第288話 日本語でOKだよ
DMUが池上元ビジネスコーディネーション部長の辞職を発表した翌日の木曜日、成美達は朝からC大学に来ていた。
C大学に来たのは新たに立ち上げるクラン”迷宮の
クラン名は”楽園の守り人”と同じように漢字二文字+〇り人にしたいと3人の意見が一致し、”迷宮の狩り人”に着地した。
それはさておき、シャングリラにクランハウスを借りたのなら面談はクランハウスでやれば良いのではと思うかもしれない。
しかし、候補者達が隣に住む”楽園の守り人”に迷惑を掛けたら困るから、ひとまずC大学で面談することにした。
北村経由で普段ゼミが使っている教室を貸し切り、メンバー候補者達を順番に呼んでクランのメンバーにするかどうかを判断する。
メンバー候補者は基本的にソロだ。
学生冒険者でも青田買いのような感じで中小クランにスカウトされている者が少なくない。
それゆえ、今も無所属でいるのはソロで活動している者が多い。
全員に共通するのはC大学に在籍する学生冒険者であることぐらいだ。
午前10時になって最初の加入希望者との面談が始まった。
最初の面談相手はおとなしい服装の女子学生だった。
彼女は成美の高校時代からの友人だが、クラン結成の面談ということで今は砕けた口調は封印している。
マルオと晃とは面識がないのでまずは名乗る。
「C大学法学部政治学科3年の進藤綾香です。
「よろしくお願いします。進藤さんは”迷宮の狩り人”で何をしたいですか?」
「料理を作りたいです。私は戦う料理人のように自分でダンジョンに潜って食材を手に入れることはできません。ですので、ダンジョン食材を提供していただいて皆さんに料理を作ります。最近では料理でバフ効果を生み出す研究が進んでます。私も少しならばバフ効果のある料理が作れますから、皆さんの役に立てると思います。また、皆さんから提供された食材で新たなバフ料理のレシピを見つけたいとも思っています」
綾香は成美からの問いに目を輝かせて答えた。
バフ料理はダンジョン産の食材を2つ以上使って作られた料理のことだ。
鑑定班が職人班の調理担当の料理を食べて妙に力が漲ると思って鑑定し、その際にバフ料理の存在が発覚した。
実は藍大のカレーライスやいくつかの料理はバフ料理だったりする。
もっとも、本人達は美味しければそれで良いと思っているので特段気にしていないのだが。
「良いんじゃない? 成美の友達の女の子だし」
「戦闘職だけじゃクランは成り立たない。僕も良いと思う」
「2人がそう言ってくれるなら決まりね。綾香、合格」
「わ~い。でも良いの? 最後まで面接官らしくやらなくて」
「友達相手に面接官らしく振舞うのって恥ずかしいのよ。合格したから良いの。明日の朝、クランハウスを実際に見てもらうわ。詳細は後で連絡するね」
「うん。この後も面談頑張って」
「ありがと。じゃあね」
「バイバイ」
最初の面談は予定していた半分の時間で合格判定となった。
気持ちをリセットしてその後の面談に臨んだが本番はここからだった。
”楽園の守り人”の傘下になれるなら努力する気のない学生冒険者もいたり、実は他のクランに入っていて”迷宮の狩り人”を吸収合併するための使い走りとして来た者もいた。
そう言う手合いはマルオがローラ達を召喚して追い払った。
結局、今日の面談で綾香以外に合格にしたのは薬士の男子学生と裁縫士の女子学生だけだった。
スカウトに声を掛けられない学生というのはそれなりの理由があって声を掛けられないのだと痛感したが、それもまた経験である。
15時頃に予定していた全ての面談が終わり、そろそろ解散するかという時になって教室にノックすることなく金髪碧眼の女性と茶髪の男性という外国人コンビが入って来た。
予定していない来客に成美達が困惑した。
3人共多少の英語の読み書きはできるのだが、スピーキング能力には自信がなかったからだ。
だが、マルオは意を決して声をかけた。
「Hello! How are you?」
「日本語でOKだよ」
「なん・・・だと・・・」
茶髪の男性が流暢に日本語を喋ったので、空回りとなってしまったマルオが膝から崩れ落ちた。
