第263話 藍大のハンバーグが世界一! 異論は認めないよ!

 シャングリラに帰った藍大はゼルに魔石を与えてから2本だけ電話をしてハンバーグ作りに入った。


 ゼルはガーゴイルの魔石を呑み込んだことで<魔力半球マジックドーム>と<魔砲弾マジックシェル>が<魔力要塞マジックフォートレス>に統合された。


 空いたアビリティ枠には<氷刃アイスエッジ>が追加された。


 <魔力要塞マジックフォートレス>とは攻防一体のアビリティであり、半透明の要塞を指定した範囲に具現化させて攻撃した者に魔弾で反撃する。


 MPの消費量が馬鹿にできないが攻守逆転のチャンスを掴むにはもってこいのアビリティだ。


 それはさておき、藍大は今日手に入れたミスリルミンサーを舞に託してレヴィアタンとベヒーモスの合挽き肉を量産してもらった。


 舞も早くハンバーグが食べたいから藍大を手伝う。


 藍大もこれぐらいの作業なら今の自分でもできると舞が言い張るので手伝いたいという申し出を受け入れた。


 ハンバーグの成形前に必要な食材の準備を終わらせ、舞の作業が終わり次第成形に移る。


 ブラドも分体ならば特大ハンバーグじゃなくても食べた気になれるから、ハンバーグのサイズは普通である。


 しかし、数は多く用意するのがポイントだ。


 食いしん坊ズに1人前だけ食べさせたって足りないのは明白だし、サクラやゲン、幼女トリオも楽しみにしているとなればパーティーでも開くのかという勢いでハンバーグを成形する。


 成形後にハンバーグを焼き始める訳だが、ライスとサラダの準備はサクラ達従魔の出番だ。


 ハンバーグが冷めたら悲しいのは皆同じなので、ダンジョンで強敵と戦う時と同じぐらいの連携クオリティでライスとサラダが用意されていく。


 あと少しで全てのハンバーグが焼き上がるというタイミングでインターホンが鳴る。


『僕が行って来る!』


 リルは藍大に頼まれる前に自主的に客人を迎えに行った。


 リルが玄関から連れて来たのは茂だった。


「何この美味そうな匂い。ただのハンバーグじゃねえだろこれ?」


『ワフン。レヴィアタンとベヒーモスの合挽ハンバーグだよ』


「よくやった1時間前の俺!」


 職場で行きつけのレストランに向かおうとしたタイミングで藍大から誘いの電話があり、藍大の料理が食べられるならばと茂は藍大とランチミーティングがあるということにしてDMU本部を出て来た。


 過去の自分が英断を下したのを知って茂は自分自身に感謝した。


「いつもわざとじゃなくとも胃にダメージを与えちゃってるから、そのお詫びも含めて呼んだんだ。さあ、並べて早く食べようぜ」


 ハンバーグが焼き上がった途端、食いしん坊ズを筆頭にキビキビと動いてテーブルに食事を並べた。


 ハンバーグが冷めないようにすぐに手を合わせる。


「「「・・・「『いただきます!』」・・・」」」


 藍大達はハンバーグになったレヴィアタンとベヒーモスに感謝してからハンバーグを大きく頬張る。


「藍大のハンバーグが世界一! 異論は認めないよ!」


『僕史上最強のハンバーグだよ!』


「美味い! 美味いぞ主君!」


 食いしん坊ズはとても幸せそうだ。


「流石は主。料理でも世界を狙える」


「美味」


「ホントに美味しいわねっ」


「今日のダンジョン探索を頑張った甲斐があったです!」


『ウ,ウマ━━━Ψ(°д°;!)━━━!!』


 サクラ達も食いしん坊ズに負けないぐらい幸せそうである。


「今この時程藍大と幼馴染で良かったって思ったことはない」


「お? ハンバーグ没収しちゃうぞ?」


「冗談だから皿から手を放してくれ! ハンバーグが滅茶苦茶美味いのは本当だが」


 茂の発言は本当に冗談なのだろうか。


 いや、冗談ではないだろう。


 今日までの間で藍大が料理の腕を上げる毎に同じセリフを言って来たのだから。


 その度に藍大が茂の皿に笑顔で手を伸ばすのもお約束と化している。


 お約束やら食いしん坊ズのお替り合戦やらでドタバタしたが、突発的に行われたハンバーグパーティーは参加者全員が大満足のまま終わった。


 もう食べられないと食いしん坊ズが席から動けなさそうにしているのはご愛敬である。


 藍大と茂は食後の紅茶を飲みながら今日の報告会を始めた。


 茂もランチミーティングだと言って出て来たのである程度まとまった情報を仕入れて帰らねばサボっていたと言われかねないのでやる気だ。


「それで、今日は白雪姫の依頼で渋谷ダンジョンに行ってきたんだろ?」


「おう。潰してくれって頼まれたから潰して来た」


「そんなお使い感覚でダンジョン潰せんのは藍大達だけなんだよなぁ」


「三原色クランはまだ2つ目だもんな。”ブルースカイ”に至っては俺達に頼らないで新世界ダンジョンを管理するつもりらしいし」


 ”レッドスター”と”グリーンバレー”は藍大達の手を借り、それぞれ客船ダンジョンと大宰府ダンジョンでスタンピードが起きないようにしてから次のダンジョンの探索を始めた。


