第259話 ご主人、この南瓜は中身が空っぽだった・・・

 12月6日の土曜日の朝、藍大はサクラとリル、ゲン、メロ、ドライザー、ブラドを連れて渋谷ダンジョンにやって来た。


 ゲンがローブに憑依しているのはいつものことだが、ドライザーを連れて来たのはダンジョンの探索に同行させてレベルアップさせるためである。


 ブラドを連れて来たのは渋谷ダンジョンを潰す際にDPを回収するためにいた方が都合が言いからだ。


 ダンジョンを潰すときの合言葉は残さず食べましょうなのだから、ブラドがいなければ始まらない。


 ちなみに、ゴルゴンとゼルがドライザーが外出する代わりに警備の役割を担っている。


 最初は幼女トリオが残ると言っていたけれど、メロがLv100まであと2つレベルを上げるだけだからメロは藍大に同行することが決まった。


 渋谷ダンジョンは地下にあるパブが大地震で家主を失い、人が寄り付かなくなったところでダンジョンになっているのを発見された。


 白雪からの事前情報によれば、渋谷ダンジョンは無機型モンスターばかり出現する。


 実際、藍大達が渋谷ダンジョンに入ってみるとキラードールやシャドウストーカー、ストーンスタチューが現れた。


 内装がパブのままなのに迷路のような道なのは違和感があるが、そんなことを言っても内装が変わる訳ではないので誰もそれに触れたりしなかった。


 今更この程度の雑魚モブに困ることはなく、藍大達はあっという間に地下1階の”掃除屋”ストーンナイトLv30と遭遇した。


「ドライザー、格の違いを見せつけてやれ」


『OKボス』


 ドライザーはクールに応じて<魔砲弾マジックシェル>を放つ。


 ストーンナイトはドライザーの攻撃で頭部を消し飛ばされてそのまま倒れた。


 明らかにオーバーキルである。


「良いねドライザー! 最高にクールだ!」


『Thank you』


 (う~ん。ドライザーの声が渋くて仕事人らしさが増すんだよなぁ)


 藍大はサムズアップしながらそんなことを思いつつ、残った部位を回収して魔石はドライザーに吸収させた。


 探索を再開してしばらく進むと、藍大達を色とりどりのウィル・オ・ウィスプの集団が待ち伏せしていた。


「ナイトパーティーの照明には困らなさそうだ」


「主、今度は私がやる」


「わかった」


 サクラはドライザーがストーンナイト戦で藍大をハイテンションにさせたのを見て対抗心を抱き、<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の剣を両手に創り出して舞うようにしてそれらを振るった。


 サクラのなんちゃって剣舞はかなり様になっており、深淵の剣を振るう度にウィル・オ・ウィスプが倒されていった。


「う、美しい・・・」


 藍大はサクラの戦う姿に感動して素直なコメントを口にした。


 サクラの耳は藍大の感想をばっちりと捉えていたため、ウィル・オ・ウィスプ達を倒してすぐに藍大に駆け寄って抱き着いた。


「エヘヘ。そう言ってもらえて嬉しいよ♪」


「サクラはあんなこともできたんだな」


「剣士の戦闘シーンが掲示板にアップされてたから見て覚えたの」


「見ただけでできるとかすごすぎでしょ。流石はサクラ」


「ドヤァ」


 藍大に褒められてサクラはご満悦の様子だ。


 サクラのスペックが高いからこそできるのであって、同じ人型でも近接戦闘がメインではない幼女トリオはとてもではないが真似できないだろう。


 藍大達はウィル・オ・ウィスプの魔石だけ回収して再びダンジョンの探索に戻った。


 ウィル・オ・ウィスプの次に現れたのは笑う女性を象った鉄製の置物の集団だった。


 しかし、藍大達を視界に捉えた途端、その置物達の正面がパカッと真ん中から2つに縦に割れて内側には大量の針が備え付けられていた。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、モンスターの名前は見た目通りアイアンメイデンと表示された。