「ハハハ。日本人は面白いね。いや、”チャラ弟子”君が面白いのかな?」
「そ、その二つ名を知ってるだと? お主、冒険者だな?」
「いかにも。拙者がCN国から来た留学生調教士のリーアム=ディオンでござる」
「何やってんのこの2人?」
「さあ?」
茶番じみたやり取りが目の前で繰り広げられ、成美と晃はそれをジト目で見ていた。
「くだらないことやってないで本題に入りなさいよ」
「貴女も日本語話せるんですね」
「話せるわ。日本に行けるってわかってから猛勉強したもの。私もE国からの留学生のキャサリン=エルセデスよ。
「こちらこそよろしく。ウチの大学に来るって噂の留学生冒険者とこんなに早く会えるとは思ってなかったわ。偶然ってすごいわね」
成美はキャサリンが差し出した手を握って言葉を交わすが、キャサリンは首を横に振った。
「偶然じゃないわ」
「え?」
「貴女達って東洋の魔王の知り合いなんでしょ? 会ってみたいのだけど突撃するのは失礼だわ。だから、知り合いの貴女達から紹介してもらえないかって思って探してたの。お願いできない?」
キャサリンの頼みに成美は即答できなかった。
確かな根拠はないのだが、キャサリンとリーアムをシャングリラに連れて行ったら面倒事になる気がしたからである。
国際会議で起きたことは全世界で報道されている。
それゆえ、自己紹介されれば彼女達がそれぞれ勇者の妹と仕事人の弟であることを理解できている。
勇者がサクラとリルと戦って無様な負け方をしてその二つ名を返上したのを知っているし、”仕事人”がモフラーだった以上調教士のリーアムがモフラーじゃないとも思えない。
成美が即答できないのも無理もない。
その一方、マルオとリーアムはお互いの従魔の見せ合いを始めていた。
マルオの方はローラとセーラ、オルラに加えて川崎大師ダンジョンでテイムしたカルラを披露した。
カルラとはスカルバードとウィル・オ・ウィスプを融合したトーチバードであり、骨の体の内部に炎を宿す鳥の見た目をしている。
マルオがテイムしたのだから、カルラは当然雌である。
「これが俺の愛すべき従魔達だぜ」
ドヤ顔でローラ達を披露するマルオに対し、リーアムは真剣な表情で頷く。
「マルオ、やるじゃないか。どの子も強そうだし可愛い」
「だろ!? リーアム、お前は違いのわかる奴だな!」
アンデッド型モンスターだからと言って忌避感を持たないリーアムを見て、マルオの彼に対する警戒心は下がった。
いや、元々マルオ自体警戒心が薄いので誤差の範疇である。
「OK。じゃあ次は僕の番だ。【
リーアムが呼び出したのは2体だった。
スラッシュタイガーという牙と爪が刃になった虎のモンスターがソード。
ヴォーパルバニーという一見ただの兎に見えて奇襲能力が高いモンスターがニンジャ。
「モフモフだ」
現れた2体を見た晃がボソッと呟いた。
「Exactly! モフモフは正義さ! ここが狭いから2体しか呼べないけど、本当はもっといるんだ!」
我が意を得たりとリーアムがドヤ顔で言ってのけた。
マルオは2体のモフモフを見て手強いと感じたらしい。
「ぐぬぬ。やるじゃないか。リルさんとモフ度を比べてみたいぜ」
「リル! その名前は知ってる! 姉さんがモフれなくてすごく残念にしてたんだ!」
「リルさんはモフラーに対して塩対応だから厳しいと思うぞ」
「Jesus!」
リーアムは頭を抱えて叫んだ。
自分もリルに触れないかもと知ってショックを受けたのだ。
そんな男共のやり取りを見て、成美は紹介するしないを自分で判断できなくなって藍大に訊ねることにした。
藍大が許可を出してくれたので、留学生2人は明日の午後にシャングリラに行くことが決まった。
「感謝するわ。貴女達に迷惑をかけないことを約束するから安心して」
「そうしてもらえると助かるわ。逢魔さんは私達にとって恩人だから」
キャサリンがニッコリと笑ってそう言うと、成美はホッとして肩の力を抜いた。
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