第264話 山田君、健太の座布団全部持って行きや!

 12月7日の日曜日の朝、未亜パーティーと司パーティーは合同でシャングリラダンジョンの地下6階の探索していた。


 どちらのパーティーにもそれぞれマージとアスタが加わって戦力は強化されたが、ヘカトンケイルを倒せるようになってもタラスクを倒せずに何度もトライした。


 藍大のパーティーがタラスクを恐怖に陥れ、ノーダメージで勝ったと方法を聞いて自分達ならばどう攻略すれば良いかと悩んだ結果、未亜と司は合流して戦うことを決めた。


 タラスクが自分はこの後ステーキになるかもしれないと脅せる程それぞれのパーティーが強くないならば、合同で戦力をかき集めて戦うのがベストと判断したのである。


 今日という日のために未亜達はアスタを、司達はマージを鍛えて来た。


 マージはLv75でマギカデーモンからアモンに進化して今はLv80まで成長した。


 見た目は<梟狼切替オウルフチェンジ>というアビリティの効果により、頭部が梟で背中から梟の翼を生やしたスーツ姿の男性か尻尾が蛇の灰色の狼のどちらかの姿になれる。


 ダンジョンでは喋れる梟人間形態でいることが多く、ダンジョンの外では狼形態でいることが多い。


 アスタはLv75でチタンミノタウロスからザガンへと進化し、マージと同じく今はLv80になっている。


 その見た目は赤銅色のミノタウロスで大斧を使った近接戦闘がメインだが、<劣位交換レッサーエクスチェンジ>という特殊なアビリティを使える。


 指定した物を一時的に劣化した模造品に変えてしまう効果がある。


 デバフとは違ったやり方で敵の力を削げるから決して侮れない。


 それはさておき、4人の冒険者と4体の従魔がタラスクの待つ地下6階のボス部屋へと足を踏み入れた。


 その瞬間、タラスクが大声で吠えながら<燃糞投擲バーンドスロー>を発動する。


「ドラァァァッ!」


「開幕早々汚いわ!」


「O・BU・TSUはノーサンキュー!」


「言ってる場合じゃないでしょ。マージ、凍らせて」


「任せたまえ」


 司は未亜と健太がリアクションしている間にマージに指示を出す。


 燃えながら自分達に向かって飛んで来るタラスクの糞は、<吹雪ブリザード>で凍らせながらタラスクに押し返した。


「ドラァ!?」


 自分が投げつけた燃える糞が凍されて戻って来たとなれば、タラスクも穏やかではいられないようだ。


 凍った糞が自分よりの位置に設置されているせいで、タラスクは<滑走衝撃グライドインパクト>と<体潰圧ボディプレス>を使えないからだ。


 <自動操縦オートパイロット>は効率的に動くことを大前提にしていることもあり、凍った自分の糞を避けようとすれば最短経路で攻撃はしかけられない。


 タラスクの攻撃手段を奪えた意味ではマージの<吹雪ブリザード>は確かな成果と言えよう。


「ハッハァ!」


 タラスクが足場がなくて立ち往生している隙を突き、麗奈がタラスクの脇腹を正拳で殴った。


「ドラッ!?」


 タラスクが<全耐性レジストオール>を会得しているので、今の攻撃はタラスクにダメージを与えたと言うには微々たるものだった。


「狙い撃つで!」


 未亜は入室した際のリアクションから落ち着かせて矢を放つ。


 矢自体の威力は大したことがなくとも、タラスクの注意は未亜へと移った。


 その隙にパンドラがタラスクに接近して<呪贈物カースプレゼント>を決めた。


 効果の利きは<全耐性レジストオール>のせいでわずかな間となるが、未亜とパンドラに向けられるタラスクのヘイトが隙を生んでくれる。


「今度は僕達の番だ」


 未亜達とは反対側に移動していた司達がタラスクに気づかれないように攻撃を行う。


 司の槍と麗奈の拳、リュカの<剛脚月牙グレートクレセント>、マージの<紫雷光線サンダーレーザー>がタラスクに命中する。


「ドラァ!?」


「そっち見とったらこっちががら空きやで?」


 司達に気を取られてしまえば、今度は未亜達が無防備になった場所を狙って一斉に攻撃する。


 2つのパーティーが組んでタラスクの左右に展開することで、与えられるダメージは少なくともタラスクの注意は分散できる。


 どっちに攻撃したものかとタラスクが悩んでいる間、タラスクの左右からチクチクとダメージが入っていく。


「ドラァァァァァ!」


 タラスクはどうすれば良いかわからなくなり、無差別に<燃糞投擲バーンドスロー>で燃える糞をバラ撒き始めた。


「これが本当のヤケクソってか!?」


「山田君、健太の座布団全部持って行きや!」


「くだらないこと言ってないで集中」


「「はい」」


 自分達に飛んで来る糞をパンドラが<魔力壁マジックウォール>で防ぎつつ、健太と未亜に無駄口を叩くなと叱る。


