第281話 藍大のご飯は美味しいから仕方ないね

 システムメッセージが鳴り止むと、藍大は最後に聞こえた内容に耳を疑った。


 そうだとしても、七つの大罪を冠する称号を得た者が”楽園の守り人”に揃ってシャングリラが藍大の使役していないモンスターに襲われなくなったのは事実だ。


 これは嬉しい誤算だった。


「ゼル、”傲慢の女王”への就任おめでとう」


『(>ω・)てへぺろ』


「愛い奴め」


 藍大はゼルの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 サクラ達がその後ろに並んでいたので、藍大は従魔サービスをたっぷりした後でルシファーの死体を回収した。


 その際に魔石を抜き取ると、藍大に頭を撫でてもらうために<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除していたゲンが物欲しそうな目で待機していた。


「ゲン、この魔石はお前にあげるから安心しろ。ほら」


「感謝」


 ゲンは短く言って藍大の手からルシファーの魔石を貰って飲み込んだ。


 その直後にゲンの藍色の甲羅が巨大なラピスラズリと見間違う程の輝きを手に入れた。


『ゲンのアビリティ:<全耐性レジストオール>がアビリティ:<全半減オールディバイン>に上書きされました』


「甲羅が綺麗になったな」


「ドヤァ」


 普段は見た目の変化に無頓着なのだが、背負っている甲羅には自信があったのか藍大に褒められてゲンはドヤ顔を披露した。


 自分が重い思いをして背負う甲羅だから、綺麗だと言われてゲンも自慢したくなったらしい。


 ゲンはドヤ顔して満足したら<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動してレヴィアローブに憑依した。


