第286話 馬鹿じゃねえの!? あいつまともじゃねえ!

 初戦はトリニティワイバーンに3種類のブレスで先制されたが、今度はサクラが先手を取った。


「墜ちなさい」


 その瞬間、深淵のレーザーが枝分かれしてトリニティワイバーンの群れを次々に撃墜した。


「ニャ・・・」


 信じられないとミオは鳴いた。


 どうやったらそこまで強くなれるのかと戦慄したのだ。


『ミオがLv51になりました』


『ミオがLv52になりました』


『ミオがLv53になりました』


『ミオがLv54になりました』


『ミオがLv55になりました』


 システムメッセージが鳴り止んだところで藍大はミオに声をかける。


「ミオ、驚くのはまだ早いぞ。なんてったってトリニティワイバーンは地下9階の雑魚モブなんだから」


「ニャニャア・・・」


 ミオはそうだったと表情が固まった。


 地下9階に来てトリニティワイバーンにしか遭遇していないのだから、まだ”掃除屋”とフロアボスが待っているのはダンジョンの常識である。


 それを思い知らされればミオの表情が固まるのも無理もない。


 通路を進むと闘技場があり、そこには以前ブラドを怒らせて倒されたアジ・ダハーカが待機していた。


「ふん、ちっこい奴等が来たぞ」


「本当だ。簡単に踏み潰せそうだな」


「あの人間と肩に乗ってる奴が弱そうだ」


「ニャ!?」


 いきなりロックオンされたことでミオが焦る。


「グッガール、グッガール。落ち着くんだミオ。取り乱したらやっぱり弱点なんだって思われるだろ。堂々としろ。クールに振舞うんだ」


「ニャ。ニャニャア?」


「そうだ。それで良い」


 ミオはそうだったのかと頷き、藍大に言われた通り堂々と振舞ってみせた。


 藍大は恐怖を我慢して気丈に振舞うミオの頭を撫でてやった。


「リルとゴルゴンで追い込め。サクラとメロは隙ができたら攻撃。ゼルは守備を任せる」


 藍大の指示に頷くと、リルは<転移無封クロノスムーブ>で攪乱してゴルゴンは<爆轟眼デトネアイ>でアジ・ダハーカを誘導する。


「狙い撃つです」


 メロはリルとゴルゴンが作ってくれた隙を見逃さず、<魔刃弩マジックバリスタ>でアジ・ダハーカの右の首を落とす。


「兄弟!」


「おのがぺっ!」


 左の頭がおのれと言おうとしていたところで、今度はサクラが深淵の弾丸を放って撃ち抜いたから左の頭が変な言葉を口にしたようになった。


「ニャニャン♪」


 圧倒的じゃないか我が軍はと喜ぶミオを見て、藍大も主人として良いところを見せてやろうと動くことにした。


「ゼル、俺がアジ・ダハーカの動きを封じたら<吹雪ブリザード>よろしく」


『(9`・ω・)9頑張リマス.+゚*。:゚+』


 今のところ出番がないゼルに一声かけた直後、藍大はゲンの力を借りて<重力眼グラビティアイ>を発動した。


 唐突に体が重くなって地面に縫い付けられるようになれば、アジ・ダハーカも首の再生も終わっていないので反撃したくとも反撃できない。


 そこにゼルが<吹雪ブリザード>を発動すれば、自分を襲う吹雪のせいでアジ・ダハーカの動きは更に鈍った。


 そうだとしても、アジ・ダハーカは一方的にやられるのは主義じゃないと重く冷えた体を無理やり動かして再生した左右の首も併せて<火炎吐息フレイムブレス>を放つ。


「「「寒いわぁぁぁぁぁ!」」」


「ゴルゴン!」


「はいなっ」


 <火炎支配フレイムイズマイン>を会得しているゴルゴンを前に炎のブレスで勝負するとは実に愚かな選択だ。


 ゴルゴンは吐き出された炎をビー玉サイズに圧縮し、それをそのままアジ・ダハーカに向けて放った。


 圧縮された炎がアジ・ダハーカに着弾した瞬間、ゴルゴンが圧縮を解除することでアジ・ダハーカの全身が一気に丸焼きとなった。


「リル、とどめ刺しちゃって」


『わかった~!』


 リルの<翠嵐砲テンペストキャノン>が消火すると同時にHPを刈り取り、アジ・ダハーカは地面に倒れて動かなくなった。


『ゼルがLv92になりました』


『ミオがLv56になりました』


『ミオがLv57になりました』


『ミオがLv58になりました』


『ミオがLv59になりました』


『ミオがLv60になりました』


『ミオのアビリティ:<窃盗スティール>がアビリティ:<敵意押付ヘイトフォース>に上書きされました』


 (ヘイトを誰かに押し付けるとか後衛垂涎のアビリティだな)


