第24章 大家さん、新たな隣人を迎え入れる

第279話 同じ男として同情する。それは痛い

 国際会議から2ヶ月が経過した。


 ダンタリオンがC国DMUの本部長である周子墨ジョウズモーに化けていたこと、C国DMUに工作班なる無視できない組織が存在したこと、その組織が日本のトップクランの戦力を削ごうとしたことで世界に激震が走った。


 C国政府は日本政府を通じて各種クランへの賠償金を支払ったが、それだけで和解できるはずがない。


 いくらダンタリオンにDMUが乗っ取られていたとはいえ、それに全く違和感を覚えずに他国の力を削ごうとしたことは許されない。


 C国は国際社会から非難されて著しく発言力と求心力を失った。


 それはそれとして、世界各国が日本DMUに要人や冒険者がダンタリオンのようなモンスターに成り代わっていないか鑑定してほしいと頼んだ。


 どの国もスタンピードが国内で発生しており、自分は間違いなく人間だと証明しなければ何をするにも信じてもらえなくなったのだ。


 日本の鑑定士は全員二次覚醒を済ませており、DMU鑑定班に所属する者をはじめとして民間のクランに所属する鑑定士も総出でWeb会議の形式で鑑定作業を行った。


 藍大もモンスター図鑑の効果で作業に加われることから、作業によって憔悴した茂から依頼されて証明作業を手伝った。


 毎日毎日同じ作業を手伝わされてぐったりした藍大だったが、家族が支えてくれたおかげでどうにか辛い作業を乗り越えられた。


 2ヶ月近くの苦行としか呼べない作業の報酬が破格莫大だったのが救いであろう。


 キツい作業から解放された翌日の3月9日の月曜日、藍大達は久し振りにシャングリラダンジョンに潜った。


 藍大と一緒に潜るのはサクラとリル、ゲン、幼女トリオとブラドだ。


 シャングリラダンジョンの地下10階の改築が終わったので、藍大達は久し振りに未知の敵と戦うことになる。


「ここが地下とは思えない景色だな」


「フフン。そうであろう? 吾輩かなり頑張ったぞ」


 地下10階は水晶の宮殿と呼ぶべき荘厳な空間に仕上がっている。


 ブラドは出現するモンスターだけではなく、内装にも力を入れているのがよくわかる。


 藍大達がしばらく進むと、この階の雑魚モブモンスターが現れた。


 その姿はライオンだったが体の輝きがメタリックだった。


「グルルル」


 喉を鳴らしているライオンは藍大達を警戒していた。


「ネメアズライオンLv90。STRとVITが高め。メタリックなのは毛皮だけで肉は食用」


『食べられるの!? やった~!』


「吾輩、雑魚モブは食べられるモンスターにしといたのだ」


 (逆に言えば”掃除屋”とフロアボスは食べられないってことか)


 藍大はブラドの発言からその2種類について推察した。


 大した意味はないかもしれないが、それだけで見た目を絞り込むことはできよう。


「グルァァァァァン!」


「金属は熱すれば良いのよっ」


 吠えたネメアズライオンに対し、ゴルゴンが<火炎支配フレイムイズマイン>で炎の蛇を創り出して襲わせる。


 ネメアズライオンは金属の毛皮ゆえに熱を溜め込みやすく、ゴルゴンのアビリティを喰らったら終わりだと判断して逃げ出した。


「どこへ行こうと言うのよっ」


 ゴルゴンが調子に乗って強キャラムーブしていると、ネメアズライオンが逃げ込んだ先にペンギンとリザードマンを足して2で割ったようなモンスターが現れた。


 そのモンスターは絵に描いたような宝玉のついた杖を持っていた。


「ペペン!」


 鳴いたと思いきや<水壁ウォーターウォール>が三連続で発動し、炎の蛇が3つ目の壁をギリギリ蒸発させて消えた。


「大したモンスターだ。名前はペンドラ? アーサーとか名付けたら面白そう」


 そのペンドラは杖を使う魔術士タイプらしく、剣を持ったタイプや弓を持ったタイプがいるというのがモンスター図鑑による情報だ。


 ペンドラが<水付与ウォーターエンチャント>でネメアズライオンの体を水で覆った。


 これならば火炎も怖くないとネメアズライオンが藍大達に突撃を仕掛けた。


「足元がお留守です」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>でネメアズライオンの脚に蔓を引っかけて転ばせた。


