


『ご主人、デモニックブレードが刺さってた床の下に何かあるよ』


「リルは本当に探し物が得意だな」


『ワフン』


「愛い奴め」


 藍大はリルの頭をわしゃわしゃと撫でてからその部分を調べた。


 微妙に隙間があるのを見つけてメロに声をかける。


「メロ、この隙間から床をひっぺ返せるか?」


「やってみるです」


 メロは<植物支配プラントイズマイン>で薄い草を創り出し、隙間から差し込むとその草を太く変化させて床をひっぺ返した。


 床下の収納部分には宝箱があったので、リルが<仙術ウィザードリィ>で回収する。


「リルもメロもご苦労さん」


「クゥ~ン♪」


「エヘヘです~」


 宝箱を収納リュックにしまい込んだ後、藍大は功労者達を労った。


 それから5階へと進んでみると、いきなりボス部屋の扉があった。


「5階が最上階っぽいな。ブラドはどう思う?」


「吾輩も同意見である。”ダンジョンマスター”を倒すにせよテイムするにせよ、吾輩が同行したのは正解だったな」


「そうだな。じゃあ早速挑もうか」


 リルの<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けてもらい、藍大達はその中へと進んだ。


 ボス部屋の中で待機していたのは天使だった。


「不埒者が!」


「貴様が不埒者だ」


 天使はボス部屋に入った藍大達に対して大波を創り出して襲わせたが、ブラドが天使の言い分にイラっとして<憤怒ラース>で大波を消し飛ばした。


 天使が大技をあっさりと相殺されて驚いている間、藍大はモンスター図鑑で敵の正体を確かめていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:クロセル

性別:雄 Lv:85

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,600/2,000

STR:0

VIT:1,500

DEX:1,700

AGI:1,500

INT:1,800

LUK:1,200

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(多摩センター)

アビリティ:<大波タイダルウェーブ><鋭刃雨シャープレイン><螺旋水鞭スパイラルウィップ

      <熱々噴射ヒートスプラッシュ><蒸気散弾スチームスプレッド>

      <蒸気鎧スチームアーマー><魔法耐性レジストマジック

装備:偽装の法衣

備考:驚愕

-----------------------------------------



 (水属性は間に合ってるから討伐決定。舞の出番か)


 クロセルの能力値はシャングリラでもっと強いモンスターがいるから脅威ではなく、藍大はアビリティに注目した。


 すぐに雷が水に有効だと思い浮かび、藍大は舞をメインに戦うことにした。


「敵はクロセルLv85。水を使う敵だから舞にメインで戦ってもらう。舞以外でフォローするぞ」


 それだけ聞くと舞は嬉々として駆け出した。


「ヒャッハァァァァァッ!」


「なんだこの女は!?」


 奇声を上げて駆け寄って来る舞に驚き、クロセルは<螺旋水鞭スパイラルウィップ>で吹き飛ばそうとする。


 しかし、この程度ならば舞が光を付与したアダマントシールドで弾いて進撃を止めない。


「チィッ」


 近づかれたくないと思ったクロセルが空に逃げようとするが、その時には既にメロが<停止綿陣ストップフィールド>を発動していた。


「遅いです」


『ドーゾ(シ´ω`)シ ((o _ω_)oヨロシク』


 それを補助するようにゼルが<吹雪ブリザード>を発動し、クロセルの脚を床ごと凍らせて逃げられなくした。


 ここまでお膳立てされて舞が決めない訳にはいかない。


「喰らえやオラァ!」


 舞が雷光を纏わせたミョルニル=レプリカをフルスイングした結果、凍った地面がえぐられてクロセルと共に後方に吹き飛ばされた。


 背中から落ちたクロセルは<停止綿陣ストップフィールド>の効果が切れても再び動くことはなかった。


「吾輩の出番だな。・・・掌握完了」


 ブラドがニヤリと笑った直後に藍大の耳にシステムメッセージが届き始めた。


『ブラドがLv99になりました』


『おめでとうございます。ブラドが5ヶ所のダンジョンの管理権限を手に入れました』


『初回特典としてブラドは先程の戦闘で取得した経験値が倍になります』


『ブラドがLv100になりました』


『ブラドがアビリティ:<解体デモリッション>を会得しました』


『ブラドが称号”到達者”を会得しました』


『ブラドの称号”ダンジョンマスター”と称号”到達者”が称号”アークダンジョンマスター”に統合されました』


『ミオがLv89になりました』


『ミオがLv90になりました』


『ミオが称号”水聖獣みずせいじゅう”を会得しました』


『おめでとうございます。聖獣を冠する称号の従魔が3体になりました』


『相乗効果により逢魔藍大の拠点シャングリラが水と風、土に関する災害から守られます』


 (ミオだけじゃなくてブラドにも変化があったか)


 藍大はミオのステータスをこまめにチェックしていたので、クロセルとの戦いで”水聖獣”の称号を得られるだろうと確信していた。


 それゆえ、ミオに関するメッセージは全て想定内だった。


 ところが、ブラドのLv100到達と新たな称号のメッセージは完全に予想外だった。


「舞とメロ、ブラド、ゼルはお疲れ! ブラドは”アークダンジョンマスター”、ミオは”水聖獣”の会得おめでとう!」


「これはもうお昼はお祝いだよね!」


『そうだよご主人! めでたいことがあったらお祝いだよ!』


「吾輩、昼から豪華ランチを所望するぞ」


「美味しいご飯は嬉しいニャ」


「わかった。帰ったら作ろう」


 食いしん坊ズとミオに言われてしまえば、藍大は嫌とは言えまい。


 もっとも、嫌と言うつもりもさらさらないのだが。


 とりあえず、藍大はブラドが新たに会得した称号やアビリティについて確認した。


 ブラドの”アークダンジョンマスター”は”ダンジョンマスター”の上位互換であり、他の”ダンジョンマスター”や”災厄”が”アークダンジョンマスター”とその管理するダンジョンを襲わなくなる効果だった。


 つまり、シャングリラだけでなく道場ダンジョンや客船ダンジョン、大宰府ダンジョン、多摩センターダンジョンがモンスターに襲われなくなったのだ。


 これでスタンピードで日本中にモンスターが溢れても5つのダンジョンに立て籠ることができるから、一時的に避難して体制を立て直すことができるだろう。


 <解体デモリッション>は結果が2つに分かれる効果を有しており、任意の対象を塵の如く粉砕するか素材ごとに分離して解体作業をオートで行うことができる。


 ただし、生き物には使えないので死体や無機物だけが対象となる。


 流石に即死効果のあるアビリティではなかったようだ。


 早速、藍大はブラドにクロセルの死体を実験台として<解体デモリッション>を使ってもらった。


 すると、クロセルの死体が光って数秒で綺麗に素材ごとに整頓されて床に並んだ。


「何これすごい便利」


「吾輩がいれば面倒な解体作業もあっという間である」


「でも、お高いんでしょう?」


「料理を豪華にしてくれればいくらでも解体するぞ」


「それぐらいなら今度からも頼む」


「うむ」


 話がまとまった後、クロセルの魔石は順番でブラドに与えられた。


『ブラドのアビリティ:<火炎爪フレイムネイル>がアビリティ:<緋炎刃クリムゾンエッジ>に上書きされました』


 ブラドの火力がまた増したため、ブラドは本当に敵なしの”アークダンジョンマスター”となった。


 やるべきことは全て終えたので、藍大達は多摩センターダンジョンを脱出して帰宅した。

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