第274話 奪うつもりで来たのなら奪われても仕方ないです

 藍大達がDMU本部隣のホテルに移動した頃、シャングリラではドライザーが正体不明の侵入者を迎撃していた。


『侵入者発見』


 辺りは既に暗くなっていたことを利用し、ドライザーは<聖気鎧ホーリーアーマー>を高出力で発動して侵入者に目潰しを行った。


 侵入者はドライザーの作戦にまんまとしてやられてその場で立ち止まり、威力を抑えた<魔砲弾マジックシェル>を喰らって地面に転がされた。


 威力を抑えたとしてもドライザーのINTで攻撃をすれば、冒険者とはいえタダでは済まないのは当然のことだ。


 鳩尾に一撃喰らったことで侵入者は完全に気絶していた。


 そして、ドライザーの戦闘が終わったことを察した幼女トリオが102号室から出て来た。


「全身真っ黒ねっ」


「見るからに怪しい奴です」


『٩(๑òωó๑)۶ オコダヨ!』


 その後から舞も姿を現す。


「う~ん。藍大の嫌な予感が当たっちゃったか~。ゴルゴンちゃん、奈美ちゃん呼んで来て」


「まっかせなさい」


 ポンと手で胸を打ったゴルゴンが奈美を連れて来るのに数分しかかからなかった。


「舞さん、敵襲ですか? ゴルゴンちゃんが真っ黒な奴が来たけどドライザーがやっつけたって教えてくれたんですが」


「どこの誰だかわからないんだよね~。奈美ちゃんの薬なら訊き出せると思って」


「なるほど。自白剤ならさっき持って来た救急薬箱の中に入ってます」


「・・・救急薬箱に自白剤が入ってるのはなんで?」


「こ、細かいことは気にしたら駄目なんです! メロちゃん、侵入者が逃げられないようにして下さい!」


「はいです!」


 舞の疑問は訊いて当然のものだったが、奈美はその疑問に対する答えをはぐらかしてメロに侵入者の拘束を依頼した。


 メロは<植物支配プラントイズマイン>で硬めの蔓を創り出し、侵入者の体をグルグル巻きにして身動きを取れなくした。


 それに加えて舞は多少の防音と侵入者が逃げられないようにすることを目的として小さめに光のドームを展開した。


 準備ができたら奈美が侵入者を起こして自白剤を飲ませた。


 この自白剤だが、シャングリラダンジョンのモンスター素材とメロの力でファンタジーな植物を素材にして作った結果、国籍問わず聞き手にわかる言語で聞こえるように話す翻訳効果も内包された恐ろしい代物である。