「アイアンメイデンってモンスターだったのか」


「怖いですぅぅぅ!」


 藍大が変な所に感心している一方、メロはその見た目に驚いて<植物支配プラントイズマイン>で硬い種をたくさん創り出して乱射した。


 メロのINTの前にはアイアンメイデン達が鉄製だろうが関係なく、蜂の巣になってそのまま倒れて動かなくなった。


「マスター、怖かったですぅぅぅ」


「よしよし。もう怖くないからな」


 アイアンメイデン達を倒してもまだ恐怖が払拭できず、メロは藍大に抱き着いて顔をぐりぐりと押し付けた。


 藍大はメロの背中をポンポンと優しく叩き、メロが落ち着くのを待った。


「ふむ。ああいうドッキリするモンスターをシャングリラダンジョンに入れてみるのも面白そうだ」


「やったらどんな手段を使ってでも後悔させてやるです」


 ブラドが閃いたとばかりに行ってみたところ、目から光が消えたメロがブラドの方を振り向いてそう言った。


「な、何をする気だ?」


「ブラドがあのお方専用のぬいぐるみになりたいって言ったと話すです」


「止せ! 話せばわかる!」


 ブラドはメロの悪魔的な対抗措置の内容を聞いて慌てた。


 あのお方とは言うまでもなく舞のことである。


 普段も割とぬいぐるみ扱いされているブラドだが、ブラドが嫌がれば舞も無理矢理抱き続けるなんてことはしない。


 だが、自分からぬいぐるみになりたいとブラドが言っていたと聞けばどうだろうか。


 間違いなく舞はテンションが上がって本当にブラドをずっとぬいぐるみのように抱き続けるだろう。


 そんな未来を想像してブラドがブルリと震え、メロに早まった真似はするなと待ったをかけた。


「どうするですかねぇ。最初に私に酷いことをしようとしたのはブラドです。酷いことをしたら何をするべきですか?」


「意地悪を言ってすまなかった。外見で怖がらせるモンスターをシャングリラダンジョンに出さないと約束しよう」


「わかれば良いです」


 (メロって実はタフなんじゃなかろうか)


 今までのやり取りを見て藍大がそう思ったのも無理もない。


 ファフニールを脅せるアースエルフの図というのは特殊だろう。


 ブラドとメロの勝敗が決した時、リルは自分達のいる場所に近づいて来る存在がいることに気づいた。


『ご主人、こっちにモンスターの集団が来てるよ』


「ウィル・オ・ウィスプやアイアンメイデンとは別なのか?」


『別だと思う。臭いが違うもん』


「そっか。みんな、迎撃の準備だ」


 リルの言い分を聞いて藍大はパーティー全員に指示を出す。


 気持ちを切り替えた藍大達の前にメタリックなマネキンの集団が走ってやって来た。


 そのマネキンはのっぺらぼうで武器は何も持っていなかった。


「メタルスキンだ! 攻撃手段は徒手空拳の接近戦!」


「ここは吾輩に任せるが良い」


 ブラドが<憤怒ラース>を発動して黒い炎の球体を正面に創り出し、メタルスキンを十分に惹きつけた上でそれを爆発させた。


 メタルスキン達は熱に弱く、ブラドの<憤怒ラース>によってドロドロに熔けてしまった。


「フン。吾輩にかかればこれぐらい造作もないわ」


「見事だな。よくやった」


「昼食は期待して良いな?」


「レヴィアタンとベヒーモスの合挽ハンバーグでどうだ?」


「吾輩は一向に構わん!」


『それ絶対美味しいよね!』


 藍大が告げたメニューにブラドとリルのテンションが上がった。


 もしも舞がこの場にいたら、ブラドとリルと一緒に喜んでいただろう。


 熔けたメタルスキンを藍大がゲンの<水支配ウォーターイズマイン>で冷やして魔石と併せて回収し、藍大達はそのままボス部屋まで向かった。


 道中でウィル・オ・ウィスプとアイアンメイデン、メタルスキンが現れたが藍大達と戦うには力不足であっさりとやられてしまった。


 ドライザーがボス部屋の扉を開けると、黒いマントに身を包んで南瓜の被り物をした者が藍大達を待ち構えていた。


『南瓜だ!』


「リル、ちょっと違うぞ。あれはジャック・オ・ランタンだ」


 藍大の視界には目の前の敵のステータスが以下のように見えていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ジャック・オ・ランタン

性別:雄 Lv:40

-----------------------------------------

HP:200/200

MP:360/360

STR:0

VIT:300

DEX:300

AGI:280

INT:600

LUK:150

-----------------------------------------

称号:地下1階フロアボス

アビリティ:<火雨ファイアーレイン><火球ファイアーボール

      <火壁ファイアーウォール><恐怖光テラーライト

装備:なし

備考:困惑

-----------------------------------------



 (南瓜食材だと思われて困惑しちゃってるじゃん)


 リルに南瓜扱いされたことでジャック・オ・ランタンは困惑していた。


 ジャック・オ・ランタン的にはもっと驚いてもらえると思ったのに食材扱いされれば困るのも無理もないだろう。


「リル、ササッとやっつけちゃおうか」


『うん! バイバイ!』


 <聖狼爪ホーリーネイル>で南瓜の頭と体が離れ離れになり、ジャック・オ・ランタンはあっさりと倒されてしまった。


『ドライザーがLv86になりました』


『ブラドがLv87になりました』


 システムメッセージが鳴り止んでから、リルは地面に転がった南瓜に近づいて悲しい現実を知った。


『ご主人、この南瓜は中身が空っぽだった・・・』


「そりゃ被り物だからなぁ」


 この後藍大が落ち込んだリルを昼食ハンバーグで元気づけたのは言うまでもない。

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