第256話 サクラさんや、何を教えてるのかな?

 成美達が一頻ひとしきりワイバーンに勝ったことを喜んだ後、藍大は拍手にて彼等の勝利を祝った。


「おめでとう。よくやったな」


「「「ありがとうございます!」」」


「もしもの時のために同行したが、その心配は要らなかったようでホッとしたぞ。出会った当初と比べてマジで強くなったと思う」


「いやぁ、それほどでも」


「マルオ、すぐに調子に乗るんじゃない」


「勝って兜の緒を締めないと」


 マルオは調子に乗りやすいので緩んだ表情で頭を掻くが、成美と晃はワイバーンに勝っても調子に乗るようなことはなかった。


「とりあえず、これで俺が道場ダンジョンでお前達の面倒を見るのは終わりだ。これからは自分達で好きなようにダンジョンに挑むと良い。あっ、1つだけアドバイスをするなら川崎大師ダンジョンに行ってみるのは良いかもしれん」


「川崎大師ダンジョンですか?」


「俺達の実力なら丁度良いってことですかね?」


「なるほど。”レッドスター”ですね」


「晃はわかったようだな」


 成美とマルオが首を傾げている一方、晃は藍大が言いたいことを察した。


「はい。北村ゼミの卒業生、赤星真奈さんがいらっしゃるんですよね?」


「そういうことだ。できるだけ便宜を図ると言ってくれてるし、何かあったらきっと助けてくれるだろう」


「北村ゼミのコネやっぱ半端ねぇ・・・」


「ついでに言えば、川崎大師ダンジョンにはアンデッド型モンスターも出て来るらしい。マルオの戦力強化に繋がるかもしれないな」


「成美、晃、次は川崎大師ダンジョンにしようぜ!」


「マルオってば本当に単純ね・・・」


「それがマルオ」


 新たなアンデッド型モンスターとの出会いがあるかもしれないと聞けば、マルオが川崎大師ダンジョンに行きたがらないはずがない。


 今日までは道場ダンジョンを踏破することだけに集中していたので、成美達は次にどこのダンジョンに行くか決めていなかった。


 それゆえ、藍大から川崎大師ダンジョンに行ってはどうかと薦められることは3人にとってありがたいのは間違いない。


「さて、俺からのお薦めは以上だがここで3人に1つ訊こう。ワイバーンの素材をどうする?」


「お肉は私の実家で使いたいです」


「あっ、俺も家族にあげたいから少し欲しい」


「僕も」


 (こういう反応を見ると俺達の影響受けてるって感じるわ)


 素材と聞いてまずは食材を気にするあたり、藍大達の影響があるのは間違いない。


 リルもそれが正しいと言わんばかりに首を縦に振っている。


 食材が何よりも優先されると思っているのは食いしん坊ズとして当然の反応である。


「OK。肉は売らずに3人で分けると良い。その他の素材はどうする?」


「臓物は薬品系アイテムの素材になるから売ります」


「爪や尻尾の棘も武器の素材になるから売ります」


「皮は自分達の防具を新調するのに使います」


「よろしい。俺が言いたいのは晃が答えたことだ。ワイバーンの皮は物理攻撃に強い。折角良い防具を手に入れる機会があるなら手に入れろ。装備や防具、アイテムをケチるな。俺が言わなくても晃は今日の戦いでそれが実戦できてたから大丈夫だと思うが」