 自白しても言語がわからなければどうということはないと考え、見た目からは想像もつかない言語で話す工作員にも対応できてしまう。


 自白剤なのに別名で工作員殺しと呼ばれるようになっているのも頷けるレベルだ。


 すぐに薬の効果が表れ、侵入者の目がとろんとしたものへと変わった。


 それを見て舞が質問を始める。


「どこ出身の誰なの?」


「C共和国DMU工作班所属、拾陸じゅうろく号」


「C国のスパイなのよっ」


「落ち着くですよゴルゴン。まだ慌てるような時間じゃないです」


 先日見たドラマの尋問シーンにそっくりだったため、ゴルゴンは拾陸豪がC国の工作員だと聞いてテンションが上がった。


 メロも同じドラマを一緒に見ていたので内心ソワソワしていたが、ここで慌ててはいけないと自分にもゴルゴンにも言い聞かせるように言う。


 ゴルゴンとメロの言い合いを微笑ましく思いつつ、舞が質問を続ける。


「身分を証明できる物を見せてくれる?」


『無理だ。脳に移植されたチップで識別されるから差し出せない』


「本当にスパイっぽいわっ」


『(゚∇゚ ;)エッ!マジカ!?』


「スパイっぽいと思うけど落ち着くです」


 今度はゴルゴンだけでなくゼルもテンションが上がるのを抑えられなかった。


 メロがストッパーに回るのは幼女トリオのお決まりのようだ。


「何しにシャングリラに来たの?」


「”楽園の守り人”のメンバーの暗殺、拉致等。それに加えて1級ポーションと覚醒の丸薬の奪取」


「その命令書かそれっぽい物は持ってないの?」


「持ってない。命令は口頭にて一度しか言われないから探しても無駄。メモも許されていない」


「むぅ。C国を訴える証拠としては弱いね」


「舞さん、この尋問は録画してますからひとまず証拠は置いといて情報を集めましょう」


「わかった~」


 C国が自分達に敵対行為を働いたことからせめて証拠でもあればと思う舞だったが、残念ながら話はそう上手く進まない。


 そうであるならば、奈美の言う通りまずは情報を集めるだけ集めて藍大に渡すのがベストと判断して頭を切り替えた。


 奈美も録画を続けながら質問に加わった。


「シャングリラを襲う予定なのは拾陸号だけですか?」


「その通り。シャングリラは魔王様信者の包囲網があって大人数で乗り込むとすぐにバレるから単独ソロで来た」


 奈美の質問に舞は引っ掛かって追加質問をした。


「1人でなんでもかんでもやるのは無理じゃない? 仮に1級ポーションや覚醒の丸薬を手に入れても1人で運べるの?」


「この任務をするにあたって収納袋を与えられてる。これを使って根こそぎ掻っ攫うよう指示された」


「収納袋なんて持ってたんだね。それはどこにあるの?」


「ジャケットの内側のポケットだ」


「没収しちゃえば良いと思うわっ」


「奪うつもりで来たのなら奪われても仕方ないです」


『ワクワク"o(・ェ・o))((o・ェ・)o"ドキドキ』


 幼女トリオは容赦なかった。


 もっとも、舞も奈美もドライザーもそれを止めようとはしないのだが。


 とりあえず、メロが拾陸号の拘束を下半身に集中させて上半身の拘束を緩める。


「動いちゃ駄目です」


 メロが<停止綿陣ストップフィールド>を発動することによって拾陸号の時間が止まった。


 その隙にゴルゴンとゼルが拾陸号のジャケットを脱がした。


「えっ、この人って女性ですよ」


「サラシ巻いてたんだ・・・」


 奈美と舞が予想外の事態に驚いていると、ゴルゴンがサラシを<火炎支配フレイムイズマイン>で焼き切った。


「ゴルゴンちゃん何やってるんですか!?」


「胸の大きさを偽るなんて許せないじゃなくて、胸の間に何か隠してないか確かめてたのよっ」


 奈美がゴルゴンの思い切った行動にツッコんだら、ゴルゴンはそれが嫉妬ほとんどと隠している物がないか確かめる気少しの割合で行動したのだと弁明した。


 実際、胸の谷間からスマホが出て来たのでゴルゴンの行動は実行して正解だったと言える。


 収納袋と併せてそれらを回収した後、メロが蔓で上半身も拘束し直してから舞達は尋問を再開した。


「シャングリラ以外に襲撃予定の場所はあるの?」


「”レッドスター”と”ブルースカイ”、”グリーンバレー”、”ホワイトスノウ”、”ブラックリバー”のクランハウスだ。私の同僚が侵入予定だ」


「それぞれ規模はどれぐらい?」


「三原色クランは5人ずつ、白と黒は3人ずつ」


「襲撃の目的は何?」


「日本の戦力低下。それに伴う相対的なC国の影響力の上昇」


「ゴルゴンちゃん、麗奈達に協力を依頼して5つのクランに注意喚起の連絡して」


「わかったわっ」


 今聞き取るべき内容を伝えると、舞は光のドームを解除してゴルゴンを麗奈達の部屋に向かわせた。


 舞は最後に今までの尋問に出て来なかった人物について訊ねた。


「藍大に対して何を仕掛けるつもり?」


「それはわからない。私が知ってるのは国際会議の盤外の作戦のみ」


「そこがわからなきゃ意味ないよ!」


「落ち着いて。拾陸号は眠らせて・・・。動画も撮影終了。舞さん、まずは藍大さんに連絡しましょう」


「そうだね。連絡してみる」


 奈美に落ち着けと言われる舞というのは珍しいが、そんなことを気にする余裕もなく舞は藍大に電話した。


『もしもし、舞?』


「藍大、無事!?」


『その感じからしてそっちでも何かあったか。こっちは無事だけど舞達は無事か?』


「無事だよ。C国の工作員がシャングリラに侵入したところをドライザーが捕まえたの。それで、奈美ちゃんの自白剤で色々吐かせてたとこなの」


『なるほど。これは茂に鑑定してもらわなくても良さそうだな』


 藍大が苦笑している様子が目に浮かび、舞は藍大達に起きていることが気になった。


「藍大の方は何があったの?」


『俺達の泊まってる部屋に監視カメラと盗聴器が仕掛けられてた。舞達の方が襲撃されたことから察するに、俺達の方もC国の仕業だろうな』


「まったくもう、ダンジョンのことで大変な状態なのにC国って何考えてるんだろうね?」


『何考えてるんだろうな。碌でもないことを考えてるのは確かだ。舞、そっちでわかった情報を教えて』


「勿論だよ」


 舞は藍大に尋問して知り得た情報を全て伝えた。

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