 しかし、”ブルースカイ”は元メンバーの木津芽衣のせいで”楽園の守り人”に頼み事がし辛くなっており、”ブルースカイ”は2つのダンジョンを同時攻略中なのだ。


 元々根城にしていた新世界ダンジョンの方は、”ダンジョンマスター”の部屋の前まで探索を済ませて間引きに留めて新しいダンジョンをガンガン探索する方針のようだ。


 藍大的には”ブルースカイ”の青空瀬奈クランマスターがどうしようとどうでも良いと思っている。


 助けを求めるなら適正な報酬額さえ払えば動いても良いし、そのままにして仮にスタンピードが起きても”ブルースカイ”でなんとかすれば良いという考えだ。


「まあ、三原色以外のクランも着実に”ダンジョンマスター”に迫ってくれてるのが救いだぜ。国内の冒険者達が二次覚醒してるから全国的に間引きもできてる」


「未発見のダンジョンだけが怖いけどな」


「それな。まだ見つかってないダンジョンがあればそこがスタンピードの発生地になりかねない。こればっかりは冒険者達に観察力を鍛えてくれとしか言えない」


「他所は他所ってことで置いとくとして、今日戦ったモンスターについて報告してくぞ」


「頼む」


 藍大は”ホワイトスノウ”が到達できなかった場所で戦ったモンスターについて順番に説明した。


 予想以上に数が多くて茂は驚いていた。


「そんなにいたのか。バレルゴーレムのワインってどんなもんなんだ?」


「鑑定だけだぞ。料理で使うから提出できないからな?」


「わかった」


 藍大は茂が頷いてから別室に保管していたワイン樽を持って来た。


 鑑定した茂は顔を引き攣らせた。


「マジでワインじゃん。しかもそこらの安物よりずっと上等だ」


「バレルゴーレムが雑魚モブじゃなくてマジで良かった。雑魚モブだったら酒飲みの冒険者がこればっかり狩りそうだし」


「確かにな。轟にこの樽のことは?」


「言う訳ないじゃん。麗奈は酒が関わると碌なことにならないんだし」


「違いない。こっそりと藍大が家で消費するのが良いだろう」


「言われなくてもそうするさ」


 茂もバレルゴーレムのワインの取り扱いについては藍大と同意見らしい。


「出現するモンスターは良いとして、藍大の従魔はどんな具合だ?」


「メロがLv100になった」


「ドヤァです~」


「おめでとう、メロちゃん」


「ありがとです」


 メロが自分の話をしてもらえると思って近寄って来ていたので、藍大は最初にその話をしてあげた。


 茂はドヤ顔をかますメロにお祝いの言葉を述べる。


 メロは家族以外のボディータッチは許していないが、祝ってもらえるのは嬉しいからお礼を言ってゴルゴン達とトランプをしに戻っていった。


「他にあるか?」


「ドライザーが”土聖獣”になった。その結果、リルとドライザーがいる相乗効果で風と土に関する災害からシャングリラが守られるようになった」


「・・・今なんて言った?」


「聞こえてただろ? ドライザーが”土聖獣”になった。風と土に関する災害からシャングリラが守られるようになった。今ここ」


 信じられないことを聞いて自分の耳を疑った茂だが、難聴系主人公の真似は藍大が許してくれなかったから事実を受け止めた。


「じゃあシャングリラは自給自足できて竜巻や地震の被害を受けないってか?」


「Exactly」


「楽園通り越してもはや独立国じゃん。武力的にも周辺列強とか余裕で跳ねのけられるし」


「独立なぁ。外交とかめんどいからパス」


「そう言ってくれて助かる。来月の国際会議には日本代表として出てもらうんだし」


「それも面倒だ。小父さんと一緒とはいえ無茶振りされる予感しかしない」


「否定してやりたいところだが全く否定できねえ」


 茂の父親ならば日本のためにしれっと藍大に無茶振りをするかもしれない。


 それは藍大と茂の共通見解だった。


「とりあえず、何が起きても良いように色々と力を付けとくよ」


「すまんが頼む」


 報告会はこれで終了となり、茂はDMU本部へと帰っていった。

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