 そこからの対応はゼルが引き継ぐ。


『バイバイ(ヾ(´・ω・`)』


 <氷刃アイスエッジ>が転んだネメアズライオンの首を刎ね、ネメアズライオンの反撃は実現せずに終わった。


 ペンドラはネメアズライオンがもう少し頑張ってくれるものだと思い、Uターンして逃げようとした。


 だが、それを逃がす藍大達ではない。


「逃がさんぞ」


 ブラドが<剛力尾鞭メガトンテイル>でペンドラを吹っ飛ばして戦闘が終わった。


『ブラドがLv89になりました』


『ゼルがLv86になりました』


 戦闘が終わったことを告げるようにシステムメッセージが藍大の耳に届いた。


「種類の違う雑魚モブ同士が協力するなんてこともあるんだな」


「フッフッフ。いつも数だけで進行を妨害すると思ったら大間違いなのだ」


「やるじゃないか」


「であろ? もっと褒めて良いぞ」


 ブラドは藍大に褒められてご機嫌だった。


 その後もネメアズライオンとペンドラは連携して藍大達の進行を阻もうとするが、連携ならば藍大達の方が得意だ。


 藍大の指示通りに動くことで、あっさりと個別に撃破されてしまった。


 連携できるとはいえ指揮官がいるのといないのでは連携に差が出てしまうらしい。


 ネメアズライオンとペンドラを倒しながら通路を先に進むと、自由の女神像によく似た像が両側の壁に一列に埋め込まれている部屋に着いた。


 部屋の中央には炎の入れ墨が目立つ赤髪上裸の悪魔がいた。


 その悪魔は手遊びに使っていた槍を地面に突き刺し、藍大達を見てニヤリと笑みを浮かべた。


「女だらけのパーティーじゃないか。私好みのふしだらな臭いがするぞ」


「主とふしだらなことをするのは好きだけど、お前みたいな下衆に言われるのは腹立つ」


「上玉だからって良い気になりやがって。決めた。お前から犯す」


「は?」


「フゴッ!?」


 藍大はキレた。


 後先のことを考えずに全力で<重力眼グラビティアイ>を使っていた。


 藍大に攻撃されるとは思っていなかったのか、油断していた悪魔は地面にめり込んだ。


 その隙に藍大はモンスター図鑑で悪魔の情報を調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ベリアル

性別:雄 Lv:95

-----------------------------------------

HP:2,200/2,500

MP:3,000/3,000

STR:3,300

VIT:2,600

DEX:2,700

AGI:2,700

INT:3,300

LUK:2,300

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<火炎支配フレイムイズマイン><爆轟眼デトネアイ><痛魔変換ペインイズマジック

      <剛力投擲メガトンスロー><怒涛乱突ガトリングスラスト><幻影弾ファントムバレット

      <甘言ウィードル><全耐性レジストオール

装備:ヴォルカニックスピア

備考:油断

-----------------------------------------



 (サタンと同じぐらい強いじゃん。冷静にならねば)


 うっかり奇襲を仕掛けてしまったが、ダンタリオンを倒して強化されたゲンの力がなければダメージを与えることはできなかっただろう。


 そんな相手に後先考えずに攻撃したことを反省し、藍大はベリアルが立ち上がる前に指揮を執った。


「メロ、<怠雲羊波シープウェーブ>」


「はいです!」


 羊型の雲の群れがベリアルに向かって飛んでいくと、ベリアルは飛翔してそれを躱す。


「よくもやってくれたな! まずは貴様から殺してやる!」


「ゼル!」


『ォヶd(。・∀・。)bォヶ』


 ゼルは藍大に名前を呼ばれた意図を理解して<魔力要塞マジックフォートレス>を発動した。


 その直後に藍大を狙った大爆発が生じたが、<魔力要塞マジックフォートレス>のおかげで藍大達は無傷だった。


 <魔力要塞マジックフォートレス>の反撃を鬱陶しく思い、ベリアルは盛大に舌打ちする。


「どいつもこいつも邪魔しやがってド畜生がぁぁぁぁぁ!」


 頭に血が上ったベリアルが<怒涛乱突ガトリングスラスト>を放つべく接近する。


「リル、疾さというものを教えてやれ」


『わかった!』


 リルは<光速瞬身ライトムーブ>で接近するベリアルの真横に移動すると、そのまま<翠嵐砲テンペストキャノン>を放った。

 

 突撃中に真横から攻撃されれば脆いもので、ベリアルはあっさりと吹き飛ばされた。


 しかし、ベリアルだって伊達にLv95ではない。


 大ダメージは受けてもこの一撃だけでやられるようなことはなかった。


「主、後は任せて」


「サクラ? ・・・よし、任せた」


「うん。サクッと片付けて来る」


 先程まで藍大の顔を見てうっとりしてたサクラだったが、今が戦闘中だと気持ちを切り替えてとどめを刺してくると宣言した。


 その表情を見て藍大は任せて問題ないと首を縦に振った。


 ベリアルが起き上がろうとしたところにサクラが移動し、深淵のレーザーで股間を撃ち抜いた。


「ホデュアァァァァァァァァァァ!?」


 (同じ男として同情する。それは痛い)


 遭遇した当初の発言を受けてキレてしまったが、今の藍大はベリアルに同情的だった。


 男としてそれはもう絶対に味わいたくない痛みだからである。


「私を襲おうだなんて身の程を知りなさい」


 サクラはそう言って深淵の弾丸を乱射し、ベリアルの体は蜂の巣になった。


『ブラドがLv90になりました』


『ゼルがLv87になりました』


『ゼルがLv88になりました』


 ベリアルの死が口は災いの元という言葉を何よりもわかりやすく伝える教材となった。

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