第270話 指名質問来ちゃったか・・・

 翌日の朝、藍大達はパーティー会場のホテルからDMU本部に移動した。


 各国のDMU代表とそれに同行する冒険者達はパーティー会場のホテルに宿泊しており、藍大達と潤もそれは同様だ。


 集まる要人達に何かあってはいけないので、DMUの隊員達がダンジョン探索に行かずに交代で昨日の夜間は警備をしていた。


 幸い、トラブルは発生することなく藍大達は国際会議2日目を迎えることができた。


 2日目の今日はダンジョンやスタンピード、モンスター等について意見を交わした後、各国の冒険者の模擬戦を行う予定になっている。


 1日目は各国のDMU代表が発表するだけだったが、今日の話し合いには同行する冒険者達も議論に参加できる。


 いや、訂正しよう。


 各国のDMU本部長達は基本的にダンジョン探索をするような役割にないから、現場の生の声を知る意味で冒険者達に積極的に議論に参加してほしいと考えている。


 潤は定刻になったため、開催国代表として会議の司会進行を務める。


「定刻となりましたので、国際会議2日目を始めます。本日最初の議題はこちらです。スクリーンをご覧下さい」


 参加者は潤に言われた通りにスクリーンを見る。


 そこには英語で適切なダンジョンの間引きとはどの程度かというテーマが映し出されていた。


 公用語が英語である以上、自国の言葉でなくとも各国のDMU代表は英語の資料を理解できる。


 それに対して冒険者はどうだろうか。


 腕っぷしやサバイバル能力に長けていたとしても、外国語英語を正確に理解できる者ばかりではない。


 藍大だって就活のために取得した英検やTO〇ICでそこそこのスコアを取ったぐらいでしかない。


 それでも藍大には茂という心強い味方がいた。


 茂が国際会議の資料を作成した者に頼み、日本の参加者全員分の日本語で書かれた会議資料を用意していたのだ。


 ”楽園の守り人”係はこんな所でも活躍している。


 (確かにこれは重要だなぁ)


 藍大も手元の資料を見て話し合うべき議題だと納得した。


 現在スクリーンに映っているテーマは日本国内でも見解が分かれている内容だからだ。


 スタンピードとはモンスターがダンジョン内で増え過ぎた時に発生し、”災厄”の称号を得たモンスターが中心となってダンジョンの外に出て暴れ回る現象である。


 スタンピードを阻止する方法は5つだ。


 1つ目は”ダンジョンマスター”を倒してダンジョンを潰すこと。


 2つ目は”ダンジョンマスター”を倒した者が”ダンジョンマスター”を継いでダンジョンを管理すること。


 3つ目は”ダンジョンマスター”をテイムしてダンジョンを支配下に収めること。


 4つ目は他所の”ダンジョンマスター”の力を借りて”ダンジョンマスター”の消えたダンジョンを乗っ取ること。


 5つ目はモンスターが増え過ぎないようにダンジョンにいるモンスターを間引くこと。


 1つ目と2つ目は理論上誰でもできる方法だが、実際にはそれができるだけの実力者が限られている。


 今日この場に来ている冒険者の中には、藍大達以外にも1つ目の条件を達成した者がいる。


 2つ目は”ダンジョンマスター”になった者が外に出られないため、どの国でも実現したいう話はない。


 ”ダンジョンマスター”を倒せるだけの貴重な戦力をダンジョンで遊ばせておくことなんてできる訳ないだろう。


 重罪を犯して死刑囚となった冒険者に”ダンジョンマスター”を押し付けることを考えた国もいたが、それは現実にはならなかった。


 それは死刑囚が意図的にダンジョンを操ってスタンピードを起こす可能性があったからである。


 ”ダンジョンマスター”にダンジョンを操作できる力がある以上、人類の敵に回って好き勝手に暴れようとする者がいるかもしれない。


 そう考えれば死刑囚を利用する方法は白紙に戻るのも当然である。


 3つ目と4つ目の方法を選べるのは従魔士や死霊術士等のモンスターをテイムできる職業技能ジョブスキルの冒険者がいる国だけだ。


 現時点では日本だけがこの方法を成功させている。


 成功しているのはブラドが管理するシャングリラと道場、客船、大宰府の4つであり、この方法は今のところ藍大しか実現できていない。


 だとすれば、一般的なスタンピード防止策は5つ目のモンスターの間引きになる。


 参加者全員がテーマを確認したと判断すると、潤が再び口を開く。


「モンスターのダンジョン占有率が100%超えでスタンピードとするならば、占有率が何%の状態がスタンピードの阻止に効果的か議論します。占有率は国際共通基準を使用します。日本からお伝えすると、占有率50%までをグリーンゾーン、75%までをイエローゾーン、75%以上レッドゾーンと定義してグリーンゾーンの維持を目標にしています」


