第275話 魔王様信者マジ有能

 藍大が舞からの電話を受けた後、茂が潤と共に藍大の部屋にやって来た。


「待たせたな」


「悪かったね。こちらも段取り組むのに手間取っちゃって」


「いえいえ。これが例のブツです」


 藍大はユニットバスの浴槽にあったタオルでグルグル巻きにした盗聴器と監視カメラを持って来た。


 藍大がそう言うと、茂が盗聴器と監視カメラを鑑定してC国で作られた物だったと伝えた。


 (Made in Cって刻まれてなくてもわかるのは便利だな)


 モンスター図鑑の裏技でサクラが持った物の効果を知る方法ではどこで作られたのかがわからない。


 これは鑑定士の鑑定でなければわからないのだ。


 偽名を使われていたとしても、二次覚醒ならば偽名を辞書機能で調べれば本名に辿り着ける。


 二次覚醒した鑑定士には偽装は無意味ということだ。


「どうして面倒なことをしてくれるかなぁ」


 潤が眉間に寄せた皺を摘まみながらやれやれと呟く。


 そこに藍大が先程知り得た情報をぶち込む。


「茂に電話をかけた後、舞からシャングリラに侵入者が出たと連絡がありました。C国DMUの工作班のメンバーだったそうです」


「・・・これが茂の味わってる胃痛というものか」


「藍大、お前達って奴は本当に優秀だな」


「褒めるなよ」


「皮肉だよ。つーか、なんで舞さんが侵入者をC国DMUの工作班だってわかったんだ?」


「ドライザーが捕縛した後、薬師寺さんの作った翻訳効果のある自白剤で吐かせたらしい」


「何それ怖い」


「何それ欲しい」


「「えぇ・・・」」


 茂はそんな薬品があるのかと戦慄したが、潤は奈美が作った自白剤に興味津々だった。


 その様子を見て藍大も茂もこれが政治関係者かと引いた。


 潤は2人に対して堂々とした態度で理由を話す。


「考えてみてほしい。他国の工作員さえ捕まえれば、外国語に不慣れでも尋問ができるんだ。しかも、工作員なんて状態異常に一定の耐性がなければ務まらない相手から情報を引き出せる薬だよ? 日本を守るために欲しくないはずがないだろう?」


「それはそうですが」


「なんでそんなもんを薬師寺さんが持ってるかが気がかりなんだよ」


「藍大君、どうして彼女はそんな素晴らしい物を持ってるんだい?」


「シャングリラ産の素材でできちゃったらしいです」


「これがゴッドハンドの実力か・・・」


「ゴッドハンドもそうだがシャングリラダンジョン恐るべしだな」


 ひとまず奈美が作った自白剤については置いておくとして、藍大は知り得た情報の共有を続ける。


「シャングリラに侵入したのは拾陸号と名付けられた工作員で、その目的は”楽園の守り人”のメンバーの暗殺、拉致。それに加えて1級ポーションと覚醒の丸薬の奪取だそうです」


「1人で侵入したのかい?」


「シャングリラは信者の包囲網があって大人数で乗り込むとすぐにバレるから1人で来たと言ってます」


「魔王様信者マジ有能」


「それな」


 茂が苦笑したのに釣られて藍大も苦笑した。


「C国の工作員が命令書なんて持って来るとは思えないけど、それに近い物は所持してなかった?」


「スマホは持ってたそうです。それと盗んだ物を1人でも運べるように収納袋を所持してました」


「ちょっと待った。藍大、それってパンドラの<保管庫ストレージ>的なアイテムか?」


「話によればそうらしい。ジャケットに忍ばせて来たんだってさ」


「C国はそんな物まで持ってたのか」


 (ごめん、俺その上位互換持ってる。同じ物は司に貸してる)


 売りに出さず情報もクラン内に留めていた収納袋の存在が思わぬ形で茂と潤に知らされることになり、藍大は茂に心の中で謝った。


「とりあえず、工作員の身柄やアイテム諸々は”楽園の守り人”が取り押さえてます。それと併せて厄介なのが、工作員が三原色+白黒クランにも向かってるらしいんですよね。一応、こっちでその5つのクランには連絡を入れましたが今どうなってるかはわかりません」


