第298話 これは私の仕事だもんね。ありがとう、主

 サイクロプスのいた広間を抜けると、再びザックームと落とし穴のエリアになった。


 今度はメロだけでなくゼルも参戦し、初めてザックームと遭遇した時よりも早くそのエリアを抜けてボス部屋へとたどり着いた。


 少し休んで気持ちを切り替えてからボス部屋の中に入ると、藍大達の前には1つの下半身に対して3つの上半身が生えている巨人の重装歩兵が待機していた。


 (アシュラとは別種か。いや、派生種なのか?)


 藍大は見覚えのあるフォルムだったので判断に困ったが、鑑定すればわかると頭を切り替えてモンスター図鑑でフロアボスについて調べてみた。



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名前:なし 種族:ゲリュオン

性別:雄 Lv:70

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HP:1,400/1,400

MP:1,200/1,200

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:1,300

AGI:1,000

INT:0

LUK:1,000

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称号:3階フロアボス

アビリティ:<多重思考マルチタスク><盾突撃シールドブリッツ><硬化斬撃ハードスラッシュ

      <兜割ヘルムブレイク><震撃クエイク

      <闘気鎧オーラアーマー><物理耐性レジストフィジカル

装備:ホプライトアーマー×3

   ホプライトサーベル×3

   ホプライトシールド×3

備考:なし

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 (能力値はアシュラの方が高いが武装してるからトータルじゃ同じ危険度かな)


 ゲリュオンのステータスを確認した藍大はそのように判断した。


「ゲリュオンLv70。<多重思考マルチタスク>持ちだ。剣と盾以外に地震も使って来るから気をつけてくれ」


 藍大の注意に舞達が頷く。


 その直後にゲリュオンが口を開いた。


「ようこそ地獄の入口へ!」


「拙者の剣の錆になりたい奴からかかって来な」


「私がゲリュオン中央部のセンターオブゲリュオンである!」


「自由か!」


 右の頭、左の頭と続いて喋った後に中央の頭が名乗ったが、全ての頭が好き勝手なことを喋っている。


 それが我慢できずに藍大が思わずツッコんでしまった。


「地獄には死ななきゃ行けねえよな。よって殺す」


「拙者の前に立ちはだかる者は全て敵だ。よって殺す」


「私の口上にツッコむとは不届き千万。よって殺す」


 今度は全ての頭で意思統一がなされてゲリュオンが<震撃クエイク>で足止めしながら走り出そうとする。


「やらせないのよっ」


「甘いです!」


 その瞬間にゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>を発動し、ゲリュオンの後方で爆発を起こしてゲリュオンのバランスを崩させる。