 そんなことを思いつつ、藍大はアジ・ダハーカとの戦いが終わったのでサクラ達を労った。


「みんなグッジョブ! ブラドがいなくても大丈夫だったな!」


 アジ・ダハーカが反撃で<猛毒吐息ヴェノムブレス>を使えばもう少し戦いは長引いたが、今回現れた個体は大して賢くなかったので完封勝利と言って良い仕上がりだった。


 この勝利を当然と思わず、しっかりとサクラ達を労うからこそ藍大は彼女達の良き主人なのである。


 アジ・ダハーカの素材は捨てる所がないぐらい有用だから、首以外も手に入った今回の戦いを知れば奈美が大喜びなのは間違いない。


 藍大達は解体と魔石の回収して先に進んだ。


 魔石はフロアボスのものと併せてミオにあげることになっている。


 これはミオが”水聖獣”になるまでの間、強者の魔石を与えることを予め決めていたから誰も反論しなかった。


 前回はサタンが待ち構えていた3番目の闘技場に移動すると、藍大達の前には神聖な気配すら感じさせる全身甲冑が待機していた。


 ただし、普通の全身甲冑と違うのは頭部がその甲冑の脇に抱えられていることだ。


「デュラハンなのか? それにしては偉く光属性っぽいけど」


 藍大は疑問を口にしながらモンスター図鑑でその正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:デュラハン

性別:なし Lv:90

-----------------------------------------

HP:2,700/2,700

MP:3,000/3,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,500

LUK:3,200

-----------------------------------------

称号:地下9階フロアボス

   希少種

アビリティ:<創魔武器マジックウエポン><武器精通ウエポンマスタリー><幸運打撃ラッキーストライク

      <剛力突撃メガトンチャージ><震撃クエイク><集中コンセントレイト

      <雷付与サンダーエンチャント><物理激減フィジカルデシメーション

装備:クルセイダーシリーズ

備考:高揚/状態異常無効

-----------------------------------------



 (希少種だとしてもこれは俺の知ってるデュラハンじゃない)


 藍大がそう結論付けた時、デュラハンはヘルムに<雷付与サンダーエンチャント>を使ってからそれを藍大達に向かって蹴り飛ばした。


「ゴルゴン、爆破!」


「まっかせなさい!」


 ゴルゴンは藍大の指示通りに<爆轟眼デトネアイ>を使い、自分達に向かって来るヘルムを全力で爆破した。


 (馬鹿じゃねえの!? あいつまともじゃねえ!)


 藍大は心の中でツッコんだ。


 一体どこの誰が自分の体を飛び道具にするんだとツッコまない訳にはいかなかった。


 デュラハンは<物理激減フィジカルデシメーション>のおかげで物理攻撃によるダメージ75%カットされる。


 しかし、ゴルゴンの<爆轟眼デトネアイ>は物理攻撃ではないから軽減されることはない。


 ヘルムが本体から遠くに飛ばされてしまい、デュラハンは焦って<創魔武器マジックウエポン>で槍を大量に生産した。


 そして、その槍を藍大達に向かって投げようとするが、ヘルムが藍大達と反対の方向を向いているので違う方向に向かって投げまくっている。


「あいつ馬鹿だな。迸る程の馬鹿だ。サクラ、とどめ刺しちゃえ。硬いから本気でやって良いぞ」


「は~い」


 サクラは<運命支配フェイトイズマイン>で∞のLUKをエネルギーに変換して黄金の魔弾を放った。


 サクラが狙ったのはヘルムである。


 胴体の鎧は再利用できるかもしれないと判断し、後ろを向いていて反撃も防御もできないヘルムを攻撃した。


 サクラの攻撃が命中した途端、ヘルムが魔弾の持つエネルギーによって爆発する。


 それに連動してデュラハンの体はガシャリと音を立てて地面に倒れた。


『ゼルがLv93になりました』


『ミオがLv61になりました』


『ミオがLv62になりました』


『ミオがLv63になりました』


『ミオがLv64になりました』


『ミオがLv65になりました』


 システムメッセージが鳴り止むと、藍大はサクラとゴルゴンを労った。


 それからデュラハンの首から下を鎧ごと回収し、魔石を取り出したら収納リュックにしまっていたアジ・ダハーカのものと併せてミオに与えた。


「ほら、ミオ。食べて良いぞ」


「ニャ、ニャア・・・」


 自分は何もしていなかったのでミオが申し訳なさそうにしていると、リルが藍大よりも先に口を開いた。


『ミオ、今は弱くても強くなったらご主人のために戦えば良いんだよ』


「ニャア」


『誰だって最初から強くない。魔石を食べて強くなるのが今のミオの仕事だね』


「・・・ニャ」


 ミオはリルに説得されて藍大の掌の上にある2つの魔石を食べた。


『ミオのアビリティ:<水乙女ウォーターメイデン>とアビリティ:<霧分身ミストクローン>がアビリティ:<分身水罠クローントラップ>に統合されました』


『ミオがアビリティ:<瞑想メディテート>を会得しました』


『ミオのアビリティ:<鋭水線アクアジェット>がアビリティ:<螺旋水線スパイラルジェット>に上書きされました』


 (触れたら水の檻に閉じ込められて圧縮される分身? 怖っ)


 <分身水罠クローントラップ>の効果を調べて藍大はビビった。


 可愛い姿で油断させて触れた途端、水の檻に閉じ込めて圧縮するなんてあくどいことができると気づいたからだ。


「ミオ、新しいアビリティは使い方に気をつけような」


「ニャン」


 ミオはピンと来ていないが藍大がそう言うのだから危険なのかと判断して頷いた。


 藍大達は地下9階でやるべきことを全て終えたので、シャングリラダンジョンから脱出した。


 余談だが、102号室にミオが付いてすぐに舞の餌食になったとだけ言っておこう。

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