 潤が口にした占有率の基準は全世界共通のものであり、1フロアあたりのモンスター数÷1フロアの体積の数式で算出される。


 理想としてはダンジョン内のモンスター数÷ダンジョンの体積という数式なのだが、ダンジョンの広さやモンスターの数を把握できるぐらいなら”ダンジョンマスター”を倒せる段階にある。


 つまり、そこまで調べてもすぐダンジョンを潰してしまうことの方が多く、理想とする基準は”ダンジョンマスター”を倒さないで素材回収のためにダンジョン残している時にしか使えない。


 その状態では占有率でハラハラするようなことはないので、理想の占有率を出す必然性もない。


 以上の経緯から、占有率の国際共通基準は1フロアあたりのモンスター数÷1フロアの体積となった。


 なお、フロア当たりのモンスター数や1フロアの体積はダンジョンを探索する冒険者達の情報提供を基にDMUで算出されていることを付け加えておく。


 潤に続いて各国のDMU代表が自国の基準を答えていく。


『A国は75%までをグリーンゾーン、90%までをイエローゾーン、90%以上レッドゾーンとしてグリーンゾーンの維持を目標にしてる』


『C国は70%までをグリーンゾーン、90%までをイエローゾーン、90%以上レッドゾーンとしてグリーンゾーンの維持を目標にしてるネ』


『D国は35%までをグリーンゾーン、70%までをイエローゾーン、70%以上レッドゾーンとしてグリーンゾーンの維持が目標です』


 その後も各国から次々に基準が発表された。


 グリーンゾーンが最も狭いのはD国の35%までで、最も広いのはA国の75%までだった。


 レッドゾーンが最も狭いのはA国とC国の90%以上で、最も広いのはD国の70%以上だ。


 D国は占有率に対して非常に慎重であり、A国とC国はそれとは対照的に楽観的だった。


 日本は集まった20ヶ国の中では平均的な数値だった。


 特徴的な数値を言い出さない辺りがいかにも日本らしい。


 各国のグリーンゾーンが出揃った所で今度はグリーンゾーンの根拠について話し合われた。


 占有率が80%を超えたところから急激に上昇してスタンピードが起きたという報告もあれば、90%を超えるまでは緩やかな上昇だったという報告もあった。


 根拠についてあれこれと意見が出る中、E国のDMU代表が藍大に質問した。


『ミスター・オウマ、貴方の従魔の”ダンジョンマスター”スタンピードについてどのような意見を持っていますか?』


 (指名質問来ちゃったか・・・)


 会議中に指名された以上、ここでノーコメントという訳にもいかないので藍大は口を開いた。


「”ダンジョンマスター”のブラド曰く、DPに余裕さえあればモンスターの出現数を急激に増やしてスタンピードを起こせるとのことでした。正直、占有率は”ダンジョンマスター”のダンジョン運営方針によって大きく左右されますので、今までに話された根拠は簡単に覆される恐れがあります」


『Jesus!』


『ふざけた存在アル』


『やってられませんね』


 藍大の答えを聞いて各国のDMU代表は呆然とした。


 藍大はブラドからダンジョン運営について詳しく話を聞いていたため、占有率がどうこうと話し合っている今の状態が的外れであると思った。


 それよりもDPの貯まる条件を正確に把握し、ダンジョンで”ダンジョンマスター”にDPを与えない方法を考えた方が有意義だとすら思った。


 しかし、その考えに至ったのもこの会議に入ってからであり、これを口にするのも指名質問がなければ口にすることもなかっただろう。


 DMU代表はこのような会議に慣れているかもしれないが、藍大は要人達の前で発表することに不慣れなのだから仕方がないと言えよう。


 ちなみに、DPの存在については藍大が茂経由で日本のDMUに伝えられた後、世界各国のDMUに共有されているので話は通じている。


 参加者達は藍大が具体的な指標を提言するのを期待して視線を送るので、藍大は内心ドキドキしながら再び口を開いた。

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