第278話 パターン青、モフラー!

 戦闘が終わったところで潤と茂、各国の参加者がパーティー会場にやって来た。


「藍大、大変なことになったな」


「見てたのか」


「このパーティー会場、テロ対策の一環で一時的に天井に監視カメラを設置させてもらってたんだ。だから、会議参加者に事務室に集まってもらって戦いの様子は見てた」


「それなら話が早い。C国DMUの周本部長はダンタリオンに乗っ取られてた」


「ああ。また胃が痛くなる案件が増えた。それよりも、俺も鑑定させてもらうぜ」


「おう」


 茂は断りを入れてからダンタリオンの死体を鑑定した。


「マジか。体に魔石が生えてやがる」


「モンスター図鑑で調べられる時点でモンスターだろ」


「だな。とりあえず、従魔士藍大二次覚醒済鑑定士がWチェックしたんだから難癖付けられる心配はねえよ」


 そこに潤が話に加わる。


「藍大君、サクラさん、リル君、お疲れ様。酷い事件だったね」


「C国がどうなってるかマジで不安です。余波が日本に来ないと良いんですが」


「まったくだね。各国の参加者もそれを心配してたよ。いや、それだけじゃないな。周本部長以外にもこの中の誰かが体を乗っ取られてるんじゃないかって不安になってる」


「藍大と俺で鑑定すれば良いだろ。そうすれば身の潔白が証明できる」


「悪いけど頼むよ」


 ダンタリオンのようにモンスターが人の体を奪うことがあるとわかり、疑い深い者がこの中にもダンタリオンと同じ状況にある者がいるのではないかと言い出したらしい。


 藍大と茂が協力して鑑定し、ダンタリオン以外はちゃんと人間であると証明した。


 その後、各国のDMU代表者達と茂は打ち上げなしで国に帰った時の報告内容と今後の方針について話し合うため、DMU本部の大会議室へと向かった。


 共に行動していた冒険者達は会議に参加せず、各国の冒険者とパーティー会場に残って情報交換をすることになった。


 藍大達に最初に近づいたのはソフィアだった。


『ランタ、ご無事で何よりでした』


「お気遣いいただきありがとうございます、ソフィアさん」


「私達がいれば主は安全」


『僕達がご主人を守るもんね』


 サクラとリルがドヤ顔で主張するとソフィアはニッコリと微笑む。


『フフッ、頼りになる仲間がいて羨ましいですね』


「自慢の家族です」


 ソフィアは藍大が自信満々に答えるのを聞いてリルの方をチラッと見た。


『あの、突然で申し訳ないのですがリルさんを撫でさせてもらえないでしょうか? 一目見た時からどうしても撫でてみたくて』


 リルはイヤホンを着けていないのでソフィアが何を言っているかわからずに首を傾げた。


『ご主人、この人なんて言ってるの?』


「リルを撫でたいんだって。どうする?」


『・・・天敵センサーに反応なし。ちょっとだけなら良いよ』


 (そんなセンサーあったの!?)


 説明しよう。


 天敵センサーとはリルの研ぎ澄まされた直感に基づくモフラー発見技能である。


 赤星真奈向付後狼さんがパターン青を通り越した存在なのは言うまでもない。


「少しだけなら良いみたいです」


『本当ですか!? ありがとうございます!』


 ソフィアはリルを撫でられると知って大喜びだった。


 リルが嫌がらないように慎重にリルの背中を撫でる。


『最高の肌触りです。どんな毛皮製品だってこんなにふんわりしたものではありません。とても素晴らしいものですね。ずっと撫でていたいです』


「リル、素晴らしい毛並みだって褒められてるぞ」


『だよね! ご主人がいつも仕上げてくれるんだもん!』


 流石に毛皮製品に負けないとそのまま伝える訳にはいかず、藍大はソフィアの感想を嚙み砕いて伝えた。


 リルは自分の毛並みを褒められて得意気である。


 リルは濡れることを好まないがシャワーだけは例外だ。


 それは綺麗にしていないと藍大に撫でてもらえないとわかっているからであり、シャワーから出たら藍大にドライヤーで乾かしてもらって櫛で梳かしてもらっている。


 その間は藍大を独り占めできるし、自分の毛並みも良い感じに仕上がるからリルはその時間が大好きなのだ。


 ソフィアがリルを撫で終わった時にはシンシアがいつの間にかその場にいた。


『私にも撫でさせてくれまいか!?』


『パターン青、モフラー!』


 リルは警戒態勢を取り、<仙術ウィザードリィ>で体を小さくして藍大の肩の上に避難した。


「リル、大丈夫か?」


『この人、今まで上手く擬態してたけど天敵と同じ臭いがする!』


 (ディオンさん、それはヤバいって)