 藍大がそう言った瞬間、潤のスマホが鳴り出した。


「ちょっとごめんよ」


 潤は断りを入れてから電話に出た。


 その間に茂は藍大と話を続ける。


「これ、もしかして他所の国の部屋にも盗聴器と監視カメラがあるんじゃね?」


「俺もそー思う」


「盗聴器と監視カメラがあった事実だけ知られたら、日本が情報を集めるために仕掛けたとかC国が言い出すんじゃね?」


「あり得る。ただなぁ」


「どうした?」


「バーサークポーションに副作用があるってわかった件でC国が何ヶ国かに睨まれてたから発言力が弱まってると思うぞ」


「あー、あれかぁ。C国も生き急いでると言うか、国際社会の足を引っ張ろうとしてると言うか」


 やれやれと藍大と茂が首を横に振っていると、電話を終えた潤が2人の話に加わった。


「三原色クランはほとんど被害なく返り討ちにした。”ホワイトスノウ”と”ブラックリバー”は怪我人多数ってさ。なんでも工作員が勝てないと悟ってジャケットから爆弾を取り出して自爆したらしい」


「徹底した隠蔽工作ですね」


「藍大の所は大丈夫なのか? 爆弾があるかもしれないだろ?」


「ジャケットひん剥いたって聞いてるから大丈夫。幼女トリオがスパイもののドラマを見てたおかげだな」


「テレビっ子が活躍したのか。偶然も馬鹿にできねえな」


「帰ったら褒めてやらないと」


 本当の所はゴルゴンが拾陸号の胸のサイズを気にしたことがきっかけなのだが、それは舞が同じ女の情けとして藍大に伝えていない。


「とりあえず、C国以外の国の部屋に至急人を向かわせたよ。上手くいけばC国を国際社会の雑魚モブにできそうだ」


「茂、小父さんってこんな攻撃的だったっけ?」


「過去にC国との共同事業を任された際に煮え湯を飲まされたって聞いたことがある。C国以外にはあんな感じじゃない」


 潤の過去にそんなことがあったとはと思いつつ、藍大はとりあえずパーティーに参加する準備を進めることにした。


 なんだかんだ言ってパーティーの準備は全くできていなかったからだ。


 潤がやることがあると言って出ていくと、藍大はシャングリラに侵入した拾陸号と戦利品を回収しに行った。


 リルがいればすぐに移動できるので、藍大はそれらを回収してホテルにとんぼ返りして戦利品の鑑定を茂に任せた。


「これが収納袋か。この中には結構入ってるな。うわっ、爆弾あった」


「収納袋の中入れとけ。中に入ってたってことはその中に入れときゃ誤爆の危険性はないってことだろ?」


「そうだな。う~ん、他は携帯食と水ばっかりだ。つーかこの携帯食やべえ。依存性の高い薬が仕込まれてやがる」


「人道度外視のクソ仕様だな。C国の闇を見た気分だ」


「俺の鑑定はこういう見てて胸糞悪い物のためにあるんじゃねえんだけどなぁ」


 藍大と茂は同時に溜息をついた。


 その時、簀巻きにされていた拾陸号が目を覚ました。


「主、スパイが目を覚ましたよ」


「そうみたいだな。おそよう。随分と寝坊助じゃないか」


 藍大が追加で情報を引き出せないかと考えて話しかければ、拾陸号は無表情のまま返答した。


「くっ殺せ」


「棒読みだな」


「地味に自白剤の効果が切れてねえぞ。棒読みはそのせいじゃね?」


「自白剤の効果が効いててくっころを口にするって何事?」


「日本人に捕まって気を失った後目覚めたらそう言えと仕込まれた」


「碌でもねえ上司だな」


「わからんぞ。このネタが好きな相手に油断させて立場を逆転させるための教育だろうし」


「これに引っかかる馬鹿がいるか? ・・・いそうだな」


 藍大は身内にも1人心当たりのチャラ男がいたのを思い出した。


 茂も同一人物を思い出したようだ。


「最初に見つけたのがドライザーで良かった」


「まったくだ。健太だと色仕掛けとか引っ掛かりそうだし」


「遥と関係は進んでねえの? 付き合ってるんだろ?」


「鈴木さんの方針で婚前交渉はお預けらしい」


「健太が相手なら性欲を持て余してるから効果は抜群だ。まさか健太を狙ったのか?」


「青島健太は女に弱い。いざとなればベッドの中で殺す算段だった」


 拾陸号は女の武器を使って健太を殺そうとしていたとわかり、藍大と茂はまた溜息をついた。


「本当にドライザーが対処してくれて助かった」


「俺、千春さん経由でガードが硬過ぎると健太が逃げるって伝えてみる」


「直接言うのは拙いもんな」


「従姉弟関係でもセクハラって成立するから気を付けねえといかんのよ」


 健太が色仕掛けに引っかからないようにするための予防策は、健太と遥の関係の進展に役立つかどうかはまだ誰にもわからない。


 この後も時間が許す限り引き出せるだけの情報を引き出し、潤から電話で頼み事をされた藍大達はパーティー会場へと向かった。

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