第261話 これが本物のゾンビダンスか!

 バレルゴーレムの胴体部分の樽についてモンスター図鑑で調べた結果、飲むも良し料理に使うも良しとの評価だった。


「これは麗奈に気づかれると料理に使う分がなくなるかもしれないな」


『僕が麗奈を近づけさせないよ』


「勿論吾輩もだ」


 藍大がぽろっと呟いたらリルとブラドが任せてくれと言い出した。


 リルとブラドに守られるならば、バレルゴーレムのワインも安泰である。


「いや、待てよ。シャングリラでバレルゴーレムが出るようにすれば良いんじゃね?」


「主、そうすると司のパーティーがずっと麗奈抜きになると思うよ」


「バレルゴーレムをシャングリラダンジョンに出すのは反対です」


「それもそうか」


 藍大の閃きはサクラとメロによって却下やっぱなしになった。


 麗奈が使い物にならなくなれば、司とリュカ、マージの負担が増えてしまう。


 そうなることを避けるべきだと判断するのはクランマスターとして当然だろう。


 ひとまずバレルゴーレムのワインは料理用に使うことにして、藍大はバレルゴーレムの魔石を取り出してドライザーに与えた。


 今日の探索でドライザーに”土聖獣”の称号を会得させようという考えである。


『ドライザーのアビリティ:<岩刃ロックエッジ>がアビリティ:<岩大剣ロックブレード>に上書きされました』


 (むむっ、まだ足りないか)


 システムメッセージがドライザーのアビリティを上書きしたことのみ知らせると、藍大は焦らされている気分になった。


 ドライザーが”土聖獣”の称号を得るために必要な条件の内、未達成なのは強力な土属性のアビリティを2つ以上会得することだろうと推測している。


 それゆえ、あと1回か2回は”掃除屋”やフロアボスのような強者の魔石を与える必要があると考えている。


 足りなかった者は仕方がなく、くよくよしていても生産的ではないので藍大達は探索を再開した。


 リルが少しだけ進んだ所でピクッと反応した。


「リル、隠し部屋でも見つけたのか?」


『ご主人、隠し部屋って程じゃないけどこの下に何かあるよ』


 リルはそう言って通路の床を左前脚で指し示した。


 メロがしゃがんで床をじっくりと見ると、何かに気づいたらしくバッと顔を上げた。


「マスター、ここに切れ込みが入ってるです!」


「リルとメロの手柄だな。良く見つけてくれた」


「クゥ~ン♪」


「エヘヘです~♪」


 リルとメロは藍大に撫でられてとても喜んでいる。


「主、舞の代わりに私がこじ開ける」


「サクラが?」


「うん。まあ見てて。舞よりも知的に宝箱に辿り着かせてみせるから」


 サクラは自分に任せろと言って<深淵支配アビスイズマイン>を発動した。


 深淵の刃を床の切れ込みに差し込んだ後、その刃の形状を風船のようにどんどん膨らませていく。


 深淵の広がる力が床の蓋を吹き飛ばし、床下収納とも呼ぶべき所に宝箱がすっぽりと収まっている状態で見つかった。


 サクラはそのまま<透明多腕クリアアームズ>で宝箱を取り出し、藍大達にドヤ顔を披露した。


「ドヤァ」


「おぉ、確かに知的だ」


「舞よりスマートなやり方です」


『僕は舞のやり方も単純で良いと思うけど』


「”ダンジョンマスター”的には騎士の奥方のやり方がメンタルに来るぞ」


 サクラのやり方は確かに知的だと藍大もメロも納得した。


 その一方、リルはフェンリルゆえに弱肉強食の観点から舞のやり方を気に入っており、ブラドもどちらの方がやられて精神的に受けるダメージが多いのか考えて舞のやり方だとコメントした。


 種族や立場が変わればそれだけ意見に幅が出るのは自然なことである。


 それはさておき、まだサクラのターンは終わっていない。


「サクラ先生、続けてお願いします」


「任された」


 サクラがLUK17万超えの力を発揮して宝箱を開けると、そこにはおなじみの輝きを放つおろし金が入っていた。


 藍大はサクラが宝箱からおろし金を取り出したのを見てそれをモンスター図鑑で調べてみた。


 (やっぱミスリルか。それにしてもなんでここまでミスリルの調理器具が手に入るかね?)