 それと同時にメロがゲリュオンの足元に大量の蔓を生やし、ゲリュオンが踏み出そうとした脚に蔓が絡まって転んだ。


「ゴルゴンとメロ、グッジョブ! リル、凍らせてくれ!」


『了解!』


 リルが<天墜碧風ダウンバースト>を発動したことにより、転んだゲリュオンの体全体に突風が吹きつけてそのまま凍らせる。


 <物理耐性レジストフィジカル>は物理攻撃を軽減する効果があっても魔法攻撃を軽減する効果はない。


 それゆえ、リルの攻撃は一切軽減されずにゲリュオンのHPを一気にレッドゾーンまで刈り取った。


「舞、とどめは任せた」


「おうよ! 辞世の句すら詠ませねえ!」


 舞は凍ったゲリュオンに接近し、その中央の頭に雷光を付与したミョルニル=レプリカを振り抜いた。


 ビキッと音が鳴って氷ごとゲリュオンの中央の頭が粉砕された。


 その直後に藍大の耳にシステムメッセージが届き始めた。


『ミオがLv82になりました』


『ゼルがLv96になりました』


 藍大は舞が戻って来てから戦闘に参加したメンバーを労った。


 今の戦闘ではゼルとミオの力を一切使わなかったし、藍大もゲンの力を借りていない。


 そういった意味ではまだまだ藍大達には余裕があると言えよう。


 舞達を労った後、藍大はゲリュオンの死体の解体を指揮して魔石取り出した。


 次はメロの番であり、藍大が魔石を手にした時点でその隣に待機していた。


「メロの番だな。おあがり」


「はいです!」


 メロは期待に胸を膨らませて魔石を飲み込んだ。


 その結果、メロの身長はゴルゴンよりもやや大きくなって中学生ぐらいまで伸びた。


『メロのアビリティ:<魔法耐性レジストマジック>がアビリティ:<魔法半減ディバインマジック>に上書きされました』


「やったです! 大きくなったです!」


「妬ましいっ」


『(゜.゜) ポカン… オイテイカレマシタ』


 メロの身長が伸びたことでゴルゴンとゼルが真っ先に反応した。


 ゴルゴンは自分の身長が伸びたと思ったらメロに抜かされたため、”嫉妬の女王”に相応しい嫉妬を見せた。


 ゼルはゴルゴンにもメロにも置いてきぼりにされてしまったから、哀愁漂う顔文字でその気持ちを表現している。


 メロは少し恥ずかしそうにしながら藍大に訊ねた。


「マスター、どうですか? 私も大人に近付いてるですか?」


「そうだな。さっきよりもお姉さんっぽくなったと思うぞ」


「あと何回か上質な魔石を食べればきっと大人になれるです。マスター、今後も強いモンスターを狩りに行くですよ」


「そうだな。ゴルゴンとゼルにも不公平にならないようにするから2人も安心してくれ」


「流石はマスターねっ。信じてたわっ」


『キター(°∀°)ーー!』


 藍大はメロだけでなく、ゴルゴンとゼルの頭を撫でて不公平に扱わないことをアピールした。


 いずれも大罪を冠する幼女トリオなのだから、誰かを仲間外れにしてはかわいそうである。


 だからこそ、藍大はゴルゴンとメロとゼルの3人が大人の体になるまで強いモンスターを狩りに行くと口にした。


 これならば3人の誰からも不満は出て来ないで済む。


 回収すべき物は全て回収したので、藍大達は時間がそろそろ昼になることもあって多摩センターダンジョンから脱出してシャングリラへと帰った。


 シャングリラに戻ると、まずはサクラに宝箱を見せた。


「サクラ、ただいま。お土産の宝箱だ」


「これは私の仕事だもんね。ありがとう、主」


 妊娠してパーティーから一時的に外れていることで、サクラは少なからず寂しい思いをしている。


 その気持ちを少しでも解消するにはサクラに何かしらの役割が必要だ。


 幸いなことに、サクラはLUKが∞だから宝箱を開ける作業を任せられる。


 サクラは藍大の役に立てて嬉しいし、藍大も貴重なアイテムが確実に手に入るから嬉しい。


 誰も悲しませない最良の選択だと言えよう。


「じゃあサクラ先生。今日もお願いします」


「くるしゅうない」


 いつものやり取りをしてからサクラは宝箱を開けた。


 その中には舞が使ったことのある覚醒の丸薬Ⅱ型によく似たアイテムが入っていた。


 藍大はモンスター図鑑でサクラが手に持ったそれを調べてみた。


 (やっぱり覚醒の丸薬Ⅱ型だったな。さて、これをどうしたものか・・・)


 調べた結果、サクラが宝箱から手に入れたのは覚醒の丸薬Ⅱ型だった。


 藍大も舞も三次覚醒を済ませており、藍大のパーティーでは使える者がいない。


 藍大が手に入れた物だから”楽園の守り人”の外に持ち出して使うことはないが、誰に使ってもらうか悩んだ訳だ。


「藍大、奈美ちゃんに渡せば覚醒の丸薬みたいにレシピを解き明かせるんじゃない?」


「そうだな。奈美さんが量産できれば”楽園の守り人”全員が三次覚醒できるな」


 話はまとまったので、藍大達は覚醒の丸薬Ⅱ型と食べられないダンジョン産素材を持って101号室の奈美に会いに行った。


「おかえりなさい。今日の戦果はどうでしたか?」


「上々だった。まずは素材の方から出すぞ」


「お願いします」


 いきなり覚醒の丸薬Ⅱ型を出してしまえば、奈美が興奮してそれ以外の素材の処理を忘れかねないと思って藍大は提示する順番を考えた。


 多摩センターダンジョンの1階と2階のモンスターの素材では淡々と作業を進めていた奈美だが、3階のモンスター素材でザックームの果実を目にした途端にスイッチが入った。


「逢魔さん、これは私が預かって研究しても良いですか!? いえ、研究させて下さい!」


 (そうだった。ザックームの果実もあったわ)


 藍大は一気に3階分の素材を出したこともあり、奈美が覚醒の丸薬Ⅱ型以外に興奮する可能性があったことを失念していた。


 ここまでテンションが上がってしまえばしばらく下がらないと判断し、藍大はすぐに覚醒の丸薬Ⅱ型も取り出してテーブルに乗せた。


「落ち着いて。実はこんな物も宝箱から手に入ったんだ」


「これは・・・。覚醒の丸薬Ⅱ型じゃないですか! やった~!」


 奈美のテンションが振り切れてしまい、落ち着くまでに5分程かかったとだけ記しておこう。

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