 ゲンの甲羅の色が変わったことにより、ゲンが憑依した後のレヴィアローブはラピスラズリでコーティングされたような優雅さがあった。


「綺麗だね~」


「べ、別に羨ましくないんだからねっ」


「マスターがゴージャスになったです」


『スッスゴィ...(゚Д゚ノ)ノ』


 サクラ達は藍大に近づいてじっくりとローブを見ていた。


 女性陣にしばらく観賞してもらうことにして、藍大はモンスター図鑑を用いて<傲慢プライド>の効果を確認することにした。


 その結果、<傲慢プライド>には自分がこうあるべきという姿を取れるだけでなく、対峙した者に畏怖の念を抱かせて本来の実力を発揮できなくさせる効果があった。


 つまり、ゼルは自分が好きな姿に変身できて敵対する者の能力値を下げられるようになったということだ。


 <傲慢プライド>の効果を使えば幼女の姿を卒業できるのだが、そうしないのはゼルが今の姿を気に入っているからに違いない。


「主君、そろそろ帰らないか? 吾輩、腹が減って来たぞ」


『ご主人、僕もお腹減って来た~』


「そうだな。そろそろ帰ろう」


 藍大達は地下10階から脱出した。


 101号室の扉から藍大達が出て来たら、茂がシャングリラにやって来たところだった。


「藍大お疲れ。今戻って来たのか」


「よう茂。今上がったところだ。今日はどうした?」


「お前達に渡すもんがあって来た。ついでに昼食もご馳走になれたら嬉しい」


「別に1人分ぐらい増えたって構わん」


「よっしゃ!」


 藍大は昼食にありついて喜ぶ茂を連れて102号室に入った。


 藍大達が帰って来ると、笑顔の舞がそれを出迎えた。


「お帰り~。あっ、芹江さんも来たんだ」


「お邪魔します。渡す物があったついでに昼食をご馳走になりに来ました」


「藍大のご飯は美味しいから仕方ないね」


「そうでしょう?」


「うん」


 舞は茂が昼時を狙って来た理由に納得した。


 昼食はネメアズライオンとペンドラを使った料理になった。


 ネメアズライオンは癖の強い味だったことから、大葉とチーズを使ってネメアズライオンの大葉チーズ巻きになった。


 ペンドラは油がやや強かったので、ベーコン代わりに炒飯に使われた。


「かぁぁぁっ! 美味うめえ! ビール飲みてえ!」


「まだ昼だから駄目だ」


「わーってるよ! 夕食として喰いたかった」


「知ってるか? ここは俺の家。そして、今日の探索は終わった。つまり?」


「おいやめろ。俺を裏切ってビールを飲むつもりか?」


「落ち着け。俺はビールよりもサワー派だ」


「違う、そうじゃない」


「冗談だ。昼間から飲まないっての」


 茂を揶揄うと面白かったので、藍大は飲む気がないのに酒を飲もうとする素振りをして見せた。


 少しムスッとした表情の茂を見て舞が藍大に声をかける。


「藍大、芹江さんをあんまり虐めちゃ駄目だよ」


「舞さん、もっと言ってやって」


「あんまり虐めると千春さんが萌え死にしちゃうよ」


「えっ?」


 自分の予想に反した援護射撃に茂の目が点になった。


「舞、詳しく」


「最近の芹江さんはよく千春さんに甘えるみたいだよ。甘えて来る芹江さんがとても可愛くて堪らないって連絡が最近来るの」


「恥ずか死ぬ」


 茂は恥ずかしさで顔が真っ赤になり、自らの手で顔を隠して藍大と舞に見られないようにした。


「茂も甘えることを知ったか」


「いつもしっかりしてるパートナーが弱ってるとキュンとするよね」


「いっそ殺してくれ・・・」


「早まるんじゃない。というか、そうやって顔を隠してる間にリル達が大葉チーズ巻きを食べ尽くしちゃうぞ?」


「それは困る!」


 茂は恥ずかしさよりも次はいつ食べられるかわからない料理を食べることを優先した。


「立ち直るんかい」


「藍大、時には羞恥心よりも食欲が勝る時だってあるんだよ」


「舞が言うと言葉の重みが違うな」


「結婚する前、今月厳しいって時に藍大が差し入れしてくれた料理は本当に嬉しかったよ。自分のお金の管理能力がないってバレて恥ずかしかったけど食欲には勝てなかったもん」


「・・・俺がいる限り舞がひもじい思いすることは絶対にないから安心しろ」


「藍大~!」


 舞は嬉しい感情を抑え切れずに藍大に抱き着いた。


 そして、遅れを取り戻すかのように藍大から離れて食いしん坊ズの名に恥じない食べっぷりを披露した。


 賑やかな昼食を終えて一休みすると、茂はシャングリラに来た本題に移った。


「藍大、明日から冒険者資格が変わるぞ。俺はそれを説明しに来た」


「随分と急な話だな。何も告知がなかったじゃん」


「資格の変更に関わる話だったからギリギリまで開示できなかったんだ。これでも藍大達にはニュースリリース前に話に来たんだ。許してくれ」


「そりゃ特別待遇だな。いつも悪いね」


「それは言わねえ約束だ。という訳で明日から全世界の冒険者にランク制度が導入される。その目的は冒険者に向上心を持たせることとDMU側の現状把握のためだ」


「ランクで格付けした方が管理する側は楽だもんな。S~Eランク的な?」


「正解。飲み込みが早くて助かる」


 藍大は子供の頃にRPGで遊ぶこともあったため、茂の言わんとするランク制度についてなんとなく予想がついた。


 茂もその理解力にホッとしてランク制度について話し始めた。


 このランクは戦闘系冒険者と生産系冒険者を分けて考える。


 戦闘も生産もやる冒険者についてはどちらか好きな方のランクを選ぶ。


 基本的に戦闘も生産も同程度に優れた者はほとんどいないので、どちらか片方を選んでもらうことになっている。


 戦闘ランクは上からS、A、B、C、D、Eの6段階評価となる。


 そうは言ってもSランクは特別扱いであり、通常はAランクを頂点として以下の通りの基準が定められている。


 Sランクは”英雄”を持つか、その者1人いれば国の危機を打破できる実力があること。


 Aランクは”守護者”を持つか、その者と同程度の実力の者がパーティーを組めば”ダンジョンマスター”を仕留めるかテイムできる実力があること。


 Bランクは”ダンジョンの天敵”あるいは”災厄殺し”を会得する実力があること。


 Cランクは”掃除屋殺し”あるいは”ボス殺し”を会得する実力があること。


 Dランクは”掃除屋”を1種類倒すかダンジョンのボスを3種類倒す実力があること。


 EランクはDランクの実力に満たないこと。


「以上の基準で判断すると、藍大は従魔込みでSランク。舞さん達はAランク。もっとも、舞さんはS寄りのAランクで薬師寺さんは該当なしだけどな」


「なるほど。三原色クランだとどうなる?」


「”レッドスター”の1番隊、”ブルースカイ”のAチーム、”グリーンバレー”の一軍はAランクになる」


「理解した。異議なし」


「私も~」


「そう言ってもらえると助かる。次は生産ランクだ」


 生産ランクも上からS、A、B、C、D、Eの6段階評価となる。


 Sランクは1級ポーションかそれと同等の作品を作れる技術力を持つこと。


 Aランクは2級ポーションかそれと同等の作品を作れる技術力を持つこと。


 Bランクは3級ポーションかそれと同等の作品を作れる技術力を持つこと。


 Cランクは4級ポーションかそれと同等の作品を作れる技術力を持つこと。


 Dランクは5級ポーションかそれと同等の作品を作れる技術力を持つこと。


 EランクはDランクの実力に満たないこと。


「以上の基準によれば、薬師寺さんがSランクだ。ちなみに、千春さんやDMUの職人班はAランク。藍大が調理士の真似をして活動するとなると、調理器具とシャングリラ産の食材込みでAランク扱いになる」


「奈美ちゃんすごい。Sランクだって」


「俺って職人班や千春さんに並ぶ扱いなんだ?」


「料理大会で優勝したし、実際藍大の料理はその辺にいる調理士よりも美味いからなぁ」


「藍大のご飯は美味しいから当然だよ。料理でもSランク目指してみれば?」


「目指さない。俺は家族が美味しく料理を食べてくれるだけで充分だ」


 舞は藍大の料理の腕ならSランク目指せるんじゃないかと思ったが、藍大の本職は従魔士で料理は趣味だから無理に上を目指そうとはしなかった。


 その後もいくつか説明と報告を受けた後、茂は”楽園の守り人”全員分のランク入りの冒険者証を渡してからDMU本部へと帰っていった。

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