 今日もパンドラは2人の保護者である。


 その一方、司達はマージの<吹雪ブリザード>で燃える糞を凍らせて押し返す。


 これがタラスクの選択肢を狭めるのに有効とわかってからはそれに徹底している。


 しかし、ここで司達にとって予想外なことが起きた。


「ドラァ!」


 タラスクが覚悟したように一吠えすると、<滑走衝撃グライドインパクト>を発動して司達を襲う。


 自分の糞で汚れようと一方的にチクチク攻撃されるよりはマシだと判断したらしい。


 これは司達も想定外だったが、対策をしていなかった訳ではない。


「マージ、動きを止めて」


「造作もない」


 マージが<影縛シャドウボンド>でタラスクの動きを封じる。


 タラスクの巨体による運動エネルギーはかなり大きく、マージも長くは動きを封じ込められそうもない。


 それでも、少しでもタラスクの動きが止まれば逆転のチャンスを活かせるだけの戦力は整っていた。


「リュカ、合わせなさい」


「うん!」


 麗奈とリュカがタラスクの顎の下にアッパーを決める。


 リュカに至っては<暗黒鉤爪ダークネスクロー>で斬撃によるダメージまで与えている。


 脳が揺れればタラスクの動きも鈍り、マージの<影縛シャドウボンド>への抵抗力が一時的にガクンと落ちた。


「この時を待ってたZE!」


 健太はコッファーからエネルギー弾を連射する。


 未亜も矢をガンガン放ち、アスタも<剛力斬撃メガトンスラッシュ>でタラスクの前脚を斬りつける。


「ドラァァァァァ!」


 脳の揺れが収まって動けるようになると、ここぞとばかりに攻撃して来た者達に自分はキレているとアピールするようにタラスクが吠えた。


 だが、パンドラはそれに怯まずにタラスクに<停止ストップ>を発動する。


 <全耐性レジストオール>のせいで動きが止まる時間は短いが、タラスクの怒りが止まっていたことで強制的に中断される。


 それゆえ、パンドラは今なら効き目があると判断して<睡眠吐息スリープブレス>をタラスクの鼻に狙って放つ。


 そのパンドラの狙いは当たっており、タラスクはウトウトして寝息を立て始めた。


 寝かせたら悪夢を見させるまでが1セットなので、パンドラは<悪夢空間ナイトメアスペース>でタラスクに悪夢を見せる。


 睡眠の効果が切れた時、タラスクは体の調子が優れなさそうな表情になった。


「マージ、燃やせ!」


「燃え上がりなさい」


 司の指示でマージはタラスクの足元から<火炎柱フレイムピラー>を放たせる。


 目覚めの一撃は大変不快だったらしく、マージがヘイトをごっそり奪っていった。


 そんなことになればマージが安心して攻撃できなくなるから、今度はアスタの番である。


「見ろやこの筋肉! カッチカチやぞ!」


 <挑発体位タウントポーズ>を発動してボディビルのアピールタイムが始まった。


 サイドチェストからフロントラットスプレッド、アブドミナルアンドサイへと移る。


「仕上がってるで!」


「ナイスバルク!」


「何やってんの2人共・・・」


 アスタがポーズを披露していると、未亜と健太がアスタに声をかける。


 そんな2人にパンドラがジト目になるのは仕方のないことである。


「ドラァァァァァ!」


 苛立ちがMAXになったタラスクはアスタに向かって<火炎吐息フレイムブレス>を放った。


「焼肉になんてさせない」


 パンドラが<魔力壁マジックウォール>を重ね掛けし、アスタをタラスクの<火炎吐息フレイムブレス>から防ぐ。


「畳みかけるよ!」


「おう!」


「うん!」


「良いでしょう」


 マージが<影縛シャドウボンド>でタラスクの動きを封じ込め、逆鱗の位置を麗奈とリュカが攻撃する。


「ドラァァァァァ!」


「煩いってば!」


 司が追い打ちをかけるように槍を投げて逆鱗に突き刺すと、タラスクの声が急激に小さくなってそのままドサリと音を立てて倒れた。


 リュカがツンツンと突くが、タラスクは一向に動こうとしない。


 それが意味するところはタラスクのHPが尽きたということだ。


「「「・・・「「勝ったぁぁぁ!」」・・・」」」


 未亜パーティーと司パーティー合同のタラスク討伐作戦は成功した。


 その喜びは並々ならぬものであり、彼等のテンションが落ち着くまで時間がかかった。


 喜び合う彼等の中でアスタだけはボディビルのポーズで喜びを表現していたけどそれは放置である。


 なんにせよ、未亜パーティーも司パーティーもこれでようやく地下7階に挑む権利を得たことになる。


 ”楽園の守り人”のメンバーも少しずつではあるが確実に強くなっているのだった。

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