第277話 お前は誰だ? 本部長じゃないな? 

 藍大達がパーティー会場に移動すると、そこにいた会議の参加者はC国のDMU代表と王浩然だけだった。


 これは潤が人海戦術でC国以外の参加者の部屋から盗聴器と監視カメラを発見して回収した後、C国の狙いがわかるまで部屋に待機するよう頼んだからだ。


 そして、藍大とサクラ、リルがこの場に来たのも潤の頼みがあってのことである。


 藍大が潤から頼まれた内容とは、C国の2人から日本のクランを襲撃させたことと各国への盗聴器等を設置したことの言質を取ることだ。


 サクラの<魅了眼チャームアイ>があれば簡単に言質を取れると判断し、藍大は潤の依頼を受けた。


 実際、潤は藍大よりもこの依頼を達成できる見込みの高い者に心当たりがなかったため、藍大に断られたらどうしようかとヒヤヒヤしながら頼んだのはここだけの話である。


 藍大達がパーティー会場に入ると、ホテルマン達はそそくさと会場から出ていく。


『これはどういうつもりかネ?』


「人間爆弾を命じた気分はどうだ? 腐れ外道」


『・・・東洋の魔王、一体何を言ってる?』


 浩然は藍大が言っている意味が分からずに首を傾げた。


 それに対してC国のDMU代表は一瞬表情がなくなったが、瞬時に薄気味悪い笑みを浮かべた。


『なんのことかわからないアルな。何か勘違いをしてるんじゃないかネ?』


 藍大はできればサクラに<魅了眼チャームアイ>を使わせずに言質を取ろうとしていた。


 サクラの力を使って自白させるのは簡単かもしれないが、精神を操作して自白させたことで難癖をつけて来る国が出て来ないとも限らないからだ。


 無論、政治に関わる相手に自分が論破できるとも思っていないので、ただの悪足搔きにしか過ぎないのだが。


「先程クランメンバーから連絡があってな。C国DMU工作班に所属する拾陸号って女スパイがシャングリラに忍び込んだから捕まえたんだ」


『我が国のDMUに工作班なんてないはずだ。そうだろう、本部長?』


『浩然の言う通りアル。DMUにそんな職員がも存在しないネ』


「数十人なんて人数が出て来るとはおかしいじゃないか。工作班って言っただけでどれくらいの規模かなんてわからないのに」


『言葉の綾ネ。工作班の拾陸号なんていうから数十人規模だと思っただけアル』


 (こいつは妙だな)


 藍大は困惑した。


 自分よりも長く生きており、自分よりも腹の探り合いに慣れているはずのC国のDMU代表の言い分に綻びが生じているからだ。


 浩然も首を傾げていて何か嫌な予感はしたが、藍大は会話を続けることにした。


「じゃあ拾陸号から手に入れたスマホと収納袋も俺の物で良いよな? C国は関係ないんだから」


『収納袋は返すネ』


「どうした? 知らないんじゃないのか?」


『・・・お前は誰だ? 本部長じゃないな?』


「んんんんん?」


 藍大が取り出した収納袋を見た途端、表情が消えたC国のDMU代表に対して浩然が誰何した。


 藍大にとってこの展開は予想外だったので大きく首を傾げた。


 その時、藍大は直感的にモンスター図鑑を視界に映し出してC国のDMU代表を調べた。


 彼が人間ならばこれは無意味な行動で終わるが、そうならない予感がしてそうしたのだ。


 直感に従った結果、藍大の視界には以下のステータスが映し出された。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ダンタリオン

性別:雄 Lv:80

-----------------------------------------

HP:1,200/1,200

MP:2,000/2,000

STR:0

VIT:1,500

DEX:1,500

AGI:1,000

INT:2,000

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:大災厄

   外道

アビリティ:<精神侵略マインドハック><記憶読込メモリーリード><誘眠風スリープウインド

      <暗黒鞭ダークネスウィップ><暗黒槍ダークネスランス

      <全耐性レジストオール><肉体強奪ボディースナッチ

装備:周子墨ジョウズモーの肉体

備考:苛立ち

-----------------------------------------



 (体乗っ取られてるじゃねえか!? しかも”大災厄”って何!?)