「「「はい!」」」


 成美達の防具は今、デーモンの素材を使ったものである。


 それでも十分かもしれないが、ワイバーンの皮を使った防具の方が性能は良い。


 藍大は成美達に早死にしてほしくないからこそ、武器や防具、アイテムをケチるなとアドバイスしたのだ。


 その後、ワイバーンの解体を済ませて脱出するかという時にマルオがいきなり手を挙げた。


「はい! ちょっと良いですか?」


「どうしたマルオ?」


「ローラが進化できるようになったので進化させたいです」


「そうだな。外で進化させると無駄に目立つからここで済ませると良い」


「ですよね! という訳でローラ、進化だ!」


 マルオが藍大から許可を貰ってアンデッド図鑑の進化可能の文字に触れた直後、ローラの体が光に包まれてその中でローラのシルエットに変化が生じた。


 カムバッカーだった時のローラはやせ細っていたのだが、進化の過程で健康的な肉体へと変わって女性らしさがわかるシルエットとなった。


 光が収まることにより、病的に青白い肌をした肌に蝙蝠の翼、黒いドレスアーマーという特徴を持つローラの姿が現れた。


 腰に提げた2本の剣は鞘が血を連想させる赤色に変わって禍々しさが増した。


「来たぁぁぁぁぁ!」


「マルオ煩い。ステイ」


「落ち着いて」


 テイムできるのがアンデッド型モンスターでも雌を選んでテイムしたのはこの時のためだったと言わんばかりに喜ぶマルオに対し、成美は白い目を向けて晃は苦笑する。


 藍大はローラが進化して何になったか確かめるべく、視界にモンスター図鑑を展開させた。



-----------------------------------------

名前:ローラ 種族:ベルヴァンプ

性別:雌 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:1,800/1,800

STR:1,800(+100)

VIT:1,500(+50)

DEX:1,500

AGI:1,500

INT:1,500

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:武臣の従魔

   ダンジョンの天敵

   ベルセルクソウル

アビリティ:<剛力斬撃メガトンスラッシュ><貫通乱撃ピアースガトリング><血薔薇舞ブラッディーローズ

      <二刀流ツーウェイプレイヤー><血力変換ブラッドイズパワー><血雨ブラッディーレイン><恐怖眼テラーアイ

装備:デモニックドレスアーマー

   レッドエクスキューショナー×2

備考:歓喜

-----------------------------------------



 (ベルセルク+ヴァンパイアでベルヴァンプか)


 読み取れる情報からそうとしか考えられないと思って詳しく調べた結果、藍大は自分の予想が当たっていたことを知って顔が引き攣った。


 一体どれだけローラに戦わせたのかとツッコみたい気持ちもあったが、ローラが進化した今の姿に納得しているのならば自分に言えることはないので一旦受け止めることにした。


「ローラ、進化して美人になったな」


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。血を吸わせてもらえたらもっと嬉しい」


「・・・」


「無言で上着を脱ごうとするんじゃないわよ」


「マルオ、落ち着いて」


 マルオが無言で血を飲ませるために動こうとしたが、成美と晃にそれぞれ肩に手を置かれて止まった。


「ローラ、従魔の先輩としてアドバイス。ムードを大事にしなさい」


「はぁい」


 (サクラさんや、何を教えてるのかな?)


 サクラが”色欲の女王”らしいアドバイスをしているのを見て戦慄したが、藍大は気持ちを切り替えて3人に声をかけた。


「ローラが進化して嬉しいのはわかるけど今は止めとけ。やるべきことは終わったことだし脱出するぞ」


「うっす」


「「はい!」」


 藍大達が道場ダンジョンから脱出する頃には夕方になっていた。


 その足でアイテムショップ出張所に行き、ワイバーンの素材の買取依頼とDMU職人班への防具の作成依頼、自宅への肉の配送依頼を済ませた。


 アイテムショップから出た後、藍大達は全員でシャングリラへと向かった。


 いつもならば現地解散だが、今日は成美達がワイバーンに勝つ想定でバーベキューを企画していたからだ。


 成美達はシャングリラで初めてバーベキューに参加し、”楽園の守り人”のメンバーと親睦を深めた。


 晃が酒に強いとわかると麗奈が晃とサシで飲み始め、マルオは健太と意気投合してウェイウェイ騒がしくなった。


「健太さんどうっすか!? 俺のローラってば可愛いでしょう!」


「可愛い! やっぱ雌の従魔は良いよな!」


「「ウェーイ!」」


「この2人は会わせたら駄目だったと思う」


「ですねぇ」


 サクラと成美がチャラ男コンビに白い目を向けていたのは言うまでもない。


『( 厂˙ω˙ )厂うぇーい』


「ゼル、真似しちゃいけません」


『∩`・◇・)ハイッ!!』


 藍大は近寄って来たゼルがチャラ男コンビから余計なことを教わっていたので保護者として注意する。


「逢魔さん、ゼルちゃんって可愛いですね」


『Thank you♪(⌒∇⌒*。)』


「顔文字も可愛い。こっちおいで~」


『)))))))))))(・・)/すたた』


「か~わ~い~い~!」


 ゼルが自分の膝の上に乗っかると、成美はデレデレになった。


 (成美って酒が入ると感情を素直に曝け出すようになるな)


 バーベキューはその後も楽しく続いた。


 今までのように定期的に実力をチェックするような段階は卒業したが、”楽園の守り人”のメンバーは成美達が困ったら力を貸してやろうと思えるぐらい仲良くなったのだった。

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