 鑑定結果を見て藍大は今更な疑問を抱いた。


 藍大が宝箱から手に入れるミスリル製のアイテムは料理専用である代わりに破壊不能である。


 ついでに言えばユグドラシル製のアイテムも同様である。


 使い減りしないし料理の出来も良くなるからありがたいのは間違いない。


 戦うためのアイテムよりも料理みたいに生産のためのアイテムの方がずっと人生を豊かにする。


 それを何者かが自分に伝えようとしているのではないかと勘繰ってしまうレベルだ。


『また料理が美味しくなるね!』


「そうだな。今日のハンバーグに1段階上のデーコンおろしを添えられる」


「昼食が待ち遠しいぞ」


「私も楽しみ」


「私もです!」


『期待してる・・・』


 ドライザー以外の食事を必要とする従魔達は昼食が更に楽しみになったらしい。


 ミスリルおろし金と宝箱を収納リュックにしまったら、藍大達はボス部屋を目指して先へと進み始めた。


 ドランクゴーストやボトルドールは出て来なくなったが、ボス部屋の扉が向こうに見えた地点でドレスを着たゾンビとアフロで胸元の開いた服を着たゾンビの混成集団が両手を前に出してゆっくり進んで来るのが見えた。


「ドレスの方はマルオが好きそうだな」


「趣味悪いと思う」


「そう言ってやるな。テイムできるのがアンデッド型モンスターだけなんだから」


「そう言えば、主はアンデッド型モンスターをテイムしないよね?」


「まあテイムしたいって思えるモンスターがいないし」


「主はそのままでいてほしいの」


「そうです。怖いのは駄目です」


 女性陣はアンデッド型モンスターもテイムしないでほしいようだ。


 もっとも、サクラは雌のアンデッド型モンスターをテイムしないでほしいという意味であり、メロはアンデッド型モンスターそのものを怖がっての発言だから意味合いは違うのだが。


 ドレスゾンビとアフロゾンビはある程度距離を詰めたところでピタッと止まり、急に全てのゾンビがバタリと倒れ込んだ。


 藍大はモンスターの行動に新たな発見があるかもしれないと思い、ポケットに入っていたスマホを取り出してゾンビ達の様子を動画で撮影した。


 その予感は現実となり、ゾンビ達はユラユラと起き上がり始めた。


 起き上がった頃は猫背だったが、突然ビシッと姿勢を正してカクカクしながら歩き出した。


 キレのあるダンスに流れるように移り、両腕を体の向きと一緒に左右に振り子のように素早く動かしたところまで見て藍大はようやく気付いた。


「これが本物のゾンビダンスか!」


『ボス、なぎ倒してもよろしいか?』


「やって良し!」


『OK!』


 ドライザーはス〇ラーを踊り続けるドレスゾンビとアフロゾンビの混成集団に対し、<岩大剣ロックブレード>で無双し始めた。


 踊るだけのゾンビ達をなぎ倒す簡単なお仕事はあっさりと終わった。


 だが、この踊りを遮った判断は正解だった。


 何故なら、このダンスは<魅了踊チャームダンス>というアビリティで踊っている時間が長ければ長い程ダンスを見る相手を魅了して虜にしてしまうからだ。


 藍大達はドレスゾンビとアフロゾンビに比べてレベルが高く、状態異常への耐性もあるおかげで耐えられたが常人ならばドライザーが攻撃し始めた頃には魅了されていたに違いない。


 さて、ドライザーが敵を一掃してから藍大達は戦利品を回収してボス部屋へと足を踏み入れた。


 そこには顔が赤いゾンビが千鳥足になりながら装飾が派手なカトラスを振り回していた。



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名前:なし 種族:ゾンビコルセア

性別:雄 Lv:60

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HP:900/900

MP:750/750

STR:1,000

VIT:950

DEX:600

AGI:650

INT:0

LUK:750

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称号:地下2階フロアボス

アビリティ:<怪力斬撃パワースラッシュ><不意刺突サプライズスタブ

      <酔客抜刀ドランクソード><迷惑歌アノーイングソング

      <欺敵足捌フェイントステップ><物理耐性レジストフィジカル

装備:ゴージャスカトラス

備考:酩酊

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 (酔拳ならぬ酔剣の使い手ってか)


 ”ホワイトスノウ”はゾンビコルセアと対峙していないので、藍大達がこのモンスターと初めて戦うことになる。


 酔った足取りで戦うゾンビコルセアは普通の剣士と違ったリズムで戦うだろう。


 だがちょっと待ってほしい。


 いかに敵のリズムを崩そうとしても、そもそも敵に合わせる前に速攻で倒せば問題ないのではないだろうか。


 現にリルはそう思って行動に出た。


『こいつもお酒臭~い』


 リルは<光速瞬身ライトムーブ>でゾンビコルセアの死角に回り、<翠嵐砲テンペストキャノン>であっさりと倒してしまった。


『ご主人、終わったよ!』


「グッボーイ。流石はリルだ」


『ワフン』


 今日はリルが大活躍の日であり、藍大の役に立ててご機嫌だった。

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