 周子墨ジョウズモーとはC国のDMU代表の名前だ。


 ダンタリオンには恐ろしい力があった。


 それは別の生物に成り代わることができるというものだ。


 <記憶読込メモリーリード>で成り代わりたい生物の記憶を読み込み、<肉体強奪ボディースナッチ>でその肉体を奪う。


 <肉体強奪ボディースナッチ>を使った場合、元の肉体を捨てて精神体となった状態で乗っ取りたい相手の肉体に飛んで行って乗っ取る。


 それどころか一次覚醒の鑑定士の鑑定結果を偽装できるので、今回の国際会議のように鑑定士が各国の参加者の身元を確かめても誤魔化せてしまう。


 ちなみに、体を乗っ取られた者の精神は死んでしまうから<肉体強奪ボディスナッチ>は即死アビリティとも呼べる。


 更に加えて言うならば、奪った者の肉体がアビリティ使用者と相性が良い場合、奪った者の全能力値の半分が使用者に上乗せされる。


 もっとも、乗っ取りたい相手のINTとVITの合計値が自分よりも低ければ成功するが、その相手のINTとVITの合計値が自分よりも高いと肉体を失って死ぬことになる。


 体を乗っ取るというとんでもないアビリティがノーリスクで使えるはずがないのだ。


 ダンタリオンが子墨の体を乗っ取ったのはさておき、初めて出て来る”大災厄”の称号は藍大の表情を引き攣らせるには十分だった。


 ”災厄”はスタンピードの格となるモンスターが持つ称号だが、”大災厄”とはスタンピード発生から1ヶ月以上生き延びて直接間接問わず1万人以上殺した者が手に入れられる称号である。


 つまり、ダンタリオンはスタンピードでダンジョンを飛び出してから1ヶ月以上野放しになっており、1万人以上の人間を殺していることになる。


 人類にとって害悪であることは間違いなかった。


「麒麟僧正、そいつから離れろ! そいつはダンタリオンってモンスターだ!」


『おや、バレてしまったか。やはり従魔士は私にとって邪魔な生き物のようだね』


 藍大がダンタリオンの正体を暴くと、ダンタリオンは子墨の真似をするのを止めて普通に話し始めた。


 これには浩然も慌ててダンタリオンから距離を取って戦闘態勢に移った。


『浩然、酷いじゃないアルか。私を拒絶すると言うのかネ?』


『その喋り方をするのは止せ。生憎私が力を貸すと決めてたのは本部長だけだ』


『そうか。ならば死ね』


 その瞬間、ダンタリオンはニッコリと笑みを浮かべて<暗黒槍ダークネスランス>を乱射した。


 藍大達よりも早く倒せそうだという判断から狙い浩然だった。


 体を休める時間があったとはいえ、浩然は昼間にパトリックと全力の模擬戦をした後だ。


 その体には少なからず疲労が蓄積されている。


 今は被弾することなく避けられているが、このまま防戦一方だった場合に先にバテるのは浩然だろう。


 藍大からすれば、ダンタリオンと浩然が潰し合ってくれることは構わない。


 しかし、このままではホテルが大変なことになってしまうので介入することにした。


「リルが追い立ててサクラが仕留めるんだ」


『わかった!』


「は~い」


 藍大が指示を出してすぐにリルが<光速瞬身ライトムーブ>でダンタリオンの背後を取る。


『く、来るな!』


 接近戦が得意ではないダンタリオンは<暗黒鞭ダークネスウィップ>で攻撃し、どうにかリルと距離を取ろうとする。


 だが、リルの<光速瞬身ライトムーブ>の方が速くて当たる気配がせず、ダンタリオンはリルから逃げ始めた。


 逃げ出したとしても、その先にはサクラが待ち構えていた。


「コソコソ探ったり人間爆弾寄越したり不快なの。死んでくれる?」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で極細の深淵の弾丸でヘッドショットを決めた。


 ダンタリオンのAGIがそこまで高くなかったこともあり、サクラの一撃で勝敗が決した。


 ドサリと音を立ててダンタリオンは床に倒れた。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”大災厄”と化したモンスターを倒しました』


『初回特典として戦闘に参加したサクラ、リル、ゲンの全能力値が強化されました』


 システムメッセージが流れたことにより、藍大はダンタリオンとの戦いが終わったことを実感した。


 サクラとリルが嬉しそうに藍大に駆け寄る。


「主、倒したよ」


『ご主人、僕達強くなったよ!』


「よしよし。サクラもリルもグッジョブだ」


「エヘヘ♪」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められてサクラもリルも喜んだ。


 それとは対照的に浩然は自分の無力さを思い知って膝から崩れ落ちたが、こればかりは藍大達にはどうすることもできなかった。

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