 藍大はシンシアをジト目で見た。


 リルに真奈と同類扱いされるということは超一流のモフラーだと認定されたことに他ならない。


 よくよく考えてみれば、弟が調教士で獣型モンスターをテイムできるという時点でモフラーになりそうなものだろう。


 むしろ、周りに獣型モンスターしかいないのならば、藍大の従魔よりモフ度が高くて真奈よりもモフラーになりやすい環境下にあると言えよう。


 そんな危険人物にリルを撫でさせる訳にはいかない。


「ディオンさん、リルが嫌がってるのでお断りします」


『これがの言うツンデレってやつなのか!』


 (今なんて言った? マナ?)


 藍大はディオンが口にした単語を聞いて冷や汗をかいた。


 まさかそんな偶然があるのかと戦慄したのだ。


 疑問を確信に変えるべく、藍大は意を決してシンシアに質問してみた。


「もしかして”レッドスター”の赤星真奈さんと知り合いですか?」


『その通り! 高校時代に交換留学でマナと知り合ってからは親友同志だ!』


 (類は友を呼んじゃったよ!?)


 認めたくないことというのは案外事実だったりする。


 藍大にとってそれを改めて認識させられる瞬間だった。


 当時はペットをモフる程度の話だっただろうが、今ではダンジョンにあらゆるモンスターが現れてモフれる対象は一気に増えた。


 モフラーにとってダンジョンが発生したこの世界は以前よりも住み易いに違いない。


「リル、ディオンさんって真奈さんの親友だってよ」


『ここにいなくても僕を追い詰めようとするなんて恐ろしい・・・』


 リルがプルプルと体を震わせるので、藍大はその頭を撫でて落ち着かせた。


『東洋の魔王に宥められるリルが可愛過ぎる!』


「国にお帰り。ハウス」


『はぁ・・・。ランタ、ちょっと彼女の熱を冷まさせてきます』


「すみませんがお願いします」


 ソフィアが溜息をついた後、シンシアを連れてその場から離れていった。


 自分がリルを撫でさせてもらったことが原因でこうなったと思い、責任を感じての行動らしい。


 リルが小さくなってリルと触れ合う機会が終わったとわかると、モフモフに興味がある者達は肩を落とした。


 正直、ダンタリオンの件とシンシアがモフラーだとわかったことで疲れてしまったから、藍大はこの会場から出ていきたかった。


 しかし、ここでホテルマン達が料理を室内に持って来たことで流れが変わった。


『ご主人、ご飯が来たよ!』


 先程までシンシアを警戒していたにもかかわらず、リルは運ばれて来た料理で機嫌が直った。


 すぐに切り替えができるのは良いことだ。


「リル、何が食べたいか言ってごらん」


『えっとね〜、全部!』


「そっか。順番に取るから落ち着こうな」


『うん!』


 リルは今日も今日とて食いしん坊だった。


「主の分は私が取るから安心して」


「いつもすまないね」


「それは言わない約束だよ」


 藍大はサクラと小ネタを挟みつつ自分達のペースで夕食を取った。


『俺も・・・お腹空いた・・・』


「帰ったらあげるから待ってて」


『了解』


 ゲンもお腹が空いて来たらしいが、この場で<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除できないので我慢してもらうことにした。


 ゲンは怠惰だがどうしようもなく我儘という訳でもない。


 少しぐらいご飯が遅くとも我慢はできる。


 リルがパーティー料理全てを味見した後、ニコニコしながら藍大の方を向いた。


『ご主人、お家に帰ったら僕もゲンと一緒に食べる。やっぱり僕はご主人の料理が食べたいよ』


「・・・お茶漬け作ってあげるからそれで我慢しような」


『うん!』


 藍大がリルに甘いのもいつも通りである。


 いっぱい食べる君が好きというのもそうだが、自分の料理を美味しいと言ってくれるのが決め手だろう。


 情報交換会が終わると、藍大達は急いでシャングリラに帰った。


「藍大お帰り!」


「・・・待っておったぞ主君」


「待ってたわっ」


「お帰りなさいです!」


『(*´∀`*)ノ。+゚ *。』


 舞にぬいぐるみ扱いされてぐったりしたブラドが印象的である。


 もっとも、そんなブラドもゲンのご飯に便乗してリルと一緒にお茶漬けを食べたら元気になったのだが。


 (やっと帰って来た感じがするわ)


 ご飯を食べるゲンたちを見て国際会議が終わったと実感する藍大だった。

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