第247話 食材となる運命を察したのか
舞の誕生日の翌日、藍大パーティーは地下5階に来ていた。
今日はゴルゴンとメロが孤児院の子供達と遊ぶ約束をしており、未亜パーティーと司パーティーがダンジョン探索を休むので、パンドラとリュカが代わりに同行している。
ブラドは舞のぬいぐるみになっているから今日は留守番だ。
藍大達が地下5階に来た理由だが、昨日未亜と司の2パーティーが挑んでいたのと同様に1級ポーションの素材集めのためだ。
1級ポーションの素材は3つある。
リジェネスライムの体液とマンドラゴラの根、ナーガの血だ。
リジェネスライムは再生と耐久に重点を置いたスライムであり、攻撃手段は<
並の火力では倒し切れずに接近を許してしまい、倒すつもりが倒されてしまう。
倒し方としては、身動きを取れなくしてから一気にHPを削り切るのが定石と言えよう。
マンドラゴラはノンアクティブなモンスターであり、葉っぱだけ地上に出して根っこ部分は地中に埋まっている。
アイテムだと勘違いして引き抜くと、聞いた者にランダムな状態異常を引き起こす<
その叫びを聞かずに地面から引き抜くことができれば脅威度は一気に下がるから、引き抜く瞬間に大きな物音を立てる作戦が有効である。
ナーガは頭が3つある蛇だが、中央の頭は偽物のただの肉の塊で左右の頭だけが意思を持っている。
水属性の魔法系アビリティと毒を扱うことに注意が必要だ。
AGIは他の能力値に比べて高くないので、毒が利かなければ接近戦で倒すのが一般的と言える。
もっとも、ナーガならばレベル差が開いた藍大の従魔達であれば遠距離から普通に倒せるのだが。
以上が未亜や司から得た情報と藍大がモンスター図鑑で調べて戦ってみた結果である。
「地下5階のモンスターって弱く感じるな」
「しょうがないよ。一昨日私達が戦ったのが地下9階なんだもん」
『マンドラゴラも僕とリュカがいれば大丈夫』
「そうだよ! 私もいるもん!」
リルに自分も戦力としてみなされたことが嬉しいらしく、リュカが得意気に胸を張った。
「リジェネスライムは任せて」
パンドラもリジェネスライムを眠らせて足止めできるので、この点は任せてほしいと得意気だ。
「よしよし。リルもリュカもパンドラも頼りにしてるぞ。ボス部屋まで頼んだ」
「「『うん!』」」
普段は一緒に探索しないパンドラとリュカがやる気なこともあり、
遺跡の通路と1つ目の闘技場で
「プジョォォォォォ!」
『ヽ(`Д´)ノウルサイゾ!』
ゼルはスチュパリデスの咆哮が耳障りに感じて<
距離があったせいでその大半が避けられてしまったが、数撃てばいくつかは当たる。
ゼルの攻撃がスチュパリデスの翼を撃ち抜き、スチュパリデスはバランスを崩して地面へと墜落した。
「ただじゃ起き上がらせないよ」
パンドラは<
「プ、プジョ?」
スチュパリデスは体に力が入らないことに焦る。
「リュカ、とどめを刺しちゃえ」
「わかった!」
藍大の指示を受けたリュカの<
『パンドラがLv87になりました』
『リュカがLv83になりました』
『ゼルがLv80になりました』
スチュパリデスは残念ながら良いとこなしでやられてしまった。
「意外と大したことなかったね」
「これなら司達との探索でも勝てそう」
パンドラもリュカもそれぞれ派遣先のパーティーで戦った時を想定してコメントした。
「苦労をかけて悪いがクランのメンバーをよろしく頼むよ」
「わかった」
「はーい」
藍大に頭を撫でられて2体は素直に頷いた。
スチュパリデスの解体と回収を済ませると、藍大達は3番目の闘技場まで移動した。
ここまで来たのだからフロアボスを倒して帰った方が早いと判断してのことだ。
その時になって藍大の耳にブラドの声が届いた。
『主君よ、この先にはベルフェゴールはおらぬぞ』
「そうなのか?」
『うむ。ついでに言えば、地下7階~9階のフロアボスも変更した』
「”大罪を奪われし者”の保有者との再戦はないってことか」
『その通りだ。奴等は大罪があってその真価を発揮できるのでな。大罪がないのならば他のモンスターに変えた方がフロアボスに相応しい』
「じゃあこの先にいるのは初見のモンスターって訳だ」
『美味しいモンスターを用意したので楽しみにしててくれ。昼食はそのモンスターで作ってくれると嬉しいぞ』
(ブラドのリクエストのスケールがおかしい)
どこの国に昼食に食べたいものがあってダンジョンのフロアボスを変えられる存在がいるだろうか。
ブラド以外にそんな者はいないのではないだろうか。
「主、この先にいるのはベルフェゴールじゃないの?」
「ブラドが違う奴に変えたって連絡をくれた。美味しいモンスターを用意したから楽しみにしてくれってさ」
『美味しいモンスター! 頑張る!』
「リルのために私も頑張る!」
サクラと藍大の会話を聞いてリルに気合が入ると、次の戦いが好感度を上げるチャンスと悟ってリュカも気合を入れた。
「そうだな。頑張ろう」
藍大は単純なリルと乙女なリュカを微笑ましく思ってその頭を撫でた。
それから3番目の闘技場に足を踏み入れると、2tトラックサイズの青い毛並みの牛が藍大達を待ち構えていた。
『牛肉だ~!』
「牛だ~!」
リルとリュカが喜んでいる間に藍大は視界にモンスター図鑑を映し出してその牛について調べ始めた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:カトブレパス
性別:雄 Lv:65
-----------------------------------------
HP:1,500/1,500
MP:2,000/2,000
STR:1,750
VIT:1,500
DEX:1,000
AGI:1,000
INT:1,750
LUK:1,500
-----------------------------------------
称号:地下5階フロアボス
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:絶望
-----------------------------------------
(食材となる運命を察したのか)
藍大はカトブレパスの備考欄にある絶望の文字を見て哀れに思った。
リュカが<
とりあえず、藍大はカトブレパスが絶望から復帰する前に無力化してしまうことにした。
「サクラ、カトブレパスの目を塞いでくれ」
「任せて」
サクラは深淵を操ってカトブレパスの目の前にシートのように展開して<
「モ゛ォォォォォ!?」
視界を塞がれたことにより、カトブレパスがこのままでは自分が食肉になってしまうと思って半狂乱になって<
「邪魔!」
リュカは<
「リル、頼んだ」
『うん! お肉は鮮度が命だよ!』
リルは<
その結果、カトブレパスはHPを削り切られると同時に冷凍保存されることとなった。
『パンドラがLv88になりました』
『リュカがLv84になりました』
『ゼルがLv81になりました』
システムメッセージが鳴り止むと、藍大は戦いでサクラとリル、リュカを労った。
「お疲れ様。サクラもリルもリュカも良い働きだったぞ」
「エヘヘ♪」
「クゥ~ン♪」
「でしょ!」
サクラとリルは頭を撫でられて嬉しそうに甘え、リュカはドヤ顔になった。
カトブレパスの解体と回収を済ませると、藍大はパンドラとリュカに今日の探索の報酬としてスチュパリデスとカトブレパスの魔石を与えた。
魔石を呑み込むとパンドラとリュカの毛並みが良くなった。
『パンドラのアビリティ:<
『リュカのアビリティ:<
「よしよし。毛並みも綺麗になったしパワーアップもばっちりだ」
「ありがとう!」
「リルにまた近づけたわ!」
藍大は嬉しそうに礼を言う2体の頭を撫でた。
この場でやるべきことを終えたので、お腹を空かして待っているであろうブラドとブラドから話を聞いているに違いない舞のために藍大達は急いでダンジョンを脱出した。
実際、藍大が帰ったら舞もブラドもカトブレパスの肉料理を楽しみにしていたのでその予想は正しかったとだけ言っておこう。
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