第265話 私のLUKは53万ですとかそんなレベルじゃねえ!

 未亜パーティーと司パーティーが合同でタラスクを倒したのと同日の朝、藍大パーティーはシャングリラダンジョン地下8階に来ていた。


 ブラドが変態紳士マモンの代わりにフロアボスを用意したのでそれを倒しに来たのだ。


 今日藍大と一緒に探索するメンバーは、サクラとリル、ゲン、幼女トリオである。


 ドライザーは警備の仕事に戻り、ブラドは舞に抱っこされる仕事に従事している。


 『トリオレイヴンが来てるよ!』


 リルは何もない天井に向かって<翠嵐砲テンペストキャノン>を放った。


「「「カァ!?」」」


 トリオレイヴンはリルの攻撃であっさりと倒されてしまうが、見えないどころか気配も消して接近するLv80のモンスターなんて普通は遭遇=死の案件だと言えよう。


 リルがとびきり優秀だから一方的に狩れるだけであり、”楽園の守り人”の他のメンバーでもトリオレイヴンの相手はまだ難しいと言わざるを得ない。


 しかも、地下8階はトリオレイヴンだけに注意すれば良い訳でもない。


 向こうから赤みを帯びた金色の巨大な棘ボールの群れがやって来るのだから。


「こっちは私達の出番ね」


「やってやるわっ」


「狙い撃つです」


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 転がってやって来るヒヒイロヘッジホッグの群れはサクラと幼女トリオが迎撃する。


 頭上から攻め寄る暗殺者トリオレイヴンと触れたら串刺し&挽肉待ったなしの暴走針鼠ヒヒイロヘッジホッグが現れる地下8階も、藍大達には太刀打ちできない。


 だがちょっと待ってほしい。


 ”ダンジョンマスター”のブラドがいつも藍大達にあっさりと突破されて悔しいと思わないだろうか。


 いや、当然悔しいと思うに決まっている。


 それゆえ、今の地下8階には新しい雑魚モブモンスターが追加されていた。


「何あれ? 騎士か?」


「主、騎士の槍がアスパラガスだよ」


『ご主人、あの槍って食べられるの?』


 リルの質問に藍大はモンスター図鑑で調べてから答えた。


「アスパラディンLv80。甲冑の中は空洞。ふざけた見た目の武器だけど伸縮自在で自動再生効果のあるらしい。しかも食べられるってさ。収穫するか?」


『うん!』


 アスパラディンは恐怖した。


 初陣の緊張感なんてそんなチャチなものではなく、自分の愛槍が収穫されるという危機を悟ったのだ。


「収穫なら傷つけちゃ駄目です」


 メロが<植物支配プラントイズマイン>でアスパラディンの足元から太い蔓を大量に生やして動きを拘束した。


 アスパラディンの身動きを封じたら、サクラが<透明多腕クリアアームズ>でアスパラガスの槍を回収して藍大に渡す。


 藍大がそれを受け取ってしまえば誰も容赦する必要はない。


「ドカンしなさいっ」


 ゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>で槍を失ったアスパラディンを吹き飛ばして戦闘は終わった。


『ゼルがLv82になりました』


 ゼル以外の従魔は全てLv100に到達しているため、サクラ達が獲得した経験値はゼルに充当されるからレベルアップが早い。


 その後も藍大達は雑魚モブ3種類をサクサク倒して先に進んだ。


 職業技能ジョブスキルの壁画がある部屋では”掃除屋”のスレイプニルと戦ったが、今回はリルが先手を打ってスレイプニルに好き勝手させなかったため、作戦αを使うまでもなく勝ってしまった。


 スレイプニルも自分の持ち味を全く活かせずに倒されるなんて悔しいだろうけど、ダンジョンは弱肉強食だから仕方のないことである。


 天敵リルがいたことを恨むしかない。


 それはさておき、藍大達はボス部屋まで辿り着いた。


 早速ボス部屋の中に入ってみると、スチュパリデスが雛に思えてしまう程巨大な白鷲が待ち構えていた。


『唐揚げフェスティバル待ったなしだよ!』


 (リルさんや、出会い頭に食べたい料理のリクエストを言うんじゃないよ)


「唐揚げが楽しみだわっ」


「早く食べたいです」


『φ(c・ω・。)ψ』


 (幼女トリオ、お前達もか)


「主、唐揚げ食べたい」


『主さん・・・唐揚げ・・・』


「満場一致じゃ仕方ない。倒したら唐揚げだ」


 藍大の発言でサクラ達のやる気が急上昇した。


「キィィィ!?」


 そこは自分にビビるんじゃないのかと巨大な白鷲は驚くが、藍大達にそんな常識は通じない。


 藍大はモンスター図鑑を視界に展開して敵の正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ジズ

性別:雌 Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:2,500/2,500

STR:2,400

VIT:2,000

DEX:2,000

AGI:2,200

INT:2,500

LUK:2,300

-----------------------------------------

称号:地下8階フロアボス

アビリティ:<硬羽竜巻フェザートルネード><突風降下ガストダイブ><誘眠踊スリープダンス

      <雷吐息サンダーブレス><卵爆弾エッグボム

      <闘気鳥オーラバード><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:衝撃

-----------------------------------------



 (スチュパリデスの上位互換だな)


 藍大の感想はそれに尽きた。


 元”地下8階フロアボス”のマモンと比べればトリッキーなアビリティがない。


 藍大がそんな風に考えていたところでジズが動き出した。


「キィィィィィ!」


 まずは様子見らしく、挨拶代わりに<硬羽竜巻フェザートルネード>を放つ。


 硬化した羽根が竜巻に乗って藍大達を襲う。


「ゼル、守ってくれ」


『(>Д<)イエッサ!!』


 ゼルは藍大の指示を受けて<魔力要塞マジックフォートレス>を発動した。


 半透明の光が藍大達を覆うように要塞を構築してジズの攻撃を防ぎ、反撃として魔弾がジズに向かって放たれた。


「キィッ!」


 ジズは攻防一体のアビリティに驚いて慌てて<闘気鳥オーラバード>を発動する。


 オーラで自身の体を覆って盾とすることで、自分が受けるダメージを少しでも軽減しようとした訳だ。


 ダメージを負ったジズは藍大達の上空に移動してガンガン産卵した。


 <卵爆弾エッグボム>の連発である。


「やらせないわっ」


 ゴルゴンは<火炎支配フレイムイズマイン>で炎の大蛇を創り出し、それに卵を呑み込ませながらジズに向かって飛ばしていく。


 爆発によって発生した爆炎は炎の大蛇の養分となってサイズが大きくなり、ジズにぶつかる時にはジズと同じ大きさにまで成長していた。


「キィッ!?」


 ジズは咄嗟に<闘気鳥オーラバード>を発動したものの、炎の大蛇が蓄えた炎の威力が並々ならぬものになっていたせいで着弾の直後に墜落し始めた。


 これはまともにダメージが入ってしまったらしい。


「邪魔な羽を取り除こう。メロは動きを止めてくれ。サクラ、羽毟りは頼んだ」


「任せるです!」


「は~い」


 メロは<停止綿陣ストップフィールド>で墜落するジズの時間を止めた。


 サクラはそれを見てから<透明多腕クリアアームズ>でジズの羽をてきぱきと抜いていく。


 再びジズの時間が動き始めた頃には立派な羽が全て毟られた哀れな姿へと変わっていた。


「リル、絞めちゃおうか」


『うん!』


 リルは元気良く返事をしてから<聖狼爪ホーリーネイル>を放ち、ジズの首をスパッと刎ねた。


『ゼルがLv83になりました』


『ゼルがLv84になりました』


『ゼルがLv85になりました』


 (レベルが一気に3も上がるのか。経験値ウマウマだな)


 システムメッセージがゼルのレベルアップを告げると、藍大はジズが改めて強かったのだと知った。


 その後、素材を傷つけないように細心の注意を払って解体と回収が進み、ジズから取り出された魔石はサクラに与えられた。


 サクラの肌がツヤツヤになると同時にシステムメッセージが藍大の耳に届いた。


『サクラのアビリティ:<豪運フォーチュン>とアビリティ:<幸運光線ラッキーレーザー>がアビリティ:<運命支配フェイトイズマイン>に統合されました』


『サクラの称号”運に愛されし者”が称号”運命の紡ぎ手”に上書きされました』


『サクラがアビリティ:<魅了眼チャームアイ>を会得しました』


 (どゆこと?)


 サクラに生じた変化を確かめるべく、藍大は<運命支配フェイトイズマイン>と”運命の紡ぎ手”の効果を確かめた。


 その結果、藍大は乾いた笑みを浮かべることになった。


 <運命支配フェイトイズマイン>は未来予知と運をエネルギーとして支配する効果があった。


 これだけでも十分とんでもないのだが、”運命の紡ぎ手”はもっとヤバかった。


 (私のLUKは53万ですとかそんなレベルじゃねえ!)


 この称号によってサクラのLUKは無限、つまりはカンストしてしまったのだ。


 運命に身を任せる側ではなく、他者の運命すら握る側になったという証でもあった。


 味方であればこんなに頼もしいことはないがやり過ぎ感が否めないのも事実である。


「私がいれば主は絶対安全」


 胸を張って褒めてほしそうにするサクラに対し、藍大は優しく抱きしめた。


「ありがとな。本当に頼りになる奥さんだ」


「もっと褒めて」


「よしよし」


 サクラは藍大に褒められて甘えん坊モードに突入した。


 ちなみに、サクラを羨ましく思ってリル達が並んで待っていたのは当然のことである。


 藍大は従魔全員を甘やかしてからダンジョンを脱出した。


 昼は唐揚げフェスティバルだったのは言